OVER-DRIVE

陽芹孝介

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第十七話 前夜祭と危ない来典者

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  この前夜祭を守るために、動いているのは、ドレル騎士団だけではない……。
  アデルの駐屯兵も同じ思いで動いていた。
  会場の警備に当たっている、アデル兵に指示を飛ばすのは、ジュノスだった。
 「まず優先は来場者の安全……首長の周辺はドレル騎士団がいるから、俺らは来場者を優先でさぁ……」
 「はっ!」
  ジュノスの指示に、アデル兵数十名は、背筋を伸ばして敬礼する。
 「じゃあ……手はず通りに頼むぜぃ……」
  するとアデル兵の一人が言った。
 「ジュノス様はどうされるので?」
  ジュノスは不敵な笑みを浮かべた。
 「俺は、やる事があるんで……」


  一方会場では、既にパーティーが始まっており、来場者は主役の登場を、今か今かと待ちわびていた。
  来場者はそれぞれ飲食を楽しみ、それぞれ自由に寛いでいる。
  ロックとエリスもそれに馴染んで、会場角にある、バーカウンターで酒を飲んでいた。
 「なんでハイボールがねぇんだ?」
 「文句言わないの……」
  二人はそれぞれ綺麗な色をしたカクテルを飲んでいたが、ロックはハイボールが無いため、不満げだった。
  そんなロックの横顔を見ながら、エリスはニコニコしている。
  目的が別にあるとはいえ、男性と二人でパーティーに来るなど、エリスにとっては初めてだったからだ。
  しかもスーツを着こなしたロックは、とても新鮮であり、エリスの瞳には格好良く写っていた。
  エリスもまだまだ若い女性なだけに、こういった感情はとても自然だ。
  そんなニコニコしているエリスに、ロックは怪訝な表情をした。
 「お前……何、ヘラヘラしてんだ?」
  ロックのその一言で、エリスの表情はげんなりした。
 「楽しいからでしょ?……わかってないなぁ……」
  ロックはますます怪訝な表情をした。
 「楽しい?まぁ飯は旨いけど……」
  エリスは呆れた表情をした。
 「はぁ……もういいよ……」
 「変な奴……」
  エリスの感情を理解できないロックは、会場二階に位置する通路に目を移した。
  会場は地上から天井まで、吹き抜けになっており、二階は通路で会場を囲んだようになっている。
  するとその通路に一人の男がおり、その男は会場を睨んでいる。
  ロックはニィーと、歯を見せてニヤケた。
  二階から会場を眺める男は、手すりに腕を掛けて、どことなく哀愁を漂わせている。
  他の来場者と同様に正装に身を包んだその男は、黒髪をオールバックに整え、目は細く鋭く、口髭があったが……不思議と不潔感はなく、いい意味で男臭かった。
  男の睨む先は、主役が座るはずの席で、この男も主役の登場を待っているのだろう。
  すると男に声を掛ける者が現れた。
 「独りかい?兄さん……」
  声を掛けた者は、右手にカクテルの入ったグラスを持ったロックだった。
  ロックの後ろにはエリスもいて、エリスは不安な面持ちだ。
  男はロックを睨んだが……ロックは意に介す事なく、近づきながら再び声を掛けた。
 「独りならどうだい?俺らと飲まねぇか?」
  男が黙ってこの場を離れようとすると、ロックは男の肩に手を掛けた。
 「待てよ、つれねぇなぁ……少しくら……っ!」
  次の瞬間だった……ロックはその場で崩れ落ち、倒れてしまった。男は瞬時にロックの首に手刀を入れたのだ。
  その光景にエリスは目を見開き、言葉を失った。
  男はエリスを睨み付け、倒れたロックを素通りし、エリスに近づく。  
  エリスは本能的に危険を察知した。
 (コイツ……次はわたしを……)
  エリスが男を見据えて身構えると、ようやく男が口を開いた。
 「諦めろ……」
  すると男の背後から声がした。
 「いつつ……いきなり手刀はねぇだろ……」
  ロックは首をさすりながら起き上がり、男に向かって苦笑いをしている。
  ロックが起き上がった事で、男は目を見開き、ロックに向いた。
 「貴様……」
 「外さなきゃ……殺られてたな……」
  ロックの言葉に、男は険しい表情をした。
 (急所を狙った私の手刀を……あの一瞬で外したのか?)
  ロックは男に言った。
 「大人しく捕まってくれねぇか?……ジャック・ローさん……」
  この口髭の男が、ロック達の標的のジャック・ローである。
  ジャックは細い目を見開き、ロックに言った。
 「私の名を……貴様……何者だ?」
  ロックはきつく絞めたネクタイを緩めて、ニヤリとした。
 「アンタ……暗殺者だろ?言われなかったか?……「青い髪には気を付けろ」って……」
  目を見開いていたジャックは、ロックの正体を理解し、不敵に笑った。
 「貴様が……そうか……」
  ジャックは不敵に笑みを浮かべ、ロックを見据えた。
 「このドレルに来ているハンター共は、私に手を出せずに、くだらん暗殺者を狙う、ハイエナ共だ……」
  ロックもニヤリとした。
 「退屈しのぎになるだろ?」
 「ククク……その通りだ。貴様のような来場者は、私にとってくだらないこのパーティーを、楽しむための格好の獲物になる」
 「その過信に……足下救われるぜ」
 「丸腰でこの私に挑んでくる、貴様に言えた義理か?」
 「そいつはどうだろな?」
  ジャックは僅かに足に力をこめた。
 「すぐにわかる……」
  次の瞬間、ジャックは物凄い勢いで、ロックに飛び掛かった。
  ジャックの脚力による飛び出しは、一瞬でロックの間合いに入った。
  ジャックはその勢いのまま、手刀を繰り出し、ロックの喉元を狙う……。
  しかしロックはそれを、後方に少し跳んで難なくかわし、そして後方に跳ぶと同時に、ジャックの顎に目掛けて蹴りを入れた。
  ロックの蹴りにより、ジャックは後方に少しよろめいた。
  エリスはその光景に、安堵の表情を浮かべた。
 (強い……刀がなくても……ロックはやっぱり強い……)
  しかしエリスの表情とは裏腹に、ロックの表情険しい。
 (ヤロー……)
  ジャックはロックの蹴りを寸でで、受け止めていたのだ。
  ロックはジャックの身のこなしに、ニヤリとした。
 (やるじゃねぇか……)
  後方によろめいたジャックは、すぐさま体勢を立て直して、再びロックに襲い掛かった。
  再び間合いに入ったジャックは、手刀でロックの眉間を狙う……。
  ロックはそれを腕で弾いて、逆の手でパンチを繰り出すが、ジャックはそれを手で受け止めた。
  ロックはすぐさま回し蹴りをジャックの頬目掛けて繰り出したが……。

