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雪化粧
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弥比古は、三笠屋の女将お繁に来年の春には必ず長逗留する事、弥比古が来年戻るまで駒には読み書き手習いを必ずさせる事、そのために店が被る損は全て支払うとの、約定を結ぶ。
お繁は、駒が下働きとして働けない損は来年春まで、ざっと五両はいるとそろばんを弾きだした。
幼い駒が、何年掛かっても稼げない額をふっかけてきた。
弥比古はその条件を黙ってのむ。
「女将っお前の言い値でお駒を預ける。いいか よく聞け。 お駒を預けるのだ。もしも約束を違え、お駒に余計な仕事をさせていたならすぐに私の所に便りが来るぞっ 忘れるな」
弥比古はきつく言い終えると、五両の金子と逗留分の宿賃を精算した。
女将は、へらへらと揉み手で上客のマタギの弥比古を店先まで見送った。
駒に使いを言い付け戻るまえに弥比古は三笠屋を引き払った。
駒は弥比古から下前田遊郭の花籠楼の若羽木太夫に文を届けるように言い付けられていた。
朱い弁柄格子が四、五間続き、朱染めの暖簾に花籠の染め抜きが目を引く。
間口四間もある立派な表構えの遊郭だった。
「ごめんなさいましぃ」
絣の着物に粗末な草履履きの童女が店表で声をかけた。
「へい…どちらさんで」
店奥からいなせな男衆が出てきた。
着流しの胸元から色鮮やかな彫り物が覗く。
「おやっ嬢ちゃん何か用かい?」
「あのぉこれを…若羽木太夫に届けるように」
駒は、男衆の身体の彫り物に気を取られていた。
男衆は充て文の裏を見て送り人が上得意の弥比古からだとわかると
「嬢ちゃん、ちょっとそこで待ってないね」
文を持って店奥へ入って行った。
駒は三笠屋とは比べものにならないきらびやかな花籠楼の奥向きが気になった。
店表が余りに広く派手な造りにさぞや座敷奥も立派な事だろうと想像していた。
上総屋と、店構えや大きさはそう大差無いが、商う物が違えば店飾りも全く違った。
幼い駒は、花籠楼は上等の料理屋だと思い込んでいた。
「嬢ちゃん、待たせたねっ ほらっ太夫から駄賃が出たよ」
男衆は、着流しの袂から白い懐紙に包まれた駄賃を駒の手に握らせた。
駒が白い懐紙に包まれた駄賃を小さな懐にしまい込み急いで三笠屋に戻ると…
「お駒ぁ 随分と油を売ってたねぇお前の雇い主は誰かえっ?」
裏木戸近くにいたお繁が細く吊り上がった目を尚更吊り上げ駒を見つけた。
駒は頷いたまま答えられない。
「いいかいっ お前の雇い主はぁ アタシだよっ お忘れじゃ無いよね」
…
「黙ってないでっ何かお言いよっ」
……
「そうかいっ返事が出来ないならこうだっ」
お繁はお駒の着物の襟首を掴み井戸端まで引きずっていくと、嫌がる駒を力ずくで地べたに放り投げた。
小さな身体は硬い地べたに容易く投げ出され渇いた土埃が舞上がる。
お繁は、身体をくのじに丸めてブルブルと震えている駒めがけて水がたっぷり入った手桶を振りかざした。
「その辺りで勘弁しちゃあどうですか」
バッシャーッ
手桶の中に張ってあった水が小さく丸まったお駒を掠めて渇いた井戸端の回りに撒き散らかった。
一斉に渇いた土埃が舞い上がり、撒かれた水が浸みた地べたに吸い込まれるように落ち着くと視界が蘇ってきた。
お繁の目に、駒の前に立ちはだかる若侍の姿があった。
傍目にも色香漂う眉目秀麗な若侍は品良くお繁に微笑みかけた。
若衆髷も艶やかな美少年に不意をつかれ萎えかけた噴怒を立て直し、
