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第8章 キスと反応
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――何か、付き合ってるって感じするな。
あの日以来、圭一と一緒にいる時間は今までにないほどに増えた。テスト前一週間は毎日一緒に帰って圭一の家で勉強したし、土日も一緒に勉強した。勉強を終えてからキスするのはもう日課のようになっている。キスは徐々に長く濃厚になっていった。
週が明けるといよいよ期末テストが始まったが、始まってからも、やっぱり圭一とは毎日一緒に勉強した。テスト期間中は午前のみで終わるので、適当に昼食を取ってから圭一の家に行って翌日のテスト科目を勉強する。
そうして、テストもいよいよあと一日を残すのみとなった。
「今日、うち来ない?」
その日、帰り道に旭は圭一を誘った。
「おかんが飯食いに来いって」
「まじで? じゃあ行く」
圭一とは子供の頃からの友達だから、旭の母親も圭一のことは知っている。昨日、圭一の家で勉強するから昼食代が欲しいと言ってみたら、「ご飯は用意しておくからうちに呼びなさい」と言われてしまった。旭が高校生らしくファストフードを好んで食べるのを、母親は良く思っていない。結局昼食代ももらえず圭一を家に呼ぶことになってしまったが、多分、メニューや品数はいつもよりは少し豪華なんだろう。
「旭んち行くの、久しぶりだな」
「おかんがいるかもだけど平気?」
「全然」
旭が子供の頃はまだ母親は働いていなかったので、圭一はうちに遊びに来た時によく母親とも顔を合わせていた。顔見知りと言えば顔見知りだ。
「でかくなったなーって絶対言われるからな」
「まあ大人は言うよなそれ」
「親戚とかな」
――今日は俺の部屋でキスするのかな。やっぱり。
何も考えていなさそうな圭一の表情を横から眺める。昨日の夜、軽く部屋を片付けながら考えたことを旭はまた思った。当然、元カノを家に呼んだことはない。自分の生活空間にそういう要素が入り込んでくると考えると、何だか少し後戻りできないような気持ちになる。
家に着くと、案の定、出迎えた母親は圭一に向かって「原くん、大人になったねえ!」と言った。
「ご無沙汰してます」
外見だけでなく言葉遣いにも成長を感じたのか、母親が笑いながら何度も頷く。ダイニングルームに入ると、テーブルには既に二人分の昼食が用意されていた。
「座っといて」
圭一にそう声を掛けて、旭は母親が汁椀に注いでくれた味噌汁をキッチンから運んだ。やがて母親が戻ってきて、そのままリビングの方へと行く。
「ご飯はセルフで。好きなだけどうぞ」
「んー」
「ありがとうございます」
「原くんも、遠慮なく食べなね」
母親はそう言いながら、いつもは開けっ放しのダイニングとリビングの間の引き戸を締めた。すりガラスの向こうで影が動き、やがてテレビらしき音が聞こえてくる。
「あ、おばさんも一緒に食うんじゃないのか」
「いや、ないだろそれ」
旭はキッチンに行って冷蔵庫から麦茶のポットを取り出した。更に食器棚からグラスを二つ取り出す。
「サンキュ」
「飯どれくらい?」
「普通盛りで」
「おう」
適当な量のご飯をよそい、旭は茶碗も二つテーブルまで運んだ。そのまま椅子に座ると、所在なげに立ったままだった圭一もようやく腰を下ろす。向かい合わせの位置で、二人は早速食べ始めた。
食べ終わった後、食器類をシンクに運んでテーブルの上を片付ける。そのままそこで勉強を始めようとしたが、すぐに圭一が声を上げた。
「しまった。俺、明日の分の教科書持ってなかったわ」
「あっ? そっか、ごめん」
本当なら今日も圭一の家に行くはずだったから、圭一が持っていなくても不思議はない。先に言わなかった旭の配慮不足だ。
「昨日のうちにラインしといたら良かったな。どうする? 一緒に見る?」
「うーん、保体はいいけど日本史がなあ」
「それか、やっぱお前んちでやる?」
そう聞いた時、リビングの方から「旭ー、食べ終わったー?」と声が聞こえてきた。
「えー? うん」
声を張って答えると、「冷蔵庫の中にケーキあるよー」と返ってくる。わざわざ買っておいてくれたらしかった。
「食う?」
一応圭一に聞いてみると、「うん」と頷く。
「んじゃ、食ったらお前んち行くか」
旭が取りに行こうと立ち上がると、圭一が「お前の部屋で食いたい」と言った。
「え?」
「駄目ならいいけど」
「いや、まあいいけど別に」
どうせ、勉強が終わった後には部屋に行くことになると思っていた。せっかく昨日掃除もしたし。
