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東北編
第2話 『泣き笑いの座敷童子』
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蒼穹が深い藍色に沈み、星々の瞬きさえも拒むかのような厚い雲が空を覆う夜が二度過ぎた。本州最北端の地、青森を発ってから、悠人の駆るオンボロのバンは、まるで当てどない放浪者の魂そのものを体現するかのように、ただ漫然と南への道を辿っていた。そして今、岩手県の深く、鬱蒼とした木々に覆われた山間部にその身を置いていた。あれから北上を続けていたつもりが、いつの間にか南下していたらしい。方向感覚も、生きる目的も、とうに曖昧になって久しい。
生命を謳歌し、すべてを焼き尽くすかのような青森の力強い陽光は、もはや遠い記憶の彼方へと追いやられ、車窓の外には、まるで水墨画のように霧雨に煙る陰鬱な風景がどこまでも広がっていた。アスファルトを叩く雨粒の音だけが、エンジンの頼りない唸りに重なり、単調なリズムを刻んでいる。梅雨入りにはまだ少し早い季節のはずだが、山の天気というものは常に気まぐれで、まるで人の心の機微を映し出すかのように、その表情をくるくると変える。しっとりと濡れそぼった路面は、時折対向車線のヘッドライトの光を鈍く、そして物憂げに反射し、悠人の疲れた網膜に白い残像を焼き付けた。
開け放った窓からは、ひやりとした空気が流れ込んでくる。それは湿った土の匂い、腐葉土が発酵する甘い香り、そして、それらに混じって鼻腔をかすめる微かな硫黄の香り。どうやら、この山のどこかに温泉が湧いているらしい。その事実は、今の悠人にとって、砂漠の中の蜃気楼にも等しい、微かな希望の光だった。
財布の中身は、とうの昔にその役割を放棄していた。皺くちゃの紙幣は一枚もなく、ただ虚しく音を立てる数枚の硬貨が、彼の全財産だった。最後の晩餐と呼ぶにはあまりに侘しい、数時間前に立ち寄ったサービスエリアで買ったあんぱん一個が、彼の胃に収まった最後の固形物だ。悠人の身体は、とうの昔に人の理を超越し、不老不死という呪いにも似た祝福を受けていた。しかし皮肉なことに、この身も空腹は感じるらしい。腹の虫が不満を訴えるように鳴くたびに、自分がまだ「生きている」という、忌々しくも厳然たる事実を突きつけられる。死ぬことはない。だが、このままでは餓死という、不老不死の存在にとってこの上なく滑稽で、間抜けな結末を迎えることになるかもしれなかった。それだけは、彼のちっぽけなプライドが許さなかった。
「……ツイてねえ」
乾いた唇から、誰に聞かせるともない悪態がこぼれ落ちた。それはもはや、彼の人生における口癖のようなものだった。ハンドルを握る指先は冷え切り、感覚が鈍くなっている。文明の利器であるカーナビゲーションシステムなどという高尚な代物は、この時代錯誤な鉄の箱には搭載されていない。悠人が唯一頼りにできるのは、霧の中に時折ぼんやりと姿を現す、古びて錆の浮いた道路標識だけだった。その掠れた文字が示す「〇〇温泉郷」という地名だけを信じ、彼は吸い寄せられるように、山道をさらに奥へ、奥へと進んでいった。
道は次第に狭くなり、アスファルトの舗装も途切れがちになっていく。まるで、現代文明がこの先の領域に踏み入ることを躊躇しているかのようだった。深い霧が、まるで意志を持っているかのように、視界を執拗に遮る。ヘッドライトの光も、その乳白色のカーテンに吸収され、わずか数メートル先を照らすのがやっとだった。不安と焦燥が胸の内で渦巻き始めた、その時だった。
不意に霧の向こうに、ぼんやりとした灯りが見えた。一つ、また一つと、頼りない光の点が闇の中に浮かび上がる。そして、バンがカーブを曲がり切った瞬間、悠人の目の前に、一つの温泉街の全景が広がった。それは、まるで時代の流れから完全に取り残されたかのような、寂寞とした空気を纏う古い街並みだった。木造の旅館や土産物屋が軒を連ねているが、そのほとんどは固く雨戸を閉ざし、人の気配は感じられない。まるで、街全体が深い眠りについているかのようだった。
その中でもひときわ古く、そしてひときわ物悲しいほどの静けさに包まれた一軒の木造旅館が、悠人の目に留まった。三階建てであろうその建物は、長年の風雪に耐えてきたことを物語るように、柱や壁は黒ずみ、所々が歪んでいる。しかし、それは単なる老朽化とは違う、一種の風格すら感じさせた。玄関に掲げられた古風な看板には、雨風にさらされ、ほとんど消えかかった文字で、かろうじて『椿館』と読むことができた。
ここなら、何か事情を話せば、一晩くらいは雨露をしのぐ場所を貸してくれるかもしれない。最悪、物置小屋でも、納屋の片隅でも構わない。ただ、この冷たい雨と、身体の芯まで凍えさせるような寒さから逃れることができれば、それで十分だった。最後の望みを託し、悠人は駐車場らしき砂利が敷かれただけの簡素なスペースにバンを滑り込ませ、エンジンを切った。訪れた静寂の中で、雨音だけがやけに大きく聞こえた。大きく息を吸い、覚悟を決めて、悠人は錆びたドアを押し開け、車外へと降り立った。
ギシ、と年老いた巨木が呻くような音を立てて、重厚な木製の引き戸が開いた。その瞬間、カラン、と乾いた呼び鈴の音が、静寂に満ちた空間に思いのほか大きく響き渡った。悠人が足を踏み入れた旅館の内部は、外観から想像した通り、薄暗く、ひっそりと静まり返っていた。しかし、そこには寂れた宿特有の陰気な空気とは少し違う、凛とした空気が流れていた。長年、丁寧に磨きこまれてきたのであろう廊下は、鈍い光を放ちながら奥へと続いている。隅々まで掃除は行き届いているようだが、やはり人の気配はまるでない。まるで、この建物自体が呼吸を止め、悠人という異物の侵入を窺っているかのようだった。
「ごめんくださーい」
喉の奥から絞り出した声は、自分でも驚くほど気の抜けた、間延びしたものだった。その声が、だだっ広い空間に吸い込まれ、消えていく。何の反応もない。やはり留守なのだろうか。諦めて踵を返そうとした、その時だった。
奥の襖が、すっと音もなく開いた。そして、薄明りの中に、一人の少女が静かに姿を現した。
