【完結】記憶喪失の追放令嬢と暗殺者 リメイク

ベアしゅう

文字の大きさ
6 / 8

6

しおりを挟む
 王太子の策略に嵌まった彼女が、兵士の数人に囲まれ、貴族が乗るには簡素な馬車に乱暴に乗せられた。
罪人の様な扱いに、俺は憤りを感じながら隠れて様子を見ていた。あの兵士達いつか殺す。顔は覚えた。

 俯いたままの彼女を乗せ、馬車が出発した。
 貴族令嬢だった彼女に対し、護衛も付けていない。

 彼女をこんな目に合わせた王太子は報いを受けるべきだ。


 俺は王太子に、彼女を国境付近の森で、盗賊に襲われた様に見せかけ始末すると伝えてある。

 王太子には計画が上手くいったように思わせておこう。

 俺は王太子に言われたまま彼女を追い、馬車を襲う。

 ここまでは王太子の思惑通り。だがこの後は俺のシナリオだ。

 彼女を連れ去り口説く。
 そして結婚を、申し込む。


 既に第二王子からの依頼は実行された。

 数日で王太子は倒れる。そして死ぬまでの期間長く苦しむ事になる。それまでの僅かな時間、自分の拙い計画が上手く行ったと夢でも見ているが良い。

 本来は串刺しにして切り刻んで肉片にしてやりたいところだが、王太子の死を見届けるよりも、彼女を救うことの方が大事だった。 俺は彼女と共に此処を去る。



 王太子の食べ物に遅効性の毒を混ぜた。

 本来王太子の食事の管理はかなり厳重だ。
 調理人に調理場、給仕、毒見役、全てが細かくチェックされる。
 俺は当初毒味役と入れ替わるつもりでいたのだが、もっと簡単な方法があった。
 愚かな王太子は、お気に入りの男爵令嬢の作ったという差し入れは毒見もなしで食べてしまうのだ。男爵令嬢に愛情を示したかったのかもしれないが、その女は贅沢がしたいだけで、王太子に対する愛情など無い。手作りと言っている菓子は市販品だ。
 自分達の計画が上手くいったと信じて、自慢げに男爵令嬢に語っている王太子が旨そうに食っている所を眺めながら、俺は笑いが止まらなかった。
 一緒にお茶を飲んでいる男爵令嬢も食べてしまったが、婚約者のいる男に近付き誘惑する女など、同罪だから構わない。
 死んだ後でも検出出来ない猛毒だ。仲良く逝ってくれ。王太子と死ぬ時期が近かろうと第二王子がきっと上手く握りつぶすだろう。
 2人とも存分に苦しんで死ぬが良い。


 俺にはもう関係無い。
 国から出て、晴れて自由。彼女と新婚生活だ。
 そう上手くいくかわからないが、どんなに時間がかかっても、彼女を口説き落とそう。
 今までの分も、きっと幸せにしてみせる。彼女を大事に甘やかして、辛かった事を忘れさせてあげたい。


 馬を走らせ隣国の街を目指す。
 第二王子との取引での追手の心配もない。

 本物の自由だ!

 辺りは暗くなり始め、夜になりかけていた。
 暗くなると森に獣が出る危険もあるので、早く街に行かねばならない。
 街に到着したら、ゆっくり彼女と話をして長年の思いを伝えよう。

 こんな自分だが、彼女に好きになって貰える様に努力しよう。彼女を幸せに、大事にしてあげたい。



♢♢♢♢



 俺の心は浮かれていた。夢みたいだった。彼女がこの腕の中にいる。

 馬を走らせていると、薄暗い夕闇の中に一面の花畑が広がっていた。

 以前にも、この辺りに何度か来た事はある。しかし以前見た時と違う、妙な感じがした。
 何かが違う? しかし、その違和感に確信を持てぬまま、馬を進める。

 暗い森で夜を過ごすなど、危険な事は避けたい。この花畑を越えれば街が見える筈。
 しかし花畑の半分くらいまで来ると、自身の違和感の正体を知る事となった。開きかけの花からは白い靄のようなものが微かに出ている。

 しまった!

 思い出した時には遅かった。
 俺は、昔聞いた話を思い出した。

 夜に一斉に開花し、花粉を撒き散らす『忘れ草』人の記憶を奪ってしまう危険な花!

