野菜の王国築きます

春日ネネ

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ベアードstory

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俺とララは町から少し離れた藪の中を人の姿のまま歩いている。
ジニアに言われていたからだ。

「絶対に人気があるところで元の姿になったら駄目ですよ。熊になるのは最終手段です。下手したら、熊の方が討伐対象になりますからね。」

うむ。と頷いてみたが歩きにくい。
服や髪が木に引っ掛かる。ララは上手に避けているようだが。

「ベアードさん、思ったんですが…人間はこんな藪の中を歩かずに、あっちの街道を歩くと思いますよ。」

藪のすぐ近くには街道が見える。確かにあちらの方が歩きやすそうだ。外見は人間になっても、考え方は熊のまま。熊は街道を堂々とは歩かない。

「そうだな。街道を歩くか。」

街道へ抜けて、目的地の岩場へ向かう。
熊の時には気付かなかった物、人の目で見るものがとても目新しく、面白い。
鑑定スキルがあるため、キノコや薬草も手にいれつつ目的地の岩場に着いた。

「ここですね、繁殖地。」

ララは周りを見渡し状況を判断する。気配はするが様子を伺っているようだ。
俺は鑑定で気になるものを見つける。
『岩塩』塩を含む石。
『鉄化石』鉄を含む石。
『光る石』何かが含まれた石。

「何かって、何だ?」

それぞれを採取していると、目的のお相手共が動き出した。
俺たちを取囲み、優位にたっていると勘違いしたブラックパイソンは一斉に襲い掛かってきた。
が…、障壁スキルって、容赦無いんだな。
障壁にぶち当たったブラックパイソンが粉砕した。
おそらく、半分以上のブラックパイソンが跡形もなく。

「食うところが残らないな。」

「はぁ、そんな気がしてました。ジニアさんも無意識で同じことするから、素材が残らないときがあるんです。そこにいてください、何匹か仕留めてきますから。」

ララはこの状況を想定していたようだ。
俺から離れると小さな石を研いで作ったナイフで確実に相手の頭を狙って一撃で仕留めている。
石の採取をしていると、一回り大きなブラックパイソンが飛び掛かって来た。
ララはヒラリと相手の動きを見極めている。

「ベアードさん、そっちへ行きましたよ。障壁を解除して仕留めてくださいね。」

「まかせろ。」

障壁スキルは本人の意思で解除が出来る。障壁を解除してブラックパイソンが飛び掛かって来る勢いを利用した。
収納の中から木を切るためにジニアから借りている斧を取り出し、一振りする。
斧は風を起こし、ブラックパイソンの動きを拘束する。風を正面から受けたため思うように動けないのだ。
そのまま斧で一刀両断。
ブラックパイソンは頭と胴体を切り離され、絶命する。

「これで繁殖が止まるはずだ。」

俺は満足感でいっぱいで上機嫌になる一方、ララが「怒られても知りませんよ。」とぼやいていた。
その後、何事もなくギルドへ戻り報告をする。

「おかえりなさい。」

ギルドの中ではジニアが飯を用意してくれていた。ルルは我慢できなかったんだろう、頬袋に溜め込むように口いっぱい食べ物を詰め込んで、それを見たララに「ゆっくり食べなさい!」と怒られていた。

ゲオルグにブラックパイソンを見せる。
最後に倒した大物を見せると周りの顔色が変わった。

「これがいたのか?」

「ブラックパイソンじゃない、キラーパイソンだ。別名、森の暗殺者。擬態をするから森に入られると俺たちでは判別できん。」

「繁殖するために岩場にいたのか?本来、森の中で繁殖する奴だぞ。まさかっ!森から追い出されたのか?森の中にこいつよりも強い生物が住んでいるのか?」

ザワザワと騒がしくなるなかで、俺、ララ、ルルは一人を見ていた。

「強い種族と言えばそうかもな。」
「ジニー、主様。」
「規格外であることは確かです。」

ジニアは食事の準備が整ったと俺たちを呼びに来た。そこでキラーパイソンをじっと見ている。

「ベアード、何を使って倒しました?」

どこか空気がピリッと感じた。にこにこ笑って聞いてくるジニアが少し恐ろしく感じるのは気のせいだろうか?

「斧で…」

と、答えかけて、しまった!と気づく。

「ベアード、斧は木を切るために貸したものです。あんなの切ったら後が使えなくなるでしょ!」

ララが「あぁ~ぁ。やっぱりね。」と小さく呟く声が聞こえた。
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