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第1話 ぶち壊しの友人代表スピーチ

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「3人はずっと友達だからな!」


「「うん!」」





 しかし、高校に入って2人は友達同士ではなくなってしまった。
それは絶縁したからではなく、2人が友達から恋人になってしまったからだった。





 いや、こんな言い方は良くないな。
いつかはこうなることは分かっていた。
...俺も、歩莉《あゆり》のことが好きだったから。
しかし、現実は小説より残酷である。


 それでも俺は全ての思いを飲み込んで、手を叩いて祝福した。


「...おめでとう」


 ––––––––––––––


「結婚式の友人代表のスピーチ、お願いして良いか?」


「あっ...うん。任せて!」と、また無理な笑顔を作る。


 2人の幸せそうな顔を見るたびに心が傷んだ。


 崔《さい》は昔から人気者だった。
かっこよくて、スポーツ出来て、性格も良くて、勉強も出来て、明るくて。
それは、歩莉も同じだった。


 そんな光の影に隠れていたのが俺こと、安齋《あんざい》 栄介《えいすけ》だった。


 かっこよくもなくて、スポーツもできなくて、性格もいいとはいえなくて、勉強も出来なくて、根暗で...。
そんな俺でも崔と歩莉だけはずっと友達でいてくれた。


 俺は2人のことが大好きだった。
その大好きな意味が変わったのは中学2年ぐらいのことだった。


「栄介!何してんの?」


「あっ...ううん...なんでもないよ...」


「そう?」


「あゆー。いこー」


「はーい!」


 ある日突然、いや、段々かもしれない。
歩莉のことを異性として意識するようになった。
それからというもの、だんだん今までのように話すことができなくなっていったが、それでも歩莉は俺に話しかけてくれた。
そんな歩莉だからこそ、好きだったのだ思う。


 しかし、思いを伝えることもできずに、ズルズルと中学時代を過ごして、そして学力に差があった俺は2人とは一緒の高校にはいけず、そこそこ底辺の高校に入った。


 そして、ある一件の事件が発端で俺はひどいいじめにあうようになった。
今振り返ってもよく自殺をしなかったと思うほど、悲惨なものだった。


 それでも俺は2人に会う時には楽しそうに笑った。
でも、心の中はぐしゃくしゃだった。


 そして、ある時いよいよ心は完全に砕かれた。


「俺...歩莉と付き合うことになったから」と、少し申し訳なさそうに言う崔。


 一瞬、間が空いてしまったが、なんとか「おめでとう」と言うことができた。
多分、人生で最初で最後、自分を褒めてやりたいと思うほど、自然で、最高の演技だったと思う。


 それから7年経った。
24歳となった2人は晴れて結婚することとなった。


 そして、現在に至る。


 友人代表のスピーチか...。
そりゃ、2人の昔からの友達である俺がやるのは必然だが、こういう人前に立って話すのは本当に苦手だった。


 ブラックな会社での合間の時間を盗んで、なんとか下書きを完成させて、俺は結婚式に向かった。


 てか俺...どこに座るんだろう。
中学の友達の席とかなのかな...。
絶対浮くだろうなぁ...。
二次会は断って帰ろうかな...。


 なんて思いながら式場に到着した。
周りを見渡すと、見覚えのある人が何人か居た。
けど、話しかけるわけもなく、俺はひたすら考えてきた文を黙読していた。


 すると、1人の女の子が俺に話しかけてきた。


「もしかして...安齋...くん?」


 顔を上げるとそこにはものすごい美人の女の子が立っていた。


 勿論、俺にこんな可愛い女の子の知り合いなんていない。
中学の...誰かかな?と思いながら「...そうですけど」と、返事をする。


「やっぱり...。変わってないね」と、少し彼女が笑う。


 変わってない...か。
確かにそうかもしれないな。
あの時から何も...変われていないのだから。


 すると、式場の係員の人が受付を始める。
誰とも知らない人との世間話など一番苦手なので、一礼したのちにすぐに中に入った。


 そうして、自分の席を探していると、係員に声をかけられる。


「どうされました?」


「えっと...席がわからなくて...」


「お名前伺っても良いですか?」


「安齋《あんざい》...栄介《えいすけ》です」


 その名前を言うと少し驚いた表情をする係員さん。


「それでしたらこちらのお席になります」


 そうして案内されたのは、新郎新婦の真横の席であった。


 ...え?何これ?罰ゲームか何か?


