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終章 エピローグ
二人の未来
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その日の夜、わたしとユーリは食事を終え、冒険者ギルドに設けられていたお風呂へと入ると、グレンさんの計らいで用意してもらった部屋へとやって来た。
この部屋は六畳ほどとそこまで広い部屋ではないけど、ベッドが二つと小さなテーブルが置かれていた。
そして、その一つのベッドへとわたしは座ると、大きく溜め息をついた……。
「はぁ~……」
溜め息の理由はこれからの事……。
わたしはこの街に着いてお姉ちゃんと再会した時点で旅や冒険をする意味も目的も無くなってしまった。
でも、何がしたいというのも無いし、ユーリを支えるにしても、冒険者としてユーリの傍にいたほうがいいのだろうか……、そんな考えが頭の中をグルグルと駆け巡る……。
「はぁ~……」
再び溜め息が漏れる……。
すると、そんなわたしにユーリが話しかけてきた。
「どうしたの?さっきから溜め息ばかりだけど……」
「ユーリ……、わたしこれから先のことを考えてて……。わたしは冒険者よりもこの街で働きたいなって思ってて……でも何がしたいのか自分でも分からなくて……。だけど、ユーリを支えるのなら冒険者じゃないとダメなのかなとも思うし……」
「サナ、グレンさんが言っていたじゃないか、慌てる必要なんて無いよ。それに、僕を支えてくれると言ってくれるのは嬉しいけど、僕としてはやっぱりサナには冒険者みたいな危険なことはして欲しくないかな。それに、サナがこの街で僕の帰りを待ってくれていると思うだけで、何があっても帰らないとって気持ちにもなるよ」
「ユーリ……」
「だから、これからサナが何をしたいのかゆっくり考えればいいし、もし何かやりたい事が見つかったらその時に決めればいい。それに、ザクスさんだってカナさんが街で帰りを待ってくれている事が心の支えになっていると思うんだ。僕だって一緒だ、サナがこの街で僕を待っていてくれると思うだけで、十分心強いよ」
ユーリはそう言うとわたしの隣へ来て座り、わたしの頭を撫でてくれた。
ユーリの言葉にわたしは心を打たれた。
その言葉は嬉しくもあり、何よりも心強かった。
わたしの事をそこまで想ってくれて……。
そんなユーリにわたしは思わず抱きついてしまった。
そして、そのままベッドに倒れ込むと、わたしはユーリにキスをすると、そのまま愛し合ったのだった。
◆◆◆
あれから数年後、わたしはユーリと結婚し、以前エミリーからもらったお金を元にして借家を借りて暮らしていた。
赤ちゃんの方はと言うと、結婚したばかりで、二人の生活が安定してから作ろうと話し合っているけど、もうそろそろ作ってもいいかな……?
近々ユーリと相談してみよう。
一方の仕事はと言うと、グレンさんにお願いして今はスーツを着て冒険者ギルドの経理をさせてもらっている。
この仕事を選んだ理由は幾つかあるけど、一番の理由はすぐにユーリに会えるからっ!
