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第2章 屋上にて
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「もしさ、仮に柏崎に告白されたとしたら、お前、どうする?」
旭の気も知らず、圭一が更におかしな質問をしてくる。
「え? だって彼氏いるんだろ」
「じゃなくて、柏崎みたいなやつにってこと。仮定の話だよ」
「それは、さすがに断るんじゃね」
「でもお前、全然知らなかった女と付き合ったじゃん」
「それは、女って時点で全然別の話だし」
「……まあ、そうだよな」
柏崎が仮に自分に告白してきたら。
質問の意図を汲み取れないまま、少しだけ想像してみる。圭一が男を好きなのだとしたら、むやみに否定したくはなかった。
もし柏崎に彼氏がいなくて、何故か旭に惚れていて、付き合ってほしいと言われたら、自分はどうするだろう。あの整った顔で見つめられて告白されたら。好きだと言われたら。
「――うーん」
しばし考えたのち、思わず唸る。
何か……ちょっとだけ、ほんの少しだけ面白そうかも、と思ってしまった自分がいる。圭一への配慮とは別に、旭自身として。
「柏崎くんだったら……ちょっと考えてみるかも。ちょっとだけ。多分断るけど」
「え?」
圭一が驚くほど大きく反応する。
「何で? それって柏崎に限ってってこと? イケメンだから?」
「いや、まあそう真剣な話じゃなくて」
圭一の勢いに、少し腰が引けてしまう。軽く言ってはみたものの、さすがに本気で男相手のあれこれを考えられる訳ではない。
「顔っていうか、まあ雰囲気っていうか、ちょっと面白そうっていうか……いや、まあそうだな。顔もあるかな。キモいやつとかその時点で無理だろうし」
「ルックスが良かったら男でもいけるってこと?」
「そんなこと言ってない。じゃなくて、何ていうの、そういう生々しいの抜きにしてさ。じっくり話せるっていうか、親密になるっていうか、そういう意味で」
「ただの友達じゃん、それ」
「まあそうだけど。でも、付き合ったらもっと特別な存在になるだろ。一対一っていうか。そういうの、ちょっといいなって思っただけ」
そうやって説明しようとしながら、言葉にすることで自分の本音が徐々に明確になっていくのを自覚する。柏崎と付き合うことの何に自分が惹かれたのか、旭はその理由を理解した。
初めて付き合った彼女と、旭は中身のある関係を築くことができなかった。
お互いに彼氏彼女という形だけが重要で、今思い出しても、相手がどういう性格だったかさえ上手く言うことができない。付き合ってすぐに訪れた年末から2月までの各種イベントをとにかくこなして、勢いのままに何回かホテルに行って、それでも旭は相手のことを好きだなんて一度も思わなかったし、相手もそれを察知したのか何かに幻滅したのか、結局黙って去っていった。
その経験から旭は、自分の中に、ちゃんとお互いに認め合える交際に対して憧れのような気持ちがあることに気付いた。お互いを必要として、お互いがお互いにとって唯一無二と言える存在になるような関係。
そして、彼女と失敗した今、そういう意味でなら女よりむしろ男相手の方ができるような気がしたのだ。
……まあ、圭一の言うように、友達とどう違うんだって話なんだけど。
「あ、そっか。てことは、友達の延長で付き合えばいいのか」
「え? 本気?」
旭の独り言に圭一が反応する。
「いや、俺、前カノと全然上手くいかなかったからさ。……やっぱり知らないやつと付き合うってのが無理あったかなって思って。友達から仲良くなるってのが重要なんだって今さら気付いた」
「……それ、女の話だよな」
「は? 当たり前だろ」
ついそう言ってしまい、はっとする。圭一のことを否定したように聞こえただろうか。
「いや、まあ、男が好きならそれでもいいんじゃね。男同士の方がやりやすそうだよな」
よく分からないフォローを咄嗟に入れる。