年の頃は、悠人とさほど変わらないように見えた。十七、八といったところだろうか。肩のあたりで切りそろえられた艶やかな黒髪は、まるで濡れた夜の色をそのまま写し取ったかのようだ。その髪に縁どられた肌は、病的なほどに透き通るように白く、まるで上質な陶器のようだった。そして何よりも悠人の目を引いたのは、その少女が身にまとっている、真新しい巫女装束だった。白衣と緋袴の鮮やかな対比が、この薄暗い空間の中で、ひときわ強い存在感を放っている。
凛とした、という言葉がこれほどまでに似合う人間を、悠人は久しく、いや、何百年という長きにわたる人生の中でも、ほとんど見た記憶がなかった。彼女がそこに立っているだけで、まるで彼女の周囲だけが、この重く淀んだ旅館の空気から切り離され、清らかに浄化されているかのような、不思議な感覚に陥った。
少女は、みすぼらしい身なりの悠人の姿を認めると、感情の窺えない双眸をまっすぐに向けたまま、ぺこり、と小さく会釈した。その黒曜石のような瞳は、驚きも、警戒も、何一つ感情の色を映し出すことなく、ただ静かに悠人の存在を捉えている。まるで、深い湖の底を覗き込むかのように、どこまでも澄んでいて、底が見えない。
「あのう、一晩、泊めていただきたいんですが……」
悠人がようやく言葉を紡ぎ始めると、少女はこくりと小さく頷いた。その仕草には、一切の無駄がない。
「……で、その、非常に申し上げにくいんですが、今、持ち合わせがほとんどなくて。本当に、小銭が少しあるだけでして。その、なんなら、そこの庭の草むしりでも、風呂掃除でも、何でもしますんで。なんなら三日くらい、いや、一週間でも働きますんで。どうにかなりませんかね?」
言いながら、悠人は内心で自嘲した。我ながら、最低最悪な申し出だ。何百年という時を生き、様々な時代と人間模様を見てきたというのに、今自分がやっていることは、家出をして行き場を失った少年と何ら変わりがない。だが、背に腹は代えられなかった。空腹と疲労は、人の尊厳をいとも容易く削り取っていく。
少女は、そんな悠人の不躾極まりない申し出にも、雨に濡れて薄汚れた彼の荒んだ身なりにも、一切動じる様子を見せなかった。ただ、じっとその黒い瞳で彼を見つめ続けている。その視線は、まるで魂の奥底までをも見透かされているようで、悠人はわずかな居心地の悪さを感じ、思わず視線を逸らした。
「栞、どうしたの?お客様かしら」
その時、奥から鈴を転がすような、柔らかな女性の声がした。少女と同じように、上品な着物を身にまとった、まだ若々しい女将が顔を出す。彼女の目元には、少女と同じ、穏やかだが芯の強さを感じさせる光が宿っていた。
「お客様よ。訳あり、だそうだけど」
栞と呼ばれた少女が、淡々と、そして簡潔に事実だけを告げた。女将は悠人の姿を見て、一瞬だけ驚いたように目を丸くしたが、すぐにその表情を和らげ、慈愛に満ちた優しい微笑みを浮かべた。
「まあ、遠いところをようこそおいでくださいました。そんな、お代のことは、後で結構ですよ。どうぞ、どうぞ、お上がりくださいな。旅の方には、まずゆっくりと疲れを癒していただくのが、私どもの仕事でございますから」
その屈託のない、一点の曇りもない笑顔に、悠人は逆にたじろいでしまった。こんな見ず知らずの、見るからに怪しい風体の男を、何の疑いもなく、いとも簡単にあがり框に上げてしまうとは。人の善さにもほどがあるのではないだろうか。あるいは、何か裏があるのか。悠人の心に、わずかな警戒心が芽生える。
「……どうも」
しかし、差し伸べられた温かい手を振り払う余裕など、今の彼にはなかった。ぶっきらぼうに、それでも感謝の念を込めて礼を言い、泥のついた靴を脱ぐ。巫女装束の少女――栞は、それ以上何も言うことなく、無言で悠人を部屋へと案内し始めた。
ギシ、ギシ、と二人が歩を進めるたびに、古い廊下の床板が悲鳴のような音を立てた。その音だけが、まるで時が止まったかのような静寂に包まれた館内に、虚しく響き渡る。悠人は、案内されるままに歩きながら、改めてこの旅館全体を覆う異様な雰囲気を肌で感じていた。それは単なる建物の古さからくるものではない。もっと根深い、人間の強い想念が長い年月をかけて凝り固まったような、粘りつくような重苦しい「気」だった。それは、悠人のような存在にとっては、呼吸をするたびに肺腑にまとわりつくような、不快な感覚だった。
「なあ」
耐えきれず、悠人は前を歩く栞の、その小さな背中に話しかけた。
「この旅館、なんか、ヤバいのがいるだろ」
半ば確信を持って、カマをかけてみた。普通なら「何を馬鹿なことをおっしゃいますか」と一笑に付されるか、気味悪がられて追い出されるかのどちらかだろう。だが、栞はぴたりと足を止め、まるでその言葉を待っていたかのように、ゆっくりと振り返った。
「はい、います」
あまりにもあっさりと、そして事も無げに彼女は認めた。その予想外の素直さに、今度は悠人の方が面食らって言葉に詰まる。
「は? いや、いるって、お前……」
「はい。この旅館には、古くから座敷童子様がおられると、そう言い伝えられています」
「座敷童子ねえ……」
悠人は、その言葉を口の中で転がした。東北地方の旧家に棲みつき、その姿を見た者には幸運が訪れるという、子供の姿をした妖怪。あるいは、家の守り神。だが、目の前にあるこの閑古鳥が鳴いている有様は、どう見ても幸運が舞い込んでいる状態とは程遠い。むしろ、不幸のどん底にいるようにしか見えなかった。
「その幸運の神様とやらにしては、ずいぶんと寂れてるじゃねえか、この旅館は」
皮肉をたっぷりと込めて言うと、栞はまた、あの黒曜石の瞳でじっと悠人を見つめ返した。その瞳には、やはり何の感情も浮かんでいない。
「……そうですか」
ただ、それだけを返し、彼女は再び前を向いて黙々と歩き始めた。肯定も否定もしない、抑揚のない平坦な声。その一言で、悠人の皮肉は行き場を失い、宙に霧散した。まったくペースが掴めない。何百年という時を生き、ありとあらゆる人間と渡り合ってきた自負のある悠人だったが、この手のタイプは初めてだった。まるで、厚い氷の壁を相手にしているかのような、手応えのなさを感じる。
通されたのは、二階の最も奥まった場所にある角部屋だった。六畳ほどの簡素な和室だが、隅々まで丁寧に掃き清められており、清潔感があった。窓の外には、霧雨にしっとりと濡れた庭の木々が見え、その緑が目に優しい。
「ごゆっくり、お休みください」
栞はそう言って、静かに襖を閉めようとした。
「おい、あんた」
