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スピンオフ「デュインズ」
護美箱の王
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あれから、王とリーベとの対談は失敗することなどなく、順調に終了した。
リーベは他の幹部と異なり、国を取り仕切った経験はない。上に立って指揮を執ることはあっても、国全体をまとめ上げたことはなかった。
だから国の権限を移行するのは、時間をかけて行うことになった。
白国としても人員の入れ替えや、周知、先程のような裏切り者をあぶり出すためにも、即座に入れ替えるのは望まなかった。
奇襲にやってきた団体――反乱者たちは、それぞれ街の広場に吊るし上げられた。
彼らはよっぽど信頼が厚い人間だったのか、それからアリスに歯向かう人間はでてこなかった。
アリスはその後、フルスからいつもの通り〝呼び出し〟を受けた。
万が一、今後の強敵に備えて、神格化するという話を受けた。
アリスは魔王の身でありながら、神の使者になるということになる。
それ自体に対しては特に疑問も問題も浮かばなかったが、デュインズをフルスが管理することになった理由は、あまりにも衝撃的だった。
そんなミーハーな神様がいるのだなぁ――と思いながらも、たかが一つの世界を制圧するだけで新たな力を得られたのだから、幸運であった。
神格化にあたり、アリスはトラッシュとデュインズを自由に行き来できる力を得た。
〈転移門〉の上位互換といったところだろう。
いちいちフルスの生成した門を経由しなくていいのは、本当に革命的だった。
ただし適応されるのは神格化されたアリスだけで、幹部たちは相変わらず無人島を経由しなくてはならない。
だがアリスが〈転移門〉を作るのであれば、幹部たちもトラッシュから直接デュインズに来ることができるのだ。
その点はありがたいだろう。
お陰でアリスは定期的に、息子夫婦と孫たちの様子、そしてデュインズの様子を見に来ることができるようになったのだった。
「母上が行っている飲食店事業を、こちらでも展開しようと考えております」
「飲食店事業って。私が食べたいものを作ってもらってるだけだよ」
「ですが世界中に、喫茶店の支店が出来ているではありませんか」
「なんでだろうねぇ……」
アリスの好みがたまたま受け入れられたということと、アリスを狂信的に敬愛する者たちが広めたということもあって、喫茶店は勢いを増している。
あまりに多岐にわたりすぎてアリスの管理から外れている場所もあるが、根底にはアリスへの忠誠心が残っている。
定期的にアリスの信者が視察に来るからなのかもしれないが。
「いいんじゃない。知り合いの職人に声をかけておくよ」
「感謝致します。建物はこちらで用意させて頂きます」
「はいよ。ヴァルナルとの戦争もあったし、マザー・フリルにも声をかけてみるね」
「では孤児院の設立も並行――」
その時、とんとんと扉が叩かれた。
入ってきたのは困り顔のミライアだった。頬には薄く引っかき傷が残っているが、魔人化していることもあってゆっくりと治り始めていた。
「あなた、お義母様。お話中失礼致します」
「いいよん」
「どうした」
「リーラがぐずってしまって。『とうさまじゃないといや』と言って聞かなくて……」
「……はあ。母上。少し外します」
「はいはい。丁度いいから休憩しなさいな」
「ええ、そうします。喫茶店の件は、お願い致します」
アリスはリーラのもとへと急ぐ二人を見送りながら、ゆっくりと腰掛けた。
この部屋はリーベがわざわざ用意してくれた、王城の一室。
アリスは別に事務作業もしないし、読書を嗜むわけでもない。もっと言えばこの国の管理は、リーベに任せている。
だから本当ならばこのような部屋はいらない。しかし息子からの厚意として受け取ることにした。
実際、自在に行き来できる能力を得てからは、頻繁に出入りしている。部屋があったほうが便利なのは事実だった。
「〈転移門〉」
部屋に突如として生成したのは、トラッシュの魔王城に繋がる〈転移門〉だ。
場所はエンプティの書斎。
ちょうどよくエンプティがいたようで、机から顔を上げて微笑みを向けた。