その後、圭一がもう何も返してこなかったので、旭からももうそのことについては触れなかった。
旭の気も知らず、圭一が更におかしな質問をしてくる。
「え? だって彼氏いるんだろ」
「じゃなくて、柏崎みたいなやつにってこと。仮定の話だよ」
「それは、さすがに断るんじゃね」
「でもお前、全然知らなかった女と付き合ったじゃん」
「それは、女って時点で全然別の話だし」
「……まあ、そうだよな」
柏崎が仮に自分に告白してきたら。
質問の意図を汲み取れないまま、少しだけ想像してみる。圭一が男を好きなのだとしたら、むやみに否定したくはなかった。
もし柏崎に彼氏がいなくて、何故か旭に惚れていて、付き合ってほしいと言われたら、自分はどうするだろう。あの整った顔で見つめられて告白されたら。好きだと言われたら。
「――うーん」
しばし考えたのち、思わず唸る。
何か……ちょっとだけ、ほんの少しだけ面白そうかも、と思ってしまった自分がいる。圭一への配慮とは別に、旭自身として。
「柏崎くんだったら……ちょっと考えてみるかも。ちょっとだけ。多分断るけど」
「え?」
圭一が驚くほど大きく反応する。
「何で? それって柏崎に限ってってこと? イケメンだから?」
「いや、まあそう真剣な話じゃなくて」
圭一の勢いに、少し腰が引けてしまう。軽く言ってはみたものの、さすがに本気で男相手のあれこれを考えられる訳ではない。
「顔っていうか、まあ雰囲気っていうか、ちょっと面白そうっていうか……いや、まあそうだな。顔もあるかな。キモいやつとかその時点で無理だろうし」
「ルックスが良かったら男でもいけるってこと?」
「そんなこと言ってない。じゃなくて、何ていうの、そういう生々しいの抜きにしてさ。じっくり話せるっていうか、親密になるっていうか、そういう意味で」
「ただの友達じゃん、それ」
「まあそうだけど。でも、付き合ったらもっと特別な存在になるだろ。一対一っていうか。そういうの、ちょっといいなって思っただけ」
そうやって説明しようとしながら、言葉にすることで自分の本音が徐々に明確になっていくのを自覚する。柏崎と付き合うことの何に自分が惹かれたのか、旭はその理由を理解した。
初めて付き合った彼女と、旭は中身のある関係を築くことができなかった。
お互いに彼氏彼女という形だけが重要で、今思い出しても、相手がどういう性格だったかさえ上手く言うことができない。付き合ってすぐに訪れた年末から2月までの各種イベントをとにかくこなして、勢いのままに何回かホテルに行って、それでも旭は相手のことを好きだなんて一度も思わなかったし、相手もそれを察知したのか何かに幻滅したのか、結局黙って去っていった。
その経験から旭は、自分の中に、ちゃんとお互いに認め合える交際に対して憧れのような気持ちがあることに気付いた。お互いを必要として、お互いがお互いにとって唯一無二と言える存在になるような関係。
そして、彼女と失敗した今、そういう意味でなら女よりむしろ男相手の方ができるような気がしたのだ。
……まあ、圭一の言うように、友達とどう違うんだって話なんだけど。
「あ、そっか。てことは、友達の延長で付き合えばいいのか」
「え? 本気?」
旭の独り言に圭一が反応する。
「いや、俺、前カノと全然上手くいかなかったからさ。……やっぱり知らないやつと付き合うってのが無理あったかなって思って。友達から仲良くなるってのが重要なんだって今さら気付いた」
「……それ、女の話だよな」
「は? 当たり前だろ」
ついそう言ってしまい、はっとする。圭一のことを否定したように聞こえただろうか。
「いや、まあ、男が好きならそれでもいいんじゃね。男同士の方がやりやすそうだよな」
よく分からないフォローを咄嗟に入れる。
その後、圭一がもう何も返してこなかったので、旭からももうそのことについては触れなかった。
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