その背中に、悠人は思わず声をかけていた。このまま、この得体の知れない少女を立ち去らせてはいけないような気がしたのだ。
「あんた、一体何者なんだ? ただの旅館の娘が、そんな巫女のカッコしてるとは到底思えねえが」
栞は、襖にかけた手を止めた。そして、ほんの少しだけ、本当に注意深く見なければ気づかないほど、ほんのわずかに、その唇の端に笑みのようなものが浮かんだように見えた。それは、嘲笑でもなく、微笑みでもない、何か別の感情を含んだ、不思議な表情だった。
「私は、この旅館と、この家に棲まう方を、お守りする者です」
そう言って、彼女は今度こそ静かに襖を閉じた。一人残された部屋に、悠人はしばらくの間、立ち尽くしていた。彼女の言葉が、奇妙な余韻となって耳の奥に残っている。守る者。一体、何を、誰から守っているというのか。そして、この旅館に棲まうという「ヤバいの」の正体とは。
その夜、悠人は身をもって、栞の言った「ヤバいの」の、そして「座敷童子」という言葉に隠された真の恐ろしさを思い知ることになるのだった。
旅の疲れと、女将が用意してくれた温かい夕食による満腹感は、悠人の心身を深く満たした。久しぶりに口にしたまともな食事は、五臓六腑に染み渡り、硬直していた筋肉を内側からゆっくりと解きほぐしていく。用意された布団に身体を横たえると、まるで泥沼に沈み込むかのように、意識はあっという間に深い眠りの底へと落ちていった。
だが、その安息は長くは続かなかった。夜半過ぎ、ふと奇妙な感覚に襲われ、悠人は重い瞼をこじ開けた。何かおかしい。視界が、いつもと明らかに違う。天井の木目、部屋の隅に置かれた小さな文机、障子窓の格子。それらが、ありえない角度で見えている。まるで、世界が逆さまになったかのような、強烈な違和感。
ゆっくりと首を動かし、そして悠人は愕然とした。
自分の頭があるべき場所には、自分の足があった。そして、足があるべき場所には、見慣れた自分の頭が鎮座している。つまり、眠っている間に、頭と足の位置が寸分の狂いもなく百八十度、完全にひっくり返されていたのだ。掛け布団は、まるで最初からそうであったかのように、綺麗にかけ直されている。
「……は?」
声にならない声が漏れた。これは、枕返し。眠っている人間の枕をひっくり返す、あるいは頭と足の位置を入れ替えるという、古典的ないたずら妖怪の仕業だ。それにしても、枕だけではなく、ご丁寧に身体ごととは、なかなかの大技である。不老不死のこの身でも、眠りが深い時にはこんなことが起こりうるのか。悠人は深い溜め息をつきながら、億劫な身体を反転させて正しい向きに直し、もう一度眠りの世界へと戻ろうと目を閉じた。
しばらくすると、今度はどこからともなく、奇妙な音が聞こえてきた。
ショキ、ショキ、ショキ、ショキ……。
それは、まるで硬い何かを別の何かでこすり合わせているような、単調で、それでいてひどく神経を逆撫でする、不快な音だった。最初は遠くで聞こえていたその音は、徐々に、しかし確実に、この部屋に近づいてきている。
「……小豆か」
悠人は舌打ちした。小豆洗い。主に川辺や谷川に現れ、ショキショキと小豆を洗う音をさせる妖怪。なぜ、こんな山奥の旅館の、しかも二階の一室で小豆を研ぐ必要があるのか。こんな真夜中に。過重労働ではないのか。妖怪の世界にも労働基準監督署というものは存在するのだろうか。もしあるのなら、匿名で通報してやろうか。悠人はそんな馬鹿げたことを考えながら、耳に枕を強く押し当てて、執拗に続くその音をやり過ごそうと試みた。
しかし、音はやむどころか、ますます勢いを増していく。まるで、悠人の耳元で直接やっているかのように、リアルな質感を持って鼓膜を震わせた。
夜明け前、生理的な欲求には抗えず、どうにも我慢できなくなった悠人は、トイレに行こうと重い身体を起こし、部屋を出た。薄暗い廊下は、月の光も届かず、しんと静まり返っている。自分の足音だけが、古い床板を軋ませて響く。用を足し、部屋に戻ろうと廊下を歩いていた、その時だった。突然、ドン、という鈍い衝撃と共に、目の前に見えない壁が立ちはだかった。
「いてえっ!」
鼻先を強打し、生理的な涙が滲む。目の前には、何もない。ただ、薄暗い廊下が奥へと続いているだけだ。しかし、確かにそこには、透明で、それでいて鋼鉄のように硬い壁のようなものが存在し、どうしても前に進むことができない。右手で探っても、左手で探っても、同じように冷たく硬い感触の壁に阻まれる。背後を振り返ると、そこにもいつの間にか同じ壁が出現していた。
「塗壁かよ……」
夜道を行く人の前に突如として現れ、行く手を阻むという壁の妖怪。これを室内で、しかもご丁寧に四方を囲む形でやられたのは、何百年という悠人の人生でも初めての経験だった。これはもはや、完全な監禁状態だ。
「なんだこの妖怪バイキングは! お得な詰め合わせパックか何かか!?」
ついに堪忍袋の緒が切れた。これはもう、単なるたちの悪いいたずらではない。明確な敵意、あるいは、この旅館から客を追い出そうという、強い意志を感じる。
彼は、ポケットの中からおもろむろに、青森で出会ったファンキーな宮司から、逃げる際に半ば強引に拝借してきたお札を取り出した。神仏の類は専門外だが、効果があるかは分からない。しかし、ないよりはましだろう。
「我こそは、藤原悠人! この家の悪しき気配を浄化せんと……」
などと、即興で思いついた適当な文句を大声で唱えながら、お札を見えない壁に叩きつけようとした、まさにその瞬間だった。足元の床が、ぬるり、と今まで感じたことのない奇妙な感触に変わった。
「うおっ!?」
完全にバランスを崩し、悠人は盛大にすっ転んだ。どうやら、床には粘液状の何かが撒かれていたらしい。背中から床に打ち付けられ、全身にぬるりとした不快な感触が広がる。これは、古くなった雑巾が化けたという、白溶裔(しろうねり)の仕業か。もはや、何でもありだ。妖怪のオンパレード。歓迎の仕方が手荒すぎる。
「……もういい。寝る」
悠人は、廊下の真ん中で大の字になったまま、完全に戦意を喪失し、ふて寝を決め込むことにした。これ以上抵抗する気力も体力も、残されてはいなかった。
翌朝、悠人が目を覚ますと、そこは自分の部屋の布団の上だった。昨夜の粘液まみれの身体は綺麗に拭われ、新しい浴衣まで用意されている。どうやら、ご丁寧に部屋まで運んでくれたらしい。余計なお世話だ、と心の中で毒づいた。