ここで働いていれば冒険から帰ってきたユーリをすぐに出迎えてあげることが出来る。
でも、そのためにはその日の分の仕事を迅速かつ慌てず正確にこなす必要がある。
そのため冒険者ギルドの奥にある事務室で、以前ユーリがプレゼントしてくれたリングネックレスと、左の薬指には結婚指輪を付け、なぜかこの世界にあるソロバンを弾きながら日々奮闘していた。
最初こそソロバンの扱い方が分からなかったけど、元々才能があったのか、教えてもらう内にかなり上達したと思う。
ソロバンを弾きながら横目でグレンさんを見ると、お姉ちゃんの子供であるユリウス君と、その妹の黒髪の女の子の赤ちゃん、サラサちゃんの相手をしていた。
はたから見ると、今のグレンさんはギルドマスターと言うよりも、お祖父ちゃんのポジションとなっており、二人の孫(?)にデレデレとなっていた。
そしてその親であるお姉ちゃんはと言うと……。
「アレクさん……助けてぇ~……」
わたしの目の前で情けない声を上げていた。
お姉ちゃんはグレンさんの指示でホールの方の経理の仕事をしている。
なんでも、子供を見てやるのを条件にと言ってグレンさんがお客さんの少ない日中の間にやらせているらしい。
頭を使うのが大の苦手なお姉ちゃんにとってはかなり酷な仕事だと思える。
「またか……それで、カナはどこが分からないんじゃ?」
そのお姉ちゃんをクマのぬいぐるみ……もとい「アレクさん」という人が溜め息をつきながら見ていた。
お姉ちゃんの話ではアレクさんは、三百年前の時代に生きていた大魔道士で、元々は人間だったみたいだけど、理由あって今はぬいぐるみの姿をしているらしい。
わたしも最初、ぬいぐるみであるアレクさんが動いて喋るのを見たときは、あまりの衝撃に腰を抜かしそうになったけど、アレクさん曰く「カナが儂を最初に見た時の反応とよく似とるのう」と笑いながら言っていた。
「金額が……金額が全然合わないの~……」
「どれじゃ……?カナここの金額間違っておるぞ!こっちは金額の桁が違うし、ここの書き方はこうじゃ……」
アレクさんはお姉ちゃんに帳簿の書き方を教える。
「うぇ~ん……!私やっぱり計算なんて無理だよ~……!こんな事なら冒険者を続けていれば良かった~っ!」
「それは、お義兄ちゃんがダメって言ってたでしょ?学生の頃からちゃんと勉強しなかったからこんなに苦労するんだよ、お姉ちゃん」
わたしはいつぞやの仕返しとばかりに含みを込めて言い放つ。
「うぇ~ん……!こんなことならちゃんと勉強もしておけば良かった~……!」
「カナ、泣き言はいいから、早くせんといつまで経ってもおわらんぞ」
お姉ちゃんは泣き言を言いながらアレクさん指導のもと必死になって帳簿をつけていた。
それもその筈、お姉ちゃんもお義兄ちゃんが冒険から帰ってきたらすぐにでも出迎えたいと思っている。
しかし、今日の分の帳簿が終わらないとそのお出迎えも出来ないし、ホールの方の仕事も待っている。
わたしは自分の仕事をしながら、悪戦苦闘するお姉ちゃんに苦笑していた。
「んん~……!終わったぁ~……っ!」
日が沈みかけた頃、今日の分の帳簿を付け終わったわたしはぐぅ~っと背伸びをした。
「サナはもう終わったのか。流石にカナとは頭の出来が違うのう」
わたしの様子を見たアレクさんが感心していたけど、それに対してお姉ちゃんの姿を見るとわたしは苦笑するしか無かった
一方そのお姉ちゃんはと言うと、今日の分の帳簿がどうにか終わったのか、頭から煙を出して力尽きていた。
「お姉ちゃん、大丈夫……?」
「ほれ、カナしっかりせんか」
「ダメ……、もう……ダメ……」
声を掛けると返事をする辺りまだ大丈夫なのだと思う。
「それじゃあ、わたしは先に行くよ」
