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第十話 窟塚村のカリスマ教祖 前編
⑤
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天菜のお告げにより、食堂の空気は凍りついた。もちろんお告げを告げられた、金尾本人も凍りついたが、金尾は無理矢理表情を柔らかくし、薄ら笑いした。
「死ぬ?……私が?……ははは、冗談を……」
天菜は金尾を見つめたまま言った。
「冗談では無い……見えるのです。罪に取り憑かれ、もがき苦しむ様が……」
すると、金尾は激昂した。
「ふ、ふざけるなっ!どうして私が死ぬんだっ!?……過去の罪?訳のわからない事を……」
すると村長の福島が、目を見開き口角を上げた。その様子はおぞましく感じた。
「お告げは絶対です……貴方は死ぬ……」
福島の様子を見て金尾は腰が退けたのか、怒りの表情から恐怖の表情に変わった。
「ど、どうして私が?……バカなっ!……」
金尾らのやり取りを見て、有村が言った。
「死ぬとは……穏やかじゃないね……」
天菜は有村に言った。
「それが運命……受け入れられよ……」
有村は口角を上げた。
「僕たちが、それを黙って見ているとでも?」
「これは決められている事……」
そう言うと天菜は食堂に背を向け、福島を連れて去って行った。
食堂に残された者達はしばし沈黙したが、有村が縁に言った。
「縁……どう思う?」
縁は言った。
「罪に取り憑かれ死ぬと言ったな。自殺予告と殺害予告……どちらともとれる……。もしくは本当の予言……」
桃子は吐き捨てるように言った。
「バカなっ!……未来など誰にもわかる訳が無いっ!」
縁は言った。
「俺もそう思うよ……。でも、この状況は捨て置けない……」
金尾はその場でうずくまり、恐怖で体を震わせている。横瀬が金尾に声を掛けているが、効き目がないようだ。
そんな金尾を見て、有村は言った。
「とにかく金尾さんに、身に覚えがないか、聞いてみないと……」
有村は金尾に声を掛けた。
「金尾さん……とりあえず座りましょう……」
5人は中央のテーブルに集まり、話をすることにした。
有村は金尾に率直に言った。
「早速ですけど……天菜の言う『過去の罪』に心当たりは?」
金尾は顔を下に向けたまま言った。
「そ、そんなものは……無い……。し、知らない……」
金尾がそう答えるのは、有村にとっては、予想通りだった。
すると桃子が言った。
「後ろめたい事がある奴に限って、そう言うものだ……」
金尾は桃子を睨み付けた。
「君っ!失礼だろっ!」
桃子は鼻で笑った。
「フンッ……貴様、ノンフィクション作家と言ったな……」
金尾は桃子が鼻で笑ったのが、気に入らなかったのか、憮然とした表情だ。
「それが何だ?」
桃子は挑発的な態度を止めない。
「貴様の執筆活動に問題があり、他者から恨みを買っているのではないのか?」
金尾は言葉を失い、代わりに怒りで体を震わせている。
すると横瀬が桃子に言った。
「小笠原先生っ!いくらなんでも失礼過ぎますよっ!」
「フンッ……」
桃子はそっぽを向いてしまった。余程この2人が気に入らないのだろう。
すると金尾は立ち上がった。
「気分が悪いっ!私は部屋に戻るっ!」
有村は慌てて金尾に言った。
「ちょっと……まってよ……」
しかし金尾は聞く耳を持たない。
「うるさいっ!私には後ろめたい事は無いし、罪など知らんっ!」
そう言うと金尾は食堂を出ていってしまった。
有村は金尾が食堂を出る間際に「戸締りはしっかり」と、だけしか言えなかった。
「やれやれ……まいったね」
有村は頭を抱えている。
そんな有村に縁は言った。
「とりあえず……しっかり戸締りをしてもらって……金尾さんの部屋の様子を、注意深く見とく必要があるな……」
横瀬が言った。
「他人事だと思って……随分冷静ですね」
