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12-1:嵐のキス

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12-1:嵐のキス


 突然のことに、二人はただ見守るしかなかった。

「あぁーーん あぁーーーん」


 悲しさをこらえきれずアヤンは、ミサキの胸に飛び込んだ!


「あたちの好きな人
 あたちの好きだった人 ウェーーン


 あたち、そこ行ったもん!
 おばーさんの言うこと良く聞かずに!


 一人で行ったもん…

 そしたら、

 そしたら、
 そしたら~! 


 好きな人の名前書いたら、書いたら…
 次の日、その人


 死んじゃった~~!
 ウエーン ビビェーーーン」
 


「うぉ!!」


「そ、そんなぁ~~」


「ただの偶然だろぉー?
 だから、この手の話はやなんだ!


 誰? 誰のこと? 死んじまったっ…て?
 まさか! まさか!」

「ミサキぃ~~~~! 

 うわーーーん!
 

 ごめんなさーぃ!

 ずーっと好きだったの!


 俺も好きだよって。
 いつか結婚しよーって。


 ずーっと ずーっと好きって~
 うわ~~~ん」


「い、一番上の兄貴… そーなのか?」


「うわーーーん~~~~ わーーーん」


 アヤンは首を振った。


涙はいつまでも止まらず、ミサキはアヤンを強く抱き泣き崩れた。


カナも二人を抱き泣きじゃくった。



 アヤンが初めて明かす好きな人の話…。


彼女は、恋した相手が星になっても、ずっとずーと思っていたのだ…。



 そして、そこへイリがドアを開け、体にほどけた洗濯紐をぐるぐる巻き、ヘッドフォンを手に、三人がいる寝室へ入って来てしまった…。


 そう、イリは何しでかすか分かったもんじゃないと、密談を聞かれないよう三人は、最悪の方法をとっていたのだった。


でも、どうやら巻きがあまかったようで、平常心に戻ったイリにほどかれていた…。


ヘッドフォンからは、流行の歌がシャカシャカ鳴っていた…。


「な! なによこれ! 
 なんであたし縛られてた訳~?!


 どーいぅことぉよ~ なんとかいいなさーぃ 

 きみたちぃ~!

 え~~! えーーー!


 どしたの~! なんで泣いてる~
 何が起こったのぉ~!?


 アタシが縛れて、

 ボーッとしてる間に危険なことが??」


 訳が分からず涙ぐむイリも三人を抱きしめた。

「くるなー お前は来ちゃダメー わーーん
 俺も、俺も、お嫁さんにしてあげるーって言われたー


 まぁ 妹だし。兄貴はおやじ代わりだったしぃ~~
 ビビビッビェーーン ウワーーーーン!」

「あぁ わたくしもまだまだ、小さかった頃…
 一番べっぴんさんだねぇ~


 結婚してあげるーって ウェーーン」

「ビェーーーン ウェーーンン
 アタシのファーストとキッス


 死んだおにーさんだったよぉ~ 
 イリちゃんは、俺のお嫁さんね~って


 ウワワーーン」


 イリがとどめを刺した!

 アヤンはピタッと泣き止んだ…。


『こ、こ、こっ子供の頃の戯れ言…かぁ~…
 ずっと好きだって内緒にしてた…あたちの立場は…
 ウグワウォォーーーー!』


 アヤンは体中をピクピクさせ、炎を吹いた!

ズゥゴォーーーボボボボボー

 彼女はまだ泣いてるイリを丁重に居間へ追いやり、すごい力でドアを閉めた!


その衝撃で、カナもミサキも、イリも、洋館の屋根で寝ていたデブ猫も飛び上がった。

 そして、ミサキとカナは、


「あ~~~!」っと気づき、涙は止まってしまった…。

「…あ。アハハハハ…なーるほどぅ
 ば、馬鹿な兄貴め~ ね?」


「お、オホホホホホ… まぁ
 そーいうこともありますわよ ね~?」


 二人は引きつり笑いのまま見つめあい、そーっとアヤンの様子を伺った。


「でも、好きなのは。ほ、ほんとだもん…
 あそこに書いたから死んじゃったと…


 怖くてずっと秘密にしていたにょ…
 ごめんね…ミサキ…」


 アヤンはまた泣きそうになっていた。

「ギャッハハハハハハハハハ」


 するとミサキは腹を抱えて笑い出し、 


「…あは…はははははは」


 アヤンも釣られて笑い出すと、


「あ…ぁ あは…ぁぁあはははははは~」


 カナも笑い、三人は笑いに包まれていった。





「うぇーーん なんで今度は笑ってるの~
 なんで仲間はずれなのぉ~ なんかアタシしちゃったーのぉ~?


 何にも覚えてないよ~ ウェーーン」


 イリは悲しくて、開けたくて、開けたくて我慢していた。窓辺のカーテンの中に潜ってしまった。
 
 窓から顔を覗かせると…。


『あれ犬だ。 今度は、ダルメシアンがいるぅ~
 でも、なんか変な汗かいてる?


 エグエグ ヒックヒック』

 きんつばは、何時間もご主人様からの命令が無いまま、そこに座り続けていた。

お腹が空き過ぎて、今にもぶっ倒れそうだ…。

『タカオミいないのかな~ 今頃何してるのかなぁ
 さみしいよぉ~ん』


 タカオミの部屋はカーテンが閉じられていて、イリはとても寂しくなってしまった。





 だが、愛しの彼は…


暗くなる部屋の椅子に腰掛けたまま、言葉の呪縛に囚われ”穴”だけを見つめていた。


そして、


『シ・ニ・タ・ィ…』と繰り返し、


『デ・モ・…イ・チ・ゴ・ア・ジ・マ・ヨ・ネ・ー・ズ・ガ・ナイ!・ノ・ハ・ナ・ゼ・ダ・ロ・ウ…』とも、思っていた。





「そだっ! 報告しなきゃ~ キャー♪ メールメールゥ~♪」


 イリは、携帯でメールを打ちかけた。

『あ! うふふふふ~
 初めて二回のうちの一回を


 つかおぅううう♪ 大丈夫だよ。
 約束まもってるも~ん♪』


 ドキドキしながら、声を聞きたいと携帯をかけてしまった!


