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連載27:モンスター

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連載27:モンスター

*サイトウ

「あぁ…。はい、そうです」
『…どうして一人で東京になんか。
なぜ私になんの相談も無く…、
少し困惑しています…』
「…すいません。
一日でも早くこの件を解明したいと…」
『もう一人は本当に承諾したんでしょうか? どうやって説得を…??』
「そ、それがですね。
行ったらすぐでした…。
自己紹介するとすぐ…」
『…そ、そうですか』
「あの、この事はユウキくんから?
それとも…」
『今はどちらに…?』
「品川のとある医療施設にいますが…、
あぁまさかこっちに来てる…?」
『はい…。
今、奥多摩のクリニックから、
電話しています…』
「あぁあ逢われたんですね…、
なんて言ったらいいか言葉も…」
『…わ、私はどうしたらいいでしょう?
私の物も出来れば』
「あぁはい。
それが一番良いと思います。
体調のほうはどうですか?
問診させて貰えたら…。
それからになりそうです…」
『分かりました…』
「あ、あのミィナさん。
メールした写真の事なんですが…」
『はい…』
「…あれから何も、
思い出せるような事は無いですか?」
『あぁ…、そ、そうですね…』
「本当に何も??
とても重要な事なんです…。
何か思い出したくない様な事が?」
『そ、そんな事はありません!』
「分かりました…。
でも何か分かるような事があったら、
必ず教えて下さい。
お願いします…」

 そしてミィナは、
もう一人にもあの写真を見せていた。
するとふたり共やはり、
あのマンションの事しか思い浮かばず、
ユウキに連れて来て貰っていた。

「ママの言うあの日って…、
本当のパパの命日だよね…」
 ユウキが言うと、
「だから何?
…こんな所来てどうするつもりなの??
私、絶対車からは降りないから!」
「俺、前に一人で来たよ…」
「何しに来たの??
私、…この辺が以前とあんまり、
変わってないってだけで気分悪ぃのに…」
「いいのよ私一人でも行って来るから…。
ごめんねユウキさん。
少し待たせるけど」
「まさか、一緒に行きますよ」
「まぁ、なんでも存分に、
穿(ほじく)り返しておいで。
きっと何も無い」
 後部座席から、
空を見上げているミィナだった。

「やっぱりママ連れて行かないと、
分かる物も分からないのでは?
ミナヨさんここ初めてなんですよね?」
「あぁ、そうね。
でも、あんなに嫌がってるし…」
「もう一度聞きますけど。
何を探しているんですか。
どうしてここに??」
「…ごめんなさい。私にも分からないの」
「今こんな事言うのあれですけど…」
「何? なんでも話して…」
「ここ有名な心霊スポットなんです…。
ママたちは知っていたのかなって…」
「そ、そうだったの…」
「はい…。ネット検索すると、
すぐいろいろ出てきます…」
「それはいつ頃からの話しなの…?」
「正確には分かりません。
分からないけど、
俺が見た動画はかなり古そうでした…」
「動画って…、
心霊動画みたいな?
それ見られないかな…」
「見せてあげたいんですけど、
もう削除されていて…。
ダウンロードもしてなかったから…」
「そ、そうなの…」
「ところでどうします?
管理人に鍵借ります?」
「あぁ…そ、そうね。
貸してくれるのかしら…。
『曰く付きの場所だったなんて…、
いつ頃からなのか気になるな…』」
 ミィナたちは、
そんな噂がある事を全く知らずに、
このマンションで、
暮らしていたようだった。

 彼らはマンションの入り口に来ていて、
管理人室に居る、
あの嫌味な老人の顔をユウキは見ていた。
「あぁ、あんた…。
まさかヤマキタさんの?!
あぁ、とっても懐かしいなぁ…。
元気してた?
何年っていうか、何十年ぶりだね~」
「覚えてますか? お久しぶりです…」
 ミィナは会釈していた。
「覚えてるさ、いろいろあったし。
あぁ、あんたも前に来たっけね。
今度はちゃんと本人連れてきたんだなぁ」
 管理人は、
受付の小窓から彼を見上げると、
「…ども」
 ユウキは軽く会釈していた。

