転生しようとしたら魔族に邪魔されて加護が受けられませんでした。おかげで魔力がありません。

ライゼノ

文字の大きさ
67 / 72
旅立ち編

第66話 イブキとの野宿。

しおりを挟む
日も傾いてき、そろそろ夕暮れという頃、俺達はようやく下山することが出来た。
しかし、麓の街まではまだ距離もあり、そこへ着く頃には恐らく真っ暗となっているだろう。
普段であれば速度強化薬を使用しているため、家から街まで往復しても十分時間が余るのだが……薬の数も有限だ。
家に居たころは畑から栽培している速度強化の原料となる薬草を採取して作ればよかったが、今はそうもいかない。
それに……今はイブキもいる。彼女を見捨てていくことも出来ないだろう。


「あと……どのくらいかしら」


彼女の声に疲労を感じる。
魔界から飛び出して俺の家に来るまでほとんど飲まず食わず、そして不眠不休だっただろう。
多少俺の家で休むことは出来たとは思うが……見た目は疲れを見せないが恐らく相当に疲弊しているに違いない。


「もうすぐ暗くなる。……今日はこの辺で野宿にしようか」


幸いにも近くには川がある。
食べるものは……家からいくらか持ってきている。
ここで一晩過ごすくらいなら何とかなりそうだ。


「え!?こ、ここで寝るの?貴方と?」


彼女は何故かあたふたしていた。


「あぁ、普段通り慣れていないからか足が疲れてね。近くに川もあることだし、ここで一晩過ごそうと思う。……いいか?」


そう問うと彼女はコクコク首を縦に動かす。


「か、構わないわ」


イブキは何やら緊張しているようだ。
とりあえず野宿の準備をしよう。
そう提案し、先導して川へ向かおうとすると後ろからクゥという音が聞こえた。
俺は思わず振り向く。


「私じゃないわ」


彼女は真剣な眼差しで否定した。
頬はほんのりと赤い。


「え?……だったら誰「私じゃないわ!」……うん」


彼女の剣幕に俺は思わず言葉を引っ込める。
腹が減ったら誰だって腹の虫くらいなるだろうに。
そう言おうと思ったが……後悔しそうだったからやめておこう。

川は思っていたよりも流れが穏やかだった。
俺は近くの石が密集しているところに腰かけ、石で野宿をする為の竈づくりを始める。
前世で野宿はしたことがなかったが……この世界に転生してからは遠くへ薬を売りに行くときや、速度強化薬が尽きていたときなんかに何回かしたことがある。
まだ慣れてはいないが……まぁなんとかなるだろう。
イブキはそんな俺をじっと見ていた。大分お疲れの様だ。


「そういえばイブキ、君は野宿の経験とかあるのか?」


いびつな形だがなんとか竈を作ることに成功した俺は、離れたところにある大きな石に腰かけ、自身の肩をトントンと叩いているイブキに声を掛ける。
すると彼女は自嘲的な笑みを浮かべた。


「この魔界を出て……この国の兵士たちに追われながら……岩陰に隠れながら恐怖で寝ることも出来ずただじっと時間が過ぎるのを待っていたことを野宿と言うのであれば……経験があるわね」


何故かは分からないが冷や汗が噴き出る。
どうやら彼女にとって今の質問は地雷だったようだ。


「ま、まぁつまりは野宿はしたことがない、と」


なんとかそんな言葉をひねり出す。
俺は近くの森から持ってきていた乾いた葉を着火剤にして火を点ける。
しばらくすると同じく持ってきていた枝へと火が移り、次第に炎が大きくなる。
火が点いて気づいたのだが……辺りは既に暗くなり始めていた。少々肌寒い。
イブキは相変わらず遠くからこちらを見ているだけだった。
なぜこっちに来ないのか……たぶん俺に腹の虫が聞こえない様にするためだろう。