横瀬の嫌味に、有村は言った。
「冷静……慣れてるだけですよ」
横瀬は怪訝な表情で言った。
「慣れてる?たかが作家助手が何を……」
有村は言った。
「そんな事より……横瀬さん……貴方は金尾さんと、あちこち飛び回ってるみたいだけど……」
桃子が言った。
「金尾に心当たりがあるとしたら……当然貴様にも、あるだろう……」
横瀬は苦笑いした。
「じょ、冗談は止めて下さいよ……あんなインチキ教祖言う事を、真に受けるんですか?」
有村は言った。
「僕も予言やら超能力などは、信じないけど……そこそこ知名度のある彼女が、根拠も無しで、皆の前であんな事を言わないでしょ」
横瀬は言った。
「嫌がらせですよ……我々があの女の化けの皮を剥ぎに来たから」
桃子は言った。
「貴様……その化けの皮とやらは、根拠があって言っているのか?」
「根拠?……当然ありますよ……この場では言えませんが……」
すると横瀬も立ち上がって「私も部屋に戻る」と言って、食堂を出た。
有村は言った。
「やっぱり……あの2人と、この村は何かありそうだね……」
すると縁は立ち上がった。
「とにかく……もう少し調べるか……」
有村は言った。
「調べるって?」
「大した事じゃないよ……」
そう言うと縁は出ていってしまった。桃子は慌てて立ち上がり、縁の後を追おうとしたが、有村は座ったままだ。
桃子は有村に言った。
「追わないのか?」
有村は言った。
「僕は……だめもとで金尾さんに、話を聞きに行くよ……」
縁はスタスタと宿舎の廊下を歩いている。桃子は縁の後を歩きながら言った。
「何処に行くのだ?」
縁は振り返る事なく言った。
「風間さんのところ……食堂と厨房があるって事は……」
そう言うと縁は、とある部屋の前で立ち止まった。
「ここかな?事務所は……」
桃子は言った。
「事務所?」
「ああ……この島の食事は、確かにこの村の畑や田んぼで採れたものばかりだけど……調味料や、それ以外の物は外部から仕入れている物だ……」
桃子は不思議そうに言った。
「つまり……どういう事だ?」
「この村の住人はおよそ……100人程……それらの食事管理や、体調管理、日用品の管理をするには、それなりの管理体制が必要になる」
「それなりの管理体制が必要なら、事務所は必要不可欠……」
桃子はようやく理解できたようだ。
縁は言った。
「そう言う事……で、おそらくこの部屋が事務所さ……」
縁は扉をノックした。すると、すぐに返事が返ってきた。
「はい……開いてますよ……」
縁は扉を開けて部屋に入った。
部屋に入ると、中には複数のデスクがあり、PCやFAX、プリンターなどがあり、外とは違い近代化している。
部屋には風間と、料理担当の東がいて、縁と桃子が現れた事に少し驚いている。
風間が言った。
「小笠原先生に新井場さん……どうしましたか?」
桃子が勢いよく言った。
「天菜の事で少し聞きたい事がっ……」
すると縁が桃子を制して言った。
「天菜からお告げが出ました……。今晩、人が死ぬと……」
それを聞いた風間は驚いて言った。
「なっ、何ですって!?」
縁は言った。
「少し話を……」
すると風間は縁と桃子を事務所内に招いた。
「お入り下さい……」
縁と桃子は風間に案内され、事務所の奥のテーブル席に着いた。なかなか座り心地の良いソファーで、柔らかくて、フワフワしている。
縁は風間に言った。
「お告げとは……いったい何なんですか?」
風間は大きく息を吐いき言った。
「ふぅ……。お告げとは、天菜様が死者から聞いた、未練やそれに関係する予言です」
桃子は目を丸くして言った。
「死者からだと?……そんなオカルトな話を……」
風間は言った。
「僕も実際その死者を見た事はありませんから……」
縁は言った。
「その口ぶりだと、過去にも?」
風間は頷いた。
「はい……過去にも数回ありました……」
「どんな事が?」
縁に聞かれると、風間はまた大きく息を吐いて言った。
