【完結】記憶喪失の追放令嬢と暗殺者 リメイク

ベアしゅう

文字の大きさ
3 / 8

3

しおりを挟む
 俺の仕事は暗殺だった。

 王家に仕える影。暗殺を生業とした家に生まれた俺は、幼い頃から体術や薬の扱いを教え込まれた。物心着く頃に王家に忠誠を尽くす宣誓の魔法契約をさせられ、何の疑いも持たずに仕事をこなしていた。

 私情を挟む事は許されない。命乞いされようと、金を積まれようと関係無い。標的となった者をひたすら追い詰め 消していく。時には護衛の様な仕事もしたが、基本的に人を殺すのが仕事なのだ。その事を疑問に思う事は許されず、当たり前の事だと、行動の全てが王家の為にと躾けられ、それが正しい事だと教えられ育てられた。

 ただ今回の王太子の依頼を聞いた時、自分の中にあった王家に対する猜疑心が爆発しそうになった。

 王太子の元婚約者の令嬢暗殺依頼。
 冤罪で断罪後、令嬢を国外追放処分へ、隣国へ向かわせ馬車を襲い、国境近くの森で殺せ。

 嬉々として語る王太子の顔面を蹴り倒したい。しかし魔法契約により王家の影である我らは、王家の者に手を出す事は出来ない。裏切らない様に出来ている。身体が動かなくなり、最悪命も失う。ある種の奴隷契約の様な主従契約には嫌気がさす。心を殺し、何も考えずに依頼を実行するのが精神的に良い。

 この程度の理不尽さは、今までもあった事だ。だが今回の依頼は、この依頼だけは駄目だ。今まで燻っていた不満が俺の中から溢れ出す。
 触れてはいけない、俺にとって尊い存在。それが彼女だった。

 自分の私欲の為だけに、罪もない婚約者を断罪し追放する?

 何故この様な理不尽な事に、手を貸さねばならないのか?

 この国は、こんな愚かな者を王にするのか? この国の未来は大丈夫か?

 この様な愚かな者が王になり、ずっと仕えて行かねばならぬ運命ならば俺は抗う。
 こんな事は許されない。 俺が許さない!

 自身の奥底から沸々と湧き上がる黒い感情を、もう抑える事が出来なくなっていた。

 お前が貶めようとしている令嬢は、俺にとって大事な娘だ!
 今すぐこの愚かな王太子を殺してやりたい。 

 俺は王太子の依頼を聞きながら、抱いた敵愾心を隠す様に必死に震える拳を握った。
 彼女を救う為の最善を考えなければならない。


 彼女を救う為に俺がどうなっても、王太子、お前を引きずり下ろす!

しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

【完結】完全無欠の悪女様~悪役ムーブでわがまま人生謳歌します~

藍上イオタ
恋愛
「完全無欠の悪女、デステージョに転生してる!?」  家族に搾取され過労で死んだ私が目を覚ますと、WEB漫画世界に転生していた。 「悪女上等よ! 悪の力で、バッドエンドを全力回避!」  前世と違い、地位もお金もあり美しい公爵令嬢となった私は、その力で大好きなヒロインをハッピーエンドに導きつつ、自分のバッドエンドを回避することを誓う。  婚約破棄を回避するためヒーローとの婚約を回避しつつ、断罪にそなえ富を蓄えようと企むデステージョだが……。  不仲だったはずの兄の様子がおかしくない?  ヒロインの様子もおかしくない?  敵の魔導師が従者になった!?  自称『完全無欠の悪女』がバッドエンドを回避して、ヒロインを幸せに導くことはできるのか――。 「小説化になろう」「カクヨム」でも連載しています。 完結まで毎日更新予定です。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子

ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。 (その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!) 期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。

愛しの第一王子殿下

みつまめ つぼみ
恋愛
 公爵令嬢アリシアは15歳。三年前に魔王討伐に出かけたゴルテンファル王国の第一王子クラウス一行の帰りを待ちわびていた。  そして帰ってきたクラウス王子は、仲間の訃報を口にし、それと同時に同行していた聖女との婚姻を告げる。  クラウスとの婚約を破棄されたアリシアは、言い寄ってくる第二王子マティアスの手から逃れようと、国外脱出を図るのだった。  そんなアリシアを手助けするフードを目深に被った旅の戦士エドガー。彼とアリシアの逃避行が、今始まる。

モブは転生ヒロインを許さない

成行任世
恋愛
死亡ルートを辿った攻略対象者の妹(モブ)が転生ヒロインを断罪します。 .

乙女ゲームのヒロインに転生したはずなのに闇魔法しかつかえません

葉柚
恋愛
突然の事故死によりこの世とお別れした私は乙女ゲームの世界にヒロインとして転生したようです。 苛められるのは嫌だけどヒロインならきっと最終的には幸せな人生を送れるだろうと思っていたのだけど、いっこうにヒロインの適正魔法である光魔法を使うことができない。 その代わり、何故か闇魔法が使えることが判明しました。 え? 闇魔法? ヒロインなのに? バグ? 混乱しながらも、ヒロインなんだから最終的には幸せになるはず。大丈夫だと自分に言い聞かせ勝手気ままな人生を謳歌しようと思います。

処理中です...