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使用人の話
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使用人頭、アルベルト・ノーマン。
言わせていただくならば。
当家の四坊様は可愛い。
四坊様とは、当家に四番目に生まれ落ちた天使である。
それはもう目に入れても痛くないと言うほどには。眼底に四坊様の像を映す魔法が生まれたなら、当家使用人は一度は試みるだろう。
正しく狂気であるが、その沙汰を楽しむ程度に当家使用人は四坊様に骨抜きにされ、肉をしゃぶられている。
さらに言えば、私が仕えるアーワラ家は、貴族の中でも愛の深い家だ。
血を分けぬ我々ですら、そうであるのだから血を分かつ肉親であれば、その愛のなんたるかなど、想像をするまでもなく、またおもんばかるべきであるだろう。
その中で、あの事件が起きたのは悲しむべき、否、忌むべきことであった。
とある日、とある湖畔、とある縁へと登った四坊様は水面へと落ちた。
子供の無邪気を愛くるしいと考えていた我々は、おのが無知を恥じ、嘆いた。
一命をとりとめたものの、四坊様は目覚めず、同行した使用人は青ざめた顔を赤く染めようと首をかっさばこうとした。
それを横目に見ながら、大きな嘆きをもって当主夫妻は、落ちた縁を削り取り、その水面を、その土でもって埋めようとしていた。
しかし、それらが行われる前に四坊様は目覚めた。
まさしく、闇に落ちようとした先に光がさしたのである。
しかし、起きたばかりの四坊様はとにかく混乱しておられた。
「えっ、なにこれ?つか、誰?」
私の顔を見て放たれた言葉に絶句したのは語るべくもない。
同じような事を当主夫妻様も言われていたのだ。その絶望たるや、私の比ではないだろう。
その後、いくつか日が過ぎた頃、何か一息ついたようにベッドに座る四坊様は言った。
「数日前はごめんよアルベルト。私も混乱していたんだ。また、前までのように頼っていいだろうか?」
その一言で私は確信した。
無邪気だった天使の中に生まれた理智的な光。
使用人全員が夢見た、天使の輝かしい未来が約束された瞬間であると。
翌日から四坊様は勉学に励まれた。
机に座ることを良しとせず、五分も立てば使用人を誘惑しては遊び歩いていた四坊様が日の昇る間、かじりつくように机に向かったのだ。
「魔法すげー、魔法すげー」
呪文をなぞるが如く繰り返された言葉を聞き、一抹の不安を覚えながらも、それでも、もはや四坊様の知識は7歳のそれを悠に越えていた。
そしてまた、四坊様の才覚は留まらない。
あくる日、屋敷の経済帳簿の整理をしていた私の前に四坊様が現れた。
勉学の質問があると、甘美な声を鳴らしながら天使の笑顔を向けられた時のことだ。
「なにこれ、わかりにくくない?」
帳簿を眺めた四坊様が言ったのです。
そう、今思えば、確かにわかりにくかったやもしれない。
紙に数字を羅列し、私がわかれば良いように作っていた。
当主様に聞かれた時も私がわかるように説明すれば、それでいい。
しかし、四坊様に言われてしまうと悲しいものがあった。
「こうすれば?」
四坊様が言い、ペンを手に取った。
定規を使い、等間隔に升目を作ると最近覚えられた数字と文字を書いていく。
その光景に驚嘆し、内容に驚愕とする。
なんということであろう。
そこにあるのは巨大商会すら扱っているかわからない美しい表が生まれていた。
きっと、読み書きと簡単な計算が出来るなら、すぐに扱うことが叶う。
もはや、私など必要ないのではないか。
そう思えてしまう発明だった。
しかし、表をまとめた四坊様は極上の笑顔で言ったのです。
「よし、これでアルベルトの時間が出来る!一緒に勉強しよう!」
不覚にも涙が零れた。
このような老人を求めてくれる四坊様の優しさに、心が洗われていった。
ええ、私の持ちうる知識を注ぎましょう。
四坊様が学院に行かれる、その時まで。
そうして、私は四坊様に出来うる限りの教育を施しました。
そして、四坊様は魔力量こそ平凡ながらあまりある才覚で領地の発展に努められた。
しかし、まあ、少々?