「御二方の強い希望でこの席となっております」


「...」


 俺は冷や汗をダラダラと垂らしながら席に座る。
何これ?まじで何これ?
ケーキ入刀の時とかどうすんの?
修学旅行に来れなかったやつ的な感じで、画面の端に俺が座ってる感じ?


 しかし、何かを言い出せるわけもなく、式は始まってしまうのだった。


 そして、新郎新婦が始まる。


 綺麗なドレスを纏った歩莉は今までで一番綺麗であった。


「...良かったね」と、そんな言葉が漏れた。


 そして、誓いの言葉などが行われキスをする。
しかし俺は目を逸らしてしまったため、その瞬間を見ることはできなかった。


 その後はケーキ入刀などが行われたのち、友人代表のスピーチが始まる。


「...ご紹介に預かりました、新郎新婦の友人である...安齋栄介と申します」


 それからはネットで見た当たり障りのない挨拶をして、あと少しで完走すると行った時に、誰かが「オリジナリティ出していこうぜ!」と、叫んだ。


 その瞬間、会場に少しの笑いが起きる。


 そして、それにより俺の思考は完全に停止した。


 しかし、何か言わなければならないと思い、適当な言葉で繋ごうとするが、上手く出ない。
そして、俺は思いつく中で一番してはいけないことをしてしまうのだった。


「...自分は2人とは本当に小さい時から一緒で...ずっとこのまま一緒なんだろうなって思っていたんですけど...中学2年の時...実は一時期新婦である歩莉さんのことを好きだったことがあります...。けど、その思いを告げることが出来ないまま、2人はお付き合いをして...今日こうして結婚しました...。あの時自分が気持ちを伝えていれば...なんて思うこともありますが、お二人の幸せそうな顔を見たら...」


 そこからはもう言葉になってなかった。
それは後悔の涙なのか、感謝の涙なのか、一体何の涙なのかは俺を含め全員わかっていなかっただろう。


 ただ静まり返った式の中で、付き合いだしてからは2人と会うのが嫌だったとか、実は高校時代にいじめられていたけど2人の前では気丈に振る舞っていたこととか、関係のないことまで言い始めてしまう。


 そうして、そのまま締め切らないまま、「おめでとうございます」と言って俺はそのまま式場を飛び出してしまったのである。


 それは何であんなことを言ってしまったのだろうとかいう思いとか、式を壊してしまった申し訳なさとか、この先2人とはもう会えないと思うと、心が痛くて、苦しくて仕方なかったのだ。


 そして、式場から少し離れた路上で膝から崩れ落ちた。


 ワンワンと子供のように泣きじゃった。
普段の人目を気にする俺なら考えられない行動だったが、そんなものが全く気にならないほどに精神的に参っていた。


 そんな中、肩をぐいっと掴まれる。


 そちらに顔を向けると、そこにいたのはさっきの彼女であった。
彼女は俺と同じく地面に膝をつく。



 すると、彼女は俺を強く抱きしめた。


「...え?」


「大丈夫。私がいるから」


 彼女の目にも涙が溜まっていた。





 ––––––––––––––


 ここまで読んでいただき誠にありがとうございます!
1話につきましてYouTubeで動画公開してます!良ければ見ていただければ幸いです!

【第1話動画公開中!】
https://youtu.be/9XeugUG4DxM?si=xcUz0RlIEcnIDwdg
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