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1 アイスは高級品

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 この世界は「アイス」が高級品だ。

 例えば一週間頑張って働いてもらえる賃金で、アイス一本買えるぐらい。
 だから、みんな週末はアイスが売っている店に並ぶのが当たり前になっていた。
 まぁ、それが当てはまるのは商人や、騎士とか上の階級の人間だけどな。

 僕は当てはまらない。
 平民には一か月の給料がアイス一本になるからだ。毎日が厳しい。

 仕事は武器屋の見習いをしている。
 まだまだ師匠には怒られ三昧だが、それなりに仕事をやらせてもらえるようにはなったと思う。
 今日みたいに全然客が来ない日はずっと武器を磨いているんだけどねー?

「暇だぁ…」

 こうして店番をしながら、暇を持て余す事は多い。
 しかし、今日は待ちに待った給料日なのだ!
 早く出かけて行った師匠が帰ってこないもんかとワクワクしながら、剣を磨いていた所、突然店の扉に付けていたベルが鳴った。誰か来たらしい。

「いらっしゃいませー」
「こんにちは、いい天気だね?」

 背の高い騎士の格好をした男だった。デカい。少し女性受けのよさそうな目つきをしている。
 
「珍しいですね?」
「…?」
「いや、騎士様がいらっしゃるなんてと思ってしまって、すみません。それで…何かお探しですか?」
「あぁ、いや、入ってみたかっただけなんだ。すまない、お邪魔だったかな?」
「いえ、全然」
「よかった…店内を見ても?」
「どうぞ」
「ありがとう」

 騎士様はのんびりとした足つきで店内を回り、剣や鞭などの様々な種類を物色してから、また僕の前に戻ってきた。

「…あの、そういえば名前はなんて言うの?」
「僕ですか?」
「うん、是非知りたいんだ」
「僕は見習いのミサキです。貴方は?」
「俺はケイトだ。ミサキくんか…よろしくね」
「…? どうも…?」
 
 ケイトから差し出された手を握り返したミサキは「なんで名前なんて知りたいんだろう?」と不思議がっていた。
 これまで見習いの自分の名前を知りたがる客なんていなかったというのに、変わった人だなとそう思ったのである。

「さて、そろそろ仲間に怒られそうだから戻るよ。また来るよ、ミサキくん」
「あ、ありがとうございました。お待ちしてます」

 微笑みを蓄えながら手を振り、ケイトは店を後にした。


〇●〇


「やっと、アイスが買える~!!」
 
 先程、夕方になってやっと師匠が戻ってきて、無事に給料を受け取る事が出来た。
 今は自宅に帰宅して、一人で金勘定をしている。アイスが一本買える金額が貯まったので、明日の朝に店に並びに行こうと決めた。

「それにしても、あの騎士様…見たことない剣持ってたなぁ?」

 剣の持ち手の中央に確か文様があったのだが、見たことが無い柄だった。
 もしかしたら、他国の騎士なのかもしれない。
 まぁ、また来るとは言っていたが、すぐにはやってこないだろうし…忘れてしまうだろう。

「そんなことよりとにかく、アイスだ…明日はアイス買うぞ…はやく寝よっと」
 
 ミサキは明日早く起きるために、すぐにベッドにもぐりこんで、数分後には静かな寝息を立てて眠りに身体を委ねていたのであった。
 
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