  ドカッ!ドカッ!

  ジャックもロックに回し蹴りを繰り出していたのだ。
  ロックとジャックは共に、蹴りの勢いで後方に吹っ飛んだ。
  一連の戦いを傍観していたエリスは、二人の戦いを目で追うのがやっとだった。
  しかしそんなエリスでも、ジャックの強さを肌で感じていた。
 (丸腰とはいえ……ロックとここまで渡り合えるなんて……)
  これまでエリスは、幾度もロックの戦いを見てきたが……ロックはいつも相手を圧倒していた。
  エリスの目から見ても、ジャック・ローという男の強さは本物だった。
  そんな想いで戦いを見つめるエリスをよそに、両者は再び立ち上がった。
  先程の蹴りで少し口を切ったのか、両者は口から少し血が垂れている。
  ロックはそれを手で拭い、ジャックは指で血を撫でて、それを見ている。
 (血……久しいな、血を見るのは……しかし……)
  ジャックはロックを睨み付けた。
 「人喰いの蒼鬼……貴様……私を過小評価してるな……」
  ジャックの言葉に、ロックは目を丸くした。
 「そんなことねぇよ……何なんだよいきなり」
  するとジャックは戦闘体勢を解いた。
 「興が冷めた……」
  ロックはますます目を丸くした。
 「何言ってんだ?テメェ……」
 「丸腰の貴様を殺しても……私には意味がない」
 「テメェ……逃げるつもりか?それに獲物はいいのかよ?」
 「ドレル13世など……つまらん獲物だ」
  ジャックはそう言うと、再びロックを見据えた。
 「私の獲物……今から貴様になった。もちろん刀を持った貴様だがな……」
  ロックはげんなりした。
 「なんか面倒くせぇ……」
  ジャックは微笑した。
 「それに……来典者は私だけではない……」
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