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06.宴席

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 宴席の準備を整え、ヴァレンは夕月花事件の協力者を迎えた。約十年ぶりの再会だ。

「十年ぶりくらい? お久しぶりー」

 緊張感のないヴァレンの声が響く。
 対照的にがちがちと緊張した様子のロシュは、曖昧に頷くだけだった。それでも何か言わなければ、と思ったらしく、口を開く。

「えっと……その……お招きに預かりまして……」

「ああ、かたくならないで。夕月花の件でお礼も言いたかったし、わざわざ来てくれてありがとう」

 やんわりとロシュを遮り、ヴァレンはにっこりと笑う。
 ロシュは、ミゼアスの夫となったアデルジェスの友人だ。ヴァレンの実家と取引があった家の息子でもあり、ヴァレンも十年ほど前に一度だけ会っていた。

 夕月花の件では、夕月花が生贄を必要とする花だと教えてくれたのだ。この情報のおかげで、ヴァレンはそれまでの憶測を確信へと変えていくことができた。
 本当は、ロシュはミゼアスの紹介を得て、客として来ようとしていた。しかし、このことを知ったヴァレンは自らが宴席を設け、ロシュを招待したのだ。

「ロシュさんは、俺より三つくらい年上だっけ? 昔、飴をもらったのを覚えているよ。お腹空いていたから、嬉しかったなー」

「そ、そうですね……」

「敬語も必要ないから、もっと肩の力を抜いてくつろいで。まあ、まずは軽く一杯どうぞ」

 気が張った様子のロシュに向け、安心させるように微笑みながらヴァレンは酒を注ぐ。
 直線的な仕草で杯を受け取ると、ロシュは一気にあおった。思わずヴァレンは手を叩く。

「いい飲みっぷりだね。もう一杯いく?」

 ヴァレンの問いかけに、ロシュは無言のまま杯を差し出した。二杯目を注ぐと、ロシュはまたも一気にあおる。

「いやー、いい飲みっぷりだ。でも、最初から飛ばしすぎるのも何だし、食べ物もどうぞ。……おや、きみたち。うずうずしているようだね」

 見習いたちに向けてからかうような声をかければ、ロシュも不思議そうな顔で見習いたちに目を向けた。

「お伺いしたいことがあるのですが、よろしいですか?」

 見習いたちの筆頭、アルンが落ち着き払って願い出る。

「え……俺? あ、はい、どうぞ……」

 戸惑いながらもロシュは頷く。

「お客様は、ミゼアス兄さんとお会いしたのですよね。ミゼアス兄さんはお元気でしたか?」

 表面上は落ち着いた様子だったが、普段の大人びた仮面がやや取れかけている。アルンの瞳がきらきらとしているのを確認し、ヴァレンはこっそりと笑いを漏らした。

「ミゼアス……ああ、フェイちゃんか。うん、元気だったよ。そうだ、もし不夜島に行ったとしたら、祭りのときに遊びに行くからって伝えてくれって言われていたんだ」

 ロシュの言葉に、アルン、ブラム、コリンが顔を輝かせる。おそらく、普段だったら歓声をあげていただろう。
 宴席の場に控える見習いとしての立場をわきまえて、声を出すのはこらえたようだ。
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