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なんて勝手な
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駅で電車を待っているときに二人で召喚された。私ともう一人見知らぬ女性。見た目は普通という感じの、良く言えば平和そうな女の子だった。
異世界に来たとき、最初は私が美人で魔力が多いからって理由で聖女は私だろうってみんなに言われて、彼女と話をする間もなくその場から連れて行かれた。
あの女性も聖女の可能性があるのでは、と聞いても、無いだろうと言われて、異世界のことは異世界の人のがよく分かっているだろうからきっとそうなのだろうと思った。
彼女はどうなるのだろう。けれど心配している暇もないくらい忙しい日々がはじまる。
聖女の力についての勉強に、パーティへの顔見せ、国民への顔見せ、口説いてくる男性とのデートに、この国のマナーや常識の勉強。
きっともう一人の女性も苦労しているだろう。私はもてなされる身だし、まだましなほうだ。たまに見かける彼女は楽しそうで、心配いらないと思った。私のような豪華な衣装は着ていないけれど聖女じゃないのだから普通で十分だろう。彼女が聖女じゃないことで嫌みを言われていることも知っていたけど、少し話をしてみたらあまり気が合う感じじゃなかったから、会うことは増えなかった。
でも居場所がないのはつらいだろうからって、客人として扱うようにとお願いはしたけど、実際にそれがどういう形で叶えられたのか確認まではしなかった。私の不手際だったのだろう。
必死で必死で聖女の力を目覚めさせようとした。
祈って祈って祈って祈って、それでもだめで。そんな私の裏側で、彼女は不遇ながらも味方を見つけて、楽しく毎日を暮らして、友達をつくって、新しい居場所をつくって、最初から使える聖女の力で人を助けて感謝されていた。
「私の努力は……無意味?」
乾いた笑いがこぼれた。
そして私と彼女の立場は逆転した。みんなに感謝されかしづかれ、最初の私のころよりももっと心のこもった歓迎をされている彼女。私は魔力を活かせと言われ、国王が魔術師の先生におしつけておしまい。魔術師の黒いローブを着て、毎日ひたすらがんばる日々。ドレスなんて着れないけど、日本だったらこれが普通。
だから、本物の聖女様がやってきて「こんなのひどい」なんて言うのは私への侮辱だ。やさしいのだろうけど気に入らない。やっぱりこの子とは気が合わないわ。
「あなたはいいわね。恵まれていて」
嫌みを込めて笑って言うと、聖女様と一緒に来ていたイケメンが彼女を背にかばった。聖女様が彼の名前を呼んでとがめているが、イケメンは気にしない。
「貴様! 彼女が最初どれほどひどいめにあっていたか知っているはずだ! 彼女をおとしめることを言うな!」
「ハッそうね。誰もが不遇だったり、恵まれているところはあるんだわ。私はそれをいかせなくて、あなたはそれをいかせたということ? はは。なにそれ」
インクで黒くなった手を見る。この汚れは私の勲章だけど、勝手にもちあげて捨てたやつらにつけられた泥でもある。
「私だって必死でがんばったのに、ただ力が無かったというだけで捨てられるのよ。気に入らないわ」
「私、知っているよ。都さんが努力していたの。たまに見かけていたもの。ごめんなさい。私がもっと早く力のことを言えばここまでこじれなかったのかもしれないよね」
そうだ。彼女ははじめから聖女の力が使えていた。でも名乗り出なかった。私を気遣ったのかも知れないし、目立つのが嫌だったのかも知れないし、私なんかが、とかこういう子にありがちな自己卑下で行動に起こせなかっただけかもしれない。それを責めるつもりはない。
責めるつもりはないけど、その完全正義な顔は気に入らない。
「ふふ」
はははは。狂ったような笑い声が出た。
「お優しい聖女様。あなたに謝られたら私はなにに怒りを向ければいいの? あなたに謝られたら、優しくされたら、あなたに怒る私が悪じゃない。私は怒ることも許されないんだ? ひどいのね。私あなたみたいないい子ちゃん嫌いだわ。なんでもかんでも許して、許さないことを許さないんだもん。息苦しくていやになる」
ショックを受けた顔。それに怒る彼女のイケメン。ヘドが出る。
「私は日本に帰る」
キッと二人と、そしてその後ろでなりゆきを見守っている彼女たちの仲間をにらむ。
「もともと巻き込まれただけだものね。必死でがんばったすべてが無駄だった。あなたと違って友達もいないわ。ここに未練もなにも無い」
「都さん、帰還の魔法はないってみんなが……」
「ないなら作ればいいじゃない。やってみせるわ」
私は諦めない。
「さよなら聖女様。あなたを不遇からお救いできなかった無能な私をお許しください」
