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1.おっさん、追放される
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酒場の喧騒は、ガルドの心を締め付ける鉄の鎖のようだった。
38歳の冒険者、ガルド・ヴァルトは、薄汚れたテーブルに突っ伏し、空のジョッキを握り潰す勢いで掴みながら、睨みつけていた。
ぼさぼさの黒髪、無精ひげ、擦り切れた革鎧――かつて「鉄壁のガルド」と呼ばれた男の面影は、今やどこにもない。
「クソくらえ…みんなくそくらえだ…」ガルドの呟きは、酒と憎悪に濡れていた。
一週間前、彼は冒険者パーティ「銀狼の牙」から追放された。リーダーの若き剣士ゼクスが、冷酷な笑みを浮かべて言い放った。
「お前みたいなオッサンはもういらねえ。スキルも時代遅れだしな」
魔法使いのエスティも僧侶のフローマも、ガルドを庇わなかった。エスティに至っては、「新しい戦士のほうがずっと使える」と嘲笑さえした。
ガルドのスキルは【鉄壁】。敵の攻撃を一定時間完全に防ぐ、防御特化のスキルだ。派手さはない。
炎を纏う剣や天空を裂く魔法に比べれば、地味でしかない。だが、ガルドはこれまで何度もパーティを絶望から救ってきた。
山賊の奇襲、ドラゴンの炎、崩落する洞窟――彼の【鉄壁】がなければ、全員が死んでいた場面を、ガルドは数え切れないほど知っている。
なのに、だ。「ハルトの【烈火斬】があれば、攻撃を受ける前に敵を一掃できる。お前のスキルなんて、ただの時間稼ぎだ」とゼクスは吐き捨てた。
ハルト、ゼクスより年下の金髪の新入り。ギルドで「次代の英雄」と囃される攻撃特化の戦士だ。ガルドの誇りは、その一言で粉々に砕かれた。
「俺が…俺がいたから、あいつらは…!」ガルドはジョッキを叩きつけ、酒場を飛び出した。冷たい夜風が彼の頬を切りつける。
行く当てはない。貯金は底をつき、冒険者ギルドの登録も抹消された。この街に、彼の居場所はもうなかった。
街を遠く離れ、ガルドは深い森の奥に足を踏み入れていた。月光が木々の隙間から漏れ、地面に淡い光の模様を描く。
ガルドは倒木に腰を下ろし、空を見上げた。星空は美しかったが、彼の心は闇に沈んだままだった。
「もう….…終わりだ……」その呟きが、まるで彼の人生の墓碑銘のようだった。
だが、その瞬間、背後でガサッと音がした。ガルドは反射的に剣を抜き、振り向く。そこに立っていたのは、敵ではなかった。
「うわっ、びっくりした! あなた、誰!?」
それは若い女性だった。20歳ほどに見える、亜麻色の髪を緩やかなツインテールにまとめた女性だ。
大きな緑の瞳が、月光の下で宝石のように輝いている。簡素だが動きやすいチュニックに、腰には薬草や道具が入ったポーチ。左手には不思議な文様の入った腕輪を付けている。彼女の雰囲気は、村の薬師というより、どこか冒険者の気配を漂わせていた。
ガルドは剣を収め、再び倒木に座り込んだ。
「……ガルドだ。お前こそ、こんな森の奥で何してんだ? 危ねえぞ」
女性はふわりと微笑み、ポーチからハーブの束を取り出した。「私はミナ。薬草採りにきたの。この森には、希少なハーブがたくさん生えてるから」
ガルドは眉をひそめた。夜更けの魔物出没地帯に、若い女が一人でいるなんて、正気の沙汰ではない。「ここはこんな時間にうろついていい場所じゃねえ。魔狼でも出たら、どうすんだ」
