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31.治療法

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「ヴァレン……本物? どうしてここに……?」

 夢でも見ているかのような唖然とした表情で、アデルジェスは呟く。

「まあまあ、俺のことは後回しにして。まずは、ミゼアス兄さんのことです」

「そ……そうだ。何か方法が!?」

 ヴァレンがアデルジェスの意識をミゼアスへと向けさせると、アデルジェスはつかみかからんばかりに詰め寄ってきた。

「まずはミゼアス兄さんを見せてもらえますか?」

 願い出ると、ヴァレンはすんなりとミゼアスが眠る部屋へと通される。
 寝台の上で眠り続けるミゼアスは、ヴァレンが近づいても目を覚ます気配はない。
 ごく普通に眠っているだけのように見えるが、ヴァレンがそっと頬に触れても何の反応も示すことはなかった。

「大丈夫……顔色はいい……あのときとは違う……」

 自らに言い聞かせるように、ヴァレンは呟く。
 領主からミゼアスは大丈夫だという話は聞いているが、それでもやはり寝台に横たわる姿は、六年前にミゼアスが倒れたときのことを思い起こさせる。
 日ごとにミゼアスが弱っていくのを眺めながらヴァレンには何もできなかった、つらく悲しい思い出だ。

 だが、今のミゼアスはそのときとは違う。顔色は健康そうであったし、やつれた様子もない。
 本当にただ眠っているだけなのだ。すぐに起こしてあげますからね、とヴァレンは微笑んで囁きかけると、いったんミゼアスから離れてアデルジェスとマリオンに向き直る。

「原因と対処法を不夜島の領主様から聞いてきました。ミゼアス兄さんを助ける方法があります。それはジェスさんにしかできません」

「ど、どうすればいい!?」

 待ちきれないといった様子で、アデルジェスが叫ぶ。
 ヴァレンはその問いには答えずに領主からもらった小瓶を取り出すと、アデルジェスに差し出した。

「これが薬?」

「そうですね。これをミゼアス兄さんに使ってください」

「飲ませればいい? それとも塗るの?」

「塗るほうですね」

「どこに塗ればいい? 額? 心臓のあたり? それとも……」

 動転しながらアデルジェスは次々と部位をあげていくが、それらではない。ヴァレンは首を横に振る。
 そしてはっきりとした口調で、口を開く。

「ミゼアス兄さんのいやらしい穴に、たっぷりと」
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