「だっ誰だいっおまえはっ 誰に断って三笠屋の奥まで入り込んだんだいっ誰かぁ――ッ」
若侍に見つめられうろたえたお繁は闇雲に店の者を呼ぶ。
その声にバタバタと数人の手代や女中が井戸端に集まってきた。
事の成り行きを理解しない番頭さんが、
「女将さんっどうなすったんでぇ…それにお客さんまで―お駒が何か粗相でもやらかしましたか?」
「おっお客さん…」
女将が驚いていると、
「へぇ…マタギの旦那の借りてた離れを、このお方が宿賃に色を付けて先払いして下さいまして…」
番頭は揉み手しながら腰を屈めお繁に報告した。
女中達は若衆の色香にため息を漏らし、衆道に心得ある手代は股の一物がむくっと起き上がってくるのをぐっと宥める。
「っそっそれを
早くお言いなっ…………………
……………お客様ぁ…えらくみっともない所をお見せしてしまって…どうかご気分をお直し下さいまし。」
お繁の頭の中でそろばん勘定が始まっている。
「私の事よりこの童の扱いを何とか出来ないものかえ…女将さん」
若衆は早々と駒を抱き上げその場に立たせると、お繁と奉公人がすったもんだしている隙に手ぬぐいで身体についた土埃を払ってやっていた。
「そんなぁ…お客様。たかが女中見習いの礼儀も知らぬ下女でございますよ…お客様の様な立派なお侍様が気になさらずとも。」
お繁は駒に早く失せろと目配せしながら若衆に媚びを売りだした。
「お嬢っ、ちょっとお待ちなっ」
井戸端から女中部屋へ下がろうとした駒を‘お嬢’と呼んで、若衆が引き止めた。
駒はその場で失せろと合図するお繁と待てと言う客の間でしどろもどろする。
「女将さん、ちょっとばかり相談なんだが、私はこの童が気に入った。」
お繁は眉目秀麗な若衆を見ないようにしながら次に若衆の口から出る言葉を待った。
…
「この童を私の部屋付き女中にして貰えないだろうか」
「お客様…まで いったいこの娘の何が良いと言うのでしょうか、あたしには、皆目見当もつきゃしません…」
お繁は、若衆侍に気がいかないよう極力目を合わせないようにして話す。
うかうかその目に射抜かれ迷わされてはたまらない。
…用心、用心
さぞやこの若さで大勢の男や女を惑わせ泣かせてきたんだろうよ。…あたしは騙されないよっ、…
お繁は妖艶に笑みを浮かべる若衆侍をちらりと見た。
「おや、私の他にも酔狂な御仁がいましたか?」
若衆は駒の頭を撫でながらお繁に色目を使う。
「まあ…あなた様のように気前良いお客様はそうそういやぁしませんよ」
お繁の胸算用は、余計な事は言わず儲けの為の一計を案じだす。
駒が大人の思惑を理解できるはずもなく、ただ目の前の美しい少年に目を奪われていた。
それは幼い駒だけではない。
三笠屋の女中、昼間は用のない遊女、衆道に覚えある手代や下男にいたるまでそわそわと美少年に心を奪われそうになる。
さぞやこの先、その容姿にものを言わせて出世していくのだろうと誰もが想像できた。
お繁の腹は決まった。
「お駒っお客様を離れにお通ししなっ、それから、お前はこのお客様がお帰りになるまで誠心誠意お使えするんだよっ」
お繁はその要望に承知とばかりに若衆に会釈した。
「さっさっお前達ぃいつまで油売っているんだっ仕事に戻らないかいっ」
番頭が井戸端の奉公人に激を飛ばす。
「あのぉ…女将さん離れって…マタギの弥比古さんは…」
駒は、お繁に恐る恐る聞いた。
「お駒ぁっ 何寝ぼけたことを言ってるんだい。遠の昔に引き払って、お国にお帰りになったよ」
お繁は見映えのしないお駒だけが大事にされる事を妬ましく思うようになっていた。
弥比古が奥山に帰るのは信濃の幾重にも連なるお山の鋭い岩の頂きが白い雪で化粧される頃と、駒も覚悟はしていた。