「ふふ、大丈夫よ。私、魔物くらいならなんとかなるわ。ほら、これ」ミナはポーチから小さな小瓶を取り出し、得意げに見せつけた。「私が作った煙幕弾。これがあれば、魔物もそう簡単には近づけないの」
ガルドは鼻で笑った。「そんなチャチなもんで魔物が逃げるかよ。さっさと帰れ」だが、ミナはまるで聞かず、隣に座って興味津々にガルドを見た。
「ねえ、ガルドさん、冒険者よね? その剣、めっちゃかっこいい! どんなスキル持ってるの? 教えて!」
「……うるせえな。スキル? 【鉄壁】だよ。クソくらえの防御スキルだ。なんの価値もねえ」
ガルドの声は自嘲に満ちていた。だが、ミナは目を輝かせて彼を見つめた。「防御スキル? それ、めっちゃすごいじゃない! 仲間を守れるんでしょ? かっこいいわ!」
「守っても、誰も感謝しねえ。攻撃スキル持ってるやつがチヤホヤされるだけだ」ミナは少しむっとした顔でガルドを睨んだ。
「そんなことないよ! 守るって、めっちゃ大事! 私のおばあちゃんが言ってた。『攻撃は花火、防御は礎』って!」
ガルドは言葉に詰まった。この若い女性の真っ直ぐな言葉が、凍りついた彼の心に小さなひびを入れた。だが、すぐに現実は彼を嘲笑う。森の奥から、低く唸るような咆哮が響いたのだ。
「……ガルドさん、あれ、魔狼…!」
ミナの声がわずかに震える。ガルドの背筋に冷たいものが走った。「魔狼だと? ちくしょう、群れで来るぞ! ミナ、隠れろ!」
ガルドは剣を抜き、ミナを背後に庇った。月光の下、藪をかき分けて現れたのは、三匹の魔狼だった。赤い目が闇の中で燃え、鋭い牙が唸りを上げる。
ガルドは内心で舌打ちした。魔狼は単体なら自分でも倒せるが、群れとなると話は別だ。ましてや、今の彼は酒で体が鈍り、装備も酒のために売り払ってしまい、今はただの革鎧しか身に着けていない。
「ミナ、俺が時間を稼ぐ。そこの木の陰に隠れて、隙を見て逃げろ!」
「でも、ガルドさん…!」
「いいから、行け!」
ガルドは叫び、スキルを発動した。「【鉄壁】!」彼の体が淡い光に包まれ、どんな攻撃も防ぐ絶対防御の領域が展開される。効果時間は30秒。この短い時間で、ミナを逃がさなければ。
魔狼が一斉に飛びかかってきた。ガルドは剣を構え、牙と爪の猛攻を受け止める。【鉄壁】のおかげでダメージはゼロだが、衝撃で体が軋む。一匹、二匹、三匹……
「ガルドさん、危ない!」
ミナの叫び声。ガルドは思わず振り返る。それは【鉄壁】の効果時間が切れた瞬間と同時だった。
敵は三匹ではなかった。背後から迫っていた四匹目の魔狼の爪が彼の肩を深く切り裂き、鮮血が月光を染めた。
「ぐああっ!」
「ガルドさん!」
ガルドは膝をつき、剣を地面に突き立ててなんとか体を支える。
ミナは逃げず、ポーチから小さな瓶を取り出し、地面に叩きつけた。瓶が割れると、緑色の煙が噴き出し、魔狼たちが怯んで後ずさる。
「ミナ、てめえ、逃げろって……!」
「嫌よ! ガルドさんが死んじゃう!」
ミナは涙目でガルドの腕を引っ張り、彼を木の陰に引きずり込んだ。煙のおかげで魔狼は一時的に近づけないが、効果は長く続かない。ガルドは肩の傷を押さえ、苦しげに息をついた。血が地面に滴り、意識が遠のく。
「お前……なんで……俺なんかを…」
「だって、ガルドさん、私を守ってくれた! だから、私も……ガルドさんを守る!」
ミナの声は、震えながらも確かな決意に満ちていた。その言葉が、ガルドの心の奥に沈んでいた何かを揺さぶった。誰かに必要とされる感覚。誰かを守りたいという、かつての自分。
「……ったく……お前、生意気だな……」