朝食の席で、悠人は目の下に濃い隈を作りながら、まるで親の仇でも見るかのように、向かいに静かに座る栞を睨みつけた。
「なあ。昨日のアレ、一体どういうことだ。嫌がらせにもほどがあるぞ」
栞は、湯気の立つお茶を一口静かにすすると、涼しい顔で答えた。
「あの子は、誰かに遊んでほしいだけなんです。寂しいんです」
「遊びにしちゃあ、タチが悪すぎるだろうが。おかげでこっちは寝不足で頭がガンガンするんだぞ」
「……そうですか」
まただ。この魔法の言葉、「そうですか」。この一言で、すべての会話が強制的に終了させられる。悠人は、こめかみがピクピクと痙攣するのを感じながら、目の前の焼き魚を睨みつけた。
「……いいだろう。そこまで言うなら、こっちにも考えがある」
その日の午後、悠人は旅館の裏庭で、何やら怪しげな作業に没頭していた。その手には、どこからか見つけてきた釣り糸と、小さな鈴。そして、女将に気づかれないよう、厨房からこっそりと拝借してきた小麦粉の入った袋。
「見てろよ、クソガキ。こっちが何百年生きていると思ってやがる。その程度の古典的ないたずら、昭和のアニメみたいな古典的なトラップで捕まえてやるからな」
彼は、栞の話から座敷童子が出入りするとおぼしき、今は使われていない部屋の入り口に、自分でも巧妙だと思えるやり方で釣り糸を張り巡らせ、それに鈴をいくつもくくりつけた。床には、小さな足跡がつくように、うっすらと、しかし確実に小麦粉を撒く。仕上げに、出口付近の床には、粘着力の最も強い業務用のガムテープを仕掛けておいた。完璧だ。これであの悪戯好きの妖怪も年貢の納め時だろう。悠人は物陰に身を潜め、息を殺してその時を今か今かと待った。
一時間が過ぎた。二時間が過ぎた。しかし、仕掛けたトラップには何の反応もない。ただ、風が吹くたびに、木々の葉が擦れる音が聞こえるだけだった。痺れを切らした悠人が、ほんの少しだけ様子を見ようと、そっと物陰から身を乗り出した、その瞬間だった。
自分の足が、何かに強く引っかかった。
チリン、と間の抜けた鈴の音が、静かな午後の裏庭に響き渡った。
「へ?」
次の瞬間、悠人の身体はバランスを失って宙を舞い、頭から、吊るしておいた小麦粉の袋に勢いよく突っ込んだ。視界が真っ白になる。もがけばもがくほど、全身が小麦粉にまみれていく。
「ぶはっ! げほっ、げほっ!」
なんとか袋から顔を引き抜くと、今度は足元に、自分が丹精込めて仕掛けたガムテープがべったりと張り付いていることに気づいた。慌てて剥がそうとするが、その強力な粘着力は、悠人の力をもってしてもびくともしない。
バランスを崩した悠人は、そのまま無様に前方へ倒れ込み、自分が張り巡らせた釣り糸に見事に絡まった。身体中に鈴が絡みつき、動くたびにチリンチリンと情けない音を立てる。
まるで、小麦粉をはたいた雪だるまが、鈴飾りのついた蓑虫のように、床の上でもがき苦しんでいる。我ながら、これ以上ないほど悲惨で、滑稽な光景だった。
そして、その一部始終を、廊下の柱の陰から、栞がスマホを構えて無表情のまま動画で撮影していたことに、悠人は気づく由もなかった。
度重なる悪質な嫌がらせと、自らが仕掛けたトラップによる屈辱的な自爆。悠人の怒りは、ついに沸点を超え、頂点に達していた。
「いい加減にしろ、このクソガキぃぃぃっ!」
彼は、もはや小細工を弄することをやめた。自らの内に秘められた、普段は固く封じているごくわずかな霊気を研ぎ澄まし、意識を集中させる。館内を漂う「それ」の気配を、神経のすべてを使って追う。それは、怒りや憎しみといった攻撃的なものではなく、むしろ、深く、冷たい悲しみに似た、凍てつくような気配だった。
気配は、館の一番奥、かつては物置として使われていたであろう、日の当たらない薄暗い部屋から強く発せられていた。悠人は迷わずそこへ向かい、勢いよく襖を開け放った。
「そこにいるのは分かってんだぞ! 出てこい!」
部屋の隅、降り積もった埃と暗がりの向こうに、小さな影がうずくまっているのが見えた。
悠人は、その影に向かって、溜まりに溜まった怒りを、ありったけの声に乗せてぶつけた。
「てめえのせいで、こっちは散々な目に遭ってんだ! いい加減、そのふざけた遊びはやめろ! 何が寂しいだ、構ってほしいだ、そんなもん知ったことか! 人を困らせて楽しんでんじゃねえぞ、この……!」
しかし、その罵声は、途中で不意に止まった。
うずくまっていた影が、悠人の怒声に怯えるようにびくりと震え、そして、ゆっくりと顔を上げたからだ。
そこにいたのは、人の不幸をあざ笑うような、いたずら小僧ではなかった。
着物は少し汚れ、綺麗に切りそろえられていたであろうおかっぱ頭も、ところどころが乱れている。そして、その大きな双眸には、今にも零れ落ちそうなほど、たっぷりと涙を溜めた、五歳くらいの小さな女の子がいた。
その幼い顔は、恐怖よりも、もっと深く、救いのない悲しみに染まっていた。
その姿を見た瞬間、悠人の頭の芯までを焼き尽くしていた怒りは、まるで熱湯をかけられた雪のように、一瞬で溶けて消え失せてしまった。
違う。
この子は、楽しんでなどいなかったのだ。
その瞳の奥に宿る色を、悠人は知っていた。それは、何百年もの間、毎朝鏡で見てきた、自分自身の瞳の色と、まったく同じだったからだ。
終わりのない、出口のない孤独と、すべてを諦めてしまった者の、虚ろで、冷たい色。
「……あ」
声にならない、乾いた声が喉から漏れた。
その時、悠人の背後に、いつの間にか栞が静かに立っていた。彼女は、部屋の隅で小さな身体を震わせる少女を、悲しげに、しかし同時に慈しむような、複雑な目で見つめていた。そして、呆然と立ち尽くす悠人に向かって、静かに、そしてはっきりと呟いた。
「あの子の名前は、お春ちゃん、と言います。この椿館の、守り神、でした」
「……でした?」
その過去形の言葉に、悠人は鋭い引っかかりを覚えた。この旅館を覆う重く淀んだ気の正体は、単なる妖怪のいたずら騒ぎなどではない。もっと、根深く、そしてどうしようもなく悲しい何かが、この場所を、そしてあの小さな少女を縛り付けている。悠人は、それを確信した。
栞は、悠人に向き直ると、すとん、と音が聞こえてきそうなほど綺麗な所作で、その場に正座した。そして、畳に額がつくほど、深く、深く、頭を下げた。
「お願いします」
いつもは平坦で感情の読めない彼女の声が、今は確かに震えていた。それは、凛とした、しかし、切実な祈りの声だった。