「おいミィナさん来たよ?
ほら死んだヤマキタさんとこの。
覚えてるか?」
 ユウキはその物言いにムッとし、
管理人は、
奥にカーテンで間仕切られた小部屋の、
受付からは見えていない誰かに話すと、
「へぇ~。
まさかまたあの部屋?
モデルルームは公開してないよな?
なんでそんなに人気なんだ…。
こないだの刑事といい…」
 男性の声が返ってきていた。
「刑事!」
『刑事って…?!』
 ユウキも、ミィナも、
その言葉に思わず反応していた。
「警察がここに?」
 ユウキが話すと、
『あぁ余計な事を…』
 管理人はチラッと奥の部屋を見て、
渋い顔をしていたが、
彼は鍵束を持ち外へ出てくると、
ミィナと会えた嬉しさなのか、
マンションを売り込みたいのか、
案内しようとしてくれていた。

 彼はすぐ2階だと、
エレベーター脇の階段を上り、
話しを続けていた。
「そうなのよ。
刑事がね二人来て、
あんたらが住んでた部屋見せてくれって」
「何を調べにですか…?」
 ミィナが聞いていた。
「良く分からん。
しかも、帰り際に一人がさぁ、
すっ転んだのか気絶して大変だった。
最近あの噂消えかけてるのに…。
札幌からだったけど何しに来たんだ…。
まったく…」
『あぁ、まさかミタ刑事…。
休職中の刑事が??
もう一人は…』
 ミィナは、きっとそうだと思っていた。

*202号室

「はいどうぞ。
もうすっかり変わってっから、
懐かしさはないかな?
鍵渡しとくから帰りによろしく」
「ところでおじさん。
なんでこの部屋、
モデルルームとして、
開放しなくなった?」
「え、一階に作ったからだけど?
あ! ちょっと頼まれていた事、
思い出した」
 そう言うと彼は、
そそくさと戻って行った。

 ガチャリと開いた扉。
開けたユウキは先にどうぞと、
ミナヨを先に行かせようとしたが、
「あぁやっぱりダメ…。
姉を連れて来て…」
 彼女は少し怯えたように、
扉から離れた通路に、
俯いたまま立ち止まってしまっていた。
「え? あのママが来る訳ないです…」
「お願い…。お願いだから!」
『ダメここから先は…、
ダメよ行けない。だってそこは、そこは…』

 仕方なくユウキが母を説得しに、
戻って行くと行くと、
ミィナは階下に彼の姿を見ていた。

「何してるの!」
「え?!」
 誰かに声を掛けられたのかと、
通路の向こう側を見るとそこに、
「あぁ…。あなたは…」
 ミィナが居た。
「ユウキなの…?」
 だが彼女は、
その横に居る子供を見ていた。
「何を言ってるの…、
どこからどう見たってユウキじゃない?」
 もう一人のミィナは、
見知らぬ子供と手を繋いでいた。
ミィナが見つめるその子供は、
もう一人の後ろに隠れこっちを見ていた。

「ユウキに無理やり連れて来られた…。
うるさいから…」
「あ、あなたは誰なの…、
あぁまさか、
ユウキの生き返った…。
もう一人…。
そうなのね?!」

 子供は頷く事も、
返事をする事も無く二人は、
見つめあっていた。
すると、
「消えた…?!」
 ミィナが彼女の背に隠れた子を、
もう一度よく見ようとしたが、
居なくなっていた。

「ほら来なさいこっちへ…。
ちゃんと前を見てこっちへ来るの!!」
 もう一人のミィナの語気は荒く、
ミィナを睨んでいた。
「…どこから上がって来たの…?」
「非常階段からだけど…」
「ここには来たく無いって、
言ってたのに…」
「…管理人なんかに、
会いたい訳ないじゃない…。
私たち3人の、
変な噂立ててた張本人なのよあいつ…」
「噂??」
「早くこっちへ来なさい。 
すぐそこじゃない!
早く扉の前に立って…、
そしてそこから真下を見るのよ!!」
「いゃだ…、行きたくない…」
 ミィナは手すりを握りしめていた。

 ユウキは車に母が居ないと、
駐車場からふと部屋を見上げていた。
すると部屋の扉を挟み、
「あぁママいつの間に…、何してる??」
 ふたりが、
言い争っているように見えていた。

「ここに一体何をしに来たんだ!!
なぜ私まで連れて…。
あの時どうだったのか、
知りたかったからでしょう??
私から直接、
聞きたかったからじゃないの…?
違う?!」
 ミィナに駆け寄るミィナ。
ミィナは無理やり、
手すりにしがみついたような
ミィナの手を引き、
ここから2mもないそこへ、
引っ張っていた。