ガルドは立ち上がり、剣を握り直した。肩の痛みは限界を超えていたが、ミナの涙を見れば、逃げる選択肢はなかった。ミナがポーチから小さな回復薬の瓶を渡す。「これ、飲んで! 私の特製よ!」
ガルドは一気に飲み干し、傷がわずかに癒えるのを感じた。魔狼の咆哮が再び近づいてくる。ガルドはミナを背に、剣を構えた。
「ミナ、俺が前衛だ。お前、後ろから援護しろ。できるな?」
「うん……! 私、頑張るよ!」
戦闘が再開された。ガルドは剣を振るい、ミナを庇いながら魔狼の猛攻を凌ぐ。ミナは薬瓶を投げ、煙幕や毒液で魔狼の動きを封じる。二人の連携は、まるで運命に導かれたかのように息が合っていた。
「ミナ、いいぞ! 右から来るやつを狙え!」
「任せて!」
ミナの投げた毒液が一匹の魔狼の目を直撃し、ガルドがその隙に剣を振り下ろす。魔狼が悲鳴を上げて倒れた。「まず一匹! 残り三匹だ!」
だが、魔狼の攻撃は止まらない。【鉄壁】のクールタイムが明けるまで、ガルドは生身で戦うしかない。魔狼の一匹がミナに襲いかかる。
「きゃあっ!」
「ミナ!」
ガルドはミナを庇うように体を張った。爪が彼の背中を切り裂き、新たな血が地面を濡らす。
「ぐあっ!」
「ガルドさん!これで!」
ミナが叫び、水晶をガルドの真上に放り投げた。「おばあちゃん、力を貸して! 私、ガルドさんを守りたい!」左手の腕輪が輝き、それと共鳴するように水晶が眩い光を放つ。
水晶は砕け散り、まるで星が地上に降りたかのように森を照らした。光はガルドの体を包み込み、彼の【鉄壁】が勝手に発動した。
「な…なんだ、この力…!?」
ガルドの体を包む光は、いつもよりはるかに強力だった。【鉄壁】のバリアは攻撃を防ぐだけでなく、魔狼の爪を跳ね返し、逆にダメージを与えている。ガルドは直感した。ミナのスキルが、【鉄壁】を進化させたのだ。
「ミナ、お前は一体!?」
「私のスキルは【調和】! 他の人のスキルを……強くするの!」
「強くする……だと? これ、ただの強化じゃねえぞ!」
ガルドは剣を振り上げ、強化された【鉄壁】の反撃効果で二匹の魔狼を屠った。バリアの光が森を切り裂き、魔狼の咆哮を圧倒する。
ミナが最後の毒瓶を投げ、残る魔狼の動きを鈍らせると、ガルドが渾身の一撃でとどめを刺した。
戦闘が終わり、森に静寂が戻った。ガルドは剣を地面に突き立て、息を切らす。ミナはへたり込み、涙を浮かべながら笑った。
「……やった……勝った!ガルドさん、すごい…! かっこよかった!」
ミナの笑顔に、ガルドは照れくさそうに頭をかいた。「お前がいたからだ。……ミナ、ありがとな」
夜が深まり、ガルドとミナは近くの村までの道を歩いていた。ミナは自分の村にガルドを招き、そこで休息できると提案したのだ。ガルドは一瞬迷ったが、行く当てのない自分には、これ以上の選択肢はなかった。
「なあ、ミナ。お前の【調和】、とんでもねえスキルだな。俺の【鉄壁】があんな風になるとは……」
「私のスキル【調和】はね、二つのスキルを融合させることが出来るの。私が【投擲】で投げた水晶を、ガルドさんの【鉄壁】と調和させて、一時的に防御壁を、ダメージ反射の追加効果付きにした、って感じかな」
「ダメージ反射って、めちゃくちゃなレアスキルじゃねぇか。一時的とは言え、そんなに…!」
「でも、ガルドさんのスキルがもともとすごかったのよ!でもあの水晶、おばあちゃんにもらった、滅多に手に入らないものだから、もうあんなことは出来ないけどね……」
「そりゃ、悪いことをしたな」
「ううん、いいの。誰かを守るために使えたなら、それで」
「そうか……でも、アレだ。お前と組めば、俺、なんか……まだやれる気がする」