呼び出し音が鳴り何度か目で、留守番サービスに繋がった…。イリはがっかりしたが、

「イリでーっす。 かけちゃったー。

報告しなきゃーと思って。あは♪ 


でも直接話したいから~ 

もう一回だけかけれるよね~ 


うふふ 愛するタカへ チュ♪」


 と、メッセージを残した。

『あはん。もう一回! もう一回!
 果たしてイリちゃん。


 本日、彼氏様と話せるのだろうかぁ~
 二回目はいつかける? 家に帰って夜かな?』


 自問自答してると、外が騒がしくなった。

「ん? クマが犬に追っかけられてる。あはは」


 マドレーヌはまた、きんつばに追われ、腹ペコの犬に食われるんじゃないかと必死で逃げ回っていた。


視界から消え、犬の吼える声だけになったと思ったら案の定、イリのいる所へ来て、例のごとく窓をガリガリし始めた。

ミギャーーー ギャギャーー

「また、おまえ来たのね~ どしたらここに来れるの?」 


 イリは窓を開け、身を乗り出すと。すぐそこの壁に、植え込みの木から板切れが橋のように作られているのことを知った。


「あー なーるほどぉ~
 あれで来てるのね~♪ さすが猫


 さっささ、さむぃ~閉めよ」


 マドレーヌが部屋に飛び降りると、床に置いたイリの携帯を踏んづけ、どこかにかけてしまった。

ミャーゴ

「あ。こらダメ! あ~!」


 慌てて携帯を拾ったイリは、良く知ってる着信音が、タカオミの部屋から鳴ってるのに気づいた。


「あぁあ! いるんだータカオミー
 寝てるのかなー 早く出ろー


 でかした、クマ! 偉いぞぉー

 気づかせてくれたんだ~♪」


 クマはさっきからずっと、イリにまとわりつきゴロゴロ甘えていた。そして携帯はまた、留守番サービスになってしまった。


「あぁ~ 寝てるんだきっと。
 お絵描きでお疲れなんだよね~クマぁ」


 イリはクマの喉を撫で、抱き上げた。


「でもさ、もし。もしだよ。
 風邪ひいたとか、熱が出て動けないとか…


 食パンに砂糖マヨ付けて食べてばっかりで、
 お腹空いて死んでる~とか…


 なんか心配だなぁ~
 ねぇクマ 様子見てきてよ~ニャ~」

ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ

『ふぅ。 でも…そこに居るのに会えない…
 こんな近くなのに話せない…


 これじゃ、片思いの時といっしょだよぉ~~
 アァーーン』


 どんどん切なくなってくるイリだった。





 タカオミも。イリと話したかった。声を聞いて癒されたかった。でも、その携帯に出ることはままならなかった…。





「それで、アヤンちゃん! 話の続きは?」


「うん!」


「声を潜めろぉ~聞かれるぞ!」


「うん、詳しく話すとね……」


 アヤンはボソボソと、自分がその部屋へ行った時の話をしはじめた。


「………」


「え? 期間限定? やっぱ霊感商法だ~」


「神出鬼没ぅ~なのぉ? ふむぅ~」


「あたちも、たまたま偶然その占いの館の前
 とーっただけなにょ
 

 紫色の小部屋こっそり覗いたら
 目の前におばーさんがいてぇ 


 びっくりして、

 あたちが逃げようとしたら」

『怖くないよ。おチビちゃん。
 さーおいで、おまえさん、その歳でヘビーな片思いしてるね?


 取って喰いやしないよ。ほらほら。
 こー見えてもあたしゃ、子供好きなんだよぉ~♪』

「すぐ見破られたと思って。
 おばーさんのこと、魔法使いだ~って信じちゃったの」


「うん」


「それからーそれから~?」
 聞き耳を立てる、カナとミサキはアヤンの話しに夢中だった。





「きんつばー スマンスマン

 お前のこと忘れてた。 キャハハ ほらよっ」


 犬は、ご主人様の声にマドレーヌのことは忘れ、大盛りの餌にがっついた。


「あ。こんばんわー ナナさんでしたっけ?」


 イリが気づき挨拶をした。


「お。恋する高校生だー そこがあんたの部屋?」

 うんこ座りのナナは見上げた。


「いぇー ここは、大家。風祭さんの部屋でーっす」


「そこかぁーー その部屋いいなぁ~
 そこなら、いつでも、彼の顔見れるな。


 こっちの洋館は空き無かったしなぁ がっかりだよぉ」


「ナナさんの彼氏って~ シオンさん?」

 

 イリはなんとなく聞いてしまった。


「誰?」


「あぁ 眼鏡男さんだ~」


「誰だそれ?」


『双子はどっちがどっちだっったっけ?

 どっちも女だっけ?


 まだよく分からないや あはは』


「あぁー じゃー上の階の誰か?」


「んふふ~ 知りたい年頃だねぇ~
 教えてやろう。


 ここに住んでるよ~
 ここここ。


 この部屋~♪」


 ナナはタカオミが彼だと、両手を大きく振って教えた。

イリの中で何かが弾けた!
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