エンプティはペンを置くと、そばで作業をしていたヨナーシュに『少しでてくるわ』と声をかけた。
「どうかなさいましたか?」
「街を見て回らない?」
「まあ。デートでしょうか」
「そんな感じ」
「ヒェ!?」
アリスはエンプティを連れて、ホワイト・リィトの街を歩く。
白国の町並みは、非常に綺麗なものだ。きっと優秀な建築家がいるのだろう、洗練された美しいデザインの建築物が建ち並ぶ。
まだ街に関しての知識は浅いものの、小洒落た建物達は非常に気に入っている。
リーベが出店する場所を用意するといっていたが、どこにカフェが入っても馴染むような所ばかりだ。
それに破壊行為を行ったものの、アリスが即座に修復をした。そのため、国民は以前と変わらぬ生活を続けていた。
――魔王が直接支配しているという、変更点はあるが。
だが修復作業が必要ないということは、他に目を向ける余裕があるということだ。
どうせ飲食事業はアリスの名を伏せることだし、広がるのも時間の問題だろう。
(学者や学生が多い国だ。魔術連合国のメインストリートのように、紅茶を飲みながら、勉強のしやすい環境を作っても良いかもしれないな)
『食べたいものを作ってもらっているだけ』などといいつつも、アリスもそこそこ事業にのめり込んでいる。
結局は彼女も、自分の考えたことが受け入れられるのは嬉しいのだ。
実際に美味しいのだから、それをただ共有したいということもあるのだが。
「きゃあ!」
「……ん?」
突如として耳に届いた悲鳴。角からでてきた女が、アリスの存在に気付いたのだ。
まさか魔王たる彼女が、こんな大通りを闊歩していると思わなかったのだろう。
以前の魔王・ヴァルナルは地下霊園に篭っていて、ホワイト・リィトに住んでいる者達は比較的安全だったから。
「ひ……」
「魔王だ……」
「見ちゃいけません!」
悲鳴を上げた女を皮切りに、住民たちが蜘蛛の子を散らすかのように逃げていく。
彼女に向けられている視線は、恐れだ。彼女の行った――生と死を繰り返す残虐な行為は、人々の記憶に、体にありありと刻まれている。
残った人間もアリスが歩くたびに避け、怯えた目で見つめていた。
「なんて不敬な……。あちらの世界から、移住者を募りましょうか?」
「うん?」
「人間共の視線が不愉快ではございませんか。アベスカ国民や、トレラント教教徒を送り込めば、もっと心地の良い国家になるかと思います」
トラッシュでのアリスの立場は、随分と丸いものだ。
国民が慕っているせいで、あまり魔王と感じられない。稀に送られてくる勇者を、悪と思って恨む人間もいるほどだ。
アリスは媚びを売るわけでもなく、ただ虐殺と破壊の限りを尽くしているのに。
随分と認知が歪んでしまったのだな、と他人事のように思う。
アリスを慕う国民や、教徒がこちらにやってくれば、彼女の〝素晴らしさ〟が広まるのも時間の問題だろう。
しかしそれでは、トラッシュのときと何も変わりない。つまらないのだ。
「このままでいいよ」
「承知致しました。私の愚かな進言をお許しください」
「気にしないで、エンプティ」
甘いものを食べたいときもあれば、辛いものが恋しくなる場合だってある。
アリスが二つの世界を手にしたからには、そうやって身勝手に振る舞ったって良い。
「まあ、彼らが私を慕うならば――飴を与えても良いでしょ」
「飴でございますか?」
アリスを畏れ敬う者には、飴という名の慈悲を。
アリスを忌み嫌う者には、鞭という名の絶望を。
天国で甘い蜜を吸いたいか、地獄で業火に焼かれるか。それを選ぶのは住んでいる人間や、様々な種族達だ。
王たるアリスはそれらの生殺与奪の権利も、すべて握れる。だがたまには、選ばせてやってもいいかとも思ったのだ。
恐怖に支配されている今、天使か悪魔、どちらの手を取るか。
それは住んでいる人間が決めれば良い。
「……自分で決めたのだから、未来がどうなろうとも知ったことではない……」
「アリス様?」
「なんでもなーい」
『――アリス様ッッ!』
その時。通信魔術が、アリスの頭の中に響く。声の主はハインツだった。
「どしたの」
『他国の動向を探っていた部下よりッ、ト・ナモミに勇者が召喚されたとの報告を受けましたッッ』
「今回はそっちか」
相も変わらず、トラッシュは〝神が捨てた勇者のゴミ箱〟として活躍をしている。
