魔王アリスは、正義の味方を殺したい。

ボヌ無音

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後編 第四章「楽園の守護者」

魔王流の休息

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 相変わらず一行は、ベルが先を歩き道を作りながら進んでいる。
 数十分と経過したはずだが、何かが見えてくる様子もない。地図上は小さな島に見えたものの、やはり人型の生命体が歩くには大きい島だった。
 一日で終わるはずのない探索なのだろうな、と痛感する。

 あまり代わり映えのない景色のなかを歩んでいると、後方から激しい爆発音が届く。
 驚いたアリスは、急いで後ろを振り返った。

「え、なになに!?」
「後方で爆発が起こりました!」
「あ、ほんとだ……」

 黒い煙が空へ登り始め、何かが爆発したのだと分かった。
 通ってきた道に、そんな危ないものがあったのだろうかと不安になる。
 アリスたちは問題ないだろうが、普通の人間が二人いるのだ。もしも今後、先でそういう爆発物が待ち構えているならば、人間を保護しなければならない。

「帝国だろうな」
「! ダニー、知ってるの?」
「え、あ、ああ」

 先程から、アリスは魔王たる演技をしていない。
 いちいち切り替えるのが面倒になったのが大きな理由の一つだが、アレックスもあれだけ警戒していることだから、そこまで威圧しなくても良いと思ったのだ。
 別に仲良くしたいつもりも、するつもりもない。
 ただ、守るべきタイミングで、変に逃げたり動いたりされるのが困るだけだ。多少はこちらの言うことを聞いてくれるように――アリスへの意識改革である。

 それはそうと、後方の爆発は帝国によるものであった。
 砂浜はそれなりに広めであるから、そこで寝泊まりも可能だが――彼らはもっと滞在しやすい場所を作っているのだ。
 帝国兵は衰えていないし、パルドウィンのように少数で来ているわけじゃない。
 だから拠点を作成するのも苦ではないのだ。
 いちいち木を切り倒すのもいいが、爆破させて更地を作ったほうが簡単だ。

「日帰りは無理だからな。ああして拠点を作っているんだ。聞いたことがある」
「豪快~」
「俺たちはどうするんだ?」
「ん? これさ」

 アリスはエンプティのスキル〈亜空間ポッシビリティ・完全掌握ブラックホール〉を発動した。
 これは簡単に言えば、収納魔術だろう。
 だが普通の収納で用いる魔術空間と違うのは、この亜空間のなかはスキル保持者の思うような世界を創造できるということ。

 アリスが魔王城を手に入れる前は、エンプティのスキルにより一時的にそこで活動をしていた。
 すぐに魔王城を手に入れてしまったため、使われた日数自体は大したことはないが、それでもその能力は十分に発揮できた。
 その気になればこのスキルの亜空間内に、国を作ることだって可能だ。相当な労力がかかるため、アリスもエンプティもやるつもりはないが。

 そんなわけで、永久の庭を探索中の彼らの〝宿〟は、この亜空間に生成された屋敷になる。

「入りたくないなら野宿になるけど……」
「な、なんですかそれは……」
「魔術空間を作るスキル。入ってみる?」
「いいのか?」
「だっ、ダメです! ダニーさんは主戦力ですから、僕が先導します!」
「あ、そう」

 まず、アレックスが空間へと足を踏み入れた。
 きっちり剣に手をかけているあたり、警戒心は消えていないようだ。
 しかし入った瞬間、その警戒は消え去ってしまった。

 目の前に現れたのは、亜空間とは思えない光景。
 王城の庭のように手入れされた庭、蝶が舞い花が咲き誇る庭園。石畳を歩いた先にあるのは、落ち着いた色味の屋敷。
 華やかな庭園と対を成しているように見えるが、その落ち着き具合が妙にマッチしている。
 人の気配がなく不気味ではあったが、その庭と屋敷はそれらを払拭するには十分だった。

「ふ、ふわぁああ!」

 予想もしない光景に、アレックスは警戒を捨てて感動をしている。
 年相応に目を輝かせている姿は、先程までの威嚇するような姿を考えれば微笑ましい。
 指摘してしまえば、また警戒心ダダ漏れの子猫に戻ってしまうと思い、アリスはあえて触れなかった。

「今は人がいないけど、あとでホムンクルスとかスライム作るから、食事はそいつらに作ってもらうよ。お風呂もあるし、ベッドも高級品で揃えたから」
「すげぇな……」
「ふふふ、ありがとー」

