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喫茶 木漏れ日
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湘山工業高校に入学して三か月が経とうとした梅雨入りの季節。
繭は美術部で毎日石膏のクロッキーを何枚も描き、帰宅途中は八幡画材でデッサンに明け暮れていたが 繭は生き生きと青春を謳歌していた。町田柊士には滅多に会う事はないが
会って 彼から褒められる事が繭に取っては最大のモチベーションにつながっていた。
そんなある下校時
校門周辺は尖った男子生徒や女子生徒が溜まって 下校の生徒を冷やかしたり
邪魔したりの相変わらずの風景に 1人異質な生徒が門柱にも垂れて立っていた。
「藍川っ 遅いぞ!」
俯き加減で、騒がしい校門周辺をやり過ごすつもりでいた彼女に心地よい声が聞こえた。
町田さん?
真正面を向いた視界に 町田柊士はいた。
無意識に、小走りになっていた。
「町田さん どうしたんですか?」
身長150センチの繭は見上げないと柊士の顔が見えない。
「ちょっと 付き合ってくれないか?」
「?…」
校門前の坂道を下った先のバス停脇に停めていた大型バイクを前にして
フルフェイスのヘルメットを繭に突きつけると
「かぶって」
初めての事に用心深くなる繭
「ぐずってないでかぶってバイクに乗って!」
やや強い口調で指示をするが 繭は未だ躊躇している。
「っ! 手がかかるチビだなぁ」
手慣れた手つきで 棒立ちになっている繭に
ヘルメットをすっぽりかぶせると顎紐の調整までしてやる。
「さあ またがって! 大丈夫俺につかまって!」
走ってもいないバイクの後ろに跨ると柊士の胴体に両腕をしっかり回した。
ドキドキを通り越して 恐怖すら感じ目を閉じて柊士の身体に密着した。
走り出しは低速だったがそれでも 目を閉じていると身体が空中移動しているようだった。
「おいっ 生きてるか? 藍川! 」
「は、はい 大丈夫です。」
「少し飛ばすからしっかり掴まってろ!」
へっぴりごしな姿勢で柊士にしがみつくものだから 振動が全身に伝わり 腕も 肩も
腰すらも痺れている。
早く止まってぇ…
10分程度走って 目的の場所に着いたのかバイクは滑るように速度が落ちて やがて停止した。
「藍川 着いたよ!」
「町田さん ちょっと 身体がこわばって…」
柊士は胴に絡みつく繭の腕を優しく解くと
「俺がうでを支えてやるから先に降りろ」
「は、はい」
繭は柊士の肩を掴み 姿勢を立て直して跨いだ片方の足を引き上げ そろそろと地面に着地した。 まだ腰が抜けたようにふらついたが彼が繭の二の腕を掴んで支えていたので地面に倒れる事はなかった。
「おい、大丈夫か? 」
「は、はい」
はぁ 怖かった…
ヘルメットを外しにかかった柊士の指先が何度も繭の顎や頬に触れ 正気に戻った彼女は恥じらいからか顔を赤くする。
「さ 行くか 」
そんな様子も構わず 繭の手を引いて歩きだした。 「えっ あー」
目の前の喫茶店らしい店舗の扉を引くと 同時にカラン カランとカウベルの音が狭く薄暗い店内に響いた。
「柊ちゃん 遅いぜ みんな 待ちかねていたんだぜ」
店の奥にでんと、腰掛けている〝飛島純也“が文句がましく言った。
「おー悪ぃ 悪ぃ ちょっと連れ誘ってて」
柊士の背後に半分隠れるように藍川繭がいた。
「あれー まーゆちゃん なんでぇ?こんなところへお嬢ちゃんがきちゃだめじゃん」
「純也くんっ、こんなところで悪かったわね」
「あー、あ、ママ ごめん、そんなつもりじゃないからさぁ」
飛島純也は店主らしき厨房の派手な女性に慌てて謝る。
「あら ホント 上品なお嬢さん! 」
ママと呼ばれた店主が目を見開いた。
「藍川 座ろうぜ」
柊士に促されるまま飛島純也から離れた席に
二人は向かい合って座った。
「マジかー柊ちゃん せっかく柊ちゃん目当ての美人つれてきたのにぃ!」
数人の女の子に囲まれた純也が嘆いている。
女の子達も不満を呟く。
「違う 違う あの子は違う! 柊ちゃんの絵の弟子だよ な、な、 どう見ても釣り合ってないだろ?」
女の子の機嫌を損ねないように 何気に繭の容姿をdisりだす純也。
「柊ちゃん 何にする?お連れの彼女は?」
「藍川 腹減ってないか? ここのホットサンドは美味いよ 」
