OVER-DRIVE

陽芹孝介

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第二話 師匠と弟子

  ……アデル18番街の港……


  アデル18番街……アデルの工業地帯であり、産業の中心でもあるこの街地は造船業も盛んであり、飛空挺の製造も行われている。
  その18番街の離れに位置する、とある港にて……ロックとエリスは聞き込みをしていた。
  18番街は漁港も盛んであり、料理人もここの港に集まる。13番街とは違った意味で、栄えていた。
 「知らない?……そうかい、ありがとよ……」
  20回目の聞き込みも空振りに終わり、ロックは肩を落としている。朝からこの繰り返しで、もう昼過ぎだ。
  エリスはその様子を呆れて見ている。
  エリスの呆れた様子に、ロックはいちゃもんをつけた。
 「エリス……テメェー……んだその顔は?」
  エリスは深く溜め息をついた。
 「はぁ~……何でメモを落とすかなぁ……」
  ロックはバツの悪そうな表情をした。
 「わっ、悪ぃと思ってっから……俺が率先して聞き込みをしてんだろっ!」
 「悪いと思ってる態度じゃないよね……」
  どうやらマスターに貰ったメモを、ロックが落としたようだ。
  ロックは不機嫌な表情で言った。
 「でもなんで、ジンの居場所を誰も知らねぇ?一応アイツ科学者だぜ……」
  エリスはそっぽを向いた。
 「わたしが知るわけないでしょ……」
  するとロックの腹が「ぐぅ~」っと鳴った。
 「腹へった……飯にしようぜ……」
  減ったお腹を摩っているロックに、エリスは冷たい視線を送った。
 「アンタ……文無しでついてくるなんて……」
 「金があったらツケを払ってるわっ!」
  何故か偉そうなロックに、エリスは頭を抱えた。
 「はぁ……お金の工面も考えなきゃ……」
 「おいっ!エリスっ!あっちに美味そうな寿司屋があんぜ……やっぱ港だから魚だよなぁ……」
 「はぁ~……大丈夫かなぁ……これから……」
  二人は漁港近くの寿司屋に入店した。


  ……30分後……

 「あ~食った食った……旨かったなぁ」
 店から出て来たロックは、満足そうにお腹をさすっている。
 「アンタがハイボール飲むから、高くついたじゃないっ!」
  エリスは思わぬ出費に、御機嫌斜めだ。
  二人は工業地帯に向かうことにし、18番街の中心に向かった。
  するとロックの後ろを歩いていたエリスは、工業地帯と漁港の境目付近の路地裏で、何かを発見した。
  エリスはロックに言った。
 「ねぇロック……あれ……」
  エリスが指差す方向を、ロックは見た。そこには狭い路地にごつい男二人が、貧相な白衣の男性に絡んでいた。
  ロックは小指で耳をほじりながら言った。
 「う~ん……あれはな、道を訪ねてんだ」
 「いや、違うでしょっ!」
 「じゃあ、危ない取引だ……関わらないほうがいい」
 「いや、ある意味取引だけど……一方的でしょ……」
  ロックは真面目な表情で言った。
 「エリス……男には越えなきゃいけねぇ壁がある。あの白衣の兄ちゃんの壁が、今の状況だ」
  エリスは激昂した。
 「言ってる場合かぁ!早く助けてやって!もうご飯食べさせないよっ!」
  エリスの迫力に、ロックは少したじろいた。
 「わっ、わかったよっ!行きゃあいんだろっ?」
  白衣の男性は、ごつい男に胸ぐらを掴まれている。
  白衣の男性は泣きそうな表情で言った。
 「お金なんて持ってませんよぉ……」
  ごつい男は言った。
 「なら家に取りに帰ろうぜ……俺らがついてってやる」
 「そんなぁ~……」
  もう一人のごつい男が言った。
 「テメェーみたいな奴より、俺らが使った方が、世のためなんだよっ!」
  するとごつい男達の後ろから、ロックが声をかけた。
 「へぇ~……そりゃ是非とも、俺も仲間に入れてほしいぜ……」
  ロックの登場に、男達は驚いた。
 「なっ、何だテメェーはっ!?」
  ロックはニィーと笑った。


