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53.きみを待つ(完)
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温かい午後の日差しを浴びながら、ミゼアスはヴァレンを連れて散歩をしていた。
もう普段の生活に支障はない。なるべく早く体力を戻していくため、ミゼアスは散歩が日課となっていた。
「ねえ、ヴァレン。僕が目覚めたときにきみが言っていたこと、もう一度聞かせてもらえるかい?」
慌しくて、つい聞きそびれていたことをミゼアスは尋ねてみた。
「え? 何のことですか?」
ヴァレンは首を傾げる。
「茶色の髪に水色の瞳をした男の子のこと」
「……? 何のことでしょう? 俺、よくわかりません」
「え? もしかして、忘れちゃったのかい?」
「いえ……俺は今まで起こった出来事は全部覚えています。ミゼアス兄さんが目覚めたとき、俺はミゼアス兄さんの名前を呼んでしがみついて……そのまま寝ちゃいました。……もしかして、寝言で何か言っていましたか?」
不思議そうなヴァレン。
「え……?」
確かにヴァレンは物事を忘れるということがない。
しかし、あのとき確かに聞いたのだ。夢の出来事を裏付けるような言葉が、ヴァレンの口から紡がれるのを。
ヴァレンはきょとんとした顔でミゼアスを見上げている。ミゼアスは微笑んでヴァレンの頭を撫でた。
「そっか……いや、何でもないよ」
きっと、あれは幼馴染がヴァレンの口を借りてミゼアスに伝えてくれたのだろう。
不思議な出来事だが、ミゼアスが今こうして生きていることだって不思議なのだ。そうに違いない。
ミゼアスは柔らかい髪の感触にくすぐったさを覚えながら、空を見上げた。
晴れ渡った空が広がっている。この空が続く場所のどこかに、幼馴染もいるのだ。いつか会える日を待ち続けよう。
今はヴァレンが側にいる。この子のためにも頑張ろうと決意しようとすると、ヴァレンの姿が消えていた。
どこに行ったかと思えば、港の方向に向かって走っていくヴァレンの姿が見えた。
「ちょっ……! ヴァレン! どこに行くんだい!」
「海が俺を呼んでいます! ミゼアス兄さんのために、美味しいものを獲ってきます! ウミウシなんかも鮮やかで先鋭的な味がしそうですよね!」
とんでもないことを叫んで、ヴァレンは走り続ける。
「いや! 僕は食べないから! 待ちなさい!」
慌ててミゼアスもヴァレンを追いかけようとする。一瞬、足がもつれそうになるが、すぐに元どおりの感覚を取り戻した。ヴァレンを捕まえるべく、走り出す。
「あ! ミゼアス兄さんも走るんですね! じゃあ、どっちが先に港に着くか競争です!」
「いやいや! 競争なんていいから! 止まりなさい!」
ミゼアスが追いかけると、ヴァレンはさらにはしゃいで走る。
病み上がりの身体はまだ、以前のような全力を出すことができない。なかなかヴァレンに追いつくことはできなかった。
ヴァレンはミゼアスが元気になったことが、嬉しくて仕方がないらしい。
普段ならばこれだけ言えば止まるのだが、今は気分が高揚しているらしく、ミゼアスの言葉など聞こえていないようだ。
二人の姿を通行人たちが笑いながら眺めている。笑っていないで、ヴァレンを捕まえてくれとミゼアスは痛切に思う。
まだまだヴァレンに振り回される日々は続きそうだ。いつか、ヴァレンが落ち着く日もやってくるのだろうか。
幼馴染を待ちながら、あまり期待せずにヴァレンが落ち着く日も待つことにしよう。
いつか、きっとその日が来ることを信じて――
きみを、待つ。
もう普段の生活に支障はない。なるべく早く体力を戻していくため、ミゼアスは散歩が日課となっていた。
「ねえ、ヴァレン。僕が目覚めたときにきみが言っていたこと、もう一度聞かせてもらえるかい?」
慌しくて、つい聞きそびれていたことをミゼアスは尋ねてみた。
「え? 何のことですか?」
ヴァレンは首を傾げる。
「茶色の髪に水色の瞳をした男の子のこと」
「……? 何のことでしょう? 俺、よくわかりません」
「え? もしかして、忘れちゃったのかい?」
「いえ……俺は今まで起こった出来事は全部覚えています。ミゼアス兄さんが目覚めたとき、俺はミゼアス兄さんの名前を呼んでしがみついて……そのまま寝ちゃいました。……もしかして、寝言で何か言っていましたか?」
不思議そうなヴァレン。
「え……?」
確かにヴァレンは物事を忘れるということがない。
しかし、あのとき確かに聞いたのだ。夢の出来事を裏付けるような言葉が、ヴァレンの口から紡がれるのを。
ヴァレンはきょとんとした顔でミゼアスを見上げている。ミゼアスは微笑んでヴァレンの頭を撫でた。
「そっか……いや、何でもないよ」
きっと、あれは幼馴染がヴァレンの口を借りてミゼアスに伝えてくれたのだろう。
不思議な出来事だが、ミゼアスが今こうして生きていることだって不思議なのだ。そうに違いない。
ミゼアスは柔らかい髪の感触にくすぐったさを覚えながら、空を見上げた。
晴れ渡った空が広がっている。この空が続く場所のどこかに、幼馴染もいるのだ。いつか会える日を待ち続けよう。
今はヴァレンが側にいる。この子のためにも頑張ろうと決意しようとすると、ヴァレンの姿が消えていた。
どこに行ったかと思えば、港の方向に向かって走っていくヴァレンの姿が見えた。
「ちょっ……! ヴァレン! どこに行くんだい!」
「海が俺を呼んでいます! ミゼアス兄さんのために、美味しいものを獲ってきます! ウミウシなんかも鮮やかで先鋭的な味がしそうですよね!」
とんでもないことを叫んで、ヴァレンは走り続ける。
「いや! 僕は食べないから! 待ちなさい!」
慌ててミゼアスもヴァレンを追いかけようとする。一瞬、足がもつれそうになるが、すぐに元どおりの感覚を取り戻した。ヴァレンを捕まえるべく、走り出す。
「あ! ミゼアス兄さんも走るんですね! じゃあ、どっちが先に港に着くか競争です!」
「いやいや! 競争なんていいから! 止まりなさい!」
ミゼアスが追いかけると、ヴァレンはさらにはしゃいで走る。
病み上がりの身体はまだ、以前のような全力を出すことができない。なかなかヴァレンに追いつくことはできなかった。
ヴァレンはミゼアスが元気になったことが、嬉しくて仕方がないらしい。
普段ならばこれだけ言えば止まるのだが、今は気分が高揚しているらしく、ミゼアスの言葉など聞こえていないようだ。
二人の姿を通行人たちが笑いながら眺めている。笑っていないで、ヴァレンを捕まえてくれとミゼアスは痛切に思う。
まだまだヴァレンに振り回される日々は続きそうだ。いつか、ヴァレンが落ち着く日もやってくるのだろうか。
幼馴染を待ちながら、あまり期待せずにヴァレンが落ち着く日も待つことにしよう。
いつか、きっとその日が来ることを信じて――
きみを、待つ。
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