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第七十七話 汝の敵を愛せよ 其の弐
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ひとの妊娠期間は約280日(40週間)で、妊娠前の最終月経が始まった日を「妊娠0日目」として数えます。一か月は28日として数えるため、「妊娠28日目=妊娠4週目=妊娠二か月目」となります。
例えば、最終月経の開始日が1月1日だったとすると、この日が妊娠0日目となり、1月1日から1月28日までの28日間が「妊娠一か月」、1月29日から2月25日までの28日間が「妊娠二か月」の期間となります。この場合の出産予定日は10月8日となります。
……なるほど。
ブラウザを閉じてスマホをベッドにポンと投げた。一緒に画面を覗き込んでた賢颯も「なるほどねえ」と溜息混じりにつぶやき、何か考えてるような曖昧な表情で俯いた。
岸川さんが突然姿を消したのが年明け早々で、朝陽くんの誕生日が七月だということから類推するに、姿を消してから妊娠したわけではない、ということだよな。姿を消したのが元日だったとしても、最速で出産予定日は九月後半になるわけで、七月に産まれないとは言えないけど、可能性としては低い。
賢颯の子だったとして……岸川さんはどうして姿を隠してしまったんだろう。
賢颯が中学生だったから? 堕胎を迫られると思ったから? 賢颯に冷たくされると思ったから? 賢颯に負担を掛けたくなかったから? 賢颯の家柄に着いて行けないと思ったから? 他の女に嫌がらせされると思ったから?
……理由が次から次へと出て来るな。
岸川さん側の都合じゃないはずなんだ。だって産んで育ててるんだから。岸川さんは初めから産むつもりで姿を隠した。この部分に疑いようはない。
だとすると……やっぱり愛するひととの子を産みたかった、ってことなのかな。
賢颯は特別な感情はなかったって言うけど、岸川さんにはあったのかもしれない。だとしたら、相当の覚悟をして離れたはずの相手が目の前にいる状況って、ピンチなのか? チャンスなのか?
「もし朝陽くんがおまえの子だとしたら、どうするの?」
「どうするって?」
「結婚してお父さんになる、認知して養育費を引き受ける、とりあえず生活費を援助する…」
「なーんも言わずに消えて、いままで連絡すらして来なかったのに?」
「それはそうだけど、気になってるんだろ?」
「オレが気にしてるのは朝陽のことで、凪穂のことじゃないよ」
「だから、朝陽くんのためにどうしたいの」
「んー……朝陽をもらって湊と一緒に育てたい」
「IQゼロなのか?」
「いまのオレはさ」
「うん」
「対面座位で目の前に湊がいることのほうが気になる」
「真面目に考えろよ……」
「なんも言われてないし、聞かされてないし、頼まれてもないのに先回りして悩む必要あるか?」
「"朝陽はオレの子のような気がする" って言ったのはおまえだろ」
「それは見た目の感想というか……似てる気しない?」
「…確かに似てたとは思うけど」
「だろ? 突然変異が遺伝するかどうか、知らんけど」
「まあ、それもそうだね……って、待てよ! なんで脱がそうとしてるんだよ!」
「終わってから考えよ?」
「こんなことしてる場合じゃ…ちょっ……やめ…っ…あっ…」
真面目に考えなくちゃいけない、と思ってはいても、突然降って湧いた話にはあまり現実味がなく、どこか他人事のような感覚に安心感すら覚えながら、僕たちはまだお互いの体温を共有することに余念がなかった。
***
「……で?」
「で、って何?」
「まさかオレとお茶するために呼び出したわけじゃないんでしょ?」
