天才・新井場縁の災難

陽芹孝介

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第一話 京都へ

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  ……翌朝…ホテル内レストラン……



  昨晩の約束通り、小林夫妻と朝食をする事になった縁と桃子は、バイキング形式の朝食を堪能していた。
  小林夫妻はニコニコして楽しそうに食事をしている。
  二人は大変仲が良さそうで、優しそうな夫と、清楚な妻といった感じだ。
  ただ弘子は清楚な雰囲気と裏腹に、身に付けている装飾品が少し目立っていた。
  ネックレスに、数種類のブレスレットなど、高価そうな物を身に付けている。
  4人での話は、意外と盛り上がり、話題は縁の年齢になった。
  すると小林は縁の年齢を聞いて驚いていた。
 「17歳ですか……私はてっきり大学生だと思っていましたよ……」
  妻の弘子も言った。
 「新井場さん……大人っぽいですからね」
  桃子は鼻で笑った。
 「ふんっ、縁が大人っぽい?言っておくが、縁には食い気しかないぞ」
  縁は桃子の言い草に腹を立てた。
 「そんな言い方しなくてもいいだろっ!」
  弘子は話を変えるように言った。
 「でも……小笠原さんが、あの小笠原桃子さんだったなんて……」 
  小林も言った。
 「いやぁ……驚きましたよ、最近凄い賞を獲られたんですよね……テレビで見ましたよ」
  桃子は得意気に言った。
 「聞いたか縁?……私は有名みたいだぞ」
 「何をはしゃいでんだ……」
  弘子が言った。
 「それにしても凄いですよ……文才があるから、獲れたんですよ」
  縁は言った。
 「弘子さん……あまり乗せないで下さい」
  小林が言った。
 「弘子の言う通りですよ、才能がなければできませんよ……」
  桃子はニヤニヤしている。
 「おいっ!縁……聞いてるか?」
 「顔にしまりがないぞ……」
  縁の言うように、桃子は嬉しさのあまりしまりの無い表情をしている。
  縁は言った。
 「それにしても、ここのバイキングは美味しいですね……朝なのにいっぱい食べてしまいそうですよ」
  小林が言った。
 「そうなんですよ、私もここのバイキングが忘れられなくて……新婚旅行も京都にしたんですよ」
  縁は言った。
 「では以前もこのホテルに?」
 「ええ……弘子の知り合いが、このホテルで働いているので……その縁で一度このホテルに泊まりに来た事があったんです。なぁ、弘子……」
  急に振られたからか、弘子は少し驚いた表情になった。
 「えっ?ええ……そうね…」
  そんな弘子を、小林は気にする事無く言った。
 「新井場さん達はどうして京都に?」
 「僕はこの人に、無理矢理連れて来られたようなもんです」
  すかさず桃子が言った。
 「おいっ!聞き捨てならないな……」
 「何だよ、だいたい合ってるだろ?」
 「お前が食べ物に釣られたのだろ……」
  二人の掛け合いに弘子はクスクス笑っている。
 「二人とも仲が良いんですね」
  小林も同意した。
 「うん、二人ともお似合いですよ」
  縁はすかさず否定した。
 「あの、言っておきますけど……そう言うのでは無いんで……」
  確かに仲は悪く無いし、お互い嫌ってる訳でも無い。
  そもそも嫌い合っていたら、二人で京都なんかに来ない。
  しかし、よく間違われるが……恋人同士では無い。
  実に奇妙な関係だ。
  するといつの間にか、テーブルの料理が無くなった。
  まだ食べ足りない様子の小林は、妻の弘子に言った。
 「弘子、何かとってきてやろうか?」
 「ええ、そうね……もう少し貰おうかしら」
 「よしっ!じゃあ、適当にとってきてやるよ」
  そう言うと小林は立ち上がり、追加の料理をとりに行った。
  小林が料理をとりに行くと、弘子は縁と桃子に謝罪した。
 「すみません、朝食を無理に付き合わせちゃって……あの人、けっこう強引で……」
  弘子の申し訳なさそうな表情を見て、縁は言った。
 「いえ、気にしないで……」
  桃子も言った。
 「食事は大勢でした方が美味いし、何より楽しいからな……」
  弘子は嬉しそうに言った。
 「そう言って頂けると……ありがとうございます」
  少しその場はしんみりしてしまった。
  縁はしんみりした場の空気を変えようと、弘子に言った。
 「弘子さん……装飾品が好きなんですか?」
 「えっ?ええ……やっぱり目立ちますか?」
 「まぁ、少し……」
  弘子は笑顔で言った。
 「ほとんどの装飾品にパワーストーンが付いてるの」
 「パワーストーンですか……」
 「私……おまじないとか、験担ぎが好きで、これ見て下さい」
  そう言うと弘子は財布を取り出した。
  ブランド物で二つ折になっている女性用の財布だ。
  弘子は財布からターバン折をされている、一万円札を出した。
  弘子が取り出した一万円の福沢諭吉は、きれいに頭をターバンで巻いているようだった。
  縁は言った。
 「これも、験担ぎで?」
 「ええ……財布の中のお札は、全部こうして、1回折るの……おかげで財布の中のお札は全部しわくちゃだけど…」
  弘子は少し照れ笑いをしている。
  桃子は感心した。
 「験担ぎか……私も何かするかな」