お姉ちゃんにそれだけを言い残すと、書類や帳簿を片付けて事務室を後にした。
事務室を出たわたしは、その後クエスト受付カウンターにいた。
とは言っても、別にクエストの受付業務の仕事がある訳ではなく、この時間になるとクエストの受付スタッフも帰ってしまうので、ここでただ単に時間を潰しているのだ。
最初の頃こそ、男性冒険者達が変に声をかけてきたり、ちょっかいを出そうとしてきたりしていたけど、お姉ちゃんが睨んだだけでそれがすぐに無くなった。
どうやらみんなお姉ちゃんが怖いようだ。
そして待つこと十数分……、多くの冒険者がこの冒険者ギルドへと押し寄せる中、わたしは目的の人物を見つけていた。
「サナ!ただいまっ!」
ユーリがクエストから帰って来ると、わたしのいるクエスト受付カウンターへと向かってくる。
ここにいる理由はすぐにユーリが見つけてくれるからというのもある。
ユーリは現在、お義兄ちゃんとパーティーを組んで活躍している。
実力もかなりついてベテラン冒険者の仲間入りを果たしているようだけど、そんなことよりも、わたしとしては毎日無事に帰ってきてくれるほうがどんな活躍よりも嬉しい。
「よ!サナ、帰ったぜ」
ユーリの隣には相棒のお義兄ちゃんの姿もあった。
「お義兄ちゃんもお帰りなさい。二人共無事で良かったよ」
「俺が付いているんだ、サナの愛しの旦那様には怪我一つつけさせやしないよ」
「愛しの旦那様だなんてそんな……」
わたしはお義兄ちゃんの言葉に顔を赤くしながら照れ笑いを浮かべていた。
「あ、ザクス、ユーリ帰ってたのね。それじゃあ、お弁当箱洗うから出して」
隣を見てみると、いつの間に復活したのか、お姉ちゃんの姿があった。
ついさっきまで頭の使いすぎでケムリを出していたというのに、本当にこの人はタフと言うか何と言うか……。
「はい、義姉さん。今日もお弁当ありがとうございます。美味しかったです」
ユーリはそう言い、空と思われるお弁当箱をお姉ちゃんへと手渡す。
お義兄ちゃんのお弁当はもちろん、ユーリのお弁当もお姉ちゃんが作ってくれている。
本当はユーリのくらいはわたしが作りたかったんだけど、お姉ちゃんから「サナは料理禁止!」と釘を刺されているのだ。
それにお姉ちゃん曰く、一人分も二人分もたいして変わらないとの事。
「あれ?ザクスお弁当箱は?」
「え……っ!?え……えーとだな……、その……なんだ……」
どうにもお義兄ちゃんの歯切れが悪い……。
これはもしかして……。
「ザクス!まさかまたニンジンを残しているんじゃないでしょうね……っ!?」
「え……っ!?いや……その……」
「義兄さん、素直に謝って出したほうがいいですよ……」
「ザクス!ニンジン残してるのね……っ!?」
「う……、は……はい……」
そう、お義兄ちゃんはニンジンが大の嫌いなのだ!
だからか、お姉ちゃんはあの手この手でお義兄ちゃんにニンジンを食べさせようと模索しているようだけど、なかなか苦労しているみたい……。
「はぁ~……、あのねザクス……、ユーリだってニンジンは残さず食べてるのよ?義弟のユーリが食べれて、なんでザクスが食べれないのかしら?」
「いや……、それはその……」
「もういい!ザクスはこっちに来なさい!今日という今日はニンジンのフルコースでザクスにニンジンの美味しさを教え込んでやるわっ!」
「い……っ!?待ってくれ……!それだけは止めてくれ……!サナ!ユーリっ!頼むからカナを止めてくれ……っ!!」
お姉ちゃんはお義兄ちゃんの腕を掴むと肩を怒らせながら厨房の方へと引きずり込もうとしていた。
そんなお義兄ちゃんの後ろ姿を見ながら、わたしは手を合わせてご愁傷さまとしか心の中で声を掛ける他無かった。
