相席公園

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相席公園

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「どうやったって、あなたは幸せにはなれないのよ…」

凍てつく寒さの中、雑木林の湿った土を踏み締め、僕はゆっくりとある場所に向かっていた。
僕と母がよく足を運んだ場所だ。
そこで僕らは何枚も花や木の絵を描いた。
母は若くして僕を産んだ。
僕を産んですぐ、父親は仕事のストレスから酒浸りになり、度々僕と母に暴力を振るった。
僕は母に似て女性的な顔だった為、学校でも男の癖に女みたいだと罵られた。
父親は自分より母に似た僕に愛情を注ぐ事はなく、僕が12度目のクリスマスを迎えた頃に亡くなった。
死因は酒に酔っての溺死と聞いた。
父親がいなくなってからは父親に代わって母が暴力を振るうようになった。
産まれつき病弱だった僕は学校でも頻繁に具合が悪くなり、その度に母親が学校へ駆けつけた。
14歳の夏頃、熱中症で倒れた日に病院から帰る途中、母親は橋の上で立ち止まると僕を見下ろしながらこう呟いた。

「どうやったって、あなたは幸せにはなれないのよ…」
「あなたの父親がそうだったようにね。」

母はその言葉を最後に、橋から身を投げた。
それから僕は施設へ入り、20歳の冬にそこを出た。
施設を出て真っ先に向かった先がこの雑木林だった。
冷たい風がヒリヒリと僕の頬と指先を撫でる。
確かにあの人が言うように僕は幸せになんてなれないのかな。
風が僕の心までを凍らせていく。
気がつくと僕は雑木林を抜けていた。
さっきまでの風が嘘のように止み、明るい太陽の光が僕の身体へ降り注いだ。

あれ?こんな所に公園があったんだ。
ふと前を見ると、小さな公園がポツリとあった。
(相席公園)
と書かれた錆びた看板が入り口に立てかけてあり、中にはベンチが一つあるだけだった。
ちょうどいい、ここで少し休憩しよう。
僕は公園のベンチへ座ると、胸ポケットから煙草を取り出した。
父親は僕によく煙草の火を押し付けた。
周りに悟られないように背中に何度も。
カチッというライターの音とともに煙草に火をつけ、ゆっくりと煙を吸い込む。
そして吐き出す。
煙は風の無い公園から真っ直ぐに空へと登って行った。
煙は良いよな。行き先があって。
フッ…と、溜息にも似た声で小さく笑うと僕は顔を上げた。
1人の少女が目の前に立っていた。
まだ中学生くらいだろうか、パーカーにスウェット、髪は金髪でいかにも不良少女だった。
「お兄さん、こんな所で何やってるの?」
少女は無邪気に笑いながら聞いてきた。
「何も。行くところが無くてね。君は学校行かなくて良いの?」
僕はありふれた返事をした。
「学校行ったって、友達なんて居ないし、それに、家出したから私も行くところが無いよ。」
少女は最初の無邪気な顔から急に笑顔が消え、悲しそうに呟いた。
「じゃあ僕らは似たもの同士だな。僕もさっき施設を出て、行くところが無い。君の気の済むまでここに居たら良いさ。」
少女はサッと顔を上げて、またにっこり笑った。
「じゃあお兄さん、名前教えてよ!私はサクラ!」
「僕はハル。何だか桜と春って面白い偶然だね。ハハッ」
僕は気が付いたらサクラというこの少女に自分の今までの事を話していた。
サクラは真っ直ぐ僕の目を見て話を聞いてくれた。
辺りが夕暮れで紅く染まってきた頃、サクラは僕の話が終わった途端、今まで溜め込んでいた何かを吐き出すかのように泣き出した。
そんな純粋な彼女を見て、僕も自分の意思とは関係無く涙が溢れてきた。
「ハルって、辛かったんだね。今まで誰かに話したいって思っても、言い出せずにずっと我慢してたんだね。」
サクラは涙を拭うと、僕の背中に手を回し、ゆっくりと抱き寄せた。
久しぶりだ。この感じ。懐かしいような。この感じ。
それは優しかった頃の母の温もりだった。
暖かくて、少し甘い匂い。
僕は声も出せないくらい泣いた。

どれくらい時間が経っただろうか。
もう辺りはすっかり暗くなってきた頃、サクラがふっと立ち上がった。
「ハル、私お母さんと仲直りする。私が家出したのは、お母さんがお父さんと離婚したからなんだ。新しいお父さんを連れて来たんだけど、私はお父さんが大好きだったから、上手く気持ちを伝えられなかった。それが悲しくて、出ていっちゃったんだ。」

「また明日、ハルはここに居る?私ハルが前を向けるようになるまで、ずっとお話聞いてあげるから、だから、また明日も会えるよね?」

「あぁ、もちろん。だって、初めてできた大事な友達だから…」
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