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私には前世の記憶がある。
ちょうど10歳の誕生日、家族にお祝いされていつもよりはしゃいだ私は、夜になって熱を出した。その時、伯爵令嬢であるリリエラのものではない、こことは違う世界で20代後半の会社員だった記憶を思い出したのだ。
二日寝込んで、目を覚ました後の私には、子どもと大人の記憶が混在していた。生きた世界は異なるものの、大人だった頃の知識や精神は、私を急激に大人びさせた。周りからは将来有望な令嬢ともてはやされ、私の中の子どもの自尊心は満たされた。皆に褒められるのが嬉しくて、前世の記憶を利用し続けた私は、いつのまにか、王太子殿下の婚約者になっていた。
この国の王太子殿下、次期国王となることが決まっているクロード殿下は、私より5歳年上で、ちょうど成人と認められる16歳で王太子となったところだった。
前世の大人の私の目から見ても、優秀で落ち着きもあり、見た目も美しく格好良い彼の婚約者となれたことは、とても光栄だったし、家族が喜んでくれたのが嬉しかった。
「私より5歳も年下でまだ学院にも通っていないのに、君はとても聡明なんだね」
そう言ってクロード殿下自身が褒めてくれたのも、すごく嬉しかった。
だけど、ズルをしたツケは、必ず払わないといけない。
婚約してから2年後、貴族子女が通う王立学院へ入学した私は、入学当初こそ優秀な成績をおさめることができていたのだけど、学内での順位は年毎に下がっていった。
前世の記憶に助けられていただけで、私自身の能力は特に秀でたものではなく、年齢が上がるにつれ、同年代の子女との差は、段々縮まっていった。本当に優秀な子息や令嬢は、頭角を表して、軽々と私を追い越していく。
それに前世の記憶だけではどうにもならないことがあった。この世界には魔法があるのだ。
前世では空想上のものであったそれが普通に存在する世界で、私は一人の少女リリエラとして魔法と向き合わなくてはならなかった。
私は魔法の才能でも凡人だった。そして身に有する魔力の量も平均以下。魔法の勉強に人より多くの時間を費やしたが、それでもその成績が足を引っ張り、学内での順位は下がる一方だった。
「クロード殿下の婚約者として恥ずかしくないのかしら」
「昔は優秀だったらしいけど、今は、ねえ」
「殿下にはもっと相応しい方がいらっしゃるのでは」
聞こえるように囁かれる陰口に、私は言い返すこともできない。……やましいことがあるからだ。
誰もはっきりとは口にしないけど、学院の中に殿下に最も相応しいのでは、と目されているご令嬢がいる。
ダラ侯爵家令嬢のキャシャレル様。
現在学院の生徒会副会長をされている才媛。魔法の才も素晴らしく、また魔力量も王族に匹敵する程多いのだとか。何より、彼女はとても美しい。
先日、学院を視察で訪れたクロード殿下が生徒会のメンバーと共に学内を歩いているところに出会した。歳を重ねさらに美丈夫ぶりに磨きをかけたクロード殿下とキャシャレル様が並ぶ様に、皆目を奪われた。私もその中の一人だったのに、うっかり殿下と目を合わせてしまったせいで、彼が私に声をかけてくださり、その絵画のような一幕を壊すことになってしまった。キャシャレル様だけでなく、周りからの視線も痛かった。
私はクロード殿下の隣に立つには、才能も魔力も器量も足りていない。
私は本当に申し訳なく思って俯く。だけど、殿下は、変わらず優しい。
「リリエラ。後は君が案内してくれないか」
そう言って、手を取られて、拒めるはずもない。
「はい、クロード様」
思わず浮かんだ笑顔を向けると、殿下も微笑み返してくれる。
クロード殿下のことをお慕いしている。
自分が相応しくないと分かっていても、自分の方からはこの手を離すことなんてできないくらいに。
そして、そんな浅ましい私にバチが当たった。
