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35.気遣い

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「ミゼアス……よかった」

「元気になって安心しました、ミゼアス兄さん」

 マリオンが安心したような吐息を漏らし、ヴァレンもほっとしながらミゼアスの姿を眺める。
 島にいた頃よりも、少しだけ痩せたようだ。しかし、ふっくらと柔らかそうな頬は健康そうに色づき、むしろ以前よりも元気そうに見える。
 何よりも、愛しい相手と共にあるという心の充足が見て取れ、幸福そうだった。

 少しばかり照れくさそうにしていたミゼアスだったが、ふとヴァレンの手の甲に視線を向けて目を見開く。
 通常、島を出るときは花を引退した後なので、手の甲の模様も消される。しかし、ヴァレンは白花のまま一日だけ島を出ているので、模様はそのままだ。
 ミゼアスは言葉を失ったように、ヴァレンの手の甲にある模様を凝視していた。

「あー……いちおう、領主様からの許しをもらって島を出ているんで、安心してください。脱走したわけじゃありませんから。明日の朝には戻ることになっています」

 ミゼアスの視線を感じ取り、ヴァレンは言い訳をするように説明する。

「……明日の朝? そんなに早く?」

 しかし、今度は別の部分に反応して、ミゼアスはわずかに眉をひそめる。

「まあ、ミゼアス兄さんを目覚めさせるっていう、一番重要な目的はもう果たしましたしね。ああ……そうでした。ミゼアス兄さんの状態について、説明しますよ」

 ヴァレンが切り出すと、マリオンが一歩、動いた。

「ここでは落ち着かないでしょう。応接室をお使いなさい。私とイーノスは、食事の準備をしましょう。出来上がったら呼びますよ。……ああ、ヴァレン、あなたも食事はいりますか?」

「はいっ、ありがとうございますっ!」

 マリオンの問いかけに、ヴァレンは勢いよく頷く。昼食は抜いたままだったので、とてもありがたい。
 おそらく、マリオンはミゼアスの状態に関する話が、繊細な部分にまで踏み込む可能性を考えて、気を利かせたのだろう。
 席をはずし、かつ食事の準備をするという気遣いは、さすがに元上級白花だ。

「マリオン兄さん、ありがとうございます……」

「ふふ、私とイーノスが作るものですから、あまり期待しないでくださいね。とりあえず、食べられる程度のものにはなると思いますけれど」

 ミゼアスの礼に、マリオンは微笑みながら悪戯っぽく答えた。
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