頑張りすぎるきらいはありました。
学園に旅立つ四坊様を見送る際、少々、まずまず、出来るだけ、忠告はいたしましたが、まあ、無駄でありましょう。
天命であるであろう、その才覚は小さな身には大きすぎるように私には思えてしまう。
だからこそ、恐れずに言おう。
神よ、仕事をしろ。
小さな、あの方がすくすくと育まれるように。
言わせていただくならば。
当家の四坊様は可愛い。
四坊様とは、当家に四番目に生まれ落ちた天使である。
それはもう目に入れても痛くないと言うほどには。眼底に四坊様の像を映す魔法が生まれたなら、当家使用人は一度は試みるだろう。
正しく狂気であるが、その沙汰を楽しむ程度に当家使用人は四坊様に骨抜きにされ、肉をしゃぶられている。
さらに言えば、私が仕えるアーワラ家は、貴族の中でも愛の深い家だ。
血を分けぬ我々ですら、そうであるのだから血を分かつ肉親であれば、その愛のなんたるかなど、想像をするまでもなく、またおもんばかるべきであるだろう。
その中で、あの事件が起きたのは悲しむべき、否、忌むべきことであった。
とある日、とある湖畔、とある縁へと登った四坊様は水面へと落ちた。
子供の無邪気を愛くるしいと考えていた我々は、おのが無知を恥じ、嘆いた。
一命をとりとめたものの、四坊様は目覚めず、同行した使用人は青ざめた顔を赤く染めようと首をかっさばこうとした。
それを横目に見ながら、大きな嘆きをもって当主夫妻は、落ちた縁を削り取り、その水面を、その土でもって埋めようとしていた。
しかし、それらが行われる前に四坊様は目覚めた。
まさしく、闇に落ちようとした先に光がさしたのである。
しかし、起きたばかりの四坊様はとにかく混乱しておられた。
「えっ、なにこれ?つか、誰?」
私の顔を見て放たれた言葉に絶句したのは語るべくもない。
同じような事を当主夫妻様も言われていたのだ。その絶望たるや、私の比ではないだろう。
その後、いくつか日が過ぎた頃、何か一息ついたようにベッドに座る四坊様は言った。
「数日前はごめんよアルベルト。私も混乱していたんだ。また、前までのように頼っていいだろうか?」
その一言で私は確信した。
無邪気だった天使の中に生まれた理智的な光。
使用人全員が夢見た、天使の輝かしい未来が約束された瞬間であると。
翌日から四坊様は勉学に励まれた。
机に座ることを良しとせず、五分も立てば使用人を誘惑しては遊び歩いていた四坊様が日の昇る間、かじりつくように机に向かったのだ。
「魔法すげー、魔法すげー」
呪文をなぞるが如く繰り返された言葉を聞き、一抹の不安を覚えながらも、それでも、もはや四坊様の知識は7歳のそれを悠に越えていた。
そしてまた、四坊様の才覚は留まらない。
あくる日、屋敷の経済帳簿の整理をしていた私の前に四坊様が現れた。
勉学の質問があると、甘美な声を鳴らしながら天使の笑顔を向けられた時のことだ。
「なにこれ、わかりにくくない?」
帳簿を眺めた四坊様が言ったのです。
そう、今思えば、確かにわかりにくかったやもしれない。
紙に数字を羅列し、私がわかれば良いように作っていた。
当主様に聞かれた時も私がわかるように説明すれば、それでいい。
しかし、四坊様に言われてしまうと悲しいものがあった。
「こうすれば?」
四坊様が言い、ペンを手に取った。
定規を使い、等間隔に升目を作ると最近覚えられた数字と文字を書いていく。
その光景に驚嘆し、内容に驚愕とする。
なんということであろう。
そこにあるのは巨大商会すら扱っているかわからない美しい表が生まれていた。
きっと、読み書きと簡単な計算が出来るなら、すぐに扱うことが叶う。
もはや、私など必要ないのではないか。
そう思えてしまう発明だった。
しかし、表をまとめた四坊様は極上の笑顔で言ったのです。
「よし、これでアルベルトの時間が出来る!一緒に勉強しよう!」
不覚にも涙が零れた。
このような老人を求めてくれる四坊様の優しさに、心が洗われていった。
ええ、私の持ちうる知識を注ぎましょう。
四坊様が学院に行かれる、その時まで。
そうして、私は四坊様に出来うる限りの教育を施しました。
そして、四坊様は魔力量こそ平凡ながらあまりある才覚で領地の発展に努められた。
しかし、まあ、少々?
頑張りすぎるきらいはありました。
学園に旅立つ四坊様を見送る際、少々、まずまず、出来るだけ、忠告はいたしましたが、まあ、無駄でありましょう。
天命であるであろう、その才覚は小さな身には大きすぎるように私には思えてしまう。
だからこそ、恐れずに言おう。
神よ、仕事をしろ。
小さな、あの方がすくすくと育まれるように。
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