凪穂は澄ました顔で、ソイラテにトッピングしたバニラシロップをゆっくりとかき混ぜた。
学校からの帰り道で鳴った電話を取ってみりゃ編集部からの電話で、何か急用かと思って来てみればこの有様だ。貴重な放課後をこんな風にカフェで過ごすくらいなら、とっとと帰って湊とイチャ付きたい。なんなら湊とセックスしたい。
「あらぁ、どうしてぇ? イケメンと一緒にお茶したかっただけだけどぉ?」
「やかましいわ……で? なんか用事あったんじゃないの?」
「別に……ただ逢いたかっただけ」
三年も放置したセフレにただ逢いたくなったりするか? そもそもオレのことが好きだったわけでもなんでもないくせに、よくもまあいけしゃあしゃあと……とはいえ、昔だって「ただヤりたかっただけ」って理由でセックスしてたわけだし、あんまり変わってないのかもしれない。
「はあっ……用事ないなら帰りたいんだけど」
「久しぶりだっていうのにつれないわね、何よ、誰か待ってる子でもいるの?」
「急に電話掛けて来るから撮影の話だと思って、先に帰ってもらったんだよ」
「……えっ、帰ってもらったって、彼女に? ケンソーの家で待ってるの?」
「そ う だ よ ! ほんとに用事ないなら帰るぞ?」
「本気で!? あんた特定の子と付き合ってんの!? あ、もしかして彼女七人いるとか?」
「いるかよ! ひとりだひとり!」
「あんたが!? たったひとりの子で満足してんの!?」
「あのな……オレをなんだと思ってんだよ」
「お調子者でセックスが上手な、ヤれれば誰でもいい淫乱なイケメン」
「それはもう履修して単位取ったから卒業した」
なんの単位よ、と凪穂は笑って飲んでいたソイラテを噴き出しそうになった。目の前にあるダーク モカ チップ フラペチーノのホイップをストローで突っつきながら、ほんとは何か話があったんじゃないか、と凪穂の顔に視線を移した。
「ね、付き合ってる子ってどんな子? 可愛い?」
「うん、可愛くて誠実で冷静で一途で賢くて意地っ張りで大雑把でエロい」
「大雑把でエロい、以外に共通点ナッシンじゃない」
「しかも美形でスリムでアッチの具合が最高にイイ」
「あんた、そのゲスいところ全然変わってないわね……」
「と、いうわけでオレいまメロメロだから、帰っていい?」
「はあ……気に入らないわあ…」
「アナタに気に入っていただく必要ございません」
「……彼女にケンソーが子持ちだって言ったら、どんな顔するかしらね」
「は?」
「は? って……言ったじゃない、朝陽はケンソーの子だって」
「ああ、あれ冗談じゃなかったんだ?」
「冗談で済ませてあげようと思ったけど、気が変わったわ」
「気が変わったって……ねえ、本当はどうなの?」
「あんたの子だってば……黙ってるつもりだったけど…」
少し不貞腐れた顔で凪穂は頬杖をつき、オレの顔色を窺うように視線を動かした。
───
「おかえり」
テーブルの上に勉強道具を広げ、湊は真面目に受験勉強をしていた。マグカップが置いてあるところを見ると、珍しく自分でコーヒーを淹れたみたいだった。
「急ぎの打ち合わせ、終わったの?」
「あー、うん」
「……仕事以外の話、出なかった?」
「いや? 特には」
「そっか……撮影って土曜日だっけ?」
「うん」
着替えながら当たり障りのない返事を繰り返していると、湊に「ちょっと来て」と呼ばれ心臓が縮み上がる。悪いことをしてるわけじゃないけど……どう切り出せばいいのかも微妙なところだ。これでいて湊は割と鋭いからな……勘付いてるってことも考えられるし、むしろそのほうが話はしやすいんじゃないか…
「どうした?」
「ねえ、この問題なんだけど」
「……問題?」
「うん、問2の助動詞がさ……って、早く着ろよ…」