ミナは目を輝かせた。「ねえ、ガルドさん! 私と一緒に冒険に出ない? 二人なら、絶対すごいことができるよ!」
「冒険者、ね…」ガルドは空を見上げた。追放された屈辱、仲間への怒り、そしてミナとの出会い。すべてが彼の中で渦巻いている。「……いいぜ。一緒にやってみるか」
ミナは飛び上がって喜んだ。「やった! ガルドさんと私、最強のパーティよ!」
同じ頃、街の冒険者ギルドでは、「銀狼の牙」のメンバーが重苦しい雰囲気の中で酒を飲んでいた。ゼクスは苛立たしげにジョッキを叩きつける。
「ちくしょう、なんでハルトのやつ、ドラゴンの鱗すら斬れねえんだよ!」
ミリアが冷たく言い放つ。「あんたがガルドを追放したからでしょ。あいつの【鉄壁】があれば、ドラゴンのブレスも防げたのに」
「うるせえ! あんなオッサン、いらねえって言ったろ!」
だが、内心、ゼクスも不安を感じていた。ハルトの攻撃力は高いが、防御が脆く、すぐに怪我をする。パーティのバランスが崩れ、依頼の失敗が続いている。ギルドでの評判も落ち始めていた。
「…ガルドのやつ、今頃どこで何してんだろうな」
ゼクスのつぶやきに、誰も答えなかった。
38歳の冒険者、ガルド・ヴァルトは、薄汚れたテーブルに突っ伏し、空のジョッキを握り潰す勢いで掴みながら、睨みつけていた。
ぼさぼさの黒髪、無精ひげ、擦り切れた革鎧――かつて「鉄壁のガルド」と呼ばれた男の面影は、今やどこにもない。
「クソくらえ…みんなくそくらえだ…」ガルドの呟きは、酒と憎悪に濡れていた。
一週間前、彼は冒険者パーティ「銀狼の牙」から追放された。リーダーの若き剣士ゼクスが、冷酷な笑みを浮かべて言い放った。
「お前みたいなオッサンはもういらねえ。スキルも時代遅れだしな」
魔法使いのエスティも僧侶のフローマも、ガルドを庇わなかった。エスティに至っては、「新しい戦士のほうがずっと使える」と嘲笑さえした。
ガルドのスキルは【鉄壁】。敵の攻撃を一定時間完全に防ぐ、防御特化のスキルだ。派手さはない。
炎を纏う剣や天空を裂く魔法に比べれば、地味でしかない。だが、ガルドはこれまで何度もパーティを絶望から救ってきた。
山賊の奇襲、ドラゴンの炎、崩落する洞窟――彼の【鉄壁】がなければ、全員が死んでいた場面を、ガルドは数え切れないほど知っている。
なのに、だ。「ハルトの【烈火斬】があれば、攻撃を受ける前に敵を一掃できる。お前のスキルなんて、ただの時間稼ぎだ」とゼクスは吐き捨てた。
ハルト、ゼクスより年下の金髪の新入り。ギルドで「次代の英雄」と囃される攻撃特化の戦士だ。ガルドの誇りは、その一言で粉々に砕かれた。
「俺が…俺がいたから、あいつらは…!」ガルドはジョッキを叩きつけ、酒場を飛び出した。冷たい夜風が彼の頬を切りつける。
行く当てはない。貯金は底をつき、冒険者ギルドの登録も抹消された。この街に、彼の居場所はもうなかった。
街を遠く離れ、ガルドは深い森の奥に足を踏み入れていた。月光が木々の隙間から漏れ、地面に淡い光の模様を描く。
ガルドは倒木に腰を下ろし、空を見上げた。星空は美しかったが、彼の心は闇に沈んだままだった。
「もう….…終わりだ……」その呟きが、まるで彼の人生の墓碑銘のようだった。
だが、その瞬間、背後でガサッと音がした。ガルドは反射的に剣を抜き、振り向く。そこに立っていたのは、敵ではなかった。
「うわっ、びっくりした! あなた、誰!?」
それは若い女性だった。20歳ほどに見える、亜麻色の髪を緩やかなツインテールにまとめた女性だ。