当てるなら、どうして直接私に当ててくれないのか。……いや、神様はきっと、私が一番辛い方法を選択したのだろう。
ちょうど10歳の誕生日、家族にお祝いされていつもよりはしゃいだ私は、夜になって熱を出した。その時、伯爵令嬢であるリリエラのものではない、こことは違う世界で20代後半の会社員だった記憶を思い出したのだ。
二日寝込んで、目を覚ました後の私には、子どもと大人の記憶が混在していた。生きた世界は異なるものの、大人だった頃の知識や精神は、私を急激に大人びさせた。周りからは将来有望な令嬢ともてはやされ、私の中の子どもの自尊心は満たされた。皆に褒められるのが嬉しくて、前世の記憶を利用し続けた私は、いつのまにか、王太子殿下の婚約者になっていた。
この国の王太子殿下、次期国王となることが決まっているクロード殿下は、私より5歳年上で、ちょうど成人と認められる16歳で王太子となったところだった。
前世の大人の私の目から見ても、優秀で落ち着きもあり、見た目も美しく格好良い彼の婚約者となれたことは、とても光栄だったし、家族が喜んでくれたのが嬉しかった。
「私より5歳も年下でまだ学院にも通っていないのに、君はとても聡明なんだね」
そう言ってクロード殿下自身が褒めてくれたのも、すごく嬉しかった。
だけど、ズルをしたツケは、必ず払わないといけない。
婚約してから2年後、貴族子女が通う王立学院へ入学した私は、入学当初こそ優秀な成績をおさめることができていたのだけど、学内での順位は年毎に下がっていった。
前世の記憶に助けられていただけで、私自身の能力は特に秀でたものではなく、年齢が上がるにつれ、同年代の子女との差は、段々縮まっていった。本当に優秀な子息や令嬢は、頭角を表して、軽々と私を追い越していく。
それに前世の記憶だけではどうにもならないことがあった。この世界には魔法があるのだ。
前世では空想上のものであったそれが普通に存在する世界で、私は一人の少女リリエラとして魔法と向き合わなくてはならなかった。
私は魔法の才能でも凡人だった。そして身に有する魔力の量も平均以下。魔法の勉強に人より多くの時間を費やしたが、それでもその成績が足を引っ張り、学内での順位は下がる一方だった。
「クロード殿下の婚約者として恥ずかしくないのかしら」
「昔は優秀だったらしいけど、今は、ねえ」
「殿下にはもっと相応しい方がいらっしゃるのでは」
聞こえるように囁かれる陰口に、私は言い返すこともできない。……やましいことがあるからだ。
誰もはっきりとは口にしないけど、学院の中に殿下に最も相応しいのでは、と目されているご令嬢がいる。
ダラ侯爵家令嬢のキャシャレル様。
現在学院の生徒会副会長をされている才媛。魔法の才も素晴らしく、また魔力量も王族に匹敵する程多いのだとか。何より、彼女はとても美しい。
先日、学院を視察で訪れたクロード殿下が生徒会のメンバーと共に学内を歩いているところに出会した。歳を重ねさらに美丈夫ぶりに磨きをかけたクロード殿下とキャシャレル様が並ぶ様に、皆目を奪われた。私もその中の一人だったのに、うっかり殿下と目を合わせてしまったせいで、彼が私に声をかけてくださり、その絵画のような一幕を壊すことになってしまった。キャシャレル様だけでなく、周りからの視線も痛かった。
私はクロード殿下の隣に立つには、才能も魔力も器量も足りていない。
私は本当に申し訳なく思って俯く。だけど、殿下は、変わらず優しい。
「リリエラ。後は君が案内してくれないか」
そう言って、手を取られて、拒めるはずもない。
「はい、クロード様」
思わず浮かんだ笑顔を向けると、殿下も微笑み返してくれる。
クロード殿下のことをお慕いしている。
自分が相応しくないと分かっていても、自分の方からはこの手を離すことなんてできないくらいに。
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