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16:運命のキス

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16運命のキス


「ヨッシーさん。この占い師に会いに行くの?」

「行こうとしてたら君たちが来たんだよ~

 ドアで叩かなくてもいいじゃないか~

 酷い奴らだなぁ ったくぅ!」

 ヨッシーはヤッスーを介抱しながら言った。

「え? なんの話し?

 俺ら来たときお前ら寝てたんだぜ?

 だから起こした」

「えぇ そうですわ~

 100均の下着被って…

ハレンチな姿で… ハァ~」

「い、今なんて?」

 ヨッシーの声は震えた。

「どの部分だよ?」

 ミサキが聞いた。

「あぁー!! こいつぅ~ この野郎めぇ~

 お宝だって言いながら。

 100円均一の渡してやっがったのかー!!

 メグミさまーんの下着だ~って思って

 必死で頑張ったのに~!」

 ヨッシーはそのことを知り、

「お前なんかもーこっちに戻って来るんじゃねぇ~!」

 ヤッスーの頭を床にゴンゴン叩きつけた!

ギィ~

 ドアの開く音がし、

「あん? あたしの下着がどーしたって? 2号!」

 メグミが露出の激しい格好のまま、尻をポリポリかきながら入って来た。

「うわぁああああ~ おねぇ~さまぁーん!

 まままままさかぁーー そんなぁ~ 

 ちょちょちょっとした言い間違いですよぉ~

 そうそう、僕の下着がね100均なんですよぉ

 すぐ破けて大変って話しで~っすぅ…

 ていうか、お久しぶりで~っす♪

 メグミさまぁ~~~ん!!」

 ヨッシーは混乱と興奮がごっちゃになり、

這いつくばったまま、

メグミの足に絡み付こうとした。

「良く見ろ! これがあたしの最高級パンティーだー!

 あんな安物履くわけねぇーーー!!」

 メグミはミニスカから伸びた、むっちりした足を思いっきり突き上げた。

「ノーパンギャーーーーッ」

 ヨッシーはメグミのそこを見た瞬間鼻血を噴き、

思いっきり腹を蹴られ押入れに激突した。

その衝撃でふすまが外れ、

まだ値札の付いてる下着が雪崩を起こし宙を舞った。


 ヤッスーと折り重なるように倒れ。悶絶したヨッシーは、

落ちてきた下着に埋もれていった。


16-1 運命のキス

「ゲロゲロゲローー!!!

 …やっぱ来るんじゃなかった…。

 もういいよぉ~ カナ! 帰ろうぜ~!

 あとは、俺らでなんとかするべ~よ!」

 舞い落ちる安物下着を、

ササッと払いながらミサキは言った。

「だ、ダメよ! 噂の解明は早いに越したことないもの!

 そーしないと”恋人たちの部屋”が、

 遠のいて行くかもしれませんわー!」

 カナも下着をスッスッと避けていた。

「ばか弟と一緒に死ね! ふん!」

 メグミは手をパンパン叩いて埃を払った。

「あー あんた。タレントの”メグミさまん”じゃん!

 見た顔だと思ってたんだよ~♪」

 ミサキが指をさしながら言った。

「あらまぁー という事はヤッスーヒロさんの

 おねーさまなんですの?」

「頼むそのことは内緒にしておいてくれ!

 分かるだろう? お願いだよ~!!」

 メグミは下着の山から足を出してる

弟を見て肩を落とした…。

「うん分かる分かる~

 火でも付けて燃しますか~ ぎゃははははは~」

 ミサキは納得した。

「ところで、ベイべーたち。

 さっき言ってた”恋人たちの部屋って何?」

 メグミは興味津々に顔を近づけてきた。





「ただいまーー! アタシ頑張るよ!

 すっごぉーーぃ頑張るんだぁ~!」

 すごい勢いで、肩を怒らせたイリが帰って来た。

「お、おかえりぃー?」

 ママはキッチンで夕飯の準備をしながら、

イリの様子がおかしいと気づいた。

「あ! おかえり…ね、ねーちゃん…?」

 アサトは居間で、手伝いのアイロンがけしながら

イリの様子を伺った。

「何を頑張る?」

 ママとアサトは同時に声をかけた。

「えんげきぶ~ぶ~ぶ~!!」

 そう言うとバスルームへまっしぐら。

「んー どしたぁ? まだ水だよぉ~」

 ママが後を追うと、

イリは制服のまま、シャワーを浴びはじめていた!

「ちょっあんた。何やってんの!」

 ママはすぐに、お湯のシャワーに切り替えた。

16-2運命のキス

 我慢していた…。

泣く声はシャワーにかき消されていた。


「イリーー!」

 ママは心配でたまらず娘に駆け寄ろうとしたが、

「ママ!」

 アサトがママの持ってる包丁をつかんでいた。

「あ、あのね…

 別れたみたい…」

 弟は、そう直感し包丁を受け取った。

「…ぇ そ、そっか、

 恋が終わっちゃったのか…」

 小声で返すと、いきなり。

「あんたも入るぅ~ 久しぶりに母子でぇ~♪」

 ママはセーターの裾をまくりかけた。

「え? えぇええええーー いいです…いいです!

 女同士でどうぞ! ぼ、僕は手伝いの続きしてる~」

 踵を返し一目散に、脱衣所から飛び出て行った。


 ママはそっと手を伸ばし、

我が子をギュッと抱きしめた。

服を着たままの二人は湯気にまみれ、

暖かさに包まれていった。


イリが話し始めた。

「アタシまだ子供だもん。

 子供だからダメだったもん。

 大人にならないとダメだもん!

