あやかし温泉街、秋国

桜乱捕り

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11話-5、いつもより握やかな罰の夜飯

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 しばらく笑いながら雑談をした後、座敷童子の姉妹は露天風呂から上がり、小さな体をタオルで拭いてから着物を着て、花梨の部屋へと向かっていった。
 自室の前まで来た花梨は、夜飯の内容に不安を抱きながら扉を開けて部屋に入ると、テーブルの上には、その不安を上回る品々が置かれていた。

 大盛りの赤飯はもちろんのこと、味噌汁の代わりに餅が浮いているおしるこ。そのほかに、おはぎ、饅頭、ようかん、ぼたもち、きんつば、デザートにあんみつと、色がだいぶ偏っている料理がズラッと並んでいる。
 その暗い色をしている料理の品々を見た花梨が、口をヒクつかせながらテーブルの前に腰を下ろした。

「こ、ここまで徹底してやるとは……。全部永秋えいしゅうの食事処で作っているのか……?」

「ご馳走」

「まあ、この姿でしたらそうですけど……。しかし、恨むぜぇ昼の私よ……。いただきまーす」

「いただきます」

 花梨は、口を尖がらせながら料理を口に運ぶも、やはり座敷童子の姿では、どの料理もすごく美味しく感じてしまい、悔しい思いをしつつ「チクショウ、美味いっ!」と、ヤケクソ気味に口走る。
 しばらく料理に舌鼓したつづみを打っていると、微かではあるが、天井から必死になって笑いを耐えているごもった声と、喘ぐような息遣いが同時に耳に入り、それを聞き逃さなかった花梨が天井を睨みつけた。

「天井裏に、誰かいる……?」

 天井に向かってわざと大きめな声で言い放ち、天井裏に潜んでいるであろう人物の出方を伺った。
 一度は部屋内に静寂が訪れるも、少しの間を置き、天井から明らかに聞き覚えのある老人の声で「にゃ~ん」と、不自然な低い鳴き声が聞こえてきた。

「なーんだ、ただの猫か。……って、そんな野太い鳴き声の猫がいるかーっ! 出てこい曲者っ!」

「ふっふっふっ、バレてしまっては仕方ないな」

 不敵な笑い声がしてきた箇所の天井板がバカッと外れると、そこからニヤニヤしているぬらりひょんの顔が現れた。

「やはりぬらりひょん様だったか……。窓からクロさんと一緒に来ると思っていたけど、まさか天井裏から来るとは……」

「あいつは今日一日、駅事務室で見張りをしているからおらんのだ。だから、代わりに特別ゲストを招いておる」

「と、特別ゲスト?」

「『花梨大好きっ子クラブ』会長、雹華ひょうかだ」

 ぬらりひょんがそう紹介すると、すぐ隣の天井板がパカッと外れ、そこからビデオカメラを構え、深い悦に浸っている雪女の雹華の顔が現れた。
 目と耳に、情報量が多い予想外な出来事が入り込むも、花梨は怯むことなく次々とツッコミを入れ始める。

「ひょ、雹華さん!? なにそのビデオカメラ!? あと、花梨大好きっ子クラブってなに!? は、恥ずかしいよっ!」

「……ぬらりひょん様から、いいもんが見れるぞってお誘いがあったから急いで来てみたの……。……確かにいい光景だわぁ~……。……花梨大好きっ子クラブは、私が設立した非公式クラブよ……。……現在、私も含めて五人のメンバーがいるわ……。……纏ちゃんも入る……?」

「入る」

「纏姉さん!?」

「私も花梨のこと大好き」

「う、嬉しいけど……。なんか雹華さんのせいで複雑な気分だなぁ……。」

 知らないうちに雹華によって設立されていて、しかも既に四人もメンバーがいる事に対して当本人は、嬉しさと恥ずかしさが半々と、誰が入っているのか気になるという好奇心が頭の中で入り乱れる。
 花梨がそのメンバーを予想していると、不意に酷く興奮しながらビデオカメラを回していた雹華が、この世の終わりのような悲鳴を上げた。

「……あああああっっ……!! ……バッテリーが切れたぁっ……!! ……帰るわ……」

「そうか、そりゃ残念だ。それじゃあワシも戻るとするか」

「あの、お二方さん? 自分の仕事もちゃんとしてくださいね?」

 ニヤついているぬらりひょんと、心底残念そうにしている雹華は、天井板を元に戻して姿を消していった。
 天井裏からガサゴソと這う音が聞こえなくなり、部屋内に静寂と平和が訪れると、二人は気を取り直して紫色が支配している夜飯を再開する。

 お互いに夜飯は一人で食べており、二人で食べる夜飯はとても明るくて楽しく、そしてなにより料理が格段に美味しく感じた。
 満面の笑みをしながら料理を食べ終えた二人は、食器類を仲良く一階の食事処に返却し、部屋へと戻って一息ついた。

