きみを待つ

四葉 翠花

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07.返品不可

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 それからというもの、ミゼアスの心が休まることはなかった。口を開けば出てくるのは罵声や怒声ばかりである。

「どうしてきみは、何回言っても後先考えずに突っ走るんだい!」

 今日も廊下にミゼアスの怒鳴り声が響く。
 ほんの数日ですっかり名物となってしまい、他の白花たちはまたかといった顔で呆れたり、笑ったりしながら二人を遠巻きに眺めている。

「まずは服を着なさい! 風呂から出たら、身体を拭いて服を着るんだよ。どうして、裸で廊下を走り回るんだい!」

「だって、放っておいても乾きます! 走ったほうが乾くのも早いし!」

「そういう問題じゃない! 廊下は服を着て歩くところだよ! 裸が許される場所でも、走る場所でもないんだ!」

 怒鳴りながら、ようやくミゼアスはヴァレンを捕まえた。
 ヴァレンは手足をぱたぱたと動かすが、逃れようと暴れているわけではないようだ。じっとしていられないらしい。

「きみは猿かい? それとも犬? 廊下を裸で駆け回るんだ。少なくとも、人間じゃないよね。じゃあ、首輪をつけて繋いでおかないといけないね。それと、口で言ってもわからないんだったら、もう身体に教えるしかないよね。鞭を用意しようか」

 脅しの言葉をかけると、ヴァレンは手足の動きをぴたっと止める。

「……ミゼアス兄さん」

「何だい?」

 情けない顔で見上げてくるヴァレンの姿に、ようやく少しはこたえたかとミゼアスは胸を撫で下ろす。

「お腹が空きました」

「……はあ?」

 しかし続いてヴァレンが発した言葉により、ミゼアスは愕然とする。思わず耳を疑ってしまったくらいだった。
 もう一度問いただそうかとミゼアスが思ったとき、その言葉を裏付けるようにヴァレンの腹が鳴り響いた。もはや疑いようがない。

 ヴァレンは自らの腹を両手で押さえ、ミゼアスに訴えるような眼差しを送る。
 おとなしくなったのは、空腹のためだったのか。決して脅しがこたえたわけではなかったようだ。ミゼアスはがっくりとうなだれる。
 ついヴァレンを捕まえていた手を放してしまったが、ヴァレンは逃げようともせずにミゼアスをただ見つめ続けている。

「お腹が、空きました」

 もう一度、その言葉を強調するヴァレン。

「……わかったよ。服を着なさい。そうしたら、食事にしよう……」

 一気に襲いかかってくる疲労と戦いながら、ミゼアスはどうにか言葉を発する。

「はいっ」

 するとヴァレンも今度は素直に従う様子を見せる。
 そういえば絨毯を食べようともしていたくらいだ。この子は食べ物に対する執着が強いらしい。
 先日のヴァレンとの対面後、娼館主に『話が違う』と文句を言いに行ったが、『嘘偽りなど何も言っていない』と却下されてしまった。

 預かってほしいと言ったときの娼館主の苦渋に満ちた表情は、つまりこういうことだったのだろう。
 もう返品不可だと言われてしまった以上、ミゼアスが面倒を見るより他はない。ミゼアスは大きくため息を漏らしながら、ヴァレンの身体に拭き取り用の布を巻いた。
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