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29.兄

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シルスラ達が声のした方を振り返るとそこには先程会ったばかりのミイラ男が立っていた。


「ミ、ミイラさん?」

シルスラは声の主はミイラ男なのか疑問に思った。


「誰だ貴様は。兄上の声がしたと思ったが」

スカルも戸惑っているようだった。


「俺がその兄上なんだよ。こうしたら分かるか?」

ミイラ男は今までとは全く違う口調で話しながら頭の包帯を解いていく。

するとそこには無数の傷を受けた髑髏があった。歴戦の跡を物語っていた。


「あ、兄上。やはりボーンの兄上だったか。どうして生きているなら姿を消した?」

スカルはボーンに問いかけた。


「魔王についていけなくなったから。かな」

ボーンは答える。


「ど、どういうことだ?」

スカルは聞く。


「俺も今まで魔王に尽くしてきた。人間と戦争もしてきた。だが世界に必要なのは争いではない。共存だ。争い続ける限りそこには発展はない。魔王は自らのことしか考えていない。無論、俺達のことなんてどうでも良いと思っている。そんなやつについていく義理はないんでね」

ボーンは淡々と答える。


「しかし兄上がいなくなってから軍の弱体化が激しく」

「そんなものは知らん。お前はさっき軍に利益がなければ協力をしないとこの坊やに言った。たとえ同じ魔物の頼みでも。お前は魔王と同じ考えになってしまったらしいな。俺が望むは魔王軍の壊滅。そのためならば勇者と手を組むことも辞さないぞ。お前も魔王と同じ考えを続けるならばここで切り捨てても構わん」

スカルの言葉を聞く前にボーンは言う。


「わ、わかった。小僧、これが許可証だ」

ボーンはスカルの数段上の腕前のようですぐにキッドに龍爪草を採る許可証を渡した。


「しかし私は軍を抜けるつもりはない。人間との共存などありえない」

スカルはボーンに向き直し言った。


「好きにすれば良い。だが魔王と組む限り明るい未来はないと思えよ」

ボーンはさらに声を低くし言った。


それにスカルはもう何も答えず立ち去ろうとする。すっかり酔いも醒めているようだった。
すぐに姿を消してしまった。



「良かったわねえ。これでおばあちゃん助けられるじゃない」

ボーンはまた元の口調に戻った。


状況が掴めない三人はキョトンとしていた。
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