「…」 繭は何の為に連れまわされているのか、探っていた。
「…ママ ホットサンド2人分と、コーラ」
「はーい」
「柊ちゃん ちょっとだけこっちに来てよ
俺の面目たててよ~」
飛島純也が、懇願する。
「藍川 悪い、 ちょっと待っててくれ」
1人では身の置き所がない程 繭にとっては異質な空間に放置された。
ちらちら 町田達の方を見てはまた視線を年季の入ったテーブルに落とす。
「お待たせしました。 あの子達仕方がないわねぇ お嬢さんをほったらかして、」
「あのぉ お嬢さんでは無いので…」
「あら、ごめんなさい 人を見かけで判断しちゃいけない事を1番のモットーにしてきたのに 私ったら 本当 ごめんなさい」
店主は申し訳なさげに繭の顔を覗き込んだ。
「あ、いえ その気にしないでください、私こそ失礼な事を言いました 許してください」
頭を下げて謝る女の子は やはりここではお嬢さんと形容せざるを得ない。
学校をサボって入り浸りの高校生や夜の仕事をしている女性 はたまた日雇い労働者が
出入りする下町の昔ながらの喫茶店。
繭のような言葉遣いの客は来ることが無い。
柊ちゃん 初めてじゃないかしら
女の子連れてくるなんて…
「ゆっくりして行ってね 何か食べたいメニューあったら遠慮なくね」
店主の人柄が滲み出る笑顔にホッとする。
テーブルに出された水を少し飲んだところへ
明らかに〝ギャル“と呼ばれそうな女子高生が繭の横に座ってきた。
その厚にややのけぞりながら
「あの、何か?」
テーブルのコーラを勝手にストローを刺して啜ったギャルは、繭の顔を凝視して
「あなた、誰? 町田君の 何?」
「えっ?」
「正直に言いなさいよっ」
他の客には聞こえないくらいの囁きでも明らかに悪意に満ちた言葉が繭に投げかけられた。
「何でも無いです。」
「そんなはずないでしょ!? 町田君とはどこまで 言ってるの? 返事しだいじゃただではおかないから さぁ 」
「あ、あの 私… 帰ります!」
いきなり立ち上がると、手持ちの千円札をテーブルに残して 隣のギャルを押し退け入り口目掛けて歩き出した。
「あははは、何ぃ あの子ぉ~」
柊士が振り返ると入り口から走り出す繭の背中が一瞬見えた。
「梨香っお前何言ったんだっ クソっ
ママ 金ここ置いとくわ 」
「柊ちゃん!」
柊士は繭を追いかけた。
繭は美術部で毎日石膏のクロッキーを何枚も描き、帰宅途中は八幡画材でデッサンに明け暮れていたが 繭は生き生きと青春を謳歌していた。町田柊士には滅多に会う事はないが
会って 彼から褒められる事が繭に取っては最大のモチベーションにつながっていた。
そんなある下校時
校門周辺は尖った男子生徒や女子生徒が溜まって 下校の生徒を冷やかしたり
邪魔したりの相変わらずの風景に 1人異質な生徒が門柱にも垂れて立っていた。
「藍川っ 遅いぞ!」
俯き加減で、騒がしい校門周辺をやり過ごすつもりでいた彼女に心地よい声が聞こえた。
町田さん?
真正面を向いた視界に 町田柊士はいた。
無意識に、小走りになっていた。
「町田さん どうしたんですか?」
身長150センチの繭は見上げないと柊士の顔が見えない。
「ちょっと 付き合ってくれないか?」
「?…」
校門前の坂道を下った先のバス停脇に停めていた大型バイクを前にして
フルフェイスのヘルメットを繭に突きつけると
「かぶって」
初めての事に用心深くなる繭
「ぐずってないでかぶってバイクに乗って!」
やや強い口調で指示をするが 繭は未だ躊躇している。
「っ! 手がかかるチビだなぁ」
手慣れた手つきで 棒立ちになっている繭に
ヘルメットをすっぽりかぶせると顎紐の調整までしてやる。
「さあ またがって! 大丈夫俺につかまって!」
走ってもいないバイクの後ろに跨ると柊士の胴体に両腕をしっかり回した。
ドキドキを通り越して 恐怖すら感じ目を閉じて柊士の身体に密着した。
走り出しは低速だったがそれでも 目を閉じていると身体が空中移動しているようだった。
「おいっ 生きてるか? 藍川! 」
「は、はい 大丈夫です。」
「少し飛ばすからしっかり掴まってろ!」
へっぴりごしな姿勢で柊士にしがみつくものだから 振動が全身に伝わり 腕も 肩も
腰すらも痺れている。
早く止まってぇ…
10分程度走って 目的の場所に着いたのかバイクは滑るように速度が落ちて やがて停止した。