頭を下げて背を向けた。
魔術師の先生の家の中は本棚で埋め尽くされているけれど、今日も魔術の明かりで外のように明るい。
外でのやりとりを知っているのか、先生は困ったような顔で振り向いた。
「召喚術と魔術理論書を見せて」
ずかずかと中に入る。
「そもそも私が聖女と間違われたのは桁外れの魔力をもっていたから。ならこの魔力を使えば一人で帰還術を使うことだって不可能じゃないはずよ」
そもそも聖女を簡単に帰還させるために私がセットでついてきたとか? なんて、考えるだけでむかつくわね。思考を放棄します。
長い時間をかけて私は求める答えにたどり着いた。
旅立ちの準備中、師匠が開発中の異次元バックを手に取る。まだ開発途中のものだから、たまに中に入れたものの形が変形したりする。変形して困らない物を入れておくには問題ない。
「これもらっていいですか? もし帰った世界が間違っていたとき、少しは生き残れる可能性を高められると思うの」
「許可しよう。……生き残れよ」
「言われるまでもないわ。それに、日本に帰れることを信じてる。絶対に成功させる」
ぽふ、と頭に手を置かれる。
白髪と白ヒゲのおじいちゃん先生は、にっこり優しく笑っていた。
「お前はよくやった」
「ありがと先生。……先生が私の唯一の味方でした。ありがとうございました」
ぺこりと頭をさげる。
「……年寄りを泣かせるなっ」
「ごめんなさい?」
さげていた顔をあげれば、先生の顔が見えないようにぐしゃぐしゃと髪をかきまぜられた。
帰還の術は召喚の術と同じ場所で行う必要があった。
帰る、と国王に許可を取り、そこで術を展開していると勢いよく扉が開いた。聖女様たちが来た。ま、くるか。そりゃあそうよね。
「都さん!」
「ごめんね聖女様。私はいい子じゃないから、あなたに帰れるかもしれないって悩ませてもあげない。だってあなた、どうせここに残るでしょ」
本気で帰りたいなら、私が使った後の魔法陣を解析すればいい。先生に相談すれば私の知識まで追いつくことだってできる。安全性を考慮するなら実験に実験を重ねればいい。それをしないなら、その程度の熱意だったということだ。
「じゃあね。お幸せに」
ひらっと手をふった。
「時間差なしで帰還。成功ね。私ってば天才じゃない? ふふ」
そして時間差なしで帰還できる魔法陣を残してきたから、今となりに彼女がいないなら彼女は残ることにしたということだ。やっぱりね。
「さて」
ぽん、と両手を合わせてニコッと笑う。
「ラーメン食べよっと!」
異世界に行ってからずっとラーメンが恋しくってしんどかったんだ。今日は替え玉しちゃうかも。
ラーメンがない世界とかありえないわよね。
異世界に来たとき、最初は私が美人で魔力が多いからって理由で聖女は私だろうってみんなに言われて、彼女と話をする間もなくその場から連れて行かれた。
あの女性も聖女の可能性があるのでは、と聞いても、無いだろうと言われて、異世界のことは異世界の人のがよく分かっているだろうからきっとそうなのだろうと思った。
彼女はどうなるのだろう。けれど心配している暇もないくらい忙しい日々がはじまる。
聖女の力についての勉強に、パーティへの顔見せ、国民への顔見せ、口説いてくる男性とのデートに、この国のマナーや常識の勉強。
きっともう一人の女性も苦労しているだろう。私はもてなされる身だし、まだましなほうだ。たまに見かける彼女は楽しそうで、心配いらないと思った。私のような豪華な衣装は着ていないけれど聖女じゃないのだから普通で十分だろう。彼女が聖女じゃないことで嫌みを言われていることも知っていたけど、少し話をしてみたらあまり気が合う感じじゃなかったから、会うことは増えなかった。
でも居場所がないのはつらいだろうからって、客人として扱うようにとお願いはしたけど、実際にそれがどういう形で叶えられたのか確認まではしなかった。私の不手際だったのだろう。
必死で必死で聖女の力を目覚めさせようとした。
祈って祈って祈って祈って、それでもだめで。そんな私の裏側で、彼女は不遇ながらも味方を見つけて、楽しく毎日を暮らして、友達をつくって、新しい居場所をつくって、最初から使える聖女の力で人を助けて感謝されていた。
「私の努力は……無意味?」
乾いた笑いがこぼれた。
そして私と彼女の立場は逆転した。みんなに感謝されかしづかれ、最初の私のころよりももっと心のこもった歓迎をされている彼女。私は魔力を活かせと言われ、国王が魔術師の先生におしつけておしまい。魔術師の黒いローブを着て、毎日ひたすらがんばる日々。ドレスなんて着れないけど、日本だったらこれが普通。
だから、本物の聖女様がやってきて「こんなのひどい」なんて言うのは私への侮辱だ。やさしいのだろうけど気に入らない。やっぱりこの子とは気が合わないわ。
「あなたはいいわね。恵まれていて」