「そんなとこにいないでこっちに来なよ」


そう呼びかけると彼女はしばらく何か考え込んだ後、結審したかのように身体を重たそうに動かし、竈の近くにしゃがみ込み手をかざす。


「暖かい……。見事な手つきね」


彼女がチラリとこちらを見る。
その顔は暗闇の中にある火で幻想的に照らされ、彼女の端正な顔つきが一層に際立っている。
思わずドキリとしてしまう。


「……どうしたの?」


俺の異変に気付いたイブキが首を傾げる。
その顔もまた美貌に満ちていた。
俺は何でもないと首を横に振ると、鞄から調理道具一式に食料を取り出す。


「さぁ、夕飯にしようか」


どこかからクゥという音とと唾液を飲む音が聞こえたが……聞こえていないふりをした。
川から水を汲み、鍋へと移し、火にかける。
その横では網の上にパンを置いている。
しばらくするとパンに焦げ目がついてくるので、その上にすりおろした果実を乗せる。
この果物は非常に甘く、砂糖の代用として用いている。
その甘さがこのパンによく合うのだ。
俺はそのパンを今にも涎をたらしそうな様子で見つめていたイブキに手渡す。


「熱いから気を付けてな」


彼女は小さく俺に礼をいうとアチチと呟きながらパンを頬張る。
……実に幸せそうな顔をしていた。


「……美味しい!人の世界の食べ物ってこんなにも美味しいのね!」


彼女はパンの味を絶賛する。
魔界の食べ物ってどんなものなのだろう。
少し気になった。

水が沸騰してきたため、その中に干し肉や野菜、そして香辛料代わりになる薬草をたっぷり入れていく。俺は具材たっぷりの汁ものが好きなのだ。

味噌があればベストなのだが……あいにくこの世界に味噌は存在しないらしい。
醤油も欲しいのだけれども……。
まぁないものねだりをしても仕方がない。
干し肉からは良い塩味の出汁がでるし香辛料もある。

しばらく煮立たせると一口味見する。……いい感じだ。
俺は椀を取り出し、汁を椀に盛り、スプーンと共に彼女に手渡す。
イブキはそれを受け取ると匂いを嗅ぎ、嬉しそうな顔で口にした。


「これも凄く美味しい!貴方って天才なんじゃないの!?魔界に帰ったら私のコックにならない!?」


どうやら凄くお気に召したようだ。
無言で食べ続け、瞬く間汁が減っていく。
空になった容器を残念そうな表情で見る彼女。
俺は思わず苦笑を漏らし、その椀を受け取ると再び汁をその中に盛る。


「……いいの?」


彼女は申し訳なさそうな顔をする。
このままでは俺の取り分がなくなるのことを心配しているようだった。


「いいんだ。……イブキがそんなに美味しそうに食べてくれるだけで満足だよ。俺のことは気にしないで、明日からまた忙しいんだからしっかり食べなよ」


そう言うと彼女は礼を言い、再び汁を平らげていく。
俺はその間に焦げそうになっていたパンを食べる。
……うん、美味しい。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。 《作者からのお知らせ!》 ※2025/11月中旬、  辺境領主の3巻が刊行となります。 今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。 【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん! ※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

才能に打ち砕かれた日から、僕の最強は始まった

雷覇
ファンタジー
ワノクニ、蒼神流・蒼月道場。 天城蒼真は幼き頃から剣を学び、努力を重ねてきた。 だがある日、異世界から来た「勇者」瀬名隼人との出会いが、すべてを変える。 鍛錬も経験もない隼人は、生まれながらの天才。 一目見ただけで蒼真と幼馴染の朱音の剣筋を見切り、打ち破った。 朱音は琴音の命で、隼人の旅に同行することを決意する。 悔しさを抱えた蒼真は、道場を後にする。 目指すは“修羅の山”――魔族が封印され、誰も生きて戻らぬ死地へと旅立つ。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します

burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。 その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。

処理中です...