そこそこの頻度で勇者が召喚されては、アリスが捻り潰す。それだけを繰り返している。
アリスはトラッシュの殆どに手を出しているが、完全に統治したわけじゃない。
勇者が入り込める隙を作ってやり、反乱の機会を与えてやるのだ。
少しの間の希望と、もしかしたら明るく開けるかもしれない未来を描いてやる。そして美しく輝く行く先を、粉々に砕いてやるのだ。
アリスを崇拝し、狂っている連中は――そんな行為を語り継ぐべき物語と呼ぶ。
『事前調査の編成は組んでありますッッ! いつでもお待ちしておりますッ!』
「オッケー」
『ト・ナモミの派遣部隊によるとッ、相手のレベルは99とのことですッ!』
「ありゃあ、だいぶ弱っちいねえ。可哀想に」
いくら〝トラッシュ〟――ゴミ箱とて、今回の勇者に関してはあまりにも悲惨だ。
アリスにとって赤子の手をひねるように、終わってしまうことだろう。
だが、だからといって。手を抜くわけにはいかない。
アリスは神格化されたことで、より神にとって必要な存在になった。今後の死亡する確率は格段に減ったものの、それで甘く見てはいけないのだ。
常に全力で魔王を演じて、他の神々を楽しませる。
そうすればアリスも魔王を続けられる。ずっとこの楽しい世界で、やりたいことをやっていける。
それに勇者に対して全力で応じることは、彼女にとって苦労を強いることではない。
勇者を手のひらの上で弄んで、最後の最後で突き落とす。絶望に顔を歪める勇者を見るのは、アリスも大好きだった。
その顔のためにも、アリスは今日も今日とて魔王を張り切るのだ。
「リーベに報告をしたら、そっちに向かうよ」
『はッッ、お待ちしておりますッッッ!』
通信を切ると、エンプティが不思議そうに見つめているのに気が付いた。
通信魔術の音声を共有していなかったため、アリスの会話内容が分からなかったのだ。
アリスはハインツから受けた報告を、エンプティにも伝える。新たな勇者が現れたことは、エンプティにとっても仕事が増えたことになる。
「では参りましょうか、アリス様の世界へ」
「そうだね。今回の勇者も楽しみだ」
アリスは嬉しそうに〈転移門〉を開く。
まだ見ぬ勇者に思いを馳せながら、彼女は門の中へと消えていった。
リーベは他の幹部と異なり、国を取り仕切った経験はない。上に立って指揮を執ることはあっても、国全体をまとめ上げたことはなかった。
だから国の権限を移行するのは、時間をかけて行うことになった。
白国としても人員の入れ替えや、周知、先程のような裏切り者をあぶり出すためにも、即座に入れ替えるのは望まなかった。
奇襲にやってきた団体――反乱者たちは、それぞれ街の広場に吊るし上げられた。
彼らはよっぽど信頼が厚い人間だったのか、それからアリスに歯向かう人間はでてこなかった。
アリスはその後、フルスからいつもの通り〝呼び出し〟を受けた。
万が一、今後の強敵に備えて、神格化するという話を受けた。
アリスは魔王の身でありながら、神の使者になるということになる。
それ自体に対しては特に疑問も問題も浮かばなかったが、デュインズをフルスが管理することになった理由は、あまりにも衝撃的だった。
そんなミーハーな神様がいるのだなぁ――と思いながらも、たかが一つの世界を制圧するだけで新たな力を得られたのだから、幸運であった。
神格化にあたり、アリスはトラッシュとデュインズを自由に行き来できる力を得た。
〈転移門〉の上位互換といったところだろう。
いちいちフルスの生成した門を経由しなくていいのは、本当に革命的だった。
ただし適応されるのは神格化されたアリスだけで、幹部たちは相変わらず無人島を経由しなくてはならない。
だがアリスが〈転移門〉を作るのであれば、幹部たちもトラッシュから直接デュインズに来ることができるのだ。
その点はありがたいだろう。
お陰でアリスは定期的に、息子夫婦と孫たちの様子、そしてデュインズの様子を見に来ることができるようになったのだった。
「母上が行っている飲食店事業を、こちらでも展開しようと考えております」
「飲食店事業って。私が食べたいものを作ってもらってるだけだよ」
「ですが世界中に、喫茶店の支店が出来ているではありませんか」
「なんでだろうねぇ……」