駒は井戸端から北のお山を仰ぎ見た。
幾重にも連なる鋭い頂きと稜線にはうっすらと白いものが小さな駒の涙混じりの瞳にもはっきりと映っていた。
お繁は、駒が下働きとして働けない損は来年春まで、ざっと五両はいるとそろばんを弾きだした。
幼い駒が、何年掛かっても稼げない額をふっかけてきた。
弥比古はその条件を黙ってのむ。
「女将っお前の言い値でお駒を預ける。いいか よく聞け。 お駒を預けるのだ。もしも約束を違え、お駒に余計な仕事をさせていたならすぐに私の所に便りが来るぞっ 忘れるな」
弥比古はきつく言い終えると、五両の金子と逗留分の宿賃を精算した。
女将は、へらへらと揉み手で上客のマタギの弥比古を店先まで見送った。
駒に使いを言い付け戻るまえに弥比古は三笠屋を引き払った。
駒は弥比古から下前田遊郭の花籠楼の若羽木太夫に文を届けるように言い付けられていた。
朱い弁柄格子が四、五間続き、朱染めの暖簾に花籠の染め抜きが目を引く。
間口四間もある立派な表構えの遊郭だった。
「ごめんなさいましぃ」
絣の着物に粗末な草履履きの童女が店表で声をかけた。
「へい…どちらさんで」
店奥からいなせな男衆が出てきた。
着流しの胸元から色鮮やかな彫り物が覗く。
「おやっ嬢ちゃん何か用かい?」
「あのぉこれを…若羽木太夫に届けるように」
駒は、男衆の身体の彫り物に気を取られていた。
男衆は充て文の裏を見て送り人が上得意の弥比古からだとわかると
「嬢ちゃん、ちょっとそこで待ってないね」
文を持って店奥へ入って行った。
駒は三笠屋とは比べものにならないきらびやかな花籠楼の奥向きが気になった。
店表が余りに広く派手な造りにさぞや座敷奥も立派な事だろうと想像していた。
上総屋と、店構えや大きさはそう大差無いが、商う物が違えば店飾りも全く違った。
幼い駒は、花籠楼は上等の料理屋だと思い込んでいた。
「嬢ちゃん、待たせたねっ ほらっ太夫から駄賃が出たよ」
男衆は、着流しの袂から白い懐紙に包まれた駄賃を駒の手に握らせた。
駒が白い懐紙に包まれた駄賃を小さな懐にしまい込み急いで三笠屋に戻ると…
「お駒ぁ 随分と油を売ってたねぇお前の雇い主は誰かえっ?」
裏木戸近くにいたお繁が細く吊り上がった目を尚更吊り上げ駒を見つけた。
駒は頷いたまま答えられない。
「いいかいっ お前の雇い主はぁ アタシだよっ お忘れじゃ無いよね」
…
「黙ってないでっ何かお言いよっ」
……
「そうかいっ返事が出来ないならこうだっ」
お繁はお駒の着物の襟首を掴み井戸端まで引きずっていくと、嫌がる駒を力ずくで地べたに放り投げた。
小さな身体は硬い地べたに容易く投げ出され渇いた土埃が舞上がる。
お繁は、身体をくのじに丸めてブルブルと震えている駒めがけて水がたっぷり入った手桶を振りかざした。
「その辺りで勘弁しちゃあどうですか」
バッシャーッ
手桶の中に張ってあった水が小さく丸まったお駒を掠めて渇いた井戸端の回りに撒き散らかった。
一斉に渇いた土埃が舞い上がり、撒かれた水が浸みた地べたに吸い込まれるように落ち着くと視界が蘇ってきた。
お繁の目に、駒の前に立ちはだかる若侍の姿があった。
傍目にも色香漂う眉目秀麗な若侍は品良くお繁に微笑みかけた。
若衆髷も艶やかな美少年に不意をつかれ萎えかけた噴怒を立て直し、
「だっ誰だいっおまえはっ 誰に断って三笠屋の奥まで入り込んだんだいっ誰かぁ――ッ」
若侍に見つめられうろたえたお繁は闇雲に店の者を呼ぶ。
その声にバタバタと数人の手代や女中が井戸端に集まってきた。