「ここよ?
ここから落ちて死んだんだ!
私はあの辺で振り向いた。
あの辺りよ?
ちゃんと見て!」
「あぁやめて、お願いやめて…!!」
「凄い風がこっちから吹いた…。
そうしたら…、
ユタカはここから真下に落ちて死んだ…。
もう一人は、
風が連れ去ったみたいに消えてた…。
どう?
これで満足なんかしてないわよね?
ほら次は中よ中へ入って、
あの当時の事を楽しく思い出すの!!」
「いぁやああああああ!!
帰りたくない、
その部屋に帰りたくないよぉ!
もぅいい、
もういいの帰る、
私は、札幌に帰る!
私の居場所なんか何処にも無い!!!」
 力無く通路に崩れた嫌がるミィナを、
もう一人はお構いなしに、
引きずるように部屋へ連れ込んでいた。

 チャイムを鳴らすユウキ。 
『開けてくれ…、何してるんだママ…』
 ドアもノックしていた。
戻って来たユウキは、
部屋へ入ろうとしたが、
鍵は内側からロックされ、
彼はママを探しに行く時、
鍵をミナヨに渡してしまっていた。

「お願いここで殺して…。
私を殺して…。
あなたの手で…」
 床に崩れたままのミィナ。
「…だめ~。
みんな終わるの。
あんただけ先に行かせない…。
楽になんかさせてあげない…。
ていうか無理な相談…」
「ねぇお願いよ。
あなたにしか出来ない事よ?
ずっとそうしたかったのでしょう?
私の事憎んでたんでしょう??
だったらここでこの部屋で、
その手で!!」
「…あの声が聞こえあった時…、
あなたと同じ体験をして、
本当に通じ合っていたのか
分からないけど、
私言ったよね?」
「あぁああああ、
あんなの嘘よ!
そんな事ある訳無いよ!!
生き返るなんて、
そんなバカな事がぁああああ」
「…私たちは化け物…。
その運命が訪れるまできっと死ねない…」
「でたらめだ!
さっき居た子供はきっと、
あなたが殺しかけたユウキの幻影…、
あなたはそれを、
生き返ったと思っただけ…。
あの子は人じゃ無い…、
人じゃない何かなのきっと…。
蘇るなんて無い!!」
 睨み返すミィナ。

「…どっちもいいけどさ。
ユタカとユウタが言ったよ?
君は死んではいけないって…。
覚えてるでしょう」
「いぁぁああああああああああー!!」
「泣かないで…、
涙を流しても意味無い…。
これは愛よ?
私たちの大好きな言葉…。
でも、いつか呪いになった。
あいつらが残して行った愛、
それに呪われてみんな死ぬ…。
ケッ…」
「だったらお願い!
最後まで力を貸して、
どうせ消えるのなら、
ギリギリまで私たちの事を!!」
「断ったら?
あなたが私を殺してくれる?
いつでも歓迎よ?
ここを絞めればいい…。
ほら、ほら、ほらぁあ」
 首を差し出すミィナに、
「………あぁ…」
 ミィナに応えられるはずは無かった。

「…まぁ脳みそ切開は私にとって余興ね、
助けてるのかもしれないけど、
あんまり勘違いしないように…」

 チャイムやドアの音が、
ふたりのミィナの携帯も鳴り止まず、
「うるさいなぁ…」
 ミィナはため息を吐く様に、
内鍵を開けていた。

「ママ! 何してたんだよ。
近所迷惑になるだろう…。
ミナヨさん?
どうしたんですか??
ママなんかしたのか?!」
 ユウキは、
フローリングの床に座り込んだような、
彼女を見ていた。
「少し鬱憤(うっぷん)晴らしただけ…」
「何を言ってるんだよ!
彼女の怪我はまだ全快してないんだ!
立てますか?
ソファに座りましょう」
「分かった分かったから、
二度としませんから~。
ちょっと気が晴れたし、
他になんか用ある?
無かったら車に戻ってる…。
あんたらは親子ごっこしといて」
「ママ!!」
 睨んでいたユウキ。
「ところで、
私たちの見分け方はどうなったのよ。
チヒロに会えるとでも??」
 ミィナはソファに座った彼女を見て、
外へ出て行った。