  ……30秒後……

 「あっ、ありがとう御座いましたっ!」
 「何だって俺は、絡まれてる奴ばっか、助けなきゃなんないんだ?」
  そうぼやくロックの足元には、ごつい男二人が白目を剥いて転がっている。
  エリスはロックを宥めた。
 「まぁ、良いじゃない……良い事したんだから……」
 「チッ……まぁいいや……。兄ちゃん、もう絡まれんなよ……」
  ロックとエリスが去ろうとすると、白衣の男性は呼び止めた。
 「あのぉっ!」
  ロックとエリスが黙って、振り返ると男性は言った。
 「見たところ旅の方ですよね?良かったら家まで来てください。お礼がしたいので……僕はミドと言います」
  ロックとエリスはお互いの顔を見合わせた。


  ……ミドの造船所……
 
  白衣の男性ミドに案内されたのは、小さな造船所だった。小さなと言っても、船を造る場所なのでそれなりに広い。
  鉄や油……木材の匂い等が混じり、職人の職場といった、心地よい匂いがした。
  造船所の中央には造りかけの船があった。
  ロックはそれを見ながら言った。
 「兄ちゃん……船大工かぁ……」
  ミドは申し訳無さそうに言った。
 「はい……一応……でも、造ってるのは僕ではないんです……。職人の方に来ていただいて……」
  エリスは不思議そうに言った。
 「じゃああなたは?」
 「僕は、設計士です……」
  ロックが言った。
 「設計士ねぇ……。飛空挺か?」
  ミドは勢いよく首を横に振った。
 「とんでもないっ!浮遊石の使用許可は、僕になんて出ませんよっ!」
  ロックは言った。
 「確かになぁ……飛空挺の製造は認可がいるからな……。浮遊石は町の船大工に扱えるシロモンじゃねぇわなぁ……」
  ミドは胸を撫でながら言った。
 「勿論ですよ……師匠ならともかく……僕なんか……」
  エリスが言った。
 「ミドさんって、師匠がいるんだ?」
  ミドは苦笑いした。
 「ええ……僕なんか足元にも及ばない……偉大な方です」
  するとロックが言った。
 「兄ちゃんよぉ……もっと自分に自信持ったらどうだい?」
  ミドは目を丸くした。
 「どういうことです?」
 「俺は別に技術屋じゃないからよぉ……具体的に船の事はわかんねぇ……でもよ」
  ミドは黙って聞いている。ロックは続けた。
 「この造りかけの船……骨格しかできてねぇけどよ……いい船だと思うぜ……。まぁ何処が?って聞かれたら……答えられねぇけど……」
  エリスに呆れて言った。
 「じゃあ意味ないじゃん……」
 「うるせぇなぁ……俺は専門家じゃねんだ」
 「でも……わたしも良い船だと思う。具体的に理由はないけど」
 「オメェも同じじゃねぇかっ!」
  ミドは目を丸くして、ロックとエリスのやり取りを聞いていたが、すぐに笑顔になった。
 「あ、ありがとうございますっ!誉めてくれる人なんていなくて……。師匠なんて全然誉めてくれませんから」
  エリスは言った。
 「結構きびしいのね……」
  ロックもエリスの意見に頷いた。
 「確かになぁ……。まぁ、大した事ない奴に限って、人には厳しいもんだ」
  言いたい放題の二人に、ミドは両手を振って否定した。
 「とんでもないっ!大した事ないなんてっ!自分で言うのもなんですが……僕の師匠は『ジン・マクベス』博士ですよっ!」
  ロックとエリスは顔を見合わせ、そして声を揃えた。
 「なんだってぇーっ!?」