「それじゃあサナ、一緒にご飯食べようか」
「うんっ!」
わたしはクエスト受付カウンターから出ると、ユーリと共に食事を済ますと家路へつくのだった。
◆◆◆
「ねえ、ユーリ……、話があるんだけどいい……?」
夜の帰り道、わたしは手をつないで歩いているユーリへと話しかけた。
「サナどうしたの?」
「あの……そろそろわたし……ユーリの赤ちゃんが欲しいかなって思って……。ダメ……かな……?」
「サナ……ダメじゃないよ。僕もそろそろサナとの子供が欲しいなって思っていたところだよ」
「それじゃあ……!」
「うん……その……今夜にでも早速……」
「分かった!じゃあ帰ってすぐに妊娠魔法覚えておくねっ!!」
「いや……そこまで気合を入れなくても……」
「わたし今の今まで我慢してきたんだよっ!?気合いだって入るよっ!」
お父さん、お母さん……。
お姉ちゃんに引き続きわたしまでいなくなって本当にごめんなさい……。
でも、わたしはこの世界でお姉ちゃんと、そしてわたしを愛してくれる大切な人と過ごしていきます。
この部屋は六畳ほどとそこまで広い部屋ではないけど、ベッドが二つと小さなテーブルが置かれていた。
そして、その一つのベッドへとわたしは座ると、大きく溜め息をついた……。
「はぁ~……」
溜め息の理由はこれからの事……。
わたしはこの街に着いてお姉ちゃんと再会した時点で旅や冒険をする意味も目的も無くなってしまった。
でも、何がしたいというのも無いし、ユーリを支えるにしても、冒険者としてユーリの傍にいたほうがいいのだろうか……、そんな考えが頭の中をグルグルと駆け巡る……。
「はぁ~……」
再び溜め息が漏れる……。
すると、そんなわたしにユーリが話しかけてきた。
「どうしたの?さっきから溜め息ばかりだけど……」
「ユーリ……、わたしこれから先のことを考えてて……。わたしは冒険者よりもこの街で働きたいなって思ってて……でも何がしたいのか自分でも分からなくて……。だけど、ユーリを支えるのなら冒険者じゃないとダメなのかなとも思うし……」
「サナ、グレンさんが言っていたじゃないか、慌てる必要なんて無いよ。それに、僕を支えてくれると言ってくれるのは嬉しいけど、僕としてはやっぱりサナには冒険者みたいな危険なことはして欲しくないかな。それに、サナがこの街で僕の帰りを待ってくれていると思うだけで、何があっても帰らないとって気持ちにもなるよ」
「ユーリ……」
「だから、これからサナが何をしたいのかゆっくり考えればいいし、もし何かやりたい事が見つかったらその時に決めればいい。それに、ザクスさんだってカナさんが街で帰りを待ってくれている事が心の支えになっていると思うんだ。僕だって一緒だ、サナがこの街で僕を待っていてくれると思うだけで、十分心強いよ」
ユーリはそう言うとわたしの隣へ来て座り、わたしの頭を撫でてくれた。
ユーリの言葉にわたしは心を打たれた。
その言葉は嬉しくもあり、何よりも心強かった。
わたしの事をそこまで想ってくれて……。
そんなユーリにわたしは思わず抱きついてしまった。
そして、そのままベッドに倒れ込むと、わたしはユーリにキスをすると、そのまま愛し合ったのだった。
◆◆◆
あれから数年後、わたしはユーリと結婚し、以前エミリーからもらったお金を元にして借家を借りて暮らしていた。
赤ちゃんの方はと言うと、結婚したばかりで、二人の生活が安定してから作ろうと話し合っているけど、もうそろそろ作ってもいいかな……?
近々ユーリと相談してみよう。
一方の仕事はと言うと、グレンさんにお願いして今はスーツを着て冒険者ギルドの経理をさせてもらっている。
この仕事を選んだ理由は幾つかあるけど、一番の理由はすぐにユーリに会えるからっ!
