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21.不吉な知らせ

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「お断りいたします」

 表情をまったく変えることなく、きっぱりとアルンが述べる。

「……だろうね」

 思わずヴァレンは呟く。アルンが『雪月花』を手放すことなど、考えられなかった。
 ちらりとネヴィルの様子を伺ってみれば、こちらも表情は変わらない。譲ってもらうことは可能かと尋ねはしたものの、頷くとも思っていなかったのだろう。

「この『雪月花』は、僕がミゼアス兄さんから受け継いだものです。どなたにもお譲りする気はありません。あるとすれば、僕が白花となり、引退するときに後輩へと譲るくらいでしょう」

「……念のためにもうひとつ尋ねたい。きみの借金をすべて肩代わりし、さらにある程度の報酬を払うこともできる。そうすればきみは身売りをしなくてもよくなるけれど、それでも?」

 ネヴィルはさらに問いかけるが、アルンの表情は変わらなかった。

「それでも、僕の答えは変わりません。身を売る覚悟はとうにできています。僕の望みはミゼアス兄さんのような五花になり、後輩にも伝えていくことです」

「……わかった。変なことを尋ねて悪かったね」

 そっと息を吐き、ネヴィルは話を打ち切る。もともとうまくいくとは思っていなかったのか、落胆した様子も伺えなかった。

「でも、ネヴィル兄さんは花月琴がないと困るのですよね。僕の『雪月花』はお譲りできませんけれど、ミゼアス兄さんは他にも花月琴を持っていました。それらの中に何かないでしょうか?」

 断りはしたものの、アルンは代案を出す。
 ネヴィルが白花だった時代を、アルンも知っている。直接の繋がりはなかったものの、アルンにとってネヴィルは先輩の白花だったのだ。

「そっちはいいの?」

「今はヴァレン兄さんに所有権があるので、ヴァレン兄さんがいいのならいいんじゃないかと」

 ネヴィルが問いかければ、アルンはヴァレンを見ながら答える。
 するとネヴィルもヴァレンを見つめたので、二人の視線を受けながらヴァレンは頷いた。

「ああ、俺は構わないよ。ただ、名前がわからないやつもあったよね。ミゼアス兄さんに手紙で聞いてみるか。ネヴィルはどれくらい島にいられるの?」

「僕は二、三日くらいなら」

「じゃあ、大丈夫かな。手紙を書いてみるよ」

 手紙と聞いて、アルンが一瞬だけはっとした顔をする。元ミゼアス付きの三人衆は、ミゼアスに手紙を出そうとしたものの、何を書こうか迷っていて、まだ出来上がっていないのだ。

「ミゼアス兄さんへの手紙なら、急ぐ必要はないよ。ゆっくり考えるといい。手紙を出すのはいつでもできるしね」

 ヴァレンがアルンの頭を撫でると、アルンはわずかに表情を和らげて頷いた。

「じゃあ、まずは花月琴を持ってくるか。それから手紙を……」

 ヴァレンの思考を妨げるように、鳩が部屋に飛び込んできた。足に書簡をくくりつけた、白い鳩だ。ヴァレンにも見覚えのある鳩だった。

「あれ? ミゼアス兄さんの鳩、かな? どうしたんだろう」

 ヴァレンは、くるっくーと鳴きながら足を上げる鳩から、手紙を受け取る。
 これから手紙を送ろうとする矢先に、ミゼアスからの手紙が届いたようだ。
 差出人には『アデルジェス』とある。
 ミゼアスではなく、夫のアデルジェスからの手紙かと思いながらヴァレンは封を切る。何だろうと首を傾げながら便箋に目を移した瞬間、ヴァレンの思考が停止した。

 ミゼアスが倒れ、意識が戻らないと書かれていたのだ。
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