「いや、ちょっと来いって言うから急ぎかなと思って」
「全然急いでない……着替えてからでいいよ…」
「そう? なんでそんな赤い顔してんの?」
「半裸の男に後ろからピッタリ覆われてるからだよっ」
「……そんなことで? オレの裸体なんて飽きるくらい見てんのに?」
「いいから早く服を着てくれ」
「なんで?」
「落ち着いて勉強したいからだよ! ほら、離れろ!」
……可愛いかよ。
半裸のオレに抱き着かれて照れるって、どんだけウブなんだよ童貞かよ。いや童貞じゃないのは知ってるけど。
「直前に係助詞があるから現在推量で」
「あ、そうか……主語が違うん…おい、何してるんだ」
「何って……湊の服を脱がせてるんだけど」
「そうだな、質問を間違えた……何ゆえ僕の服を脱がせてるんだ?」
「ちょっと媾いたいな、と思って」
「そんなお手軽感満載で言われても」
「我身者、成成而成余処一処在。故以此吾身成余処、刺塞汝身不成合処而(わがみなりなり なりあまれるの ところあり ゆへにわがみの なりあまる ところをもちて なれがみの なりあわざるの ところもちては さしふさぎ)…」
「待って? 古事記はいいけど僕にも余ってる部分がひとつあるよ?」
「じゃあオレの足りない部分をソレで塞ごう」
「なんでちょっといいこと思い付いた、みたいに言ってるんだよ」
「オレの裸体でムスコが元気になっちゃう湊が可愛くて」
そっと湊から身体を離し、ソファに腰をおろした。少し驚いたような、寂しいような顔でオレを見上げた湊は、目が合った瞬間にやっぱり顔を赤くして慌てて俯いた。
「……塞がないの?」
当然のように硬くなっている愚息をパンツの上からするっとなでてみせると、湊がオレの脚を左右に割ってカラダをねじ込んだ。よしよし、素直なヤツめ、と頭をなでたら、湊はそのままパンツの上から愚息を咥え舌を動かした。
「大学落ちたら賢颯のせいだからな…」
「ん…一緒に浪人しよ……ねえ、直接吮めて」
「もうちょっと……賢颯の匂いに溺れたい…」
オレと湊の決定的に違う部分は、オレが即物的なことに対し、湊は観念的だってことだ。オレは直接カラダで感じる味覚や触覚を重視するけど、湊は頭の中で想像する余地のある視覚や聴覚に弱い。それで言うと嗅覚は直接感じるものだけど、想像を補完する役割のほうが高い気がする。
もちろん、オレに観念的な部分がないわけじゃないし、湊にだって即物的なところはある。いまだって、布越しに愚息を弄ぶ湊のエロい顔にオレの胸は高鳴ってるし、美味そうに愚息を咥え込んで放さない湊の左手は、ガッチガチに勃たせた自分の淫乱なムスコに伸びているわけで。
「湊……もどかしい…」
「ん…じゃあ横になって」
とりあえず仰向けでソファに転がり、唾液でぐっしょりと濡れたパンツをおろすと、湊がオレの上に覆いかぶさって耳たぶを噛んだ。
「ふ…っ…何よ、前戯? それとも焦らしてる?」
「……全部食べたい」
クチュクチュと水音を立てながら、耳を噛んだり吸ったりしつつ、湊は指先でオレの無防備な乳首をキュッと抓んだ。いやいや、待て待て。普段あんまり攻められない部分だけに、妙にくすぐったいというか、恥ずかしいというか……
「湊、どうした……なんかいつもと違う」
「舌、出して」
言われるままに舌を出すと、湊が柔らかい口唇でそれを挟み、湊の口の中でお互いの舌が絡み合って溶けて行く。食ったり飲んだり喋ったりするための器官を、こんな風に使おうと思い付いたヤツは何を求めていたんだろう。混ざり合った唾液が口の端からこぼれてあごを伝う。
まるで別の生き物のように、自分の意思を置き去りにして絡み合う舌が、さっきから抓まれたり擦られたりしてる乳首をペロッとかすめ、なぜか下腹の奥がキュウッと締め付けられたように疼いた。
