小さな町の不思議・怖い話

みつか

文字の大きさ
4 / 65

魚釣り

しおりを挟む
 兄が、魚釣りから帰宅した。玄関に向かって
「おかえり」
と、声をかける。
元気のない声で 
「ただいま……」
と、帰って来る。
 
顔面蒼白で、しょぼんとした表情で台所へ。
何も釣れなかったのかと思って、冷やかすつもりで兄の下へ駆け寄る。
大きな魚を一匹流し台の中へ入れている。
「凄っ大きい魚捕れたのに何で凹んでんの?」
凹む意味が分からなかった。
あきらかに、顔色が悪いし、元気がない。

ぽつりと兄が話し始める。
「釣りに行く前に変な話するからだろぅ~!※ケンムンの話するから……大きいの釣れたからいいけどけど、変な目に遭った。」
❨……そういえば、兄をおちょくってケンムンが出るかもよ?と、3時間前に笑いあったんだった。兄もノリノリだった筈なのに……❩
と、思い出す。
「何があったの?」
と、問う。
魚を捌きながら兄が話し始める。

家を出た後、車に乗って今日の釣り場を探していた。
人が居なくて、ゆっくり釣れる場所。
遠くから次々と実家に近づく感じで車を走らせる。
自宅から4つ集落を離れた場所は、良いポイントだが、日も暮れたというのに大きな作業船が電気を煌々(こうこう)と昼間と同じ位の明るさでまだ仕事をしている。
「ブラック企業かな……ここは駄目だな。おつです。」
独り言を車の中で呟き移動する。
3つ目と2つ目の集落には、先客が数人。
釣りの最中に話しかけられる事を嫌がる兄は諦めて地元の浜へ帰ってきた。
地元の海。
港の入り口手前には広場があり、岸壁近く中央に申し訳程度の街灯がひとつ。
海に向かって立つと、左側には川があり、海に沿ってL字型の波止場がある。
防波堤は、約2メートルの幅で高さも2メートルほどの波消しブロックある。先端に行くと、高さが5メートル程に上がり、ハシゴか波消しブロックに乗って、上に上がるしか方法がないのである。
波止場は、薄暗く少しだけ街灯の光が当たる程しかない。電灯は必需品である。
5メートル上がった防波堤には先客が居る。
ゆらゆらと揺れる灯りが見える。
「チッ先客か……今日はツイてない。上に久々行ってみたかったんだがしかたない。」

兄は諦め、防波堤手前の波消しブロックの上に上がり、川と海の間目掛けて釣り糸を投げて釣り始める。
(潮があまり合わないな……あの人早く帰らないかな?)
独りで考え事しながら釣りをしている。
川と海の間では釣れないので、海側に場所を変える。やはり上にいる人はゆらゆらと電気を付けている。
(電気つけっぱなし……何か釣れてるのか?暗い方が釣れるのにな)
小さな魚を釣りながら、気になっていると
防波堤近く、車が近付く。兄が車を停めている所付近からパタンパタンとドアが閉まる音が2つ。
電気を煌々と点け、キャッキャ言いながら近づいてくるカップルが居た。
(う~わ~また変な邪魔が来たな……)
内心兄は思ったが、カップルは
「こんばんは~。」
と、話しかけ兄の後ろを素通り。防波堤の先の方へキャッキャ騒ぎながら歩いていく。
何処に行くのか兄は目で追う。
(防波堤の先端人が居るけどな……どっちも可哀想。知り合いなら良いけど)
と、思いながら釣りをしている。
「星が綺麗に見える~。」
と、騒いでいる。防波堤波消しブロックに反射して声が響いてくる。
(釣り人の邪魔にならなきゃいいが……!?)
ふと気づく。
さっきまで居たはずの人、ゆらゆら揺れていた灯りが無いのである。
カップルの持っているLEDのライトだけが煌々と防波堤の上を照らしているのである。
兄は、少し混乱する。
確かに人は居たのだ。
帰ったか?とも考えたが、足音も明かりも無く自分の後ろを通るのは不可能なのである。
2メートルの幅しかない場所で、辺りは真っ暗。自分のクーラーボックス等も後ろに置いてあるので、人が通れば避けたりするだろうし、兄の経験から必ず足音が聴こえるハズなのである。
海に落ちたとしても、落ちた音がするはずだし……
考えを巡らせていると、急に大きな魚が釣れた。
針から魚を外し、クーラーボックスに入れる。
考えると、ますます怖くなる。
ゾクリとする。聴こえるのは波の音とカップルの声だけ。
(うん。帰ろう……)
急いで車に乗り込む。
辺りを見回すと、自分の車とカップルの車だけ。
後は何も無いのである。
港までは遠いので、徒歩でなんて到底ムリな話。オートバイも車も、ましてや自転車さえも無いのだから。
眼下に広がるのは、海と防波堤、ポツンと立つ街灯と広場だけ……
鳥肌がたつ。外は夏の暑い風が吹いているのに。
「妹とあんな話するんじゃなかった……」

顔面蒼白の意味を理解した。
わざと
「ケンムンに騙されたから、大きい魚捕れたわけね!」
と、おどけてみせるが兄は恐怖が取れない様だった。
「じゃあ、見間違いか、海に落ちたか。」
ため息をつかれてしまった。
「……幽霊だったとか?」
ジロリと兄に睨まれ、話すのをやめた。
本当に肝を冷やしたらしい。
兄が無事ならいいか。人も落ちてないし。
真相は闇の中。
兄は話さない。

ケンムンなら怖がればイタズラされて、怖がらなければ恩恵をくれる。と言い伝えられている。
兄が見たのは幽霊か、ケンムンか……

好奇心も良いけれど、詮索するのはほどほどに。ケンムンに出逢っても無事とは限らないので、自己責任でお願いします。



※ケンムンとは
奄美大島に古くから伝わる妖怪や精霊。
海岸やガジュマルの樹の近くで目撃されている。






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

百の話を語り終えたなら

コテット
ホラー
「百の怪談を語り終えると、なにが起こるか——ご存じですか?」 これは、ある町に住む“記録係”が集め続けた百の怪談をめぐる物語。 誰もが語りたがらない話。語った者が姿を消した話。語られていないはずの話。 日常の隙間に、確かに存在した恐怖が静かに記録されていく。 そして百話目の夜、最後の“語り手”の正体が暴かれるとき—— あなたは、もう後戻りできない。 ■1話完結の百物語形式 ■じわじわ滲む怪異と、ラストで背筋が凍るオチ ■後半から“語られていない怪談”が増えはじめる違和感 最後の一話を読んだとき、

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2026/1/20:『ものおと』の章を追加。2026/1/27の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/19:『みずのおと』の章を追加。2026/1/26の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/18:『あまなつ』の章を追加。2026/1/25の朝8時頃より公開開始予定。 2026/1/17:『えれべーたー』の章を追加。2026/1/24の朝8時頃より公開開始予定。 2026/1/16:『せきゆすとーぶ』の章を追加。2026/1/23の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/15:『しばふ』の章を追加。2026/1/22の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/14:『でんしれんじ』の章を追加。2026/1/21の朝4時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

百物語 厄災

嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。 小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三分で読める一話完結型ショートホラー小説

ROOM
ホラー
一話完結型のショートショートです。 短いけれど印象に残るそんな小説を目指します。 毎日投稿して行く予定です。楽しんでもらえると嬉しいです。

処理中です...