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第10章 夏のアルバイト
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「それ、セクハラとかじゃないの」
それまで楽しそうに話していたのに、圭一の表情が真剣なものに変わっていた。
「セクハラ? いや、一応女の人だって」
「女から男へのセクハラだってあるだろ」
「……でも、おかんより更に上の人だし」
何となく認めたくない気持ちが働いて、つい否定的に返してしまう。圭一はその空気を察したのか、
「まあ、だったら向こうも子供相手のつもりなのかもな」
と取りなすように言った。
「でも嫌だったら変に我慢せずに言えよ、ちゃんと」
「ていうか……そんな、ものすごい嫌とかじゃないけど」
「ちょっとでも嫌なら、お前が我慢する必要ないだろ」
「……うん」
圭一は旭のこういう性格をよく知っている。何でも思ったことを口にできる圭一からすれば、もしかしたら旭の態度は歯痒く思えるのかもしれない。そんな旭の心中を察したのか、圭一が口調を緩めて言う。
「まあ、お前の性格だったら、言わない方が楽なのかもしれないけどさ」
「うん……」
「大したことないのかもしれないけど、気を付けろよ。お前はかわいいから目を付けられてるかもしれないし」
圭一が真剣に話しているのに、旭は思わず本題とは関係のないところを聞き咎めた。
「かわいい?」
聞き返す旭の声に、圭一がはっとし、慌てたように弁解する。
「あ、いや、そのおばさんからしたら、息子みたいでかわいいかもって」
「かわいい? 俺が」
「違う、間違えた。じゃなくて、かっこいいから、目を付けられてるかも」
おかしな方向に言い繕う圭一の言葉を聞きながら、自分が問い返したのはそういう意味ではないのに、と思う。
「だから主婦ばっかりだって言ってんだろ」
「それだったら尚更だろ。どうせ男ってだけで目立ってんじゃねえの」
「……まあ、それは」
「しかもイケメンDKの旭くんだからな。気を付けとけってことだよ」
そう言う圭一に、旭は考えるより先に聞いてしまった。
「お前、俺のことかわいいとか思ってんの」
口に出してすぐに、しまった、と内心で焦る。圭一が「はあ?」と呆れた声を出す。
「いや、やっぱ今のなし」
慌てて取り消したにもかかわらず、圭一は平然と答えた。
「そんなの、思ってるに決まってるだろ」
「――」
思わず絶句した旭を見て、圭一は面白そうに口の端を上げる。
「なんだ、そっちか。怒ったのかと思った」
「違う、そっちじゃない」
「はは、遅いって」
笑いながら機嫌良さそうに歩く圭一の後について行くが、やがて圭一はからかいのニュアンスを引っ込め、優しく笑いながら旭を振り返った。旭の頭を軽くぽんと叩き、それから髪を指で梳く。
「Tシャツ見る?」
「……うん」
傍から見れば単なる友達同士のじゃれ合いに見えるであろうその仕草は、旭にだけ、別の状況を思い出させた。
それまで楽しそうに話していたのに、圭一の表情が真剣なものに変わっていた。
「セクハラ? いや、一応女の人だって」
「女から男へのセクハラだってあるだろ」
「……でも、おかんより更に上の人だし」
何となく認めたくない気持ちが働いて、つい否定的に返してしまう。圭一はその空気を察したのか、
「まあ、だったら向こうも子供相手のつもりなのかもな」
と取りなすように言った。
「でも嫌だったら変に我慢せずに言えよ、ちゃんと」
「ていうか……そんな、ものすごい嫌とかじゃないけど」
「ちょっとでも嫌なら、お前が我慢する必要ないだろ」
「……うん」
圭一は旭のこういう性格をよく知っている。何でも思ったことを口にできる圭一からすれば、もしかしたら旭の態度は歯痒く思えるのかもしれない。そんな旭の心中を察したのか、圭一が口調を緩めて言う。
「まあ、お前の性格だったら、言わない方が楽なのかもしれないけどさ」
「うん……」
「大したことないのかもしれないけど、気を付けろよ。お前はかわいいから目を付けられてるかもしれないし」
圭一が真剣に話しているのに、旭は思わず本題とは関係のないところを聞き咎めた。
「かわいい?」
聞き返す旭の声に、圭一がはっとし、慌てたように弁解する。
「あ、いや、そのおばさんからしたら、息子みたいでかわいいかもって」
「かわいい? 俺が」
「違う、間違えた。じゃなくて、かっこいいから、目を付けられてるかも」
おかしな方向に言い繕う圭一の言葉を聞きながら、自分が問い返したのはそういう意味ではないのに、と思う。
「だから主婦ばっかりだって言ってんだろ」
「それだったら尚更だろ。どうせ男ってだけで目立ってんじゃねえの」
「……まあ、それは」
「しかもイケメンDKの旭くんだからな。気を付けとけってことだよ」
そう言う圭一に、旭は考えるより先に聞いてしまった。
「お前、俺のことかわいいとか思ってんの」
口に出してすぐに、しまった、と内心で焦る。圭一が「はあ?」と呆れた声を出す。
「いや、やっぱ今のなし」
慌てて取り消したにもかかわらず、圭一は平然と答えた。
「そんなの、思ってるに決まってるだろ」
「――」
思わず絶句した旭を見て、圭一は面白そうに口の端を上げる。
「なんだ、そっちか。怒ったのかと思った」
「違う、そっちじゃない」
「はは、遅いって」
笑いながら機嫌良さそうに歩く圭一の後について行くが、やがて圭一はからかいのニュアンスを引っ込め、優しく笑いながら旭を振り返った。旭の頭を軽くぽんと叩き、それから髪を指で梳く。
「Tシャツ見る?」
「……うん」
傍から見れば単なる友達同士のじゃれ合いに見えるであろうその仕草は、旭にだけ、別の状況を思い出させた。
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