「ふぅ……あまり言いたくはありませんが……」
桃子が言った。
「死の宣告を受けている者がいるのだぞっ!」
風間は両瞼を閉じて言った。
「わかりました……少しお話をしましょう……舞ちゃん、コーヒーを3つ」
風間は東にコーヒーを持ってくるように指示をした。東の下の名前は、舞と言うらしい。
風間は天菜の話を始めた。
「3年前に……この村で火事がありまして……それは大きな被害でした……」
縁が相槌を打った。
「火事?……村で……」
「ええ……村民の宿舎と、その隣の畑は全焼しました……」
風間の言う宿舎は、おそらく村の西側の宿舎だろう、隣に畑があるのは西側の宿舎しかない。
風間は続けた。
「しかし……死者は1人もいませんでした……」
桃子は言った。
「迅速に火事に対応したのだな」
桃子の言葉に、風間は首を横に振った。
「それもありますが……火事が起こった時……宿舎には1人も人がいなかったのです」
桃子は目を丸くして言った。
「何だとっ!?」
「あらかじめ避難をしていたのですよ……」
縁が言った。
「つまり、天菜が火事を予言し……そして、村民をあらかじめ避難させ、死者がでなかったのか……」
風間は頷いた。
「その通りです……天菜様の予言で結果的に死者は1人も出ませんでした。天菜様に救われたのです」
縁は言った。
「天菜のお告げの的中率は?」
風間は言った。
「100%です……ですので、残念ながら、その方は今晩お亡くなりになるでしょう……」
桃子は言った。
「君は平気なのか?人が死ぬんだぞっ……」
風間は桃子の言葉に反応し、表情を険しくした。
「確かに穏やかな話ではありません……これまで数多くの人を救ってきた天菜様が、人の死を宣告するなんて……」
桃子は言った。
「予言を変えることは?」
風間は険しい表情のまま、首を横に振った。
「残念ながら……」
縁は立ち上がって、風間に言った。
「俺は……変える努力はするぜ……」
風間は目を丸くして縁を見た。
「努力?」
「宣告を受けたのは金尾さんだ。金尾さんの口ぶりからして、自殺はまずない……」
「と、言いますと?」
「だったら残る可能性は……殺人だ」
風間は驚いた表情で言った。
「さ、殺人?……まさか……」
縁は言った。
「とにかく金尾さんを守らないと……。金尾さんを部屋に閉じ込めて、入口を見張る……そうすれば、例え殺人犯がいたとしても、簡単に手を出せない」
すると風間も立ち上がった。
「僕もお供します……」
桃子は言った。
「君は天菜側の人間だろ?」
風間は言った。
「確かに僕は天菜様を尊敬しています……。しかし、人が死ぬのは穏やかではありません」
縁は言った。
「わかった……じゃあ、一緒に行きましょう……」
風間から金尾の部屋を聞いて、3人は金尾の部屋に向かった。
部屋に行くと、扉の前に有村がいた。
縁は有村に言った。
「有村さん……金尾さんの様子は?」
「引き籠っちゃって……全然話をしてくれないよ……」
桃子が言った。
「仕方のない奴だな……」
有村は呆れて言った。
「でも……引き籠ってくれてる方がいいよ……下手に行動されると厄介だからね……」
縁は言った。
「確かにな……これで守りやすくなった……。でも、金尾さんの右隣の部屋は俺の部屋だったんだな」
縁の部屋は208号で金尾の部屋は207号だった。
縁は言った。
「風間さんを入れて丁度4人だ……2人1組の交代制で見張ろう……」
有村が言った。
「組分けはどうする?」
風間は言った。
「僕は貴方方にお任せします」
すると桃子が張り切って言った。
「もちろん私と縁はセットだな」
縁は言った。
「何でもちろん何だ?」
「何度も言わすな……私とお前は、運命共同体だ……」
「また言ってる……」
二人の様子を見て、風間はクスクスしなが言った。
「お二人とも……仲が良いんですね」
有村は言った。
「桃子ちゃんの言う通り、縁と桃子ちゃんはセットでないと、しっくりこないな」
