転生しようとしたら魔族に邪魔されて加護が受けられませんでした。おかげで魔力がありません。

ライゼノ

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師弟編

第55話 別離。

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俺は身体を引きずりながらティアドラの元へと向かう。
彼女はこちらをぼんやりと眺めているようだったが、俺が近づくとその顔を綻ばせる。
そして目を閉じると何かを呟いた。


すると彼女は光に包まれていき、竜の身体を覆いつくす。
やがてその光が小さくなっていくと、そこには人型になった……いつものティアドラが横たわっていた。


「ふふふふふ。……互いに、ボロボロじゃなぁ」


痛みに堪えながら言葉をひねり出す。
俺は改めて彼女の身体を見る。
勇者達に与えられたであろう傷や打撲痕が体中にあり、至るところから血が流れている。
特に酷いのは腹部に付いた大きな裂傷だ。
恐らくこれがベネッドの剣によるものだろう。
辺りの床を真っ赤に染め上げている。
俺は慌てて回復薬を取り出し、彼女に飲ませようとする……が。


「もう、よい」


回復薬を握る俺の手を押し返した。
自分のことは自分が一番よく分かっている。そう呟く。


「……ティアドラ!!」


俺はこみ上げるものを必死に堪えながら彼女の身体を抱き抱える。
その身体は……驚くほどに軽かった。
彼女は涙をこらえる俺を見て何故か……笑っていた。


「ふふふ。さぁ……帰ろうか、我らの家へ」


彼女は魔法を唱える。
転移魔法を。
俺達を巨大な岩が襲うその瞬間。
俺達は家へと帰還したのだ。





俺達は家の前の庭に居た。
ふと空を見上げるとその空は厚い雲で覆われている。
ポツリと一粒の雫が頬に当たった。
どうやらまだ弱いが、雨が降り始めたようだ。


「ふふふ。……ゲホッ!……ゲホッ!!」


思わず手で口を押えるが、咳と共に赤いものが彼女の手を染めていく。


「無理して笑うなよ!」


彼女の背中を摩りながら落ち着くのを待った。


「すまぬ……な。お主を遠ざけておくならもっと、遠くに行かせば良かったものを……何故、ワシは近いところへ使いに出させたのか、そう思ったら……可笑しくなっての……」


俺は言っている意味が分からず首を傾げる。
ベネラの店に行った時のことだろうか。


「どうやら……ワシは最期の瞬間をお前と共に過ごしたかったらしい。最期に……お主に会えてよかった。本当に……」


ティアドラが微かな声で呟いた。
俺はその言葉に反応すると、それを否定するかのように全力で首を横に振る。


「嫌だ、俺を置いていかないでくれ!……もう一人は嫌なんだ!!」


もうこの世界で一人だなんて……俺はきっと耐えられない。
悲痛な声で訴えるが、彼女は弱々しく首を横に振る。


「もう分かっておるじゃろう。……じゃから、お願いじゃから、聞いておくれ」


彼女の息はすでに絶え絶えだ。
俺は涙を出すまいと必死に堪えながら頷き、彼女の顔を見つめる。


「お主がこの世界に転生したこと、魔力を持っていないこと、ワシの弟子となり薬師となったこと、これまでお主に起こったこと……きっと全てに意味がある、ワシはそう信じておる」


彼女は愛おしいものを見つめるような目つきだった。


「じゃから……訓練を続けるのじゃ……薬師として……戦士として……そうすればいずれ来る運命にも……きっと抗える」


「ティアドラがいてくれないと俺は強くなれない!……だから……ッ」


言葉の続きを止めるようにティアドラは俺の頬を撫でる。


「そんなことはない。……お主はワシなんかよりもはるかに優秀で真面目で……勤勉じゃ。2年も経てば……それこそ、ワシなんか足元にも及ばなくなるだろう」


俺はその言葉を否定するかのように首を振る。
だがティアドラは真っすぐに俺を見つめる。
その目は俺の将来を疑っていない。


「もし……この世界の真実を知りたくなったら……ヒントをやろう。そのときは……『最悪の勇者』について調べるのじゃ……お主なら……この答えにたどり着くじゃろう」


そう言うと彼女は両手で俺の顔を持ち自身の顔の前まで移動させる。


「さぁ、目を見せておくれ……ワシはお主の瞳の色が好きなのじゃ……何者にも染まらぬ、漆黒の瞳が」


彼女の目を見つめる。
すると俺の頬を伝って落ちた雫が彼女の顔を濡らす。
ティアドラは俺の目を見ると安心したかのように息を吐く。


「あぁ……これまで長く生きてきたが……死ぬ間際になってこれほど命が惜しくなるとは……もう少し、少しだけでいいから……お主の成長を見たかったよ……」


涙が止めどなく流れていく。もう止めることは出来ない。
彼女はその涙を指で掬う。


「なんじゃ……その程度で泣くのか……シリウスは……泣き虫、じゃのぅ」


そういうティアドラの頬にも自身の目から零れた雫が伝っている。

どこかで……聞いた言葉。

当時の愚かだった自分を思い出す。そして俺を救ってくれた彼女。

この恩は一生忘れない。

俺はティアドラの夢を……。

そう心に誓う。



ティアドラから感じる力が弱くなっていく。
このまま目を閉じるかと思われたが、何かを思い出したかのように唐突に目を見開いた。


「あぁ、そうじゃった……忘れておったよ……。今のこの時であればお主に……『力』を与えることができる」


「力……?」


俺が首を傾げると、ティアドラは何か呪文のような言葉をつぶやく。



「我……竜王ティアドラは……最愛の弟子、シリウス・フォーマルハウトを護る……剣とならん。願わくば……この世界で魔力を持たず生まれてしまった彼の……孤独の共有者とならんことを」



すると彼女の身体が淡い光に包まれていき、少しづつ透明になっていく。
俺は彼女の名を懸命に呼ぶ。
だが彼女は唯そんな俺を見ながら微笑むのみだった。


「少し早いが……成人の祝いとしよう。ワシはここで死ぬが……魂はお主と共にある。誰よりも強くなれ!我が最愛の弟子シリウスよ!」


そう言い残すと同時に彼女の肉体が消えた。
その日、俺は最愛の家族を失った。
彼女を抱きしめていたはずの俺の腕の中には……美しい銀色の光を放つ一本の曲刀があった。
俺は唐突に理解する。
この剣はティアドラに与えられた……俺の為だけの曲刀であることを。



--------------------------------------------
竜王剣ティアドラ
魔力を持たないシリウス・フォーマルハウトの為に作られた曲刀。
この曲刀はシリウスと同じく『一切の魔力を持たない』。
--------------------------------------------



俺は一人になった。……だが一人じゃなくなった。
俺は『ティアドラ』を抱きしめ、唯々泣いた。
雨が段々と強くなっていく。
俺の心模様を反映するかのように。
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