「どうか、あの子を、救ってあげてください」
悠人は、言葉に詰まった。
「なんで俺が」
いつものように、そう毒づこうとした。だが、声が出なかった。
栞の真摯な瞳と、部屋の隅で、声を殺して泣いている、あの小さな少女の姿から、どうしても、目を逸らすことができなかったのだ。
生命を謳歌し、すべてを焼き尽くすかのような青森の力強い陽光は、もはや遠い記憶の彼方へと追いやられ、車窓の外には、まるで水墨画のように霧雨に煙る陰鬱な風景がどこまでも広がっていた。アスファルトを叩く雨粒の音だけが、エンジンの頼りない唸りに重なり、単調なリズムを刻んでいる。梅雨入りにはまだ少し早い季節のはずだが、山の天気というものは常に気まぐれで、まるで人の心の機微を映し出すかのように、その表情をくるくると変える。しっとりと濡れそぼった路面は、時折対向車線のヘッドライトの光を鈍く、そして物憂げに反射し、悠人の疲れた網膜に白い残像を焼き付けた。
開け放った窓からは、ひやりとした空気が流れ込んでくる。それは湿った土の匂い、腐葉土が発酵する甘い香り、そして、それらに混じって鼻腔をかすめる微かな硫黄の香り。どうやら、この山のどこかに温泉が湧いているらしい。その事実は、今の悠人にとって、砂漠の中の蜃気楼にも等しい、微かな希望の光だった。
財布の中身は、とうの昔にその役割を放棄していた。皺くちゃの紙幣は一枚もなく、ただ虚しく音を立てる数枚の硬貨が、彼の全財産だった。最後の晩餐と呼ぶにはあまりに侘しい、数時間前に立ち寄ったサービスエリアで買ったあんぱん一個が、彼の胃に収まった最後の固形物だ。悠人の身体は、とうの昔に人の理を超越し、不老不死という呪いにも似た祝福を受けていた。しかし皮肉なことに、この身も空腹は感じるらしい。腹の虫が不満を訴えるように鳴くたびに、自分がまだ「生きている」という、忌々しくも厳然たる事実を突きつけられる。死ぬことはない。だが、このままでは餓死という、不老不死の存在にとってこの上なく滑稽で、間抜けな結末を迎えることになるかもしれなかった。それだけは、彼のちっぽけなプライドが許さなかった。
「……ツイてねえ」
乾いた唇から、誰に聞かせるともない悪態がこぼれ落ちた。それはもはや、彼の人生における口癖のようなものだった。ハンドルを握る指先は冷え切り、感覚が鈍くなっている。文明の利器であるカーナビゲーションシステムなどという高尚な代物は、この時代錯誤な鉄の箱には搭載されていない。悠人が唯一頼りにできるのは、霧の中に時折ぼんやりと姿を現す、古びて錆の浮いた道路標識だけだった。その掠れた文字が示す「〇〇温泉郷」という地名だけを信じ、彼は吸い寄せられるように、山道をさらに奥へ、奥へと進んでいった。
道は次第に狭くなり、アスファルトの舗装も途切れがちになっていく。まるで、現代文明がこの先の領域に踏み入ることを躊躇しているかのようだった。深い霧が、まるで意志を持っているかのように、視界を執拗に遮る。ヘッドライトの光も、その乳白色のカーテンに吸収され、わずか数メートル先を照らすのがやっとだった。不安と焦燥が胸の内で渦巻き始めた、その時だった。
不意に霧の向こうに、ぼんやりとした灯りが見えた。一つ、また一つと、頼りない光の点が闇の中に浮かび上がる。そして、バンがカーブを曲がり切った瞬間、悠人の目の前に、一つの温泉街の全景が広がった。それは、まるで時代の流れから完全に取り残されたかのような、寂寞とした空気を纏う古い街並みだった。木造の旅館や土産物屋が軒を連ねているが、そのほとんどは固く雨戸を閉ざし、人の気配は感じられない。まるで、街全体が深い眠りについているかのようだった。
その中でもひときわ古く、そしてひときわ物悲しいほどの静けさに包まれた一軒の木造旅館が、悠人の目に留まった。三階建てであろうその建物は、長年の風雪に耐えてきたことを物語るように、柱や壁は黒ずみ、所々が歪んでいる。しかし、それは単なる老朽化とは違う、一種の風格すら感じさせた。玄関に掲げられた古風な看板には、雨風にさらされ、ほとんど消えかかった文字で、かろうじて『椿館』と読むことができた。
ここなら、何か事情を話せば、一晩くらいは雨露をしのぐ場所を貸してくれるかもしれない。最悪、物置小屋でも、納屋の片隅でも構わない。ただ、この冷たい雨と、身体の芯まで凍えさせるような寒さから逃れることができれば、それで十分だった。最後の望みを託し、悠人は駐車場らしき砂利が敷かれただけの簡素なスペースにバンを滑り込ませ、エンジンを切った。訪れた静寂の中で、雨音だけがやけに大きく聞こえた。大きく息を吸い、覚悟を決めて、悠人は錆びたドアを押し開け、車外へと降り立った。
ギシ、と年老いた巨木が呻くような音を立てて、重厚な木製の引き戸が開いた。その瞬間、カラン、と乾いた呼び鈴の音が、静寂に満ちた空間に思いのほか大きく響き渡った。悠人が足を踏み入れた旅館の内部は、外観から想像した通り、薄暗く、ひっそりと静まり返っていた。しかし、そこには寂れた宿特有の陰気な空気とは少し違う、凛とした空気が流れていた。長年、丁寧に磨きこまれてきたのであろう廊下は、鈍い光を放ちながら奥へと続いている。隅々まで掃除は行き届いているようだが、やはり人の気配はまるでない。まるで、この建物自体が呼吸を止め、悠人という異物の侵入を窺っているかのようだった。
「ごめんくださーい」
喉の奥から絞り出した声は、自分でも驚くほど気の抜けた、間延びしたものだった。その声が、だだっ広い空間に吸い込まれ、消えていく。何の反応もない。やはり留守なのだろうか。諦めて踵を返そうとした、その時だった。
奥の襖が、すっと音もなく開いた。そして、薄明りの中に、一人の少女が静かに姿を現した。
年の頃は、悠人とさほど変わらないように見えた。十七、八といったところだろうか。肩のあたりで切りそろえられた艶やかな黒髪は、まるで濡れた夜の色をそのまま写し取ったかのようだ。その髪に縁どられた肌は、病的なほどに透き通るように白く、まるで上質な陶器のようだった。そして何よりも悠人の目を引いたのは、その少女が身にまとっている、真新しい巫女装束だった。白衣と緋袴の鮮やかな対比が、この薄暗い空間の中で、ひときわ強い存在感を放っている。