縁は言った。
「有村さんまで……何言ってんだ」
桃子は悲しそうな表情で縁に言った。
「私とセットがそんなに嫌なのか?」
縁は頭を抱えた。
「わかったよっ!……だからその表情は止めろっ!それに、このパターンも飽きたよ」
縁は諦めて、桃子と金尾の部屋を見張る事にした。
先に有村と風間が、金尾の部屋を見張る事になった。縁と桃子は縁の部屋で待機する事になった。
桃子は部屋のベッドに腰を掛けて、縁に言った。
「縁……」
「何だよ?」
「死者のお告げって……信じるか?」
桃子の意外な問いに、縁は少し笑ってしまった。
「ははは……何だよ桃子さん……1番信じてないのは桃子さんだろ?」
「うっ……確かにそうだが……」
「何だよ……ビビってんのか?」
桃子はムッとした表情で言った。
「バッ、バカにするなっ!誰がビビるか……」
「そんなもんで、人は殺せないよ……でも……」
桃子は怪訝そうな表情で縁を見た。
「でも……何だ?」
「俺達が見てる前で、自信満々で予言した……あの自信は何だ?」
「私もそれが引っ掛かるんだ……」
椅子に座っていた縁は、両腕を後頭部の後ろで組んで呟いた。
「ナメられてんのかな?」
桃子は憮然とした表情で言った。
「私たちにわかる訳が無いと……」
「とりあえず……今は見張るしかないよ……」
時刻はもうすぐ午後9時……縁と桃子が話していると、縁と桃子の見張り時間が来る前に、その時はやって来た。
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!…………」
確かに聞こえた。金尾の声だ。
縁と桃子はすぐさま反応し、部屋を出て隣の金尾の部屋に走った。
部屋の前では有村がドアを叩いている。
「金尾さんっ!金尾さんっ!」
ドアを叩く激しい音と、有村の呼び声に気付いていないのか、金尾の叫び声はやまない。
「くっ!来るなぁぁぁぁぁぁっ!止めろっ!止めてくれぇぇぇぇぇぇっ!」
部屋の中から……ガシャァーンや、ドサドサといった音が聞こえてくる。誰かと争っているのか?
「俺が悪かったっ!だっ、だから、許してくれぇぇぇぇっ!」
有村は風間に言った。
「この部屋の合鍵はっ!?」
「じ、事務所に……と、取ってきますっ!」
風間はそう言うと、走って社に向かった。
有村は必死でドアを叩いている。
「金尾さんっ!ここを開けてくれっ!」
金尾からの返事は無く、代わりに叫び声が返ってくる。
「や、止めて……こ、殺さ、殺さないで……」
そしてその時はやって来た。
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
金尾の断末魔のような叫び声が、部屋の中でこだまして、静かになった。
有村は拳を握りしめ、ドアを殴った。
「くっそぉぉぉっ!」
縁は有村に言った。
「有村さん……ドアをぶち破ろうっ!犯人に逃げられる」
縁と有村は、ドアをめがけて思いっきり体をぶつけた。
ドォーンッ、ドォーンッと1回2回……ドォーンッ、ドォーンッ、3回4回……少しドアが揺らいだ。
桃子が言った。
「私に任せろっ!」
桃子はドアに向かって構えた……そして、勢いよく飛び蹴りを、ドアに食らわした。
するとドアは勢いよく、部屋の中へと飛んで行くと部屋の中が明らかになった。
縁ら3人が部屋に突入すると、そこは壮絶だった。部屋は荒らされ、机や椅子がひっくり返り、グラスなどの食器が割れて、破片が散乱していた。
部屋の中央では、金尾がうつ伏せで倒れていた。
有村は金尾に駆け寄り声を掛けた。
「金尾さんっ!金尾さんっ!……」
金尾の脈を確認すると、有村は立ち上がった。
「死んでいる……」
縁は目を丸くした。
「どういう事だ?」
部屋を見渡すと、柵付きの窓があり、鍵は掛かっている。争った形跡はあるが、出入口はぶち破ったドアだけで、部屋には倒れている金尾しかいない。
縁は言った。