「んぅ…っ…ふっ……う…」
「賢颯の鳴き声、いやらしいよね…」
「なんか……じんじんする…」
「僕の唾液でタンパク質が溶け出してるのかもね」
湊の唾液で皮膚が溶けて、それが湊に吸収されて行くとしたら、オレは湊と融合してひとつのカラダをふたりで共有することになるのか? それとも、普通の食べ物と同じようにひと時だけ湊のカラダを構成する物質になって、やがて新しい細胞と入れ替わるんだろうか。
「湊ぉ……触って…」
「どこを?」
「オレに言葉攻めは効かん…」
「攻めてないよ、どこ触って欲しいの?」
「おちんちん? ペニス? 陰茎? 男根? 摩羅?」
「次々とよく出て来るな……」
腰を持ち上げられ、背中を湊の膝に乗せて固定され、仰向けで寝てるというのに自分の局部がガッツリ見えて、恥ずかしいというより心許ない感覚を覚える。こんな体勢、湊と付き合ってなければ絶対にするはずがなかったんだが。
垂らされたオイルの冷たさに全身がビクッと跳ねた。普段は冷たい湊の手がやけに熱くて、その手でぬるぬる扱かれるともうイくことしか考えられなくなる……そして何より、オレの尻を凌辱している湊の顔が近い……いやらしく動く舌の形さえわかる距離で、触覚と視覚と聴覚を支配されて行く。
── 気になって手加減してるのかもしれないな
宗弥さんの言葉が頭の中でぼんやりと甦った。
***
※ 古事記(国産み神話)
イザナギ(男神)とイザナミ(女神)による日本列島創成物語。
イザナギが「汝身者、如何成(あなたの身体はどうなっているのだ)」と問うと、イザナミは「吾身者、成成不成合処一処在(わたしの身体は成長していますが、合わさっても足りない部分がひとつあります)」と答えた。そこでイザナギは「我身者、成成而成余処一処在。故以此吾身成余処、刺塞汝身不成合処而、以為生成国土、生奈何(わたしの身体には余っている部分がひとつある。そこで、あなたの足りない部分をこの余っている部分で刺し塞いで国を創ろうと思うが、産んでくれないか)」と言い、イザナミと共に国土を創成して行くという物語。
例えば、最終月経の開始日が1月1日だったとすると、この日が妊娠0日目となり、1月1日から1月28日までの28日間が「妊娠一か月」、1月29日から2月25日までの28日間が「妊娠二か月」の期間となります。この場合の出産予定日は10月8日となります。
……なるほど。
ブラウザを閉じてスマホをベッドにポンと投げた。一緒に画面を覗き込んでた賢颯も「なるほどねえ」と溜息混じりにつぶやき、何か考えてるような曖昧な表情で俯いた。
岸川さんが突然姿を消したのが年明け早々で、朝陽くんの誕生日が七月だということから類推するに、姿を消してから妊娠したわけではない、ということだよな。姿を消したのが元日だったとしても、最速で出産予定日は九月後半になるわけで、七月に産まれないとは言えないけど、可能性としては低い。
賢颯の子だったとして……岸川さんはどうして姿を隠してしまったんだろう。
賢颯が中学生だったから? 堕胎を迫られると思ったから? 賢颯に冷たくされると思ったから? 賢颯に負担を掛けたくなかったから? 賢颯の家柄に着いて行けないと思ったから? 他の女に嫌がらせされると思ったから?
……理由が次から次へと出て来るな。
岸川さん側の都合じゃないはずなんだ。だって産んで育ててるんだから。岸川さんは初めから産むつもりで姿を隠した。この部分に疑いようはない。
だとすると……やっぱり愛するひととの子を産みたかった、ってことなのかな。
賢颯は特別な感情はなかったって言うけど、岸川さんにはあったのかもしれない。だとしたら、相当の覚悟をして離れたはずの相手が目の前にいる状況って、ピンチなのか? チャンスなのか?