凛とした、という言葉がこれほどまでに似合う人間を、悠人は久しく、いや、何百年という長きにわたる人生の中でも、ほとんど見た記憶がなかった。彼女がそこに立っているだけで、まるで彼女の周囲だけが、この重く淀んだ旅館の空気から切り離され、清らかに浄化されているかのような、不思議な感覚に陥った。
少女は、みすぼらしい身なりの悠人の姿を認めると、感情の窺えない双眸をまっすぐに向けたまま、ぺこり、と小さく会釈した。その黒曜石のような瞳は、驚きも、警戒も、何一つ感情の色を映し出すことなく、ただ静かに悠人の存在を捉えている。まるで、深い湖の底を覗き込むかのように、どこまでも澄んでいて、底が見えない。
「あのう、一晩、泊めていただきたいんですが……」
悠人がようやく言葉を紡ぎ始めると、少女はこくりと小さく頷いた。その仕草には、一切の無駄がない。
「……で、その、非常に申し上げにくいんですが、今、持ち合わせがほとんどなくて。本当に、小銭が少しあるだけでして。その、なんなら、そこの庭の草むしりでも、風呂掃除でも、何でもしますんで。なんなら三日くらい、いや、一週間でも働きますんで。どうにかなりませんかね?」
言いながら、悠人は内心で自嘲した。我ながら、最低最悪な申し出だ。何百年という時を生き、様々な時代と人間模様を見てきたというのに、今自分がやっていることは、家出をして行き場を失った少年と何ら変わりがない。だが、背に腹は代えられなかった。空腹と疲労は、人の尊厳をいとも容易く削り取っていく。
少女は、そんな悠人の不躾極まりない申し出にも、雨に濡れて薄汚れた彼の荒んだ身なりにも、一切動じる様子を見せなかった。ただ、じっとその黒い瞳で彼を見つめ続けている。その視線は、まるで魂の奥底までをも見透かされているようで、悠人はわずかな居心地の悪さを感じ、思わず視線を逸らした。
「栞、どうしたの?お客様かしら」
その時、奥から鈴を転がすような、柔らかな女性の声がした。少女と同じように、上品な着物を身にまとった、まだ若々しい女将が顔を出す。彼女の目元には、少女と同じ、穏やかだが芯の強さを感じさせる光が宿っていた。
「お客様よ。訳あり、だそうだけど」
栞と呼ばれた少女が、淡々と、そして簡潔に事実だけを告げた。女将は悠人の姿を見て、一瞬だけ驚いたように目を丸くしたが、すぐにその表情を和らげ、慈愛に満ちた優しい微笑みを浮かべた。
「まあ、遠いところをようこそおいでくださいました。そんな、お代のことは、後で結構ですよ。どうぞ、どうぞ、お上がりくださいな。旅の方には、まずゆっくりと疲れを癒していただくのが、私どもの仕事でございますから」
その屈託のない、一点の曇りもない笑顔に、悠人は逆にたじろいでしまった。こんな見ず知らずの、見るからに怪しい風体の男を、何の疑いもなく、いとも簡単にあがり框に上げてしまうとは。人の善さにもほどがあるのではないだろうか。あるいは、何か裏があるのか。悠人の心に、わずかな警戒心が芽生える。
「……どうも」
しかし、差し伸べられた温かい手を振り払う余裕など、今の彼にはなかった。ぶっきらぼうに、それでも感謝の念を込めて礼を言い、泥のついた靴を脱ぐ。巫女装束の少女――栞は、それ以上何も言うことなく、無言で悠人を部屋へと案内し始めた。
ギシ、ギシ、と二人が歩を進めるたびに、古い廊下の床板が悲鳴のような音を立てた。その音だけが、まるで時が止まったかのような静寂に包まれた館内に、虚しく響き渡る。悠人は、案内されるままに歩きながら、改めてこの旅館全体を覆う異様な雰囲気を肌で感じていた。それは単なる建物の古さからくるものではない。もっと根深い、人間の強い想念が長い年月をかけて凝り固まったような、粘りつくような重苦しい「気」だった。それは、悠人のような存在にとっては、呼吸をするたびに肺腑にまとわりつくような、不快な感覚だった。
「なあ」
耐えきれず、悠人は前を歩く栞の、その小さな背中に話しかけた。
「この旅館、なんか、ヤバいのがいるだろ」
半ば確信を持って、カマをかけてみた。普通なら「何を馬鹿なことをおっしゃいますか」と一笑に付されるか、気味悪がられて追い出されるかのどちらかだろう。だが、栞はぴたりと足を止め、まるでその言葉を待っていたかのように、ゆっくりと振り返った。
「はい、います」
あまりにもあっさりと、そして事も無げに彼女は認めた。その予想外の素直さに、今度は悠人の方が面食らって言葉に詰まる。
「は? いや、いるって、お前……」
「はい。この旅館には、古くから座敷童子様がおられると、そう言い伝えられています」
「座敷童子ねえ……」
悠人は、その言葉を口の中で転がした。東北地方の旧家に棲みつき、その姿を見た者には幸運が訪れるという、子供の姿をした妖怪。あるいは、家の守り神。だが、目の前にあるこの閑古鳥が鳴いている有様は、どう見ても幸運が舞い込んでいる状態とは程遠い。むしろ、不幸のどん底にいるようにしか見えなかった。
「その幸運の神様とやらにしては、ずいぶんと寂れてるじゃねえか、この旅館は」
皮肉をたっぷりと込めて言うと、栞はまた、あの黒曜石の瞳でじっと悠人を見つめ返した。その瞳には、やはり何の感情も浮かんでいない。
「……そうですか」
ただ、それだけを返し、彼女は再び前を向いて黙々と歩き始めた。肯定も否定もしない、抑揚のない平坦な声。その一言で、悠人の皮肉は行き場を失い、宙に霧散した。まったくペースが掴めない。何百年という時を生き、ありとあらゆる人間と渡り合ってきた自負のある悠人だったが、この手のタイプは初めてだった。まるで、厚い氷の壁を相手にしているかのような、手応えのなさを感じる。
通されたのは、二階の最も奥まった場所にある角部屋だった。六畳ほどの簡素な和室だが、隅々まで丁寧に掃き清められており、清潔感があった。窓の外には、霧雨にしっとりと濡れた庭の木々が見え、その緑が目に優しい。
「ごゆっくり、お休みください」
栞はそう言って、静かに襖を閉めようとした。
「おい、あんた」
その背中に、悠人は思わず声をかけていた。このまま、この得体の知れない少女を立ち去らせてはいけないような気がしたのだ。
「あんた、一体何者なんだ? ただの旅館の娘が、そんな巫女のカッコしてるとは到底思えねえが」
栞は、襖にかけた手を止めた。そして、ほんの少しだけ、本当に注意深く見なければ気づかないほど、ほんのわずかに、その唇の端に笑みのようなものが浮かんだように見えた。それは、嘲笑でもなく、微笑みでもない、何か別の感情を含んだ、不思議な表情だった。
