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賑やかな会場を離れ、アルバート様、エドガー様と共に庭園に向かう。噴水の近くの東屋に腰掛けた私の隣に、アルバート様も腰掛けた。
私たちに向き合うように立つエドガー様に、アルバート様は事の顛末を語るよう促す。
「私からお話しさせてくださいませんか?」
失礼なことを承知で、話出そうとしたエドガー様を遮って、私はアルバート様に体ごと向き直った。
今まで有耶無耶にして、直接私に関わらないところで話が済めばいい、と思ってきたのが間違いだった。
アルバート様から直接告げられることを逃げてきた結果、エドガー様まで巻き込んでしまった。友人である2人が誤解で喧嘩しそうになったことを目の当たりにして、本当に自分自身が嫌になった。
「エドガー様は、私の父から婚約の打診があった理由をお聞きになっただけなのです」
「婚約? エドガーと、メアリ嬢、ですか?」
普通に考えればそうだろう。妹の名を呼ぶ時の一拍の間に胸が軋む。私は首を振る。
「いいえ、私との婚約、です」
そう告げると、アルバート様の表情が一変した。
「何故?! 貴女には私という婚約者がいるではないですか!」
解消しようとしている婚約だとしても、既にこちらが先んじてその後の準備までしていることを知って、彼の自尊心を傷付けてしまったのだろうか。先程いつもの穏やかな彼とは異なる一面を見た今となっては、そうとも思えた。
「順番が違うのは分かっていました。でも、こちらにアルバート様の申し入れを受ける気があるとお示しするにはよいと、父も考えたのかと思います」
「私の申し入れとは、何のことですか?」
心の中が凪いでいる。自分の感情の起伏が平坦になっていく感覚。
「私との婚約解消、そして妹との新しい婚約です」
口にした途端、その現実味に感情が溢れ出しそうになった。でも、私はアルバート様を責めたり、自分を嘆いたりしたくなかった。代わりの言葉を探し、必死で口にする。
「アルバート様が妹のメアリを好ましく思ってくださっているのは、私も家の者も皆承知しています。まだ幼くはありますが、これから成長して侯爵家に相応しい女性になれると思います。ですから、早く私との婚約は解消して、改めてメアリと婚約なさってください!」
淑女らしからぬ早口で言うと、もう言うことがなくなってしまった。それなのに、アルバート様は何も口にしない。微動だにしない。
沈黙が辛くて、さらに言い募る。
「私も今年で19歳になりました。もう結婚してもよい年齢ですので、これから婚約者を探すとなると、なかなか難しくなってきました。父としても何とか後添いなどでない相手を探してくださろうと必死なのだと思います。もし、私のことを憎からず思ってくださっているのでしたら、そろそろご決断いただけないでしょうか?」
今までで一番たくさん喋ったんじゃないかと思うくらい喋ったのだけれど、それでもアルバート様は何も言ってはくれなかった。まるで氷漬けにでもなったかのようだ。
見かねたエドガー様が、彼の名を呼んだ。
そして、ようやく我に返ったようなアルバート様は言った。
「……少し、時間をくれないだろうか」
これは前向きに検討いただけるということよね? 私の話でエドガー様の誤解も解けたことだろうし。
私は大きく頷き、アルバート様の気が変わらないうちにと、早々にその場を辞した。
なので、その後彼等がどんな風に仲直りしたかは知る由もない。
「……アルバート、お前、何がどうしてこんなことになってるんだ?」
「……」
私たちに向き合うように立つエドガー様に、アルバート様は事の顛末を語るよう促す。
「私からお話しさせてくださいませんか?」
失礼なことを承知で、話出そうとしたエドガー様を遮って、私はアルバート様に体ごと向き直った。
今まで有耶無耶にして、直接私に関わらないところで話が済めばいい、と思ってきたのが間違いだった。
アルバート様から直接告げられることを逃げてきた結果、エドガー様まで巻き込んでしまった。友人である2人が誤解で喧嘩しそうになったことを目の当たりにして、本当に自分自身が嫌になった。
「エドガー様は、私の父から婚約の打診があった理由をお聞きになっただけなのです」
「婚約? エドガーと、メアリ嬢、ですか?」
普通に考えればそうだろう。妹の名を呼ぶ時の一拍の間に胸が軋む。私は首を振る。
「いいえ、私との婚約、です」
そう告げると、アルバート様の表情が一変した。
「何故?! 貴女には私という婚約者がいるではないですか!」
解消しようとしている婚約だとしても、既にこちらが先んじてその後の準備までしていることを知って、彼の自尊心を傷付けてしまったのだろうか。先程いつもの穏やかな彼とは異なる一面を見た今となっては、そうとも思えた。
「順番が違うのは分かっていました。でも、こちらにアルバート様の申し入れを受ける気があるとお示しするにはよいと、父も考えたのかと思います」
「私の申し入れとは、何のことですか?」
心の中が凪いでいる。自分の感情の起伏が平坦になっていく感覚。
「私との婚約解消、そして妹との新しい婚約です」
口にした途端、その現実味に感情が溢れ出しそうになった。でも、私はアルバート様を責めたり、自分を嘆いたりしたくなかった。代わりの言葉を探し、必死で口にする。
「アルバート様が妹のメアリを好ましく思ってくださっているのは、私も家の者も皆承知しています。まだ幼くはありますが、これから成長して侯爵家に相応しい女性になれると思います。ですから、早く私との婚約は解消して、改めてメアリと婚約なさってください!」
淑女らしからぬ早口で言うと、もう言うことがなくなってしまった。それなのに、アルバート様は何も口にしない。微動だにしない。
沈黙が辛くて、さらに言い募る。
「私も今年で19歳になりました。もう結婚してもよい年齢ですので、これから婚約者を探すとなると、なかなか難しくなってきました。父としても何とか後添いなどでない相手を探してくださろうと必死なのだと思います。もし、私のことを憎からず思ってくださっているのでしたら、そろそろご決断いただけないでしょうか?」
今までで一番たくさん喋ったんじゃないかと思うくらい喋ったのだけれど、それでもアルバート様は何も言ってはくれなかった。まるで氷漬けにでもなったかのようだ。
見かねたエドガー様が、彼の名を呼んだ。
そして、ようやく我に返ったようなアルバート様は言った。
「……少し、時間をくれないだろうか」
これは前向きに検討いただけるということよね? 私の話でエドガー様の誤解も解けたことだろうし。
私は大きく頷き、アルバート様の気が変わらないうちにと、早々にその場を辞した。
なので、その後彼等がどんな風に仲直りしたかは知る由もない。
「……アルバート、お前、何がどうしてこんなことになってるんだ?」
「……」
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