アリスの好みがたまたま受け入れられたということと、アリスを狂信的に敬愛する者たちが広めたということもあって、喫茶店は勢いを増している。
あまりに多岐にわたりすぎてアリスの管理から外れている場所もあるが、根底にはアリスへの忠誠心が残っている。
定期的にアリスの信者が視察に来るからなのかもしれないが。
「いいんじゃない。知り合いの職人に声をかけておくよ」
「感謝致します。建物はこちらで用意させて頂きます」
「はいよ。ヴァルナルとの戦争もあったし、マザー・フリルにも声をかけてみるね」
「では孤児院の設立も並行――」
その時、とんとんと扉が叩かれた。
入ってきたのは困り顔のミライアだった。頬には薄く引っかき傷が残っているが、魔人化していることもあってゆっくりと治り始めていた。
「あなた、お義母様。お話中失礼致します」
「いいよん」
「どうした」
「リーラがぐずってしまって。『とうさまじゃないといや』と言って聞かなくて……」
「……はあ。母上。少し外します」
「はいはい。丁度いいから休憩しなさいな」
「ええ、そうします。喫茶店の件は、お願い致します」
アリスはリーラのもとへと急ぐ二人を見送りながら、ゆっくりと腰掛けた。
この部屋はリーベがわざわざ用意してくれた、王城の一室。
アリスは別に事務作業もしないし、読書を嗜むわけでもない。もっと言えばこの国の管理は、リーベに任せている。
だから本当ならばこのような部屋はいらない。しかし息子からの厚意として受け取ることにした。
実際、自在に行き来できる能力を得てからは、頻繁に出入りしている。部屋があったほうが便利なのは事実だった。
「〈転移門〉」
部屋に突如として生成したのは、トラッシュの魔王城に繋がる〈転移門〉だ。
場所はエンプティの書斎。
ちょうどよくエンプティがいたようで、机から顔を上げて微笑みを向けた。
エンプティはペンを置くと、そばで作業をしていたヨナーシュに『少しでてくるわ』と声をかけた。
「どうかなさいましたか?」
「街を見て回らない?」
「まあ。デートでしょうか」
「そんな感じ」
「ヒェ!?」
アリスはエンプティを連れて、ホワイト・リィトの街を歩く。
白国の町並みは、非常に綺麗なものだ。きっと優秀な建築家がいるのだろう、洗練された美しいデザインの建築物が建ち並ぶ。
まだ街に関しての知識は浅いものの、小洒落た建物達は非常に気に入っている。
リーベが出店する場所を用意するといっていたが、どこにカフェが入っても馴染むような所ばかりだ。
それに破壊行為を行ったものの、アリスが即座に修復をした。そのため、国民は以前と変わらぬ生活を続けていた。
――魔王が直接支配しているという、変更点はあるが。
だが修復作業が必要ないということは、他に目を向ける余裕があるということだ。
どうせ飲食事業はアリスの名を伏せることだし、広がるのも時間の問題だろう。
(学者や学生が多い国だ。魔術連合国のメインストリートのように、紅茶を飲みながら、勉強のしやすい環境を作っても良いかもしれないな)
『食べたいものを作ってもらっているだけ』などといいつつも、アリスもそこそこ事業にのめり込んでいる。
結局は彼女も、自分の考えたことが受け入れられるのは嬉しいのだ。
実際に美味しいのだから、それをただ共有したいということもあるのだが。
「きゃあ!」
「……ん?」
突如として耳に届いた悲鳴。角からでてきた女が、アリスの存在に気付いたのだ。
まさか魔王たる彼女が、こんな大通りを闊歩していると思わなかったのだろう。
以前の魔王・ヴァルナルは地下霊園に篭っていて、ホワイト・リィトに住んでいる者達は比較的安全だったから。
「ひ……」
「魔王だ……」
「見ちゃいけません!」
悲鳴を上げた女を皮切りに、住民たちが蜘蛛の子を散らすかのように逃げていく。
彼女に向けられている視線は、恐れだ。彼女の行った――生と死を繰り返す残虐な行為は、人々の記憶に、体にありありと刻まれている。
残った人間もアリスが歩くたびに避け、怯えた目で見つめていた。
「なんて不敬な……。あちらの世界から、移住者を募りましょうか?」
「うん?」
「人間共の視線が不愉快ではございませんか。アベスカ国民や、トレラント教教徒を送り込めば、もっと心地の良い国家になるかと思います」