  ……アデル総本部……

  アデル総本部の一室……将軍の間……。
  アデル将軍専用の部屋であり、軍事に関する採決はここで行われる。
  アデル女将軍、アリエル・ノイヤーは、将軍席に座り、二人の部下と対峙していた。
  部下は二人共男で、一人はジュノスだ。そしてもう一人は、黒髪のツンツン頭に、整った顎髭……細身だがどこかワイルド感のある男だった。
  二人共漆黒のスーツに身を包んでいる。
  アリエルは二人に言った。
 「よく来てくれました……。ジュノスにガゼル……」
  ガゼルはニヤリとした。
 「久しぶりだなぁ……隊長……いや、今は将軍か……」
  アリエルは鼻で笑った。
 「フッ……貴方も相変わらずですね……ガゼル……」
 「おかげさんでなぁ……で?わざわざ本部に呼び出して何の用だい?将軍殿……」
  アリエルは真剣な表情になった。
 「マクベス博士が、朧と接触したと……そこのジュノスから報告がありました」
  ガゼルの表情はピクリとなった。
 「ジンが?……ほんとか?そりゃあ……」
  アリエルは頷いた。
 「ウラはとれています……」
 「で?俺とジュノスにどうしろと?」
 「マクベスを拘束して下さい……彼の技術力が、朧に渡るのは……よろしくありません」
  するとジュノスが言った。
 「報告しておいてなんなんですがぁ……ジン博士に限って、テロリストに手ぇ貸すとは思えないんですけど……」
  ガゼルは表情を歪めた。
 「チッ……ジュノス……テメェ、何を甘ぇ事いってやがる……」
  アリエルもガゼルに同調した。
 「町で飛空挺を造っているだけなら、それでよかったのですが……。朧と接触しているとなると、話は別です。ジュノス、貴方も知っているでしょう?マクベスの技術力は……」
  ガゼルはジュノスの肩を叩いた。
 「そういう訳だ……。ジンを拘束すりゃあわかるこった。それに上手くいきゃあ朧の連中と、一戦やれるかもしれねぇ……」
  ジュノスは頭を抱えた。
 「相変わらず血の気が多いでさぁ……」


  ……ミドの造船所……

 「まさかアイツに弟子がいたとは……」
  ロックは驚きを隠せないようだ。
  ミドが言った。
 「師匠をご存じで?」
  エリスが言った。
 「わたし達……そのジン博士を探して、この18番街まで来たの……。まぁ、わたしは会った事ないけど……」
  ミドは目を丸くした。
 「そうでしたか……師匠を……。では軍の方ですか?」
  エリスは「軍」という言葉に反応したが、ロック気にせずミドに言った。
 「まぁな……でも今は軍の人間じゃねぇよ……」
  エリスは怪訝な表情になった。
 (ロック……元軍人だったんだ……)
  ミドは言った。
 「師匠も軍は既に辞められています……」
  ロックは感慨深い表情をした。
 「そうか……。で?アイツは何処にいんだ?弟子だったら知ってんだろ……つれてってくれ」
  ミドはバツの悪そうな表情をした。
 「知ってには知っているんですが……」
  ロックは怪訝な表情で言った。
 「何だよ……煮え切らねぇなぁ……」
  エリスが言った。
 「何か事情がありそうね……」
  ミドは頭を掻きながら言った。
 「ええ……実は……。戻れないんです」
  ロックが言った。
 「戻れない?」
 「はい……師匠の課題をクリアするまで……戻れないんです」
  エリスが言った。
 「課題って?」
 「それが……わからないんです」
  ロックとエリスは再び顔を見合わせ、そして声を揃えた。
 「はぁっ!?」
  ミドは苦笑いして言った。
 「僕は行く事が出来ませんが……地図はお渡しします。それと今日はもう遅いですから、今晩泊まっていって下さい……それぐらいしか、お礼を出来ませんが……」
   ロックとエリスは、ミドの造船所に泊めてもらう事にした。宿の決まっていない二人にしてみれば、ありがたい話である。
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