「もし朝陽くんがおまえの子だとしたら、どうするの?」
「どうするって?」
「結婚してお父さんになる、認知して養育費を引き受ける、とりあえず生活費を援助する…」
「なーんも言わずに消えて、いままで連絡すらして来なかったのに?」
「それはそうだけど、気になってるんだろ?」
「オレが気にしてるのは朝陽のことで、凪穂のことじゃないよ」
「だから、朝陽くんのためにどうしたいの」
「んー……朝陽をもらって湊と一緒に育てたい」
「IQゼロなのか?」
「いまのオレはさ」
「うん」
「対面座位で目の前に湊がいることのほうが気になる」
「真面目に考えろよ……」
「なんも言われてないし、聞かされてないし、頼まれてもないのに先回りして悩む必要あるか?」
「"朝陽はオレの子のような気がする" って言ったのはおまえだろ」
「それは見た目の感想というか……似てる気しない?」
「…確かに似てたとは思うけど」
「だろ? 突然変異が遺伝するかどうか、知らんけど」
「まあ、それもそうだね……って、待てよ! なんで脱がそうとしてるんだよ!」
「終わってから考えよ?」
「こんなことしてる場合じゃ…ちょっ……やめ…っ…あっ…」
真面目に考えなくちゃいけない、と思ってはいても、突然降って湧いた話にはあまり現実味がなく、どこか他人事のような感覚に安心感すら覚えながら、僕たちはまだお互いの体温を共有することに余念がなかった。
***
「……で?」
「で、って何?」
「まさかオレとお茶するために呼び出したわけじゃないんでしょ?」
凪穂は澄ました顔で、ソイラテにトッピングしたバニラシロップをゆっくりとかき混ぜた。
学校からの帰り道で鳴った電話を取ってみりゃ編集部からの電話で、何か急用かと思って来てみればこの有様だ。貴重な放課後をこんな風にカフェで過ごすくらいなら、とっとと帰って湊とイチャ付きたい。なんなら湊とセックスしたい。
「あらぁ、どうしてぇ? イケメンと一緒にお茶したかっただけだけどぉ?」
「やかましいわ……で? なんか用事あったんじゃないの?」
「別に……ただ逢いたかっただけ」
三年も放置したセフレにただ逢いたくなったりするか? そもそもオレのことが好きだったわけでもなんでもないくせに、よくもまあいけしゃあしゃあと……とはいえ、昔だって「ただヤりたかっただけ」って理由でセックスしてたわけだし、あんまり変わってないのかもしれない。
「はあっ……用事ないなら帰りたいんだけど」
「久しぶりだっていうのにつれないわね、何よ、誰か待ってる子でもいるの?」
「急に電話掛けて来るから撮影の話だと思って、先に帰ってもらったんだよ」
「……えっ、帰ってもらったって、彼女に? ケンソーの家で待ってるの?」
「そ う だ よ ! ほんとに用事ないなら帰るぞ?」
「本気で!? あんた特定の子と付き合ってんの!? あ、もしかして彼女七人いるとか?」
「いるかよ! ひとりだひとり!」
「あんたが!? たったひとりの子で満足してんの!?」
「あのな……オレをなんだと思ってんだよ」
「お調子者でセックスが上手な、ヤれれば誰でもいい淫乱なイケメン」
「それはもう履修して単位取ったから卒業した」
なんの単位よ、と凪穂は笑って飲んでいたソイラテを噴き出しそうになった。目の前にあるダーク モカ チップ フラペチーノのホイップをストローで突っつきながら、ほんとは何か話があったんじゃないか、と凪穂の顔に視線を移した。
「ね、付き合ってる子ってどんな子? 可愛い?」
「うん、可愛くて誠実で冷静で一途で賢くて意地っ張りで大雑把でエロい」
「大雑把でエロい、以外に共通点ナッシンじゃない」
「しかも美形でスリムでアッチの具合が最高にイイ」
「あんた、そのゲスいところ全然変わってないわね……」
「と、いうわけでオレいまメロメロだから、帰っていい?」
