小さな町の不思議・怖い話

みつか

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山の中で

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集落から、数キロ離れた山の中腹にある畑。
夫婦は、ミカンの手入れをしに山へ車で出かけた。
そこは12画に区分けされた畑で、1番上の段は他人の立派な畑、数歩の坂があり、車が2台ギリギリ通る道路を挟んで右左に祖父の畑、祖父の子供4人にそれぞれ一区画ずつ分けられた畑がある。その下の段の畑は知人と親戚、手つかずの草原があり、各々好きなように畑を作っていた。
祖父から分けられた1画と、1番上の畑の3分の1の使っていない部分を譲り受けた小さな畑が夫婦の畑だった。

小さな畑には、季節の野菜。キャベツや大根など。
1区画にはタンカンとポンカン、小みかん、はっさく等の数種類のミカンが数本ずつ植えられていた。
ミカン果樹の下は、手動で草を取るしかなく座り込んで嫁は草を少しずつむしっていた。
草刈機を使っても良いのだが、山の中の環境は草にとって良いらしく、草がすぐに生えてくる。その為手作業で丁寧に取り除いていた。
夫は、樹と樹の間少し離れた所を草が取りやすい様に軽く耕していた。
ミカンの樹の根を傷つけないように細心の注意を払って慎重に耕していた。

黙々と2人は草取りを繰り返し、ミカンの樹の下は綺麗になった。一段落ついた時にお昼休憩にして上の小さな畑に移動した。
上の畑は、下の畑より鳥のさえずりや虫の声が色濃く聴こえてくる。
山から吹き下ろす風は冷たく、鬱蒼と広がる木々は少し不気味にも感じる。
夫は少し怖がりだった。
妻は怖がる事もなく

「出るかもね……。」

と、一言笑いながら草取りの作業を始めていた。夫を少しからかって笑っている。
そんな妻に呆れながら、夫は肥料の準備をする為車に戻って行った。
下の畑に、車がやってきた。親戚の男だった。
手を挙げて軽く挨拶をお互いに交わすと、妻の元へ大きな肥料袋を抱えて戻った夫は、親戚の男が来ていることを伝えた。

「~兄は、今日は1人だったが肥料だけあげに来たのかもね。」

と、夫は妻に話した。

「そうなんだ……あっちはミカン以外が多いからすぐ終わるんだろうね?ぼやぼやしてたら、日が暮れるよ?」

早く作業に戻れ!と言わんばかりにニコニコしながら諭す妻。
きっと妻もここが少し苦手なのだろう?と勝手に思う夫。それには理由がある。

上の畑のすぐ近くには畑用の水源地があり、大きなガジュマルの樹もある。最近そのすぐ近くで大きなイノシシが生涯を終えたようで畑の方向を向いて白骨化した頭だけが恨めしそうにセメントの縁に乗っていたのを夫婦で見つけていたのだった。
不思議な事に、イノシシの体は離れた場所でハエが集っていた。頭だけが別の場所に……
ここに猿は居ない。鳥が運ぶにしては大きな骨だ。野良犬が持ち運ぶにしても不安定な場所で、水源地に落ちるリスクが高すぎる。人がやる意味もないので謎な現象であった。

しばらく作業をしていると風も止み静けさが訪れると同時に、下の方から大声で叫ぶ声が聴こえた。

「何事か!?」

と、夫婦は手を止め道路の方へ駆け寄ると、血相を変えて車に乗り込む男の姿を一目見ただけだった。男は、車に乗り込むや否やバック運転でそれはそれは速い勢いで走り去ってしまったのである。
二人は顔を見合わせる。

「何があったのだろう?大事なければ良いのだけど……後で家に行ってみよう。」

と、夫婦で話す。ケータイが繋がらない場所。運転が出来るという事なら怪我とか事故ではないのだろうと判断した。
畑に戻ると、サワサワサワ~と風の音に混じって
ザッザッ、ザザザッ
と、聴いたことのない音が聞こえてくる。
夫婦で音の聞こえる山の方を見ていると、椎の木《しいの木》の葉が風で揺れるのとは別の動きをしている。
風が吹くと、椎の木は上下に揺れて音を立てるのだが、今は椎の木の葉がところどころ裏返って椎の葉の白い部分が上に向かって上下左右に自然の摂理とは違う揺れをしているのである。

「ひっ……」

夫婦は叫びそうになるのを堪え後退り、農具と肥料はそのままに車へと急いだ。
車に乗り込むと、夫は急いでバック運転で坂を下った。
目の前の木は、不思議な揺れ方をしている。
上下に揺れず、木の枝が回る様に円を描いて回り揺れているのである。祖父の畑の前の枝から、隣の畑、次から次へと追いかけてくるように……ぐるりぐるりとゆっくり回りおかしな動きをする木の枝。夫は追いつかれないように必死に坂道を下る。進行方向ばかりを見ている。前を見てしまったらきっと追いつかれる!必死であった。
普段肝の座った妻の顔も顔面蒼白である。

県道に出ると、くるりっと回り集落へと急いで帰宅した。親戚の男が見たのはきっと『アレ』だと確信していた。
夕方になっていたので、その日は親戚の家は訪ねずにいた。家から出たらまたアレに追いかけられそうな気がしていたからである。

次の日に妻は祖父へ昨日あった出来事を話す。すると祖父は笑いながら

「それは※ムンじゃ。イノシシの頭もムンがいたずらしたんじゃが。ハハハ。まだまだ子供じゃハハハハ。ムンが椎の木の上を走ると、不思議と椎の木の葉が裏返って真っ白い木に見える有名な話。知らなかったんだね~。そんなに酷い悪さはしないハズじゃが……驚かしてムンは楽しかったのかもや~。ジッと見てみたらムンが見えたかもしれんのに勿体ないことしたやハハハ。写真なんか撮って写ってたら有名になれたんばやハハ。イノシシの頭は猟師に頼んで動かして貰って、ムンにもお供え用意しとくから、怖いなら日が高い内に畑行ってすぐ帰ってきたら良いが。」

と、笑いながら祖父が教えてくれた。
ケンムンが、遊び半分で驚かしただけだったらしい。ケンムンが通ると、不思議と椎の木の葉が一瞬裏返る。
夫婦は、暫くの間朝から昼間の間だけ畑の作業をして、15時までには帰る様にしたのだった。
その後、お供えが効いたのか?ケンムンの数が減った事もあってか夫婦がいたずらに遭うことはなかった。

山の中で、木の葉が揺れて裏返ったり変わった動きをする時は風ではなくナニかが通った証しかもしれないですね。

※ムン=ケンムンの意味
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