「完全な密室……どうやって死んだんだ?……」
まさか……本当に罪に取り憑かれて、死んだとでも言うのか?……縁は目を丸くして、ただ立ち尽くすしかなかった。
「死ぬ?……私が?……ははは、冗談を……」
天菜は金尾を見つめたまま言った。
「冗談では無い……見えるのです。罪に取り憑かれ、もがき苦しむ様が……」
すると、金尾は激昂した。
「ふ、ふざけるなっ!どうして私が死ぬんだっ!?……過去の罪?訳のわからない事を……」
すると村長の福島が、目を見開き口角を上げた。その様子はおぞましく感じた。
「お告げは絶対です……貴方は死ぬ……」
福島の様子を見て金尾は腰が退けたのか、怒りの表情から恐怖の表情に変わった。
「ど、どうして私が?……バカなっ!……」
金尾らのやり取りを見て、有村が言った。
「死ぬとは……穏やかじゃないね……」
天菜は有村に言った。
「それが運命……受け入れられよ……」
有村は口角を上げた。
「僕たちが、それを黙って見ているとでも?」
「これは決められている事……」
そう言うと天菜は食堂に背を向け、福島を連れて去って行った。
食堂に残された者達はしばし沈黙したが、有村が縁に言った。
「縁……どう思う?」
縁は言った。
「罪に取り憑かれ死ぬと言ったな。自殺予告と殺害予告……どちらともとれる……。もしくは本当の予言……」
桃子は吐き捨てるように言った。
「バカなっ!……未来など誰にもわかる訳が無いっ!」
縁は言った。
「俺もそう思うよ……。でも、この状況は捨て置けない……」
金尾はその場でうずくまり、恐怖で体を震わせている。横瀬が金尾に声を掛けているが、効き目がないようだ。
そんな金尾を見て、有村は言った。
「とにかく金尾さんに、身に覚えがないか、聞いてみないと……」
有村は金尾に声を掛けた。
「金尾さん……とりあえず座りましょう……」
5人は中央のテーブルに集まり、話をすることにした。
有村は金尾に率直に言った。
「早速ですけど……天菜の言う『過去の罪』に心当たりは?」
金尾は顔を下に向けたまま言った。
「そ、そんなものは……無い……。し、知らない……」
金尾がそう答えるのは、有村にとっては、予想通りだった。
すると桃子が言った。
「後ろめたい事がある奴に限って、そう言うものだ……」
金尾は桃子を睨み付けた。
「君っ!失礼だろっ!」
桃子は鼻で笑った。
「フンッ……貴様、ノンフィクション作家と言ったな……」
金尾は桃子が鼻で笑ったのが、気に入らなかったのか、憮然とした表情だ。
「それが何だ?」
桃子は挑発的な態度を止めない。
「貴様の執筆活動に問題があり、他者から恨みを買っているのではないのか?」
金尾は言葉を失い、代わりに怒りで体を震わせている。
すると横瀬が桃子に言った。
「小笠原先生っ!いくらなんでも失礼過ぎますよっ!」
「フンッ……」
桃子はそっぽを向いてしまった。余程この2人が気に入らないのだろう。
すると金尾は立ち上がった。
「気分が悪いっ!私は部屋に戻るっ!」
有村は慌てて金尾に言った。
「ちょっと……まってよ……」
しかし金尾は聞く耳を持たない。
「うるさいっ!私には後ろめたい事は無いし、罪など知らんっ!」
そう言うと金尾は食堂を出ていってしまった。
有村は金尾が食堂を出る間際に「戸締りはしっかり」と、だけしか言えなかった。
「やれやれ……まいったね」
有村は頭を抱えている。
そんな有村に縁は言った。
「とりあえず……しっかり戸締りをしてもらって……金尾さんの部屋の様子を、注意深く見とく必要があるな……」
横瀬が言った。
「他人事だと思って……随分冷静ですね」
横瀬の嫌味に、有村は言った。
「冷静……慣れてるだけですよ」
横瀬は怪訝な表情で言った。
「慣れてる?たかが作家助手が何を……」
有村は言った。
「そんな事より……横瀬さん……貴方は金尾さんと、あちこち飛び回ってるみたいだけど……」
桃子が言った。