「はあ……気に入らないわあ…」
「アナタに気に入っていただく必要ございません」
「……彼女にケンソーが子持ちだって言ったら、どんな顔するかしらね」
「は?」
「は? って……言ったじゃない、朝陽はケンソーの子だって」
「ああ、あれ冗談じゃなかったんだ?」
「冗談で済ませてあげようと思ったけど、気が変わったわ」
「気が変わったって……ねえ、本当はどうなの?」
「あんたの子だってば……黙ってるつもりだったけど…」
少し不貞腐れた顔で凪穂は頬杖をつき、オレの顔色を窺うように視線を動かした。
───
「おかえり」
テーブルの上に勉強道具を広げ、湊は真面目に受験勉強をしていた。マグカップが置いてあるところを見ると、珍しく自分でコーヒーを淹れたみたいだった。
「急ぎの打ち合わせ、終わったの?」
「あー、うん」
「……仕事以外の話、出なかった?」
「いや? 特には」
「そっか……撮影って土曜日だっけ?」
「うん」
着替えながら当たり障りのない返事を繰り返していると、湊に「ちょっと来て」と呼ばれ心臓が縮み上がる。悪いことをしてるわけじゃないけど……どう切り出せばいいのかも微妙なところだ。これでいて湊は割と鋭いからな……勘付いてるってことも考えられるし、むしろそのほうが話はしやすいんじゃないか…
「どうした?」
「ねえ、この問題なんだけど」
「……問題?」
「うん、問2の助動詞がさ……って、早く着ろよ…」
「いや、ちょっと来いって言うから急ぎかなと思って」
「全然急いでない……着替えてからでいいよ…」
「そう? なんでそんな赤い顔してんの?」
「半裸の男に後ろからピッタリ覆われてるからだよっ」
「……そんなことで? オレの裸体なんて飽きるくらい見てんのに?」
「いいから早く服を着てくれ」
「なんで?」
「落ち着いて勉強したいからだよ! ほら、離れろ!」
……可愛いかよ。
半裸のオレに抱き着かれて照れるって、どんだけウブなんだよ童貞かよ。いや童貞じゃないのは知ってるけど。
「直前に係助詞があるから現在推量で」
「あ、そうか……主語が違うん…おい、何してるんだ」
「何って……湊の服を脱がせてるんだけど」
「そうだな、質問を間違えた……何ゆえ僕の服を脱がせてるんだ?」
「ちょっと媾いたいな、と思って」
「そんなお手軽感満載で言われても」
「我身者、成成而成余処一処在。故以此吾身成余処、刺塞汝身不成合処而(わがみなりなり なりあまれるの ところあり ゆへにわがみの なりあまる ところをもちて なれがみの なりあわざるの ところもちては さしふさぎ)…」
「待って? 古事記はいいけど僕にも余ってる部分がひとつあるよ?」
「じゃあオレの足りない部分をソレで塞ごう」
「なんでちょっといいこと思い付いた、みたいに言ってるんだよ」
「オレの裸体でムスコが元気になっちゃう湊が可愛くて」
そっと湊から身体を離し、ソファに腰をおろした。少し驚いたような、寂しいような顔でオレを見上げた湊は、目が合った瞬間にやっぱり顔を赤くして慌てて俯いた。
「……塞がないの?」
当然のように硬くなっている愚息をパンツの上からするっとなでてみせると、湊がオレの脚を左右に割ってカラダをねじ込んだ。よしよし、素直なヤツめ、と頭をなでたら、湊はそのままパンツの上から愚息を咥え舌を動かした。
「大学落ちたら賢颯のせいだからな…」
「ん…一緒に浪人しよ……ねえ、直接吮めて」
「もうちょっと……賢颯の匂いに溺れたい…」
オレと湊の決定的に違う部分は、オレが即物的なことに対し、湊は観念的だってことだ。オレは直接カラダで感じる味覚や触覚を重視するけど、湊は頭の中で想像する余地のある視覚や聴覚に弱い。それで言うと嗅覚は直接感じるものだけど、想像を補完する役割のほうが高い気がする。