事の成り行きを理解しない番頭さんが、
「女将さんっどうなすったんでぇ…それにお客さんまで―お駒が何か粗相でもやらかしましたか?」
「おっお客さん…」
女将が驚いていると、
「へぇ…マタギの旦那の借りてた離れを、このお方が宿賃に色を付けて先払いして下さいまして…」
番頭は揉み手しながら腰を屈めお繁に報告した。
女中達は若衆の色香にため息を漏らし、衆道に心得ある手代は股の一物がむくっと起き上がってくるのをぐっと宥める。
「っそっそれを
早くお言いなっ…………………
……………お客様ぁ…えらくみっともない所をお見せしてしまって…どうかご気分をお直し下さいまし。」
お繁の頭の中でそろばん勘定が始まっている。
「私の事よりこの童の扱いを何とか出来ないものかえ…女将さん」
若衆は早々と駒を抱き上げその場に立たせると、お繁と奉公人がすったもんだしている隙に手ぬぐいで身体についた土埃を払ってやっていた。
「そんなぁ…お客様。たかが女中見習いの礼儀も知らぬ下女でございますよ…お客様の様な立派なお侍様が気になさらずとも。」
お繁は駒に早く失せろと目配せしながら若衆に媚びを売りだした。
「お嬢っ、ちょっとお待ちなっ」
井戸端から女中部屋へ下がろうとした駒を‘お嬢’と呼んで、若衆が引き止めた。
駒はその場で失せろと合図するお繁と待てと言う客の間でしどろもどろする。
「女将さん、ちょっとばかり相談なんだが、私はこの童が気に入った。」
お繁は眉目秀麗な若衆を見ないようにしながら次に若衆の口から出る言葉を待った。
…
「この童を私の部屋付き女中にして貰えないだろうか」
「お客様…まで いったいこの娘の何が良いと言うのでしょうか、あたしには、皆目見当もつきゃしません…」
お繁は、若衆侍に気がいかないよう極力目を合わせないようにして話す。
うかうかその目に射抜かれ迷わされてはたまらない。
…用心、用心
さぞやこの若さで大勢の男や女を惑わせ泣かせてきたんだろうよ。…あたしは騙されないよっ、…
お繁は妖艶に笑みを浮かべる若衆侍をちらりと見た。
「おや、私の他にも酔狂な御仁がいましたか?」
若衆は駒の頭を撫でながらお繁に色目を使う。
「まあ…あなた様のように気前良いお客様はそうそういやぁしませんよ」
お繁の胸算用は、余計な事は言わず儲けの為の一計を案じだす。
駒が大人の思惑を理解できるはずもなく、ただ目の前の美しい少年に目を奪われていた。
それは幼い駒だけではない。
三笠屋の女中、昼間は用のない遊女、衆道に覚えある手代や下男にいたるまでそわそわと美少年に心を奪われそうになる。
さぞやこの先、その容姿にものを言わせて出世していくのだろうと誰もが想像できた。
お繁の腹は決まった。
「お駒っお客様を離れにお通ししなっ、それから、お前はこのお客様がお帰りになるまで誠心誠意お使えするんだよっ」
お繁はその要望に承知とばかりに若衆に会釈した。
「さっさっお前達ぃいつまで油売っているんだっ仕事に戻らないかいっ」
番頭が井戸端の奉公人に激を飛ばす。
「あのぉ…女将さん離れって…マタギの弥比古さんは…」
駒は、お繁に恐る恐る聞いた。
「お駒ぁっ 何寝ぼけたことを言ってるんだい。遠の昔に引き払って、お国にお帰りになったよ」
お繁は見映えのしないお駒だけが大事にされる事を妬ましく思うようになっていた。
弥比古が奥山に帰るのは信濃の幾重にも連なるお山の鋭い岩の頂きが白い雪で化粧される頃と、駒も覚悟はしていた。
駒は井戸端から北のお山を仰ぎ見た。
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