 これにはさすがのダニーも驚いている。
 もともと規格外の魔王だとは知っていたが、ここまでとは想定できなかった。
 アリスは旅行は現地の方法で楽しむのが好きだが、今回は安全に休める場所があるわけではない。オリヴァーたちと旅をしていたときの野宿ならばまだしも、今は何が起こるかわからない未知の島だ。
 できるならば野営は避けておきたい。
 連れているものたちのレベルも低いことだし、常に警戒を強いる探索は体力も精神力も消耗する。
 であれば、休息くらいはしっかり取りたい――取らせたいのだ。

「この空間に入れるのは、私ともう一人しかいないから。例え外で戦争が起こってても安全だよ~」
「そいつは恐ろしい……」

 空間を披露して安全性を確認させると、アリスたちは外へと出てきた。
 相変わらず草木が茂り、鬱蒼としている森のなかに戻ってきたのだ。
 遠くには帝国兵の声が聞こえ、着々と拠点が出来上がっているのだと分かる。それに対してト・ナモミの声が聞こえる様子がないが、彼らもまた何かしら寝泊まりする術を作っていることだろう。

 そんななか、アリスは違和感を覚えた。
 ――先程、発動した魔術の気配がないのだ。

「……ん?」
「アリス様、どーかしましたか?」
「〈そよ風のブリーズ・踊り子ダンサー〉が消えた……?」

 アリスが送り出していた二つの魔術が、フッと消えた。
 〈そよ風のブリーズ・踊り子ダンサー〉とアリスとは、完全な繋がりがあるわけではない。アリスの魔術は完成されたもので、踊り子は独立して動いている。
 術者が弱ければ勝手に消えることもあるが、今回踊り子を召喚したのは他でもないアリスだ。
 使命を果たしてアリスのもとに情報を持ってくるまで、彼女は消えることがない。

 となるとつまり、踊り子を消した何かがいるということ。
 Bランク魔術となれば、消せる存在はある程度いるだろう。アリスによるバフがついた踊り子であってもだ。
 だがそうだとしても、同等のBランク――もしくはAランク以上の魔術が使えるものだということ。
 Aランクは英雄の領域とされ、使える人間も限られてくる。勇者のような選ばれた存在くらいしか扱えないのだ。

 つまりこの最奥には、勇者レベルの強大な存在が待ち構えている可能性があるのだ。
 むしろそれほど強くなければ、誰も帰らない島なんて伝説は出来上がらない。

「アリス様の魔術を消せるとはッ!」
「うん。びっくりしたよ。この島は、本当に何かがあるんだろうねぇ」
「どこで消えたのでしょうかッ!?」
「五感が繋がってるわけじゃないから、そこまでは分からないな……」
「では引き続きッ、警戒をしておきますッッ!!」

 アリスたちは、更に奥へと足を進めた。



「アリス様!」
「おお……」

 先導していたベルが、声を上げた。木々がなくなり、広場に出たのだ。
 アリスが見れば、そこには石造りの遺跡があった。とてもいびつで、雑草が生い茂っている。
 さほど高さはなく、中も二階もないほどに低そうだ。
 森の中にぽつんと存在し、この遺跡のために周りの木々が干渉しないように、あえて伐採されているようだ。
 まるで見つけてくれと言わんばかりの姿だった。

「ふむ。入ってみようか」
「はいッッ!」

 アリス、ハインツをはじめとした魔王軍はズンズンと、容赦なく遺跡へと足を踏み入れた。
 しかし、パルドウィンから連れてきた二名は、入り口で立ち止まっている。
 原因はアレックスだ。
 青い顔をして、暗い遺跡の中を眺めるだけで、進もうとしない。

「う……」
「アレックス、怖いのか?」
「こっ、怖くありません!」
「無理はするな。あの女なら、きっと許してくれる」
「……嫌です。魔王の慈悲など……」
「はあ……」

 意地を張っていても、アレックスは年相応の少年だ。暗く、未知の遺跡など恐ろしく感じてしまう。
 だが忠誠心とプライドが凝り固まった彼にとって、アリスに助けを求めるのはもっと嫌だった。
 意を決して、あの女魔王のあとをついていく。
 ダニーもそのあとを、ため息をつきながら追った。

「んー、地下が深そうだ。かと言って〈そよ風のブリーズ・踊り子ダンサー〉が消えたのはここじゃないみたい」
「あの魔術の性能なら、もっと奥に行っててもおかしくないですよね!」
「うん。だからここじゃないね。とりあえず探索してもよさそうだ」
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