アグニカ通りの奇妙な家

みうら あきら

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不思議の国のカルボナーラ 一日目

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勝手口を抜ければ、異世界だった。

なんて、言ってしまいたくなった竜胆芳士がスマートフォンを取り出し、写真を撮って、家族にメールを送ろうとした。
だが、圏外で繋がらない。

頭が動いていないなと。
家に戻って、布団に入り、目を瞑った。
しかし、眠気はおこらず、仕方なく窓を開けて、外を眺めた。

まるで、イタリアのような美しい石造りの街並みが眼前に広がる。鳥の鳴き声と、僅かな潮の香りを感じ、海が近いのかもと暢気に考えた。

いや違う。
なんだこれ。

完全停止を起こしそうな脳を揺り起こして、竜胆は昨日までのことを思い出していった。

まず自分は、寂れた街の大学生だったはずだ。
少し、人と違うことと言えば、他の人間とは違う場所に住んでいたことくらいだった。

大学通って二年。
通学の利便性を考えて、大学付近への引っ越しをすることにした春先。しかし、引っ越しシーズンも相まって物件が見つからずにいた。

紹介される微妙な部屋を見て回るうち、疲れていたのもあって、冗談混じりに、寂れた商店街のシャッターで閉じられた店を見て。

「あんなのを家にするのも良いかも知れませんね」

などと言ったのだが。

「あちらも住めますよ」

と不動産屋に言われ。
誘われるがままに、内装を見てみれば家賃のわりに綺麗で広く。
風呂もトイレもついていて、買い物にも便利。と言うより商店街で、悪くない。
考えれば、普通の家より快適そうだったこともあり、そこに住むことにした。

元がカフェ兼バーということで、人も集まりやすいように出来ていて、それを聞き付けた竜胆の少ない友人が、先輩後輩引き連れて、デカイ冷蔵庫や私物を持ち込むようになり、気がつけば一階は学友の遊び場と化していた。

度を過ぎないように目を光らせていたし、人が多すぎれば場所代もせしめていた。
定期的な清掃もしていたので、人気が出てしまい。
今日も飲み会をすると言っていた人に場所を貸していて、家には飲み物や食料が多数運びこまれていた。

それが、なぜこうなった。

竜胆は改めて、頭を抱えた。

とりあえず、蛇口を捻ったり、電気のスイッチを入れたり、コンロに火をつけたりしてみる。

どれも正常に作動した。

だが、PCをインターネットに繋ぐことは出来ず、スマートフォンも同じく外部との通信がとれないことがわかった。もちろん、電話も通じない。

ここで、見知らぬ土地に放り出された自覚が出始めた。

食料の備蓄や、家の備品を確認して回る。
飲み会のための酒類、清涼飲料水。つまみなどは乾物が中心だが、菓子類も豊富だ。カップラーメンをはじめとして、乾燥麺も多い。

よくわからない状況で、意外と冷静な行動をしていることに気がついて、竜胆は少し笑ってしまう。

「あっ、今日の飲み会。大丈夫かな」

ずれた心配をしているところを見る限り、彼の人間性が伺える。
気がつけば、結構な時間は過ぎていて、その日は冷蔵庫の食料を拝借して調理をすることにした。

パルメザンチーズと卵をホイッパーを使って混ぜ合わせる。チーズの粒をしっかり潰して、牛乳を投入する。
ソースを作って、別皿にうつしておき。
次は温めたフライパンにオリーブオイルをひく。そこにベーコンをおとして、火を通すと香ばしい匂いが鼻をくすぐる。
さらに玉葱をいれて、透明になるまで炒めた。塩と胡椒を軽くふり。
茹でておいたパスタとソースにベーコンソテーを加えて混ぜる。
味付けは塩と万能調味料を適量。

なんちゃってカルボナーラが出来上がる。
意外とこれが旨いのだと、フォークで巻いたパスタを啜る。

麺に絡むソースは絶品で卵の旨味、チーズの風味が口に広がる。ベーコンも芳ばしく炒められていて肉汁が溢れてくる。また、歯応えの中に玉葱の甘味が加わってくる。黒胡椒は、程よいアクセントになっていた。食が進む。

自画自賛となったが、竜胆の食卓は穏やかに進む。調理中の換気せんもしっかりと作動した。

洗い物を片付けて、家の備品の確認に戻る。半分は現実逃避も含んでいた。
倉庫からは遊び道具や漫画が出てくる。アニメのDVDや、映写機に暗幕、ビニールプールまで出てきたが、見に覚えのがない。
友人達が持ち込んだであろう遊び道具に呆れながら、リストを作る。

そして、窓から見える景色が暗くなっていき、夜が来たことに気がつく。

夜の食事はパンを焼いて簡単にすませ、風呂に入って、布団に入る。
カーテンは閉まっている。

夢ならいいなと思いながら目を閉じて、一日目はそんな風に過ぎていった。
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