旭がケーキの用意をしている間に、圭一がリビングの引き戸を開けて母親にお礼を言っているのが聞こえる。旭はインスタントコーヒーを二杯作って、ケーキと一緒にお盆に載せた。
あの日以来、圭一と一緒にいる時間は今までにないほどに増えた。テスト前一週間は毎日一緒に帰って圭一の家で勉強したし、土日も一緒に勉強した。勉強を終えてからキスするのはもう日課のようになっている。キスは徐々に長く濃厚になっていった。
週が明けるといよいよ期末テストが始まったが、始まってからも、やっぱり圭一とは毎日一緒に勉強した。テスト期間中は午前のみで終わるので、適当に昼食を取ってから圭一の家に行って翌日のテスト科目を勉強する。
そうして、テストもいよいよあと一日を残すのみとなった。
「今日、うち来ない?」
その日、帰り道に旭は圭一を誘った。
「おかんが飯食いに来いって」
「まじで? じゃあ行く」
圭一とは子供の頃からの友達だから、旭の母親も圭一のことは知っている。昨日、圭一の家で勉強するから昼食代が欲しいと言ってみたら、「ご飯は用意しておくからうちに呼びなさい」と言われてしまった。旭が高校生らしくファストフードを好んで食べるのを、母親は良く思っていない。結局昼食代ももらえず圭一を家に呼ぶことになってしまったが、多分、メニューや品数はいつもよりは少し豪華なんだろう。
「旭んち行くの、久しぶりだな」
「おかんがいるかもだけど平気?」
「全然」
旭が子供の頃はまだ母親は働いていなかったので、圭一はうちに遊びに来た時によく母親とも顔を合わせていた。顔見知りと言えば顔見知りだ。
「でかくなったなーって絶対言われるからな」
「まあ大人は言うよなそれ」
「親戚とかな」
――今日は俺の部屋でキスするのかな。やっぱり。
何も考えていなさそうな圭一の表情を横から眺める。昨日の夜、軽く部屋を片付けながら考えたことを旭はまた思った。当然、元カノを家に呼んだことはない。自分の生活空間にそういう要素が入り込んでくると考えると、何だか少し後戻りできないような気持ちになる。
家に着くと、案の定、出迎えた母親は圭一に向かって「原くん、大人になったねえ!」と言った。
「ご無沙汰してます」
外見だけでなく言葉遣いにも成長を感じたのか、母親が笑いながら何度も頷く。ダイニングルームに入ると、テーブルには既に二人分の昼食が用意されていた。
「座っといて」
圭一にそう声を掛けて、旭は母親が汁椀に注いでくれた味噌汁をキッチンから運んだ。やがて母親が戻ってきて、そのままリビングの方へと行く。
「ご飯はセルフで。好きなだけどうぞ」
「んー」
「ありがとうございます」
「原くんも、遠慮なく食べなね」
母親はそう言いながら、いつもは開けっ放しのダイニングとリビングの間の引き戸を締めた。すりガラスの向こうで影が動き、やがてテレビらしき音が聞こえてくる。
「あ、おばさんも一緒に食うんじゃないのか」
「いや、ないだろそれ」
旭はキッチンに行って冷蔵庫から麦茶のポットを取り出した。更に食器棚からグラスを二つ取り出す。
「サンキュ」
「飯どれくらい?」
「普通盛りで」
「おう」
適当な量のご飯をよそい、旭は茶碗も二つテーブルまで運んだ。そのまま椅子に座ると、所在なげに立ったままだった圭一もようやく腰を下ろす。向かい合わせの位置で、二人は早速食べ始めた。
食べ終わった後、食器類をシンクに運んでテーブルの上を片付ける。そのままそこで勉強を始めようとしたが、すぐに圭一が声を上げた。
「しまった。俺、明日の分の教科書持ってなかったわ」
「あっ? そっか、ごめん」
本当なら今日も圭一の家に行くはずだったから、圭一が持っていなくても不思議はない。先に言わなかった旭の配慮不足だ。
「昨日のうちにラインしといたら良かったな。どうする? 一緒に見る?」
「うーん、保体はいいけど日本史がなあ」
「それか、やっぱお前んちでやる?」
そう聞いた時、リビングの方から「旭ー、食べ終わったー?」と声が聞こえてきた。
「えー? うん」
声を張って答えると、「冷蔵庫の中にケーキあるよー」と返ってくる。わざわざ買っておいてくれたらしかった。
「食う?」
一応圭一に聞いてみると、「うん」と頷く。
「んじゃ、食ったらお前んち行くか」
旭が取りに行こうと立ち上がると、圭一が「お前の部屋で食いたい」と言った。
「え?」
「駄目ならいいけど」
「いや、まあいいけど別に」
どうせ、勉強が終わった後には部屋に行くことになると思っていた。せっかく昨日掃除もしたし。
旭がケーキの用意をしている間に、圭一がリビングの引き戸を開けて母親にお礼を言っているのが聞こえる。旭はインスタントコーヒーを二杯作って、ケーキと一緒にお盆に載せた。
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