嫌みを込めて笑って言うと、聖女様と一緒に来ていたイケメンが彼女を背にかばった。聖女様が彼の名前を呼んでとがめているが、イケメンは気にしない。
「貴様! 彼女が最初どれほどひどいめにあっていたか知っているはずだ! 彼女をおとしめることを言うな!」
「ハッそうね。誰もが不遇だったり、恵まれているところはあるんだわ。私はそれをいかせなくて、あなたはそれをいかせたということ? はは。なにそれ」
インクで黒くなった手を見る。この汚れは私の勲章だけど、勝手にもちあげて捨てたやつらにつけられた泥でもある。
「私だって必死でがんばったのに、ただ力が無かったというだけで捨てられるのよ。気に入らないわ」
「私、知っているよ。都さんが努力していたの。たまに見かけていたもの。ごめんなさい。私がもっと早く力のことを言えばここまでこじれなかったのかもしれないよね」
そうだ。彼女ははじめから聖女の力が使えていた。でも名乗り出なかった。私を気遣ったのかも知れないし、目立つのが嫌だったのかも知れないし、私なんかが、とかこういう子にありがちな自己卑下で行動に起こせなかっただけかもしれない。それを責めるつもりはない。
責めるつもりはないけど、その完全正義な顔は気に入らない。
「ふふ」
はははは。狂ったような笑い声が出た。
「お優しい聖女様。あなたに謝られたら私はなにに怒りを向ければいいの? あなたに謝られたら、優しくされたら、あなたに怒る私が悪じゃない。私は怒ることも許されないんだ? ひどいのね。私あなたみたいないい子ちゃん嫌いだわ。なんでもかんでも許して、許さないことを許さないんだもん。息苦しくていやになる」
ショックを受けた顔。それに怒る彼女のイケメン。ヘドが出る。
「私は日本に帰る」
キッと二人と、そしてその後ろでなりゆきを見守っている彼女たちの仲間をにらむ。
「もともと巻き込まれただけだものね。必死でがんばったすべてが無駄だった。あなたと違って友達もいないわ。ここに未練もなにも無い」
「都さん、帰還の魔法はないってみんなが……」
「ないなら作ればいいじゃない。やってみせるわ」
私は諦めない。
「さよなら聖女様。あなたを不遇からお救いできなかった無能な私をお許しください」
頭を下げて背を向けた。
魔術師の先生の家の中は本棚で埋め尽くされているけれど、今日も魔術の明かりで外のように明るい。
外でのやりとりを知っているのか、先生は困ったような顔で振り向いた。
「召喚術と魔術理論書を見せて」
ずかずかと中に入る。
「そもそも私が聖女と間違われたのは桁外れの魔力をもっていたから。ならこの魔力を使えば一人で帰還術を使うことだって不可能じゃないはずよ」
そもそも聖女を簡単に帰還させるために私がセットでついてきたとか? なんて、考えるだけでむかつくわね。思考を放棄します。
長い時間をかけて私は求める答えにたどり着いた。
旅立ちの準備中、師匠が開発中の異次元バックを手に取る。まだ開発途中のものだから、たまに中に入れたものの形が変形したりする。変形して困らない物を入れておくには問題ない。
「これもらっていいですか? もし帰った世界が間違っていたとき、少しは生き残れる可能性を高められると思うの」
「許可しよう。……生き残れよ」
「言われるまでもないわ。それに、日本に帰れることを信じてる。絶対に成功させる」
ぽふ、と頭に手を置かれる。
白髪と白ヒゲのおじいちゃん先生は、にっこり優しく笑っていた。
「お前はよくやった」
「ありがと先生。……先生が私の唯一の味方でした。ありがとうございました」
ぺこりと頭をさげる。
「……年寄りを泣かせるなっ」
「ごめんなさい?」
さげていた顔をあげれば、先生の顔が見えないようにぐしゃぐしゃと髪をかきまぜられた。
帰還の術は召喚の術と同じ場所で行う必要があった。
帰る、と国王に許可を取り、そこで術を展開していると勢いよく扉が開いた。聖女様たちが来た。ま、くるか。そりゃあそうよね。
「都さん!」
「ごめんね聖女様。私はいい子じゃないから、あなたに帰れるかもしれないって悩ませてもあげない。だってあなた、どうせここに残るでしょ」
本気で帰りたいなら、私が使った後の魔法陣を解析すればいい。先生に相談すれば私の知識まで追いつくことだってできる。安全性を考慮するなら実験に実験を重ねればいい。それをしないなら、その程度の熱意だったということだ。
「じゃあね。お幸せに」
ひらっと手をふった。
「時間差なしで帰還。成功ね。私ってば天才じゃない? ふふ」
そして時間差なしで帰還できる魔法陣を残してきたから、今となりに彼女がいないなら彼女は残ることにしたということだ。やっぱりね。
「さて」
ぽん、と両手を合わせてニコッと笑う。
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