「金尾に心当たりがあるとしたら……当然貴様にも、あるだろう……」
横瀬は苦笑いした。
「じょ、冗談は止めて下さいよ……あんなインチキ教祖言う事を、真に受けるんですか?」
有村は言った。
「僕も予言やら超能力などは、信じないけど……そこそこ知名度のある彼女が、根拠も無しで、皆の前であんな事を言わないでしょ」
横瀬は言った。
「嫌がらせですよ……我々があの女の化けの皮を剥ぎに来たから」
桃子は言った。
「貴様……その化けの皮とやらは、根拠があって言っているのか?」
「根拠?……当然ありますよ……この場では言えませんが……」
すると横瀬も立ち上がって「私も部屋に戻る」と言って、食堂を出た。
有村は言った。
「やっぱり……あの2人と、この村は何かありそうだね……」
すると縁は立ち上がった。
「とにかく……もう少し調べるか……」
有村は言った。
「調べるって?」
「大した事じゃないよ……」
そう言うと縁は出ていってしまった。桃子は慌てて立ち上がり、縁の後を追おうとしたが、有村は座ったままだ。
桃子は有村に言った。
「追わないのか?」
有村は言った。
「僕は……だめもとで金尾さんに、話を聞きに行くよ……」
縁はスタスタと宿舎の廊下を歩いている。桃子は縁の後を歩きながら言った。
「何処に行くのだ?」
縁は振り返る事なく言った。
「風間さんのところ……食堂と厨房があるって事は……」
そう言うと縁は、とある部屋の前で立ち止まった。
「ここかな?事務所は……」
桃子は言った。
「事務所?」
「ああ……この島の食事は、確かにこの村の畑や田んぼで採れたものばかりだけど……調味料や、それ以外の物は外部から仕入れている物だ……」
桃子は不思議そうに言った。
「つまり……どういう事だ?」
「この村の住人はおよそ……100人程……それらの食事管理や、体調管理、日用品の管理をするには、それなりの管理体制が必要になる」
「それなりの管理体制が必要なら、事務所は必要不可欠……」
桃子はようやく理解できたようだ。
縁は言った。
「そう言う事……で、おそらくこの部屋が事務所さ……」
縁は扉をノックした。すると、すぐに返事が返ってきた。
「はい……開いてますよ……」
縁は扉を開けて部屋に入った。
部屋に入ると、中には複数のデスクがあり、PCやFAX、プリンターなどがあり、外とは違い近代化している。
部屋には風間と、料理担当の東がいて、縁と桃子が現れた事に少し驚いている。
風間が言った。
「小笠原先生に新井場さん……どうしましたか?」
桃子が勢いよく言った。
「天菜の事で少し聞きたい事がっ……」
すると縁が桃子を制して言った。
「天菜からお告げが出ました……。今晩、人が死ぬと……」
それを聞いた風間は驚いて言った。
「なっ、何ですって!?」
縁は言った。
「少し話を……」
すると風間は縁と桃子を事務所内に招いた。
「お入り下さい……」
縁と桃子は風間に案内され、事務所の奥のテーブル席に着いた。なかなか座り心地の良いソファーで、柔らかくて、フワフワしている。
縁は風間に言った。
「お告げとは……いったい何なんですか?」
風間は大きく息を吐いき言った。
「ふぅ……。お告げとは、天菜様が死者から聞いた、未練やそれに関係する予言です」
桃子は目を丸くして言った。
「死者からだと?……そんなオカルトな話を……」
風間は言った。
「僕も実際その死者を見た事はありませんから……」
縁は言った。
「その口ぶりだと、過去にも?」
風間は頷いた。
「はい……過去にも数回ありました……」
「どんな事が?」
縁に聞かれると、風間はまた大きく息を吐いて言った。
「ふぅ……あまり言いたくはありませんが……」
桃子が言った。
「死の宣告を受けている者がいるのだぞっ!」
風間は両瞼を閉じて言った。
「わかりました……少しお話をしましょう……舞ちゃん、コーヒーを3つ」
風間は東にコーヒーを持ってくるように指示をした。東の下の名前は、舞と言うらしい。