「ごめんミナヨおばさん…」
「………いいの…」
 ミィナは乱れた髪も戻そうとはせず、
ソファにもたれていた。
「ママが言った見分け方だけどね、
今は無理だよ…」
「うん。分かってる…。あのね…」
「うん?」
「これなんだと思う…?」
 ミィナはあの写真を彼に見せていた。

「…な、なんだろうこれ。これは何??
文字? 記号??
なんの写真なんですか…?
ここに見えている血の様なものもは…」
「この写真の出所は言えない…。
これの意味が知りたくてここに来たの…、
呪いを解く鍵なのかもって…」
「呪い??」
「姉は、ヤマキタも、
何かに呪われたのかも…って、
あなたがさっき言ったよね…?」
「…ま、まさか」
「部屋のどこかにヒントが無いか…、
でも先に聞いた方が早いかな…」
 ミィナは携帯を取り出していた。

*品川の施設:サイトウ

 準備の整った手術室で一人、
入念なチェックを行っている、
サイトウの携帯が鳴っていた。

「はい…、そうです。
すいません…。
行きましたミタさんと…。
やはりあそこの事だって、
思い付いていたんですね…」
『何があったんですか?!
気絶したって聞きました…』
「実は……」
 サイトウは、
自分が何かを見てしまった事も、
包み隠さず話し始めると、
その内容を、
ふたりは身動きもせずじっと聞き入り、
ミィナは怯え始めていた。

*202号室

 携帯はスピーカーにしてあり、
聞いていたユウキも、
管理人にそれを頼んでも無理だろうと、
二人はサイトウたち同様、
壁を剥がす事は諦め、
部屋を出ようとしていると、
ユウキの携帯が鳴りはじめた。

『…はじめまして』
「はい? どなたですか」
『ユィナです。コンゴウユィナ…と、
申します』
「あぁあああ、はじめまして」
『やっと話せました…』
「どうしてこの番号が??」
『メイドの人に無理を言って、
調べて貰いました…』
「は、話したかったです俺も、
あなたと話さなければいけ無い事が…、
本当に良かったと思っています…。
回復されて本当に…」
『俺はあなたの事を、
ずっと探してました…。
会う事は出来なかったけど…、
いえ、
本当は会いに行こうとしていたんです。
でも…。
こんな事になってしまって、
アキラさん同様、
どうやって詫びたらいいのか…。
俺たちはどうしたら」
『え?! なんの事ですか?
私が電話したのはそれとは違いますよ?』
「えぇ??
ど、どういう事なんでしょう??
他に何が…、
今はまだ札幌に??」
『場所は言えないんですけど、
そこにおばさん居ますか?』
「え?? もう一度お願いできますか?」
『隣に住んでいたおばさんです。
カミオカミィナさん。
ミイちゃんですけど??』
「ママの旧姓?? おばさんって…。
あぁママと話しがしたいんですか??
どうしてママと…?
す、すいませんちょっと混乱してて…」
『ママ? おばさんに子供は居ませんよ??
ミイちゃんは、
あなたと一緒じゃ無いんですか?
おじさんもそこに?』

「…すいません。
代わって貰えないでしょうか?」
「私に? 誰から?」
「娘さん。ユィナさんからです…」
 携帯を差し出しているユウキだった。
「ど、どうして…?!」

 娘と話し始めたミィナは、
目を真っ赤に涙を堪え、
声が上ずるのを、
必死で押さえながら話していた。

「…聞いてもいいですか?」
 話し終わったミナヨに、
ユウキは聞いていた。
「あぁ、ごめんね…。実はあの子、
記憶が混濁しているの…。
ヒロミさんが実母で、
私の事を仲の良かった、
隣のおばさんだと思ってる…。
今の電話はただの世間話…。
掛けた事はおかあさん、
ヒロミさんには内緒にって…」
 
 ユウキは絶句してしまい、
そしてなぜ彼女が、
ママの旧姓を知っていたのか、
不思議でならなかったが、
ミナヨにそれを聞く事は無かった。

彼女の事が心配なユウキは、
しばらくの間、
傍で付き添っていたが、
痺れを切らしたママから電話が入ると、
怒る様な声がこぼれて聞こえていた。
ミィナはスッと立ち上がり、
部屋から部屋を調べ始め、
天井裏への入り口を見つけていた。

