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18.抱えているもの
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「ネヴィル」
館を出て、大通りでエアイールが声をかけると、ネヴィルは足を止めた。
「……エアイール、どうかしたのかい?」
「少々、こちらへ」
エアイールはネヴィルを道の端に引っ張っていく。
まだ時間が早いために人通りはまばらだが、やはり白花唯一の五花となったエアイールの姿は目立つ。
「今さらヴァレンの前に現れるなど、何かあるのですか?」
部屋に戻ってきたときのヴァレンの様子といい、ネヴィルは何か問題を抱えている可能性が高いだろう。そうは思いながらも、昔からの癖でついエアイールは棘のある言葉を放ってしまう。
「相変わらず怖いね、エアイール。でも、僕はヴァレンとは友達なんだ。久しぶりに友達の顔を見たくなった。ただ、それだけだよ」
「……ヴァレンのこと、本当にあきらめたのですか?」
エアイールとネヴィルは、見習い時代からヴァレンを巡って三角関係を作り出していた。
もっともヴァレンは、どちらのことも友人としか思っていないようだったが。
「正直に言えば、今でも惹かれるものはあるよ。でも、ヴァレンは誰か一人のものになんてなってくれる相手じゃない。僕は自分一人だけを見てくれないと嫌な性質でね。エアイール、きみだってそうじゃないかい? むしろ、僕以上に自分だけを見て欲しいという部類の人間に見えるよ」
「それは……」
俯き、エアイールは拳を握り締める。
ネヴィルの言うことは、まったくもってそのとおりだった。
ヴァレンはいっとき身体を与えてくれても、エアイールが本当に欲する心に触れることはできない。
おそらく、エアイールはヴァレンの中でもそれなりに特別な位置にいるだろう。
しかしそれは、ネヴィルも同じ位置なのだ。
友人、幼馴染といった意味での『特別』でしかない。ヴァレンにとっての『唯一』にはなれないのだ。
「きみやヴァレンと過ごした見習い時代は、僕にとっては大切な心の支えとなる宝物だ。できることなら、きみにもヴァレンにも幸せになってもらいたいよ。ただ、あの並外れた頭脳を持つヴァレンは、自らに関連する事柄への鈍感さも並外れているしね。……つらいだろう、エアイール」
ネヴィルはエアイールの頬に手を伸ばし、そっと撫でる。
追いかけてきたはずのエアイールが逆に慰められることになったが、おそらくネヴィルほどエアイールの心情をわかってくれる相手はいないだろう。
ネヴィルの胸に取りすがって泣き出したい衝動がわきあがるが、エアイールは五花の誇りにかけて自らを律する。
歯を食いしばり、涙をこらえてネヴィルを見つめ返した。
館を出て、大通りでエアイールが声をかけると、ネヴィルは足を止めた。
「……エアイール、どうかしたのかい?」
「少々、こちらへ」
エアイールはネヴィルを道の端に引っ張っていく。
まだ時間が早いために人通りはまばらだが、やはり白花唯一の五花となったエアイールの姿は目立つ。
「今さらヴァレンの前に現れるなど、何かあるのですか?」
部屋に戻ってきたときのヴァレンの様子といい、ネヴィルは何か問題を抱えている可能性が高いだろう。そうは思いながらも、昔からの癖でついエアイールは棘のある言葉を放ってしまう。
「相変わらず怖いね、エアイール。でも、僕はヴァレンとは友達なんだ。久しぶりに友達の顔を見たくなった。ただ、それだけだよ」
「……ヴァレンのこと、本当にあきらめたのですか?」
エアイールとネヴィルは、見習い時代からヴァレンを巡って三角関係を作り出していた。
もっともヴァレンは、どちらのことも友人としか思っていないようだったが。
「正直に言えば、今でも惹かれるものはあるよ。でも、ヴァレンは誰か一人のものになんてなってくれる相手じゃない。僕は自分一人だけを見てくれないと嫌な性質でね。エアイール、きみだってそうじゃないかい? むしろ、僕以上に自分だけを見て欲しいという部類の人間に見えるよ」
「それは……」
俯き、エアイールは拳を握り締める。
ネヴィルの言うことは、まったくもってそのとおりだった。
ヴァレンはいっとき身体を与えてくれても、エアイールが本当に欲する心に触れることはできない。
おそらく、エアイールはヴァレンの中でもそれなりに特別な位置にいるだろう。
しかしそれは、ネヴィルも同じ位置なのだ。
友人、幼馴染といった意味での『特別』でしかない。ヴァレンにとっての『唯一』にはなれないのだ。
「きみやヴァレンと過ごした見習い時代は、僕にとっては大切な心の支えとなる宝物だ。できることなら、きみにもヴァレンにも幸せになってもらいたいよ。ただ、あの並外れた頭脳を持つヴァレンは、自らに関連する事柄への鈍感さも並外れているしね。……つらいだろう、エアイール」
ネヴィルはエアイールの頬に手を伸ばし、そっと撫でる。
追いかけてきたはずのエアイールが逆に慰められることになったが、おそらくネヴィルほどエアイールの心情をわかってくれる相手はいないだろう。
ネヴィルの胸に取りすがって泣き出したい衝動がわきあがるが、エアイールは五花の誇りにかけて自らを律する。
歯を食いしばり、涙をこらえてネヴィルを見つめ返した。
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