風間は天菜の話を始めた。
「3年前に……この村で火事がありまして……それは大きな被害でした……」
縁が相槌を打った。
「火事?……村で……」
「ええ……村民の宿舎と、その隣の畑は全焼しました……」
風間の言う宿舎は、おそらく村の西側の宿舎だろう、隣に畑があるのは西側の宿舎しかない。
風間は続けた。
「しかし……死者は1人もいませんでした……」
桃子は言った。
「迅速に火事に対応したのだな」
桃子の言葉に、風間は首を横に振った。
「それもありますが……火事が起こった時……宿舎には1人も人がいなかったのです」
桃子は目を丸くして言った。
「何だとっ!?」
「あらかじめ避難をしていたのですよ……」
縁が言った。
「つまり、天菜が火事を予言し……そして、村民をあらかじめ避難させ、死者がでなかったのか……」
風間は頷いた。
「その通りです……天菜様の予言で結果的に死者は1人も出ませんでした。天菜様に救われたのです」
縁は言った。
「天菜のお告げの的中率は?」
風間は言った。
「100%です……ですので、残念ながら、その方は今晩お亡くなりになるでしょう……」
桃子は言った。
「君は平気なのか?人が死ぬんだぞっ……」
風間は桃子の言葉に反応し、表情を険しくした。
「確かに穏やかな話ではありません……これまで数多くの人を救ってきた天菜様が、人の死を宣告するなんて……」
桃子は言った。
「予言を変えることは?」
風間は険しい表情のまま、首を横に振った。
「残念ながら……」
縁は立ち上がって、風間に言った。
「俺は……変える努力はするぜ……」
風間は目を丸くして縁を見た。
「努力?」
「宣告を受けたのは金尾さんだ。金尾さんの口ぶりからして、自殺はまずない……」
「と、言いますと?」
「だったら残る可能性は……殺人だ」
風間は驚いた表情で言った。
「さ、殺人?……まさか……」
縁は言った。
「とにかく金尾さんを守らないと……。金尾さんを部屋に閉じ込めて、入口を見張る……そうすれば、例え殺人犯がいたとしても、簡単に手を出せない」
すると風間も立ち上がった。
「僕もお供します……」
桃子は言った。
「君は天菜側の人間だろ?」
風間は言った。
「確かに僕は天菜様を尊敬しています……。しかし、人が死ぬのは穏やかではありません」
縁は言った。
「わかった……じゃあ、一緒に行きましょう……」
風間から金尾の部屋を聞いて、3人は金尾の部屋に向かった。
部屋に行くと、扉の前に有村がいた。
縁は有村に言った。
「有村さん……金尾さんの様子は?」
「引き籠っちゃって……全然話をしてくれないよ……」
桃子が言った。
「仕方のない奴だな……」
有村は呆れて言った。
「でも……引き籠ってくれてる方がいいよ……下手に行動されると厄介だからね……」
縁は言った。
「確かにな……これで守りやすくなった……。でも、金尾さんの右隣の部屋は俺の部屋だったんだな」
縁の部屋は208号で金尾の部屋は207号だった。
縁は言った。
「風間さんを入れて丁度4人だ……2人1組の交代制で見張ろう……」
有村が言った。
「組分けはどうする?」
風間は言った。
「僕は貴方方にお任せします」
すると桃子が張り切って言った。
「もちろん私と縁はセットだな」
縁は言った。
「何でもちろん何だ?」
「何度も言わすな……私とお前は、運命共同体だ……」
「また言ってる……」
二人の様子を見て、風間はクスクスしなが言った。
「お二人とも……仲が良いんですね」
有村は言った。
「桃子ちゃんの言う通り、縁と桃子ちゃんはセットでないと、しっくりこないな」
縁は言った。
「有村さんまで……何言ってんだ」
桃子は悲しそうな表情で縁に言った。
「私とセットがそんなに嫌なのか?」
縁は頭を抱えた。
「わかったよっ!……だからその表情は止めろっ!それに、このパターンも飽きたよ」
