文化侵略ドラゴニア!~ネトラレ勇者と世界再編物語~

野花マリオ

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プロローグ章 ドラゴンの国がやってきた

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 それは四百年前の出来事だった。

 世界の果てにあるとされていた霧の列島――その島々は、これまでどの王国地図にも記されていなかった。
 しかし突如としてその列島は姿を現したのだ。空飛ぶ龍たちに乗って、自らの文化を背負い、異界からやってきた。

 名をドラゴニア帝国という。

 魔法国家の人々は当初、彼らを笑った。なぜなら、ドラゴニアの民は剣も魔法も使えなかったからだ。
 代わりに彼らが持っていたのは――

 食、礼儀、音楽、舞、茶、文、そしてマンガ。

 異国の者たちは、それを「文化的な飾り物」だと侮った。
 だが、その考えはすぐに打ち砕かれることになる。



 はじまりは、北の大魔王国バウルダへの“お土産”攻撃だった。

 ドラゴニアの使者が一皿の料理を差し出した。

 ――「オツカレーでございます」

 それは黄金のオムレツの上に、香り高いスパイスカレーがとろける絶品料理。
 一口食べた王国の重鎮たちは、まるで魔法にかかったように涙を流し、口々にこう言った。

 「……負けた。文化で、心が折れた……」

 それが、ドラゴニアの征服の第一歩だった。



 その後もドラゴニアは、戦争をせずに世界を“接待”と“萌え文化”で平定していった。
 敵国に温泉施設を送り、寿司を握り、書道を教え、四季折々の折り紙を添えて無言の圧力をかける。
 各国の王はやがて自ら進んで「弟子にしてください」と頭を下げる始末。

 戦いは、もはや戦いではなかった。

 文化の暴力だった。



 そして――それから四百年が過ぎた現在。

 ドラゴニアは、かつての栄光を失いつつあった。

 多様化した価値観のなかで各地域が「わが町こそ本当のドラゴニア」と名乗り出し、内部は分裂と混迷を極めていた。
 自治体ごとに文化観が異なり、萌え自治体と伝統ガチ勢自治区が冷戦状態になるなど、もはやカオスだった。

「このままでは国が崩壊する」

 焦った政府は、禁断の手段に出た。
 それは、異世界の“魔王ちゃん”との密約だった。



「“文化”と“魔”を融合させ、新たな覇権国家を築くのだ」

「我が国は、“魔王ドラゴン連邦”の中核として再誕する」

 こうして、“世界文化統一構想(カルチャー・ワールド・ユナイト計画)”が密かに始動した。

 しかしその第一歩は、あまりに頼りない男に託されてしまう。



ーー「石山圏:地方都市ノバナ郡」ーー

 その男の名は、ネトラレ・タロウ。
 元・勇者候補。現・実家暮らしの半ニート。属性:「毎回ヒロインに寝取られる」。

「はぁ~、また推しキャラ取られたわ……」

 畳の部屋で寝転び、スマホの画面を眺めながらため息をつく。

 ヒロインは毎回、他の勇者に奪われる。ゲームでも、恋でも、戦場でも。
 その度にやる気をなくしてきた彼は、今では完全に意欲ゼロの冒険者崩れ。

「次のイベントまで暇だし……どっか旅でもすっか……」

 軽くそんなことをつぶやいたタロウは、自宅の物置からボロボロの冒険者装備を取り出した。

 装備:拍子木(折れている)、バックパック(マンガとライトノベル入り)、水筒(中は蜂蜜レモン)。

 目的地:とりあえず近場

 志:とくになし。

 だが――彼は知らない。

 この気まぐれな一歩が、文化と魔法の大戦争の口火を切ることになることを。
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