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おまけ
ヴァレンの冒険7
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「ヴァレン……ヴァレン……」
どこかから呼びかける声が聞こえてくる。懐かしく、温かな声だ。
夢うつつのまま、ヴァレンは目を開けた。
光を浴びて輝く黄金色の髪に、心配そうな緑色の瞳をゆらめかせた、繊細な美貌が目に入ってくる。
ヴァレンは何回か瞬きをして、目の前の人物がミゼアスだと認識した。
「ミゼアス兄さん……?」
ぼそっと呟けば、ミゼアスは表情を呆れ混じりの安堵に染めて、大きく息を吐く。
「こんなところで寝たらだめだろう。風邪を引くよ。帰りが遅いから探しに来てみれば……ああ、でも無事でよかったよ」
苦笑しながらミゼアスはヴァレンの頭を撫でる。
周りを見回せば、海岸の岩場のようだった。岩に寄りかかって寝ていたらしい。
岩を見て、ぼんやりと意識が浮上してくる。そうだ、今まで海底で冒険をしてきたのだ。ヴァレンは思い出して、はっとする。
「ミゼアス兄さん! 俺、守り神のトゥルーテス様に会ったんです! それで、海底で迷子になったクラーケンの子供を見つけて、でも他のクラーケンに襲われて……」
ヴァレンが興奮して語りだすと、ミゼアスは一瞬、首を傾げたものの、にっこりと笑った。
「そうかい、夢の中で冒険をしてきたんだね、ヴァレン」
ただ穏やかにミゼアスは微笑む。
「夢じゃあ……」
そこまで呟いて、ヴァレンは口をつぐむ。夢ではないと言おうとしたのだが、思い出そうとしても海底での出来事がよく思い出せないのだ。
ヴァレンは物心ついてからの出来事を、全て鮮明に思い出すことができる。一年前の今日、何をしていたかと問われたとしても、起きてから寝るまでの行動すべてを違わずに説明できるのだ。
それなのに、つい先ほどまでの出来事がよく思い出せない。何となくはおぼえているのだが、靄がかかっているようだ。
ミゼアスの言うとおり、あれは夢だったのだろうか。
「さあ、ヴァレン。帰ろう。今度からどこかに行くときは、前もって僕に言ってからにしなさい。どこに行ったのかと、本当に心配したよ」
やっと一息ついたといったようなミゼアスの声に、ヴァレンは罪悪感がわきおこってくる。
「ごめんなさい……ミゼアス兄さん……」
しゅんとうなだれると、ミゼアスは微笑んで手を差し出してきた。
「もういいよ。さあ、帰ろう。もうすぐ夕食だよ。冒険してきたんだ、お腹も空いただろう」
「はいっ!」
頷いて、ヴァレンはミゼアスの手を取る。
優しいミゼアスの温もりに、ヴァレンは自分の場所に帰ってきたのだと実感する。
ヴァレンは自らが存在することを確かめるように、ぎゅっとミゼアスの手を握った。
温もりに手を引かれて海岸を後にしながら、ヴァレンはちらりと海を振り返る。
遠くで、何かが海に潜る音が聞こえたような気がした。
どこかから呼びかける声が聞こえてくる。懐かしく、温かな声だ。
夢うつつのまま、ヴァレンは目を開けた。
光を浴びて輝く黄金色の髪に、心配そうな緑色の瞳をゆらめかせた、繊細な美貌が目に入ってくる。
ヴァレンは何回か瞬きをして、目の前の人物がミゼアスだと認識した。
「ミゼアス兄さん……?」
ぼそっと呟けば、ミゼアスは表情を呆れ混じりの安堵に染めて、大きく息を吐く。
「こんなところで寝たらだめだろう。風邪を引くよ。帰りが遅いから探しに来てみれば……ああ、でも無事でよかったよ」
苦笑しながらミゼアスはヴァレンの頭を撫でる。
周りを見回せば、海岸の岩場のようだった。岩に寄りかかって寝ていたらしい。
岩を見て、ぼんやりと意識が浮上してくる。そうだ、今まで海底で冒険をしてきたのだ。ヴァレンは思い出して、はっとする。
「ミゼアス兄さん! 俺、守り神のトゥルーテス様に会ったんです! それで、海底で迷子になったクラーケンの子供を見つけて、でも他のクラーケンに襲われて……」
ヴァレンが興奮して語りだすと、ミゼアスは一瞬、首を傾げたものの、にっこりと笑った。
「そうかい、夢の中で冒険をしてきたんだね、ヴァレン」
ただ穏やかにミゼアスは微笑む。
「夢じゃあ……」
そこまで呟いて、ヴァレンは口をつぐむ。夢ではないと言おうとしたのだが、思い出そうとしても海底での出来事がよく思い出せないのだ。
ヴァレンは物心ついてからの出来事を、全て鮮明に思い出すことができる。一年前の今日、何をしていたかと問われたとしても、起きてから寝るまでの行動すべてを違わずに説明できるのだ。
それなのに、つい先ほどまでの出来事がよく思い出せない。何となくはおぼえているのだが、靄がかかっているようだ。
ミゼアスの言うとおり、あれは夢だったのだろうか。
「さあ、ヴァレン。帰ろう。今度からどこかに行くときは、前もって僕に言ってからにしなさい。どこに行ったのかと、本当に心配したよ」
やっと一息ついたといったようなミゼアスの声に、ヴァレンは罪悪感がわきおこってくる。
「ごめんなさい……ミゼアス兄さん……」
しゅんとうなだれると、ミゼアスは微笑んで手を差し出してきた。
「もういいよ。さあ、帰ろう。もうすぐ夕食だよ。冒険してきたんだ、お腹も空いただろう」
「はいっ!」
頷いて、ヴァレンはミゼアスの手を取る。
優しいミゼアスの温もりに、ヴァレンは自分の場所に帰ってきたのだと実感する。
ヴァレンは自らが存在することを確かめるように、ぎゅっとミゼアスの手を握った。
温もりに手を引かれて海岸を後にしながら、ヴァレンはちらりと海を振り返る。
遠くで、何かが海に潜る音が聞こえたような気がした。
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