ここで働いていれば冒険から帰ってきたユーリをすぐに出迎えてあげることが出来る。
でも、そのためにはその日の分の仕事を迅速かつ慌てず正確にこなす必要がある。
そのため冒険者ギルドの奥にある事務室で、以前ユーリがプレゼントしてくれたリングネックレスと、左の薬指には結婚指輪を付け、なぜかこの世界にあるソロバンを弾きながら日々奮闘していた。
最初こそソロバンの扱い方が分からなかったけど、元々才能があったのか、教えてもらう内にかなり上達したと思う。
ソロバンを弾きながら横目でグレンさんを見ると、お姉ちゃんの子供であるユリウス君と、その妹の黒髪の女の子の赤ちゃん、サラサちゃんの相手をしていた。
はたから見ると、今のグレンさんはギルドマスターと言うよりも、お祖父ちゃんのポジションとなっており、二人の孫(?)にデレデレとなっていた。
そしてその親であるお姉ちゃんはと言うと……。
「アレクさん……助けてぇ~……」
わたしの目の前で情けない声を上げていた。
お姉ちゃんはグレンさんの指示でホールの方の経理の仕事をしている。
なんでも、子供を見てやるのを条件にと言ってグレンさんがお客さんの少ない日中の間にやらせているらしい。
頭を使うのが大の苦手なお姉ちゃんにとってはかなり酷な仕事だと思える。
「またか……それで、カナはどこが分からないんじゃ?」
そのお姉ちゃんをクマのぬいぐるみ……もとい「アレクさん」という人が溜め息をつきながら見ていた。
お姉ちゃんの話ではアレクさんは、三百年前の時代に生きていた大魔道士で、元々は人間だったみたいだけど、理由あって今はぬいぐるみの姿をしているらしい。
わたしも最初、ぬいぐるみであるアレクさんが動いて喋るのを見たときは、あまりの衝撃に腰を抜かしそうになったけど、アレクさん曰く「カナが儂を最初に見た時の反応とよく似とるのう」と笑いながら言っていた。
「金額が……金額が全然合わないの~……」
「どれじゃ……?カナここの金額間違っておるぞ!こっちは金額の桁が違うし、ここの書き方はこうじゃ……」
アレクさんはお姉ちゃんに帳簿の書き方を教える。
「うぇ~ん……!私やっぱり計算なんて無理だよ~……!こんな事なら冒険者を続けていれば良かった~っ!」
「それは、お義兄ちゃんがダメって言ってたでしょ?学生の頃からちゃんと勉強しなかったからこんなに苦労するんだよ、お姉ちゃん」
わたしはいつぞやの仕返しとばかりに含みを込めて言い放つ。
「うぇ~ん……!こんなことならちゃんと勉強もしておけば良かった~……!」
「カナ、泣き言はいいから、早くせんといつまで経ってもおわらんぞ」
お姉ちゃんは泣き言を言いながらアレクさん指導のもと必死になって帳簿をつけていた。
それもその筈、お姉ちゃんもお義兄ちゃんが冒険から帰ってきたらすぐにでも出迎えたいと思っている。
しかし、今日の分の帳簿が終わらないとそのお出迎えも出来ないし、ホールの方の仕事も待っている。
わたしは自分の仕事をしながら、悪戦苦闘するお姉ちゃんに苦笑していた。
「んん~……!終わったぁ~……っ!」
日が沈みかけた頃、今日の分の帳簿を付け終わったわたしはぐぅ~っと背伸びをした。
「サナはもう終わったのか。流石にカナとは頭の出来が違うのう」
わたしの様子を見たアレクさんが感心していたけど、それに対してお姉ちゃんの姿を見るとわたしは苦笑するしか無かった
一方そのお姉ちゃんはと言うと、今日の分の帳簿がどうにか終わったのか、頭から煙を出して力尽きていた。
「お姉ちゃん、大丈夫……?」
「ほれ、カナしっかりせんか」
「ダメ……、もう……ダメ……」
声を掛けると返事をする辺りまだ大丈夫なのだと思う。
「それじゃあ、わたしは先に行くよ」
お姉ちゃんにそれだけを言い残すと、書類や帳簿を片付けて事務室を後にした。
事務室を出たわたしは、その後クエスト受付カウンターにいた。
とは言っても、別にクエストの受付業務の仕事がある訳ではなく、この時間になるとクエストの受付スタッフも帰ってしまうので、ここでただ単に時間を潰しているのだ。
最初の頃こそ、男性冒険者達が変に声をかけてきたり、ちょっかいを出そうとしてきたりしていたけど、お姉ちゃんが睨んだだけでそれがすぐに無くなった。
どうやらみんなお姉ちゃんが怖いようだ。