 テーブルの前に座っていた花梨が、携帯電話で現在の時刻を確認すると、小さな口であくびをしていた纏に目を向ける。

「今日はもう遅いですし、こっそりとここに泊まっていっちゃいます?」

「いいの? 花梨と一緒に寝るっ」

「ふふっ、その前に歯を磨かないとっと。歯ブラシのスペアがあるんで、纏姉さんも磨いちゃってください」

 花梨が、大きなカバンから歯ブラシを取り出して纏に差し出すと、纏は無表情のまま首を横に振った。

「歯磨き嫌い、えずく」

「ダメですっ、ちゃんと磨かないと虫歯になっちゃいますよ? はいっ」

「うっ、ううう……、おえっ」

「むっ? なんだか歯磨き粉の味がおかしく感じ……、おえっ」

 妖怪の姿だと人間用の歯磨き粉が口に合わないのか、座敷童子姉妹は苦渋を飲んだ表情をしながら「おえっ」と、何度もえずきつつ歯磨きを続ける。
 五回ほどえずいた後に花梨は、纏が歯磨きを嫌がった理由が理解できた気がしてきた。

 苦戦しながらも歯磨きを終えると、纏は先にベッドに上がってポンポンと飛び跳ねて遊び、花梨はいつもより大きい筆記類に遊ばれながら日記を書き始める。







 今日はやっと纏さんと遊べる日が来た!

 ワクワクし過ぎて、朝から体がエネルギーに満ち溢れていたよ。
 纏さんにプレゼントをする為に、定食屋付喪つくもで赤飯のおにぎりを買って纏さんにあげたら、とっても喜んでくれたんだ!

 そして、いざ遊ぶ事になって私も座敷童子の姿になったはいいけど……、纏さんの遊び方が思っていたよりもずっとハードでね。
 建物の屋根の上を全力疾走したり、反対側にある建物の屋根に飛び移ったり……。

 そして、一番驚いたのが壁を走ること! 文字通り壁を走るんだよ、垂直にダーッて。
 無理でしょう……。って、最初は思っていたけれど、ビクビクしながらもできた。私も壁に立てて走る事ができたんだ! いやぁ、あれは生きてきた中で一番驚いたし面白かったなぁ。

 はしゃぎにはしゃいだ後、永秋えいしゅうの屋根まで駆け上がって、そこで纏さんと一緒に赤飯のおにぎりを食べたんだ。
 最高の景色を見ながら、最高に美味しいおにぎりを、最高の友達である纏さんと一緒にね。本当に美味しかった!

 その後は、纏さんがぬらりひょん様に一言挨拶をしたいって言ったから、壁を歩いて窓から支配人室を覗いてみたら、誰もいなくてね。
 そのせいか、つい魔が差してね……。何も知らずに部屋に入ってきたぬらりひょん様を驚かしたらね、罰として、夜飯が、ほぼあんこ一色に……。美味しかったよチクショウッ……!!(私が悪いんだけどもね)

 そしてね、私と纏さんが並んだらぬらりひょん様が「まるで姉妹みたいだな」って言ってきたんだ。
 それを聞いた纏さん、本当に喜んでいたなぁ。なんだか私も嬉し







「花梨、なに書いてるの」

「ふおおおおぉぉーーーーっ!?」

 花梨は、今日の新しい事だらけの出来事を、思い返しながら日記を書くことに没頭していると、不意に横から纏がぬっと現れ、花梨は咄嗟とっさに日記を背中に隠し、あたふたしながら口を開いた。

「なっ、なななっ、なんでもないですよっ!? ええっ、なんでもないですっ!」

「嘘、なにか書いてたでしょ。姉さんに見せなさい」

「だ、ダメッ! 恥部ちぶ! これは私の本格的な恥部ちぶだからダメですっ!」

「ぶー、ケチッ」

 汗をダラダラと垂らしている花梨は、背中を見せないままゆっくりと後ずさりをし、慌てて日記をカバンの中へと押し込んだ。
 そして、ニコニコと笑いつつ纏の背中を押し、そのカバンから遠ざけつつ話を続ける。

「さぁ~っ、明日も早いですから今日はもう寝ましょー!」

「ぶー、見たい」

「さあさあ、温かいベッドで一緒に寝ましょっ! ねっ!」

「ぶー」

 花梨は、ふてくされている纏の背中を強引に押しながらベッドに誘導すると、二人はいそいそと布団の中に潜り込んでいった。
 携帯電話の目覚ましを朝の八時にセットし、いつもより大きい枕の後ろに置くと、すぐ横にいる纏の方へと体を向ける。

「さーて、おやすみなさい纏姉さん」

「むふーっ、興奮して眠れないかもっ」

「ふふっ、私もです」

 そう言いながらも五分後には、気分が高揚としていた座敷童子の姉妹は、やはり疲れていたのか、向かい合いながら同じ体勢で静かに寝息を立て、穏やかな眠りへと落ちていった。
 

――――――――――――――――――――――――――――――――

~花梨大好きっ子クラブ~ (本人未許可)
現在メンバー六名

会長:雹華(雪女)
副会長:?????

ぬらりひょん(妖怪の総大将)
首雷(ろくろ首)
八吉(八咫烏)
纏(座敷童子) New
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