「藍川 着いたよ!」
「町田さん ちょっと 身体がこわばって…」
柊士は胴に絡みつく繭の腕を優しく解くと
「俺がうでを支えてやるから先に降りろ」
「は、はい」
繭は柊士の肩を掴み 姿勢を立て直して跨いだ片方の足を引き上げ そろそろと地面に着地した。 まだ腰が抜けたようにふらついたが彼が繭の二の腕を掴んで支えていたので地面に倒れる事はなかった。
「おい、大丈夫か? 」
「は、はい」
はぁ 怖かった…
ヘルメットを外しにかかった柊士の指先が何度も繭の顎や頬に触れ 正気に戻った彼女は恥じらいからか顔を赤くする。
「さ 行くか 」
そんな様子も構わず 繭の手を引いて歩きだした。 「えっ あー」
目の前の喫茶店らしい店舗の扉を引くと 同時にカラン カランとカウベルの音が狭く薄暗い店内に響いた。
「柊ちゃん 遅いぜ みんな 待ちかねていたんだぜ」
店の奥にでんと、腰掛けている〝飛島純也“が文句がましく言った。
「おー悪ぃ 悪ぃ ちょっと連れ誘ってて」
柊士の背後に半分隠れるように藍川繭がいた。
「あれー まーゆちゃん なんでぇ?こんなところへお嬢ちゃんがきちゃだめじゃん」
「純也くんっ、こんなところで悪かったわね」
「あー、あ、ママ ごめん、そんなつもりじゃないからさぁ」
飛島純也は店主らしき厨房の派手な女性に慌てて謝る。
「あら ホント 上品なお嬢さん! 」
ママと呼ばれた店主が目を見開いた。
「藍川 座ろうぜ」
柊士に促されるまま飛島純也から離れた席に
二人は向かい合って座った。
「マジかー柊ちゃん せっかく柊ちゃん目当ての美人つれてきたのにぃ!」
数人の女の子に囲まれた純也が嘆いている。
女の子達も不満を呟く。
「違う 違う あの子は違う! 柊ちゃんの絵の弟子だよ な、な、 どう見ても釣り合ってないだろ?」
女の子の機嫌を損ねないように 何気に繭の容姿をdisりだす純也。
「柊ちゃん 何にする?お連れの彼女は?」
「藍川 腹減ってないか? ここのホットサンドは美味いよ 」
「…」 繭は何の為に連れまわされているのか、探っていた。
「…ママ ホットサンド2人分と、コーラ」
「はーい」
「柊ちゃん ちょっとだけこっちに来てよ
俺の面目たててよ~」
飛島純也が、懇願する。
「藍川 悪い、 ちょっと待っててくれ」
1人では身の置き所がない程 繭にとっては異質な空間に放置された。
ちらちら 町田達の方を見てはまた視線を年季の入ったテーブルに落とす。
「お待たせしました。 あの子達仕方がないわねぇ お嬢さんをほったらかして、」
「あのぉ お嬢さんでは無いので…」
「あら、ごめんなさい 人を見かけで判断しちゃいけない事を1番のモットーにしてきたのに 私ったら 本当 ごめんなさい」
店主は申し訳なさげに繭の顔を覗き込んだ。
「あ、いえ その気にしないでください、私こそ失礼な事を言いました 許してください」
頭を下げて謝る女の子は やはりここではお嬢さんと形容せざるを得ない。
学校をサボって入り浸りの高校生や夜の仕事をしている女性 はたまた日雇い労働者が
出入りする下町の昔ながらの喫茶店。
繭のような言葉遣いの客は来ることが無い。
柊ちゃん 初めてじゃないかしら
女の子連れてくるなんて…
「ゆっくりして行ってね 何か食べたいメニューあったら遠慮なくね」
店主の人柄が滲み出る笑顔にホッとする。
テーブルに出された水を少し飲んだところへ
明らかに〝ギャル“と呼ばれそうな女子高生が繭の横に座ってきた。
その厚にややのけぞりながら
「あの、何か?」
テーブルのコーラを勝手にストローを刺して啜ったギャルは、繭の顔を凝視して
「あなた、誰? 町田君の 何?」
「えっ?」
「正直に言いなさいよっ」
他の客には聞こえないくらいの囁きでも明らかに悪意に満ちた言葉が繭に投げかけられた。
「何でも無いです。」
「そんなはずないでしょ!? 町田君とはどこまで 言ってるの? 返事しだいじゃただではおかないから さぁ 」
「あ、あの 私… 帰ります!」
いきなり立ち上がると、手持ちの千円札をテーブルに残して 隣のギャルを押し退け入り口目掛けて歩き出した。
「あははは、何ぃ あの子ぉ~」
柊士が振り返ると入り口から走り出す繭の背中が一瞬見えた。
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