 だから頑張る」


 イリは必死でこらえていた…。

訳も分からない、全てのことに耐えているように思えた…。


「うんうん。頑張れ。頑張れ! あたしの娘…

 ねぇイリ。女の子はね、

 生まれた瞬間から女なの…

 当たり前だけどそーなの。

 あなたの思う通りにしなさい

 それが正しいのよきっと…」

 母も頑張って無理に笑い、

涙ぐむのをこらえ、娘の頭を撫でていた。


「ママー大丈夫~? ねーちゃ~ん!」

 二人は長い時間バスルームから出てこなかった。

 生まれてから初めて遭遇した

大事件にアサトはうろたえ、

包丁を持ったままアイロンをかけようか、

料理を作ろうか迷い、

それを何度か繰り返し、結局。

脱衣所から、スリガラスの二人に声をかけていた。

「大丈夫。だいじょうぶよ。

 ちゃんとお風呂入ってるから

 晩御飯適当に宜しくね~」

「良かったよぉ~

 僕、心配で心配で~ うん! 

 任せなさい!」

 うるうるした目でアサトは、

キッチンに向かい腕まくりしたが、

そのまま考え込んでしまった…。

「うわっ!

 僕。料理できない!…」


16-3運命のキス

 母子でお風呂に入るのは、

とても久しぶりだった。


 母は娘の髪を洗ってあげ、

娘は母の背を洗い、

「…パパには内緒にしてね…まだ」

 母の肩に顔を乗せ、呟くように言った。

「もちろん言わない。

 言う訳ないじゃない~ 

 家も、誰かさん?の家も。 

 引っ繰り返してくれるに違いないもの~ ハァ

 でも、現段階でのパパは、

 まだまだ安心だって言うことに、

 本人は気づきもしないと言う落ち。

 あはははは」

 母は娘の頬を撫でた。

「あは。

 でも、ママから貰った。

 あの”手紙”

 本当にパパに見せる日が

 来るのかななぁ?」

 と、言い。母の背に湯をかけてあげた。

「来るわよぉ~~!

 こんなに可愛い子に

 貰い手がないなんて、

 世の中の男がおかしい!

 それにあたしたちの間に、

 娘として生まれてきた、

 あなたの宿命でもある~

 さすがのパパもこればかりは、

 どーにもなりません。 

 ふっふっふ♪」


 少し落ち着いたイリは、

頭まで湯につかり揺らめく水底を

大きな瞳で見つめた。


『水の中で泣いたら誰にも見つからないね…』

 ほっぺたを膨らませ、口をすぼめてみる。


ぼわっ 

ぶくぶくぶく…ぶくん


 吐く泡はタカオミの顔になった。

そして消えていった…。


ぶくぶくぶー

ぶくぶくぶくぶく…


 彼の顔だらけ。

現れては消えていく…。


ぶくっ

ぶくん… ボコッ! 

 彼の顔が消えると、

膨らんだ顔が真っ赤になりはじめた。


「しぬぅ~~ ハァハァ ゼェ ゼェ」

 息が続かず顔を出した。

「大丈夫まだ生きてる~♪

 そうそう、息継ぎが肝心なの。

 簡単でしょ息するの?

 あははははははは」

「うん。あはははは」

 バスタブの縁に腕を組み、

顔を乗せたイリも笑った。

「あ! そだ! ねぇママ!」

 町外れの古い洋館知ってる?」

 母は髪を洗いながらイリを見た。

「んー ようかん… 喜六堂のー古ようかん!」

「ちがうよぉ~ 相合傘! 

 ママとパパの”あいあいがさ”見ちゃった。

 絶対パパの字だった。あの部屋ってなに?」


16-4運命のキス


「えー あれ見ちゃったの?

 お金巻き上げられただけの話しよ~

 あたしは、やめようって言ったのに。

 それはまた親子して、

 行動パターンが似てるわねぇ~」

 ママは頭を洗いながら言った。

「大きかったでしょう?

 でかく書き過ぎだって超過料金まで

 取られんだから~」

「そなんだ~ あはははは」

 そう、それは壁一面を覆うほど、

大きかった。

イリはそれを見た瞬間。

『~アホ♪』

 って思っていたのだった。

「おかげで、デート代無くなって、

 すぐ近くの公園で缶ジュースだけ…

 懐かしいぃ~

 あの、おばば。まだ生きてた?」

 目を開けれないママは、

自分の頭を数回指さした。

「オババ?」 

「紫色のおばーさん居なかった?」

 イリはシャンプーの泡を、

シャワーで流してあげた。

「なんとか梅子とか、うめよって言ったかなぁ~

 その洋館に住んでた占い師でさ、

 当時評判だったのよ~」

『うわ! そのおばーさんって…まさか?』

 イリはその部屋で出会った。

二人目のタカオミを思い浮かべた。

「~あそこの部屋に相合傘書くとね。

 相思相愛になれるとかってー」

「え? ほんと?!

 パパとママの場合はほんとうだね~♪」

「でも、ダメダメあんなのうそうそ

 ひっかかっちゃダメよー

 お金無くなって涙出るから…」

「はいはぃ♪

 でもさ、ママほんとにありがとぅ

 息継ぎして~ 演劇部頑張るね!」

「当たり前よ。

 あんた達は、あたしの~

 大事な大事な…

 んーなんか焦げてる!

 あ~忘れてた~ 早く行って行って

 あの子アイロンは上手いのにー」

 イリはバスタオルを巻きキッチンへ急行した。

『あんたたちは。

 あたしたちの大事な宝物~♪』

 鏡に微笑む母だった。 
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