  縁は言った。
 「何のために?」
 「決まってるだろ……小説のためだ」
  そんな話をしていると、小林が戻ってきた。
  弘子は慌てて財布を片付けた。
  小林は弘子が財布を片付けたのに気付いた様子は無く、持ってきた料理をテーブルに置いた。
  小林は席に着いた。
 「話は盛り上がっていますか?」
  縁は答えた。
 「ええ、そこそこ……」
 「今日のご予定は決まってますか?」
  桃子が答えた。
 「私たちは、予定は未定派でな……特に決まっていない」
  小林は笑顔で言った。
 「そうですか……では、良かったらこの後、ビリヤードでもどうですか?このホテル、ビリヤード場もあるんです。外も暑いですから……」
  桃子は少し考えて言った。
 「ふむ、面白い……では、ペアで対決はどうだろうか?」
 「何を勝手に決めてんだ?」
  小林は桃子の意見に乗った。
 「いいですねぇ……勝負といきますか」
  桃子はニヤリとした。
 「私の腕前に驚くなよ……」
  縁は言った。
 「だから、何を勝手に決めてんだ」
 「何だ、縁……嫌なのか?」
 「嫌じゃないけど、あんたビリヤード出来ないだろ…」
  桃子は得意気に言った。
 「いつの話だ……私をだれだと思っている?」
  小林は二人の様子を見て言った。
 「何か問題が、ありましたか?」
  桃子は言った。
 「いや、問題ない……是非とも相手になろう……」
 「ほんとに大丈夫か?」
  すると弘子が言った。
 「あなた……午前は少し買い物がしたいわ」
  それに縁が答えた。
 「では、午後からにしませんか?昼食は各自で済ませて」
  小林は言った。
 「そうですね……うん、そうしましょう」
  こうして昼食後にホテルのビリヤード場に集まる事に決まった。
  集合時間は午後2時で、縁と桃子のペアと、小林夫妻のビリヤード対決をする事になった。
  朝食を終えて、小林夫妻と別れた、縁と桃子は少し外を歩く事にした。
  昨日に引き続き、今日も日差しが強く、暑い。
  照り返しの強い歩道を歩きながら、縁は言った。
 「桃子さん……大丈夫か?」
 「何がだ?」
 「ビリヤードだよ……」
  桃子はニヤリとした。
 「ふっ……安心しろ、考えがある」
 「考え?……何それ?」
 「それは見てのお楽しみだ」
  縁の表情は不安そうだ。
 「何をもったいぶってんだ…」
  桃子は話を変えた。
 「それにしても……間近で見ると、迫力があるな……」
  桃子の視線の先には、京都タワーがあった。
  京都タワーは駅を挟んで、ホテルとは反対側の位置だったが……それでも肉眼で確認するには、十分だった。
  縁は言った。
 「迫力はあるけど……なんか地味だよ」
  桃子は呆れて言った。
 「お前にはわからないか……あのシンプルさがいいんだ。何とも言えない味がある……そもそもあの京都タワーは………」
 「なぁ……桃子さん……暑いから、アイスでも食わね?」
  縁は京都タワーに興味は無いようだ。
  桃子は少ししょんぼりした。
 「そっ、そうだな……ショッピングモールが少し先にある。そこで食べよう……」
  二人は少し歩き、ショッピングモールに着いた。
  ショッピングモールはかなり大型で、人ももの凄く大勢いた。
  二人はモールの入口にある、アイス専門店でソフトクリームを購入し、近くのベンチに日陰を選んで座った。
  ソフトクリームを食べながら、二人は町行く人々を観察している。
 「暑いのに……よく来るよな……」
  縁は感心しつつ、予想外の人の多さに少し圧倒されている。
  桃子は言った。
 「しかし、東京に比べれば……人の多さはまだましだ」
 「まぁ、そうだけど……ここも大概だぜ」
  すると人混みの中に見覚えのあるカップルがモールに入って行った。
  縁が言った。
 「あっ……小林さん達だ」
 「どこだ?」
  桃子も縁の言葉に反応し、小林夫妻を探したが、すでに人混みの中へと消えて行った。
  どうやら縁と桃子の存在に気が付かなかったようだ。
  しばらくすると桃子は何かに気付いたようで、縁に言った。
 「おいっ、縁……あれ、見てみろ」
  桃子に促され、縁は桃子の視線の先を見た。
  視線の先には、なにやら揉めている男女がいた。
  桃子は楽しそうにそれを見ている。
 「悪趣味だな……」
  縁にそう言われても桃子は視線を反らそうとはしない。
 「若いって良いな……」
  しみじみ言う桃子に縁は言った。
 「いや、あれ……絶対俺たちより年上だぜ…」
  縁の言うように、その男女は小林夫妻と同じくらいの年齢っぽい。
  男女は桃子だけではなくて、他の人々の視線も集めていた。
  すると、女性の方が男性をビンタした。
 「あちゃぁ……」
  桃子は目を閉じた。
  ビンタをした女性はそのまま走って行ってしまい、男性はたたずんでいた。
  しばらくすると、男性も我に帰ったのか、女性の行った方向へ何事も無かったかのように、歩いて行った。
  桃子はニヤニヤして言った。
 「面白い物が見れたな」
 「何言ってんだ……それより俺たちも戻ろうぜ……暑くてかなわん」
  面白い物が見れて満足したのか、桃子もホテルに戻るのに同意した。
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