トラッシュでのアリスの立場は、随分と丸いものだ。
国民が慕っているせいで、あまり魔王と感じられない。稀に送られてくる勇者を、悪と思って恨む人間もいるほどだ。
アリスは媚びを売るわけでもなく、ただ虐殺と破壊の限りを尽くしているのに。
随分と認知が歪んでしまったのだな、と他人事のように思う。
アリスを慕う国民や、教徒がこちらにやってくれば、彼女の〝素晴らしさ〟が広まるのも時間の問題だろう。
しかしそれでは、トラッシュのときと何も変わりない。つまらないのだ。
「このままでいいよ」
「承知致しました。私の愚かな進言をお許しください」
「気にしないで、エンプティ」
甘いものを食べたいときもあれば、辛いものが恋しくなる場合だってある。
アリスが二つの世界を手にしたからには、そうやって身勝手に振る舞ったって良い。
「まあ、彼らが私を慕うならば――飴を与えても良いでしょ」
「飴でございますか?」
アリスを畏れ敬う者には、飴という名の慈悲を。
アリスを忌み嫌う者には、鞭という名の絶望を。
天国で甘い蜜を吸いたいか、地獄で業火に焼かれるか。それを選ぶのは住んでいる人間や、様々な種族達だ。
王たるアリスはそれらの生殺与奪の権利も、すべて握れる。だがたまには、選ばせてやってもいいかとも思ったのだ。
恐怖に支配されている今、天使か悪魔、どちらの手を取るか。
それは住んでいる人間が決めれば良い。
「……自分で決めたのだから、未来がどうなろうとも知ったことではない……」
「アリス様?」
「なんでもなーい」
『――アリス様ッッ!』
その時。通信魔術が、アリスの頭の中に響く。声の主はハインツだった。
「どしたの」
『他国の動向を探っていた部下よりッ、ト・ナモミに勇者が召喚されたとの報告を受けましたッッ』
「今回はそっちか」
相も変わらず、トラッシュは〝神が捨てた勇者のゴミ箱〟として活躍をしている。
そこそこの頻度で勇者が召喚されては、アリスが捻り潰す。それだけを繰り返している。
アリスはトラッシュの殆どに手を出しているが、完全に統治したわけじゃない。
勇者が入り込める隙を作ってやり、反乱の機会を与えてやるのだ。
少しの間の希望と、もしかしたら明るく開けるかもしれない未来を描いてやる。そして美しく輝く行く先を、粉々に砕いてやるのだ。
アリスを崇拝し、狂っている連中は――そんな行為を語り継ぐべき物語と呼ぶ。
『事前調査の編成は組んでありますッッ! いつでもお待ちしておりますッ!』
「オッケー」
『ト・ナモミの派遣部隊によるとッ、相手のレベルは99とのことですッ!』
「ありゃあ、だいぶ弱っちいねえ。可哀想に」
いくら〝トラッシュ〟――ゴミ箱とて、今回の勇者に関してはあまりにも悲惨だ。
アリスにとって赤子の手をひねるように、終わってしまうことだろう。
だが、だからといって。手を抜くわけにはいかない。
アリスは神格化されたことで、より神にとって必要な存在になった。今後の死亡する確率は格段に減ったものの、それで甘く見てはいけないのだ。
常に全力で魔王を演じて、他の神々を楽しませる。
そうすればアリスも魔王を続けられる。ずっとこの楽しい世界で、やりたいことをやっていける。
それに勇者に対して全力で応じることは、彼女にとって苦労を強いることではない。
勇者を手のひらの上で弄んで、最後の最後で突き落とす。絶望に顔を歪める勇者を見るのは、アリスも大好きだった。
その顔のためにも、アリスは今日も今日とて魔王を張り切るのだ。
「リーベに報告をしたら、そっちに向かうよ」
『はッッ、お待ちしておりますッッッ!』
通信を切ると、エンプティが不思議そうに見つめているのに気が付いた。
通信魔術の音声を共有していなかったため、アリスの会話内容が分からなかったのだ。
アリスはハインツから受けた報告を、エンプティにも伝える。新たな勇者が現れたことは、エンプティにとっても仕事が増えたことになる。
「では参りましょうか、アリス様の世界へ」
「そうだね。今回の勇者も楽しみだ」
アリスは嬉しそうに〈転移門〉を開く。
まだ見ぬ勇者に思いを馳せながら、彼女は門の中へと消えていった。
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