「あぁミナヨさん。そんな所なら俺が…」
 ユウキは代りに登ろうとしたが、
彼女は梯子を上って行った後だった。

*天井裏

「ミナヨさんだ、大丈夫です??」
 天井裏の入り口から、
顔を覗かせて聞くユウキに、
「これ見てください…」
 彼女は言った。
「発見したんですか?!」
 腰を屈め窮屈そうにそこへ行くと、
ミナヨが壁の一部を剥がした後に、
サイトウが話した様な、
子供っぽい壁紙が貼られていて、
ユウキも、壁紙の上に直接貼られた壁紙を剥がしていくとその壁に、
あの記号と全く同じものを見ていた。

それは文字では無かった。
大ボスの様なモンスターが口を開いて、
ヒーローキャラを襲おうとしている、
その真っ赤な口の形のままで、
それは、
サイトウたちが見た壁紙からは見切れ、
欠落していた部分。
だから彼らは見つける事が、
出来なかったのだ。

 その時だった。
裸電球が突然破裂し、
天井裏を暗闇に変えた。
「キャッ!」
「なんだ!!」
 二人の携帯がいっせに鳴り響いた。
携帯画面が赤く光り、
そこに浮かび上がる何かの映像。
それはあの動画だった。
「あぁ…」
 ミィナは震えながらも、
目はそれに釘付けになり、
ユウキは記憶違いなのかと、
その動画が以前と違うと感じ、
楽しく遊ぶ家族の背後から、
黒い影が襲い来るシーン。
そこまでは同じだった。
以前は確かにそこで終わっていたが、
その動画はまだ続きがあり、
地面に落ちた、
誰も操作してないはずのカメラが、
勝手に右へパンしていた。
するとそこに子供、
子供が立っていた。
その子はゆっくり右手を上げ、
見ている者を指さした。

*通路

 部屋の外へ逃げた二人。
「ハァハァハァ…。
怪我は無いですか?!」
「あぁ平気、かすり傷くらい…。
あなたは?」
「お、俺も特には…。
そ、それでどうすれば。次は??」
「分からない…、
天井裏のスペースに昔、
子供が居たとしか思えないだけ…」
「あぁ確かにあれくらいなら、
充分素敵な子供部屋だ…。
でも、どうして壁に気づいたんです?!
サイトウさんたちは、
あそこを調べてたのに…」
「ユィナです…。
娘が最近ずっと変な夢を見るって…。
狭い部屋に真っ赤な記号があるって…」

 そして二人はあの天井裏に、
必ず何かがあると、
呪いがあるのだと信じた。

*管理人室

 ユウキはママをなだめに行ってと、
ミィナは一人、
部屋に入って行った。

「このマンションって昔、
私たちが事故を起こす前です。
それ以前に何かありませんでしたか?!
子供が関係しているような…」
 奥の部屋にずかずかと入り、
テレビを見ながらお茶を飲んでいた彼に、
聞いていた。
「ちょ、なんだいきなり…。
なんでそんな古い話しを…」
「あったんですね?
事故ですか?
事件性のあるものですか?!」
 真剣な眼差しのミィナに、
圧倒される管理人だった。

「もう帰ってくれバカバカしい…。
またバカ共を押し寄せさせる気か?
もうたくさんなんだよ!
懐かしかったから、
つい甘い顔したらこれだ…。
ほら鍵をこっちに…」
「ありがとうございました…」
 鍵を返すミィナに、
「ところでさあ、
先生たちとあんたの事、
噂になってたっけねぇ…。
毎晩、喘ぎ声が聞こえるとかぁ。
凄いね3人でぇ。ヒヒッ」
 彼は厭らしい笑みで、
彼女の全身を舐め回すように見ていた。
「噂じゃありませんよ…?」
 と、管理人の置いた湯のみを持ち、
その顔にかけようとしたが、
壁を壊してしまってたいたのだと、
「すいませんでした…」
 言われた管理人は、
その手に湯のみを握らされ、
あっけに取られていた。

*駐車場

「なんか分かったのー?
あれ、あいつなんか笑ってる?」
 車のミィナは、
とても退屈そうにしていたが、
向かって来ている彼女を見つけると、
窓から顔を覗かせ聞いていた。
「はっきりと言われた訳じゃないけど、
このマンションには、
本当に曰くがありそう…」
「ほ、本当ですか…!?」
 ユウキは助手席のミナヨを見つめ、
『うそ…』
 ミィナは少しだけ表情を曇らせたが、
早くここから出してと文句を言うと、
動き出した車はマンションから、
離れて行った。
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