もちろん、オレに観念的な部分がないわけじゃないし、湊にだって即物的なところはある。いまだって、布越しに愚息を弄ぶ湊のエロい顔にオレの胸は高鳴ってるし、美味そうに愚息を咥え込んで放さない湊の左手は、ガッチガチに勃たせた自分の淫乱なムスコに伸びているわけで。
「湊……もどかしい…」
「ん…じゃあ横になって」
とりあえず仰向けでソファに転がり、唾液でぐっしょりと濡れたパンツをおろすと、湊がオレの上に覆いかぶさって耳たぶを噛んだ。
「ふ…っ…何よ、前戯? それとも焦らしてる?」
「……全部食べたい」
クチュクチュと水音を立てながら、耳を噛んだり吸ったりしつつ、湊は指先でオレの無防備な乳首をキュッと抓んだ。いやいや、待て待て。普段あんまり攻められない部分だけに、妙にくすぐったいというか、恥ずかしいというか……
「湊、どうした……なんかいつもと違う」
「舌、出して」
言われるままに舌を出すと、湊が柔らかい口唇でそれを挟み、湊の口の中でお互いの舌が絡み合って溶けて行く。食ったり飲んだり喋ったりするための器官を、こんな風に使おうと思い付いたヤツは何を求めていたんだろう。混ざり合った唾液が口の端からこぼれてあごを伝う。
まるで別の生き物のように、自分の意思を置き去りにして絡み合う舌が、さっきから抓まれたり擦られたりしてる乳首をペロッとかすめ、なぜか下腹の奥がキュウッと締め付けられたように疼いた。
「んぅ…っ…ふっ……う…」
「賢颯の鳴き声、いやらしいよね…」
「なんか……じんじんする…」
「僕の唾液でタンパク質が溶け出してるのかもね」
湊の唾液で皮膚が溶けて、それが湊に吸収されて行くとしたら、オレは湊と融合してひとつのカラダをふたりで共有することになるのか? それとも、普通の食べ物と同じようにひと時だけ湊のカラダを構成する物質になって、やがて新しい細胞と入れ替わるんだろうか。
「湊ぉ……触って…」
「どこを?」
「オレに言葉攻めは効かん…」
「攻めてないよ、どこ触って欲しいの?」
「おちんちん? ペニス? 陰茎? 男根? 摩羅?」
「次々とよく出て来るな……」
腰を持ち上げられ、背中を湊の膝に乗せて固定され、仰向けで寝てるというのに自分の局部がガッツリ見えて、恥ずかしいというより心許ない感覚を覚える。こんな体勢、湊と付き合ってなければ絶対にするはずがなかったんだが。
垂らされたオイルの冷たさに全身がビクッと跳ねた。普段は冷たい湊の手がやけに熱くて、その手でぬるぬる扱かれるともうイくことしか考えられなくなる……そして何より、オレの尻を凌辱している湊の顔が近い……いやらしく動く舌の形さえわかる距離で、触覚と視覚と聴覚を支配されて行く。
── 気になって手加減してるのかもしれないな
宗弥さんの言葉が頭の中でぼんやりと甦った。
***
※ 古事記(国産み神話)
イザナギ(男神)とイザナミ(女神)による日本列島創成物語。
イザナギが「汝身者、如何成(あなたの身体はどうなっているのだ)」と問うと、イザナミは「吾身者、成成不成合処一処在(わたしの身体は成長していますが、合わさっても足りない部分がひとつあります)」と答えた。そこでイザナギは「我身者、成成而成余処一処在。故以此吾身成余処、刺塞汝身不成合処而、以為生成国土、生奈何(わたしの身体には余っている部分がひとつある。そこで、あなたの足りない部分をこの余っている部分で刺し塞いで国を創ろうと思うが、産んでくれないか)」と言い、イザナミと共に国土を創成して行くという物語。
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沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
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