天才・新井場縁の災難

陽芹孝介

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第六話 夏祭りと秋の訪れ

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   ……喫茶店風の声……


  夏休みの最後の日、縁はいつも通り風の声で、いつも通りアイスカフェを飲んでいた。
  巧が縁に言った。
 「明日から新学期だな……」
 「そうだよ……夏休みなんてあっという間だったよ」
  少しふて腐れた様子の縁は、片肘をつきながらアイスカフェに刺さったストローをくわえている。
  そんな縁に巧は言った。
 「それにしても……楽しい夏休みだったろ?」
  巧のその言葉は、事件だらけだった夏休みを過ごした縁に対しての、明らかな嫌みだった。
  縁は恨めしそうな目をして、巧に言った。
 「あんたの方が楽しそうだけど……」
  巧はニヤニヤしながら言った。
 「わかる?」
 「まったく……他人事だと思ってよぉ……」
  巧は言った。
 「でも明日から学校だろ?今まで通りに先生とは会えないんじゃないの?」
  縁は顔を上げた。
 「それもそうだな……」
  桃子に会う事が少なくなると言う事は……事件に巻き込まれる可能性も少なくなる。
  縁は言った。
 「でも学校つまんねぇしな」
  巧は言った。
 「何で?縁、友達いないのか?」
 「そんなんじゃないよ……友達はいるよ」
  実際縁には複数の友達がいる。夏休みの間は桃子と一緒の時間が多かったので、友達と遊ぶ機会があまりなかっただけで、友達は結構多い。
  巧は言った。
 「じゃあ何でつまんねぇんだ?」
 「授業がつまらん」
  巧は納得した。
 「なるほど」
  巧が納得したように、実際縁の学力は大学を卒業出来る程の学力があった。
  と、言うのは……縁は13歳ですでに飛び級でアメリカの大学を卒業している。
  帰国して高校に通っているのは、縁の母の意向だ。
  そんな縁にしてみれば高校の授業など、つまらない以外の何物でもなかった。
  巧は言った。
 「やっぱお前に普通は似合わないよ……」
  縁は少しムッとして言った。
 「たっくんまで何を言ってんだよ」
  すると、お約束通り客が1人来店した。こんな時間に来るのは1人しかいない。
 「マスター、アイスカフェだ」
  桃子だった。
  巧は言った。
 「いらっしゃい先生……アイスカフェね」
  桃子は縁の隣に座り言った。
 「明日から新学期だな」
 「桃子さんも大学だろ?」
 「私は休みが長いからなぁ……」
  縁のダレた様子を見て、桃子は怪訝な表情で言った。
 「どうした縁?元気がなさそうだが」
  縁は言った。
 「別に……ただ、もうすぐ秋だと思ってね」
  桃子はニヤニヤしながら言った。
 「なるほど……お前、私にあまり会えなくなるから寂しいのだな」
  縁は呆れて言った。
 「何でそうなるんだ?」
  桃子は気にせず言った。
 「今日……百合根神社で祭りがあるぞ」
 「そうなの?」
 「縁は帰国してそんなに年月が経っていないからな……知らなくても仕方がない」
 「そんなものがあったのか……」
  桃子は言った。
 「今晩行くぞ」
  縁は言った。
 「何を勝手に決めてる」
  すると、桃子のアイスカフェを持ってきた巧が言った。
「行ってこいよ縁……年に一度の地元祭りだ。夜店も沢山出て結構楽しいぜ」
  縁は少し考えて呟いた。
 「祭りか……高校生らしくていいかもな」
  桃子は笑顔で言った。
 「決まりだっ!」
  縁は呟いた。
 「まぁ、いい思いで作りになるか……」
  こうして今晩、縁と桃子は夏祭りに行く事になった。
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