「私は、この旅館と、この家に棲まう方を、お守りする者です」
そう言って、彼女は今度こそ静かに襖を閉じた。一人残された部屋に、悠人はしばらくの間、立ち尽くしていた。彼女の言葉が、奇妙な余韻となって耳の奥に残っている。守る者。一体、何を、誰から守っているというのか。そして、この旅館に棲まうという「ヤバいの」の正体とは。
その夜、悠人は身をもって、栞の言った「ヤバいの」の、そして「座敷童子」という言葉に隠された真の恐ろしさを思い知ることになるのだった。
旅の疲れと、女将が用意してくれた温かい夕食による満腹感は、悠人の心身を深く満たした。久しぶりに口にしたまともな食事は、五臓六腑に染み渡り、硬直していた筋肉を内側からゆっくりと解きほぐしていく。用意された布団に身体を横たえると、まるで泥沼に沈み込むかのように、意識はあっという間に深い眠りの底へと落ちていった。
だが、その安息は長くは続かなかった。夜半過ぎ、ふと奇妙な感覚に襲われ、悠人は重い瞼をこじ開けた。何かおかしい。視界が、いつもと明らかに違う。天井の木目、部屋の隅に置かれた小さな文机、障子窓の格子。それらが、ありえない角度で見えている。まるで、世界が逆さまになったかのような、強烈な違和感。
ゆっくりと首を動かし、そして悠人は愕然とした。
自分の頭があるべき場所には、自分の足があった。そして、足があるべき場所には、見慣れた自分の頭が鎮座している。つまり、眠っている間に、頭と足の位置が寸分の狂いもなく百八十度、完全にひっくり返されていたのだ。掛け布団は、まるで最初からそうであったかのように、綺麗にかけ直されている。
「……は?」
声にならない声が漏れた。これは、枕返し。眠っている人間の枕をひっくり返す、あるいは頭と足の位置を入れ替えるという、古典的ないたずら妖怪の仕業だ。それにしても、枕だけではなく、ご丁寧に身体ごととは、なかなかの大技である。不老不死のこの身でも、眠りが深い時にはこんなことが起こりうるのか。悠人は深い溜め息をつきながら、億劫な身体を反転させて正しい向きに直し、もう一度眠りの世界へと戻ろうと目を閉じた。
しばらくすると、今度はどこからともなく、奇妙な音が聞こえてきた。
ショキ、ショキ、ショキ、ショキ……。
それは、まるで硬い何かを別の何かでこすり合わせているような、単調で、それでいてひどく神経を逆撫でする、不快な音だった。最初は遠くで聞こえていたその音は、徐々に、しかし確実に、この部屋に近づいてきている。
「……小豆か」
悠人は舌打ちした。小豆洗い。主に川辺や谷川に現れ、ショキショキと小豆を洗う音をさせる妖怪。なぜ、こんな山奥の旅館の、しかも二階の一室で小豆を研ぐ必要があるのか。こんな真夜中に。過重労働ではないのか。妖怪の世界にも労働基準監督署というものは存在するのだろうか。もしあるのなら、匿名で通報してやろうか。悠人はそんな馬鹿げたことを考えながら、耳に枕を強く押し当てて、執拗に続くその音をやり過ごそうと試みた。
しかし、音はやむどころか、ますます勢いを増していく。まるで、悠人の耳元で直接やっているかのように、リアルな質感を持って鼓膜を震わせた。
夜明け前、生理的な欲求には抗えず、どうにも我慢できなくなった悠人は、トイレに行こうと重い身体を起こし、部屋を出た。薄暗い廊下は、月の光も届かず、しんと静まり返っている。自分の足音だけが、古い床板を軋ませて響く。用を足し、部屋に戻ろうと廊下を歩いていた、その時だった。突然、ドン、という鈍い衝撃と共に、目の前に見えない壁が立ちはだかった。
「いてえっ!」
鼻先を強打し、生理的な涙が滲む。目の前には、何もない。ただ、薄暗い廊下が奥へと続いているだけだ。しかし、確かにそこには、透明で、それでいて鋼鉄のように硬い壁のようなものが存在し、どうしても前に進むことができない。右手で探っても、左手で探っても、同じように冷たく硬い感触の壁に阻まれる。背後を振り返ると、そこにもいつの間にか同じ壁が出現していた。
「塗壁かよ……」
夜道を行く人の前に突如として現れ、行く手を阻むという壁の妖怪。これを室内で、しかもご丁寧に四方を囲む形でやられたのは、何百年という悠人の人生でも初めての経験だった。これはもはや、完全な監禁状態だ。
「なんだこの妖怪バイキングは! お得な詰め合わせパックか何かか!?」
ついに堪忍袋の緒が切れた。これはもう、単なるたちの悪いいたずらではない。明確な敵意、あるいは、この旅館から客を追い出そうという、強い意志を感じる。
彼は、ポケットの中からおもろむろに、青森で出会ったファンキーな宮司から、逃げる際に半ば強引に拝借してきたお札を取り出した。神仏の類は専門外だが、効果があるかは分からない。しかし、ないよりはましだろう。
「我こそは、藤原悠人! この家の悪しき気配を浄化せんと……」
などと、即興で思いついた適当な文句を大声で唱えながら、お札を見えない壁に叩きつけようとした、まさにその瞬間だった。足元の床が、ぬるり、と今まで感じたことのない奇妙な感触に変わった。
「うおっ!?」
完全にバランスを崩し、悠人は盛大にすっ転んだ。どうやら、床には粘液状の何かが撒かれていたらしい。背中から床に打ち付けられ、全身にぬるりとした不快な感触が広がる。これは、古くなった雑巾が化けたという、白溶裔(しろうねり)の仕業か。もはや、何でもありだ。妖怪のオンパレード。歓迎の仕方が手荒すぎる。
「……もういい。寝る」
悠人は、廊下の真ん中で大の字になったまま、完全に戦意を喪失し、ふて寝を決め込むことにした。これ以上抵抗する気力も体力も、残されてはいなかった。
翌朝、悠人が目を覚ますと、そこは自分の部屋の布団の上だった。昨夜の粘液まみれの身体は綺麗に拭われ、新しい浴衣まで用意されている。どうやら、ご丁寧に部屋まで運んでくれたらしい。余計なお世話だ、と心の中で毒づいた。
朝食の席で、悠人は目の下に濃い隈を作りながら、まるで親の仇でも見るかのように、向かいに静かに座る栞を睨みつけた。
「なあ。昨日のアレ、一体どういうことだ。嫌がらせにもほどがあるぞ」
栞は、湯気の立つお茶を一口静かにすすると、涼しい顔で答えた。
「あの子は、誰かに遊んでほしいだけなんです。寂しいんです」
「遊びにしちゃあ、タチが悪すぎるだろうが。おかげでこっちは寝不足で頭がガンガンするんだぞ」
「……そうですか」