縁は諦めて、桃子と金尾の部屋を見張る事にした。
先に有村と風間が、金尾の部屋を見張る事になった。縁と桃子は縁の部屋で待機する事になった。
桃子は部屋のベッドに腰を掛けて、縁に言った。
「縁……」
「何だよ?」
「死者のお告げって……信じるか?」
桃子の意外な問いに、縁は少し笑ってしまった。
「ははは……何だよ桃子さん……1番信じてないのは桃子さんだろ?」
「うっ……確かにそうだが……」
「何だよ……ビビってんのか?」
桃子はムッとした表情で言った。
「バッ、バカにするなっ!誰がビビるか……」
「そんなもんで、人は殺せないよ……でも……」
桃子は怪訝そうな表情で縁を見た。
「でも……何だ?」
「俺達が見てる前で、自信満々で予言した……あの自信は何だ?」
「私もそれが引っ掛かるんだ……」
椅子に座っていた縁は、両腕を後頭部の後ろで組んで呟いた。
「ナメられてんのかな?」
桃子は憮然とした表情で言った。
「私たちにわかる訳が無いと……」
「とりあえず……今は見張るしかないよ……」
時刻はもうすぐ午後9時……縁と桃子が話していると、縁と桃子の見張り時間が来る前に、その時はやって来た。
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!…………」
確かに聞こえた。金尾の声だ。
縁と桃子はすぐさま反応し、部屋を出て隣の金尾の部屋に走った。
部屋の前では有村がドアを叩いている。
「金尾さんっ!金尾さんっ!」
ドアを叩く激しい音と、有村の呼び声に気付いていないのか、金尾の叫び声はやまない。
「くっ!来るなぁぁぁぁぁぁっ!止めろっ!止めてくれぇぇぇぇぇぇっ!」
部屋の中から……ガシャァーンや、ドサドサといった音が聞こえてくる。誰かと争っているのか?
「俺が悪かったっ!だっ、だから、許してくれぇぇぇぇっ!」
有村は風間に言った。
「この部屋の合鍵はっ!?」
「じ、事務所に……と、取ってきますっ!」
風間はそう言うと、走って社に向かった。
有村は必死でドアを叩いている。
「金尾さんっ!ここを開けてくれっ!」
金尾からの返事は無く、代わりに叫び声が返ってくる。
「や、止めて……こ、殺さ、殺さないで……」
そしてその時はやって来た。
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
金尾の断末魔のような叫び声が、部屋の中でこだまして、静かになった。
有村は拳を握りしめ、ドアを殴った。
「くっそぉぉぉっ!」
縁は有村に言った。
「有村さん……ドアをぶち破ろうっ!犯人に逃げられる」
縁と有村は、ドアをめがけて思いっきり体をぶつけた。
ドォーンッ、ドォーンッと1回2回……ドォーンッ、ドォーンッ、3回4回……少しドアが揺らいだ。
桃子が言った。
「私に任せろっ!」
桃子はドアに向かって構えた……そして、勢いよく飛び蹴りを、ドアに食らわした。
するとドアは勢いよく、部屋の中へと飛んで行くと部屋の中が明らかになった。
縁ら3人が部屋に突入すると、そこは壮絶だった。部屋は荒らされ、机や椅子がひっくり返り、グラスなどの食器が割れて、破片が散乱していた。
部屋の中央では、金尾がうつ伏せで倒れていた。
有村は金尾に駆け寄り声を掛けた。
「金尾さんっ!金尾さんっ!……」
金尾の脈を確認すると、有村は立ち上がった。
「死んでいる……」
縁は目を丸くした。
「どういう事だ?」
部屋を見渡すと、柵付きの窓があり、鍵は掛かっている。争った形跡はあるが、出入口はぶち破ったドアだけで、部屋には倒れている金尾しかいない。
縁は言った。
「完全な密室……どうやって死んだんだ?……」
まさか……本当に罪に取り憑かれて、死んだとでも言うのか?……縁は目を丸くして、ただ立ち尽くすしかなかった。
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