一粒の涙が与えたもの

綿田 もふ

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第一章

First unhappiness

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私は四宮  紅葉。

父親はいない。母子家庭だ。

父親と母親は私の母方の祖母と祖父に反対され引き離されたらしい。 

母・茉莉花は私にいつも

「紅葉はあの人にそっくりね…。貴女を見せてあげたかった…。」

と今にも泣き出しそうな悲しい顔で私に言っていた。

その悲しみのせいなのか重い病気に罹り、病状は悪化しそのまま亡くなった。

「紅葉…あの…ひとに…よろ…し…く…。せ…めて…ひ…と…めでも…あい…たか…っ…。」

「おかあさん…おかあさあああああん…。」

どんなに泣いてもお母さんはかえってこない。打ちのめされて苦しかった。

母親が亡くなって1日後、ある男の人が乱暴にドアを開けて部屋へ入ってきた。

「茉莉花が亡くなった…?!なぜ…?!」

そう言って母親の亡骸を見て小さく肩を震わせていたのを良く鮮明に覚えている。

「あなた…誰ですか…?」

そう言って見たことも無い人に怯えながら聞くと

「…君がイロハだね?」

そう聞かれた。

「はい…。」

「私はリ・ソジュン。韓国に居た時の茉莉花の幼なじみだ。」

「韓国人…?」

日本語がペラペラで驚いた。韓国人でもこんなペラペラな人いるんだ。

「あぁ。…君はよく茉莉花に似ていると言われるのでは?君はよく似ているよ。顔の形や雰囲気が。」

そう言いおじさん…いや、リさんは懐かしそうに目を細めて笑いながら言っていた。

「いえ…母はよく私は父親に似ていると言っていました。」

「父親?」

「はい。私な両親は母方の祖母と祖父に引き離されたと…母から聞いてます。」

そう私が言うと目を見開いて驚いた顔をしていた。

「イロハは何歳だい?」

「私は…13ですけど…。」

なにかに気づいたのだろうか。そしてリさんは改まって聞いた。

「イロハ、君はこれからどうする気なんだい?お祖母様やお祖父様と暮らすのか?」

「いえ、祖母も祖父も亡くなり私には帰る家がありません。なので施設に入ろうかと。」

不安そうな顔で私が言うと

「そうか。施設に入るくらいなら私と共に韓国に来ないか?」

「え?」

「施設で貧しいくらいを強いられることも無い。来なさい。茉莉花もそれの方が安心だろう。」

優しそうな頬笑みを浮かべて言った。

「そんな…迷惑になるので…。」

「大丈夫。私の養子になればいい。それなら私の妻も喜んでくれるはずだ。」

(妻…?!この人奥さんいるのに私を養子にしたいですって?!)

「そんなに君は私を拒んで茉莉花を困らせたいのか?」

「わ…わたしは…この故郷を離れたくないし、学校の勉強にも…。しかも韓国語なんてできません…!!」

「大丈夫。日本語が喋れる家庭教師をつけるから。」

リさんの説得に私は折れて母の葬儀が終わった後、韓国に行くことにした。

(ありがとう私の故郷…。お母さん…。さようなら。)

そう目を閉じて心の中で言い終えた後、私は飛行機へと乗り込み日本を離れた。

この時から少しでも私の運命の歯車は動きだしていたのだろうか。負の連鎖の運命が。

そしてこれから始まる私の不幸な運命が。
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