まただ。この魔法の言葉、「そうですか」。この一言で、すべての会話が強制的に終了させられる。悠人は、こめかみがピクピクと痙攣するのを感じながら、目の前の焼き魚を睨みつけた。
「……いいだろう。そこまで言うなら、こっちにも考えがある」
その日の午後、悠人は旅館の裏庭で、何やら怪しげな作業に没頭していた。その手には、どこからか見つけてきた釣り糸と、小さな鈴。そして、女将に気づかれないよう、厨房からこっそりと拝借してきた小麦粉の入った袋。
「見てろよ、クソガキ。こっちが何百年生きていると思ってやがる。その程度の古典的ないたずら、昭和のアニメみたいな古典的なトラップで捕まえてやるからな」
彼は、栞の話から座敷童子が出入りするとおぼしき、今は使われていない部屋の入り口に、自分でも巧妙だと思えるやり方で釣り糸を張り巡らせ、それに鈴をいくつもくくりつけた。床には、小さな足跡がつくように、うっすらと、しかし確実に小麦粉を撒く。仕上げに、出口付近の床には、粘着力の最も強い業務用のガムテープを仕掛けておいた。完璧だ。これであの悪戯好きの妖怪も年貢の納め時だろう。悠人は物陰に身を潜め、息を殺してその時を今か今かと待った。
一時間が過ぎた。二時間が過ぎた。しかし、仕掛けたトラップには何の反応もない。ただ、風が吹くたびに、木々の葉が擦れる音が聞こえるだけだった。痺れを切らした悠人が、ほんの少しだけ様子を見ようと、そっと物陰から身を乗り出した、その瞬間だった。
自分の足が、何かに強く引っかかった。
チリン、と間の抜けた鈴の音が、静かな午後の裏庭に響き渡った。
「へ?」
次の瞬間、悠人の身体はバランスを失って宙を舞い、頭から、吊るしておいた小麦粉の袋に勢いよく突っ込んだ。視界が真っ白になる。もがけばもがくほど、全身が小麦粉にまみれていく。
「ぶはっ! げほっ、げほっ!」
なんとか袋から顔を引き抜くと、今度は足元に、自分が丹精込めて仕掛けたガムテープがべったりと張り付いていることに気づいた。慌てて剥がそうとするが、その強力な粘着力は、悠人の力をもってしてもびくともしない。
バランスを崩した悠人は、そのまま無様に前方へ倒れ込み、自分が張り巡らせた釣り糸に見事に絡まった。身体中に鈴が絡みつき、動くたびにチリンチリンと情けない音を立てる。
まるで、小麦粉をはたいた雪だるまが、鈴飾りのついた蓑虫のように、床の上でもがき苦しんでいる。我ながら、これ以上ないほど悲惨で、滑稽な光景だった。
そして、その一部始終を、廊下の柱の陰から、栞がスマホを構えて無表情のまま動画で撮影していたことに、悠人は気づく由もなかった。
度重なる悪質な嫌がらせと、自らが仕掛けたトラップによる屈辱的な自爆。悠人の怒りは、ついに沸点を超え、頂点に達していた。
「いい加減にしろ、このクソガキぃぃぃっ!」
彼は、もはや小細工を弄することをやめた。自らの内に秘められた、普段は固く封じているごくわずかな霊気を研ぎ澄まし、意識を集中させる。館内を漂う「それ」の気配を、神経のすべてを使って追う。それは、怒りや憎しみといった攻撃的なものではなく、むしろ、深く、冷たい悲しみに似た、凍てつくような気配だった。
気配は、館の一番奥、かつては物置として使われていたであろう、日の当たらない薄暗い部屋から強く発せられていた。悠人は迷わずそこへ向かい、勢いよく襖を開け放った。
「そこにいるのは分かってんだぞ! 出てこい!」
部屋の隅、降り積もった埃と暗がりの向こうに、小さな影がうずくまっているのが見えた。
悠人は、その影に向かって、溜まりに溜まった怒りを、ありったけの声に乗せてぶつけた。
「てめえのせいで、こっちは散々な目に遭ってんだ! いい加減、そのふざけた遊びはやめろ! 何が寂しいだ、構ってほしいだ、そんなもん知ったことか! 人を困らせて楽しんでんじゃねえぞ、この……!」
しかし、その罵声は、途中で不意に止まった。
うずくまっていた影が、悠人の怒声に怯えるようにびくりと震え、そして、ゆっくりと顔を上げたからだ。
そこにいたのは、人の不幸をあざ笑うような、いたずら小僧ではなかった。
着物は少し汚れ、綺麗に切りそろえられていたであろうおかっぱ頭も、ところどころが乱れている。そして、その大きな双眸には、今にも零れ落ちそうなほど、たっぷりと涙を溜めた、五歳くらいの小さな女の子がいた。
その幼い顔は、恐怖よりも、もっと深く、救いのない悲しみに染まっていた。
その姿を見た瞬間、悠人の頭の芯までを焼き尽くしていた怒りは、まるで熱湯をかけられた雪のように、一瞬で溶けて消え失せてしまった。
違う。
この子は、楽しんでなどいなかったのだ。
その瞳の奥に宿る色を、悠人は知っていた。それは、何百年もの間、毎朝鏡で見てきた、自分自身の瞳の色と、まったく同じだったからだ。
終わりのない、出口のない孤独と、すべてを諦めてしまった者の、虚ろで、冷たい色。
「……あ」
声にならない、乾いた声が喉から漏れた。
その時、悠人の背後に、いつの間にか栞が静かに立っていた。彼女は、部屋の隅で小さな身体を震わせる少女を、悲しげに、しかし同時に慈しむような、複雑な目で見つめていた。そして、呆然と立ち尽くす悠人に向かって、静かに、そしてはっきりと呟いた。
「あの子の名前は、お春ちゃん、と言います。この椿館の、守り神、でした」
「……でした?」
その過去形の言葉に、悠人は鋭い引っかかりを覚えた。この旅館を覆う重く淀んだ気の正体は、単なる妖怪のいたずら騒ぎなどではない。もっと、根深く、そしてどうしようもなく悲しい何かが、この場所を、そしてあの小さな少女を縛り付けている。悠人は、それを確信した。
栞は、悠人に向き直ると、すとん、と音が聞こえてきそうなほど綺麗な所作で、その場に正座した。そして、畳に額がつくほど、深く、深く、頭を下げた。
「お願いします」
いつもは平坦で感情の読めない彼女の声が、今は確かに震えていた。それは、凛とした、しかし、切実な祈りの声だった。
「どうか、あの子を、救ってあげてください」
悠人は、言葉に詰まった。
「なんで俺が」
いつものように、そう毒づこうとした。だが、声が出なかった。
栞の真摯な瞳と、部屋の隅で、声を殺して泣いている、あの小さな少女の姿から、どうしても、目を逸らすことができなかったのだ。
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