 気がついた時にはもう遅い。
 日は既に傾いて、次々と花が開花していく。
 引き返す事は出来ない! このまま通り抜けられれば、その方が良い。馬に指示を出し加速する。揺れが大きくなり、振り落とされないように、彼女の身体を支えた。 一斉開花する前に通り抜ける。

 花の開花時期でなければ、何の障害も無いはずの道だが、運悪く当たってしまった。
 己の運の無さ、いや、迂闊さに腹が立った。

 だが、今は一刻も早く彼女を安全な場所へ……
 
 しかし急がせている筈の馬のスピードは、徐々に落ちて行く。
 俺は何度も加速する様に指示をするが、更に速度は落ちた。

 突然馬がバランスを失った。

 勢い余って振り落とされる。
 そのまま馬はフラフラとした後、倒れ込み寝てしまった。馬も花粉にやられた様だ。
 
 咄嗟であったが何とか彼女を庇って、受け身を取ることが出来た。スピードが落ちていたのが幸いし、打ち付けた痛みはあるが、大した事ない。身体は動く。
 急ぎ立ち上がり、彼女に怪我は無いかを確認し、ほっとする。
 しかし花粉が舞っているので、吸い込まない様に伝え、懐からハンカチを出し彼女の口元を覆わせた。素直に聞いてくれて助かる。俺は彼女を抱えて歩き出した。

 この花粉は危険だ。 一刻も早くこの場を離れなければ……

 花粉に催眠効果があるのか身体が重い。
 一歩二歩進む毎に身体が重くなり、目が霞む。
 彼女の様子を伺うと、既に意識は無い様だ。

 馬鹿だな俺は……
 彼女を手に入れたと思って、浮かれたせいだ。

 彼女を抱えたまま膝を着いた。

 彼女を幸せにすると決めていたのに、こんなところで……情け無い。

 遂には動けなくなった俺は、彼女がなるべく花粉を吸わないように覆い被さり、抱きしめた。

 この花畑ならば獣も近づく事はないだろう……命を失う事は無い。

 ーー大丈夫。きっと大丈夫だ。例え、記憶を失ったとしても、俺は彼女を愛してる。



 そのまま俺は、気を失った。

しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

【完結】完全無欠の悪女様~悪役ムーブでわがまま人生謳歌します~

藍上イオタ
恋愛
「完全無欠の悪女、デステージョに転生してる!?」  家族に搾取され過労で死んだ私が目を覚ますと、WEB漫画世界に転生していた。 「悪女上等よ! 悪の力で、バッドエンドを全力回避!」  前世と違い、地位もお金もあり美しい公爵令嬢となった私は、その力で大好きなヒロインをハッピーエンドに導きつつ、自分のバッドエンドを回避することを誓う。  婚約破棄を回避するためヒーローとの婚約を回避しつつ、断罪にそなえ富を蓄えようと企むデステージョだが……。  不仲だったはずの兄の様子がおかしくない?  ヒロインの様子もおかしくない?  敵の魔導師が従者になった!?  自称『完全無欠の悪女』がバッドエンドを回避して、ヒロインを幸せに導くことはできるのか――。 「小説化になろう」「カクヨム」でも連載しています。 完結まで毎日更新予定です。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子

ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。 (その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!) 期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。

愛しの第一王子殿下

みつまめ つぼみ
恋愛
 公爵令嬢アリシアは15歳。三年前に魔王討伐に出かけたゴルテンファル王国の第一王子クラウス一行の帰りを待ちわびていた。  そして帰ってきたクラウス王子は、仲間の訃報を口にし、それと同時に同行していた聖女との婚姻を告げる。  クラウスとの婚約を破棄されたアリシアは、言い寄ってくる第二王子マティアスの手から逃れようと、国外脱出を図るのだった。  そんなアリシアを手助けするフードを目深に被った旅の戦士エドガー。彼とアリシアの逃避行が、今始まる。

モブは転生ヒロインを許さない

成行任世
恋愛
死亡ルートを辿った攻略対象者の妹(モブ)が転生ヒロインを断罪します。 .

乙女ゲームのヒロインに転生したはずなのに闇魔法しかつかえません

葉柚
恋愛
突然の事故死によりこの世とお別れした私は乙女ゲームの世界にヒロインとして転生したようです。 苛められるのは嫌だけどヒロインならきっと最終的には幸せな人生を送れるだろうと思っていたのだけど、いっこうにヒロインの適正魔法である光魔法を使うことができない。 その代わり、何故か闇魔法が使えることが判明しました。 え? 闇魔法? ヒロインなのに? バグ? 混乱しながらも、ヒロインなんだから最終的には幸せになるはず。大丈夫だと自分に言い聞かせ勝手気ままな人生を謳歌しようと思います。

処理中です...