縁側と親父とポテトサラダ

文字の大きさ
1 / 1

縁側と親父とポテトサラダ

しおりを挟む
「何を言ってるんだ?こいつらは」
親父が茶碗と箸を手にテレビに向かって文句を言い始めた。

「ポテトサラダくらいチャチャっと作れるだろうに。おふくろの味を知らないなんて子供がかわいそうだろう」
あぁ、なるほどね。例のスーパーの総菜コーナーでポテトサラダを買おうした子連れの母親に高齢男性が「母親ならポテトサラダくらい作ったらどうだ」と言いがかりをつけた例のあれか。

「ポテサラはチャチャっと作れるようなもんじゃないよ」
大学生の妹が親父の顔も見ずにつぶやく。
パシンと音を立て箸を置き、親父が言う。
「たまに口をきいたと思ったら口ごたえか」

「スーパーの総菜なんて何が入ってるかわからないぞ。お前は将来子供にそんなものを食べさせるつもりなのか」
続く親父の言葉を打ち消すように味噌汁をすする妹。
俺は穏やかに夕飯を食べたい。

「まあね、親父の言うこともわかるよ。安全性って大切だしね」
妹の横目が痛い。
「でもさ、そう思うのは自由だけどさ、それを無関係の人に押し付けるのはどうなのかなってことなんじゃないかな。
それぞれ事情ってもんがあるだろうし、その人だっていつも総菜のポテサラ買ってたわけじゃないかもしれないし」

「そうねぇ、その時だけたまたまってこともあったかもねぇ」
絶妙なタイミングで母親が合いの手を入れる。

「そうか。たまたまか。だったらいいんだけどな」
何故お前が許可を出す。
そんな権利はどこにあるんだろうと思いながらも俺は深追いはしない。
穏やかに夕飯を食いたいだけだから。

「母さんのポテトサラダはおいしいよなぁ。そういえば最近食べてないな。今度作ってくれよ」
「そうね。そのうちね」
妹が片眉を少しだけ上げ母を見、そして小さく息を吐いた。

次の日、仕事帰りに商店街を抜けて家に向かっていると、肉屋が1軒閉店しているのを見つけた。
老夫婦が営んでいた小さな肉屋で確かコロッケなどの総菜も安く売っていたはず。

「ただいま、今日の晩メシ何?」
台所で母親に尋ねる。
「今日はクリームシチューよ」
「ふうん。そう言えばさ、商店街の肉屋、閉店してるじゃん。年だからかな」
「そうなのよ、だから困っちゃって」
「え、困る?何で?あそこで肉買ってたっけ?」
サラダのプチトマトのへたを取っていた妹が振り向ききいてきた
「なんだ、お兄ちゃん知らないの?」

日曜日、親父はいつものように縁側でお隣さんと将棋を指していた。
「最近うちのやつがポテトサラダを作ってくれないんだよ」
「おや、お宅もかい。うちもだよ」
「久しぶりに食べたいんだけどなぁ。頼んでるのになんだかんだって言って作ってくれないんだよなあ」
「うちなんかコロッケも作ってくれなくなったぞ」
「一体どうしたんだろうな」
「本当にな」

パチンと駒の音が響く。
俺は穏やかな日曜日を過ごしたい。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

責任分界点

叫骨【Kyoukotu】
ホラー
『新入社員へのアドバイス 三階会議室は使用禁止です。』 私のツイートからのショートショート作品です。

(ほぼ)5分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

合宿先での恐怖体験

紫苑
ホラー
本当にあった怖い話です…

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

怪談実話 その2

紫苑
ホラー
本当にあった怖い話です…

怪談実話 その1

紫苑
ホラー
本当にあった話のショートショートです…

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

意味がわかると怖い話

井見虎和
ホラー
意味がわかると怖い話 答えは下の方にあります。 あくまで私が考えた答えで、別の考え方があれば感想でどうぞ。

処理中です...