転生メイドは原作改変で推しを救う！〜この運命、私が変えてみせます！〜

揺れ動く冷たい心

心の距離が縮まる瞬間と内なる企み

　──セレナ──


　半ば強引に瀬玲奈から体の主導権を奪った私は料理へと近付きそうになっていた体をピタッととどまらせ、姿勢を整えるとその場に直立させる。

『セレナ……！ちょ……っ！私にそのごちそうを食べさせないよ……！』

　私は心の中でギャーギャーと騒ぐ瀬玲奈を無視するとユリスに対してペコリと頭を下げた。

「申し訳ございませんユリス様。折角のお言葉ですが私はメイドの身……そのような事は致しかねます」

「君は……もう一人のセレナさんだね？」

　ユリスの言葉に私は思わず目を見開く。

　コイツ……私と瀬玲奈の違いに気がついている……？

「……なぜそのようなことをお聞きに？」

「雰囲気でわかるよ。初めて会ったときも言ったと思うけど、君の中には2つの心が存在している。さっきまでのが優しく温かみのあるセレナさんで、今は冷静で鋭い刃物のように冷たく、でもその奥には優しさを持つセレナさん……だよね」

「……私は優しくなどありません。ハッキリ申し上げます、以前の私はあなたを殺しに来た暗殺者でした」

「以前は・・・と言っていたから今は違うんだよね？」

「……どうしてそう思われるのですか？」

「だって、暗殺者は自らそうは名乗らないよね？」

　このユリスという男……鋭いな。

　流石はカイゼルの嫡男というだけあるか……。

「流石はユリス様……お見事なご彗眼です。ですが先ほども申した通り私は優しさと言うものをとうに捨てております」

「いや、君の心の奥にはまだ優しさが眠っていると僕は思うよ。でなければこのような美味しい料理は作れないと僕は思う。この料理を作ったのは今のセレナさん……だよね？」

「……はい、私が作らせていただきました」

「食べるたびに心の奥が温かくなるのを感じるよ」

「恐れ入ります……」

「そこでもう一度聞きたいんだけど、僕と一緒に食事を摂ってくれないか？」

「……それは命令でしょうか？」

「いや、君を一人の友人と見込んでの僕の頼みだよ」

　どうする……？
　メイドとしては主人と食事をするなど以ての外……。

　しかし、その主人が一緒に食べたいと言っている……。

　いや、この場合は友としての頼みか……？

　だが私に友など必要ない、私の手は血で汚れすぎている……。

「それに……この量は僕には多いみたいだ、捨てるのも勿体ないしセレナに食べるの手伝って欲しいんだけどダメかな……？」

「……分かった」

「ふふ、ようやくタメ口になってくれたね」

　確かに捨てるのは勿体ない……そう思った私はユリスと共に食事をすることにした。

　そして、両親を失ってからは一人で食事をしていた私は、本当に久しぶりに誰かと食べる食事がどこか美味しく感じられたのだった……。


　～サイドストーリー～


　──瀬玲奈──


　私はセレナがユリスと共に食事をしている様子を彼女の体の中から眺めていた。

　ちぇ……っ！結局自分ばっかりいい思いしてるじゃない……！

　あ～あ……、私も美味しいご馳走が食べたいなぁ～……。

　私は不貞腐れたように愚痴をこぼすとセレナの感情が伝わってくる。

（ん……？これはセレナの感情……？嬉しい気持ちとそれと……これは……）

　おやおや……？

　これはいい事思いついたわ！

　日頃の仕返しにセレナにはデレデレになってもらうわよ……！

　私はセレナの心の奥底で"悪巧み"を画策するのだった……。