そして待つこと十数分……、多くの冒険者がこの冒険者ギルドへと押し寄せる中、わたしは目的の人物を見つけていた。
「サナ!ただいまっ!」
ユーリがクエストから帰って来ると、わたしのいるクエスト受付カウンターへと向かってくる。
ここにいる理由はすぐにユーリが見つけてくれるからというのもある。
ユーリは現在、お義兄ちゃんとパーティーを組んで活躍している。
実力もかなりついてベテラン冒険者の仲間入りを果たしているようだけど、そんなことよりも、わたしとしては毎日無事に帰ってきてくれるほうがどんな活躍よりも嬉しい。
「よ!サナ、帰ったぜ」
ユーリの隣には相棒のお義兄ちゃんの姿もあった。
「お義兄ちゃんもお帰りなさい。二人共無事で良かったよ」
「俺が付いているんだ、サナの愛しの旦那様には怪我一つつけさせやしないよ」
「愛しの旦那様だなんてそんな……」
わたしはお義兄ちゃんの言葉に顔を赤くしながら照れ笑いを浮かべていた。
「あ、ザクス、ユーリ帰ってたのね。それじゃあ、お弁当箱洗うから出して」
隣を見てみると、いつの間に復活したのか、お姉ちゃんの姿があった。
ついさっきまで頭の使いすぎでケムリを出していたというのに、本当にこの人はタフと言うか何と言うか……。
「はい、義姉さん。今日もお弁当ありがとうございます。美味しかったです」
ユーリはそう言い、空と思われるお弁当箱をお姉ちゃんへと手渡す。
お義兄ちゃんのお弁当はもちろん、ユーリのお弁当もお姉ちゃんが作ってくれている。
本当はユーリのくらいはわたしが作りたかったんだけど、お姉ちゃんから「サナは料理禁止!」と釘を刺されているのだ。
それにお姉ちゃん曰く、一人分も二人分もたいして変わらないとの事。
「あれ?ザクスお弁当箱は?」
「え……っ!?え……えーとだな……、その……なんだ……」
どうにもお義兄ちゃんの歯切れが悪い……。
これはもしかして……。
「ザクス!まさかまたニンジンを残しているんじゃないでしょうね……っ!?」
「え……っ!?いや……その……」
「義兄さん、素直に謝って出したほうがいいですよ……」
「ザクス!ニンジン残してるのね……っ!?」
「う……、は……はい……」
そう、お義兄ちゃんはニンジンが大の嫌いなのだ!
だからか、お姉ちゃんはあの手この手でお義兄ちゃんにニンジンを食べさせようと模索しているようだけど、なかなか苦労しているみたい……。
「はぁ~……、あのねザクス……、ユーリだってニンジンは残さず食べてるのよ?義弟のユーリが食べれて、なんでザクスが食べれないのかしら?」
「いや……、それはその……」
「もういい!ザクスはこっちに来なさい!今日という今日はニンジンのフルコースでザクスにニンジンの美味しさを教え込んでやるわっ!」
「い……っ!?待ってくれ……!それだけは止めてくれ……!サナ!ユーリっ!頼むからカナを止めてくれ……っ!!」
お姉ちゃんはお義兄ちゃんの腕を掴むと肩を怒らせながら厨房の方へと引きずり込もうとしていた。
そんなお義兄ちゃんの後ろ姿を見ながら、わたしは手を合わせてご愁傷さまとしか心の中で声を掛ける他無かった。
「それじゃあサナ、一緒にご飯食べようか」
「うんっ!」
わたしはクエスト受付カウンターから出ると、ユーリと共に食事を済ますと家路へつくのだった。
◆◆◆
「ねえ、ユーリ……、話があるんだけどいい……?」
夜の帰り道、わたしは手をつないで歩いているユーリへと話しかけた。
「サナどうしたの?」
「あの……そろそろわたし……ユーリの赤ちゃんが欲しいかなって思って……。ダメ……かな……?」
「サナ……ダメじゃないよ。僕もそろそろサナとの子供が欲しいなって思っていたところだよ」
「それじゃあ……!」
「うん……その……今夜にでも早速……」
「分かった!じゃあ帰ってすぐに妊娠魔法覚えておくねっ!!」
「いや……そこまで気合を入れなくても……」
「わたし今の今まで我慢してきたんだよっ!?気合いだって入るよっ!」
お父さん、お母さん……。
お姉ちゃんに引き続きわたしまでいなくなって本当にごめんなさい……。
でも、わたしはこの世界でお姉ちゃんと、そしてわたしを愛してくれる大切な人と過ごしていきます。
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