大きな緑の瞳が、月光の下で宝石のように輝いている。簡素だが動きやすいチュニックに、腰には薬草や道具が入ったポーチ。左手には不思議な文様の入った腕輪を付けている。彼女の雰囲気は、村の薬師というより、どこか冒険者の気配を漂わせていた。
ガルドは剣を収め、再び倒木に座り込んだ。
「……ガルドだ。お前こそ、こんな森の奥で何してんだ? 危ねえぞ」
女性はふわりと微笑み、ポーチからハーブの束を取り出した。「私はミナ。薬草採りにきたの。この森には、希少なハーブがたくさん生えてるから」
ガルドは眉をひそめた。夜更けの魔物出没地帯に、若い女が一人でいるなんて、正気の沙汰ではない。「ここはこんな時間にうろついていい場所じゃねえ。魔狼でも出たら、どうすんだ」
「ふふ、大丈夫よ。私、魔物くらいならなんとかなるわ。ほら、これ」ミナはポーチから小さな小瓶を取り出し、得意げに見せつけた。「私が作った煙幕弾。これがあれば、魔物もそう簡単には近づけないの」
ガルドは鼻で笑った。「そんなチャチなもんで魔物が逃げるかよ。さっさと帰れ」だが、ミナはまるで聞かず、隣に座って興味津々にガルドを見た。
「ねえ、ガルドさん、冒険者よね? その剣、めっちゃかっこいい! どんなスキル持ってるの? 教えて!」
「……うるせえな。スキル? 【鉄壁】だよ。クソくらえの防御スキルだ。なんの価値もねえ」
ガルドの声は自嘲に満ちていた。だが、ミナは目を輝かせて彼を見つめた。「防御スキル? それ、めっちゃすごいじゃない! 仲間を守れるんでしょ? かっこいいわ!」
「守っても、誰も感謝しねえ。攻撃スキル持ってるやつがチヤホヤされるだけだ」ミナは少しむっとした顔でガルドを睨んだ。
「そんなことないよ! 守るって、めっちゃ大事! 私のおばあちゃんが言ってた。『攻撃は花火、防御は礎』って!」
ガルドは言葉に詰まった。この若い女性の真っ直ぐな言葉が、凍りついた彼の心に小さなひびを入れた。だが、すぐに現実は彼を嘲笑う。森の奥から、低く唸るような咆哮が響いたのだ。
「……ガルドさん、あれ、魔狼…!」
ミナの声がわずかに震える。ガルドの背筋に冷たいものが走った。「魔狼だと? ちくしょう、群れで来るぞ! ミナ、隠れろ!」
ガルドは剣を抜き、ミナを背後に庇った。月光の下、藪をかき分けて現れたのは、三匹の魔狼だった。赤い目が闇の中で燃え、鋭い牙が唸りを上げる。
ガルドは内心で舌打ちした。魔狼は単体なら自分でも倒せるが、群れとなると話は別だ。ましてや、今の彼は酒で体が鈍り、装備も酒のために売り払ってしまい、今はただの革鎧しか身に着けていない。
「ミナ、俺が時間を稼ぐ。そこの木の陰に隠れて、隙を見て逃げろ!」
「でも、ガルドさん…!」
「いいから、行け!」
ガルドは叫び、スキルを発動した。「【鉄壁】!」彼の体が淡い光に包まれ、どんな攻撃も防ぐ絶対防御の領域が展開される。効果時間は30秒。この短い時間で、ミナを逃がさなければ。
魔狼が一斉に飛びかかってきた。ガルドは剣を構え、牙と爪の猛攻を受け止める。【鉄壁】のおかげでダメージはゼロだが、衝撃で体が軋む。一匹、二匹、三匹……
「ガルドさん、危ない!」
ミナの叫び声。ガルドは思わず振り返る。それは【鉄壁】の効果時間が切れた瞬間と同時だった。
敵は三匹ではなかった。背後から迫っていた四匹目の魔狼の爪が彼の肩を深く切り裂き、鮮血が月光を染めた。
「ぐああっ!」
「ガルドさん!」
ガルドは膝をつき、剣を地面に突き立ててなんとか体を支える。
ミナは逃げず、ポーチから小さな瓶を取り出し、地面に叩きつけた。瓶が割れると、緑色の煙が噴き出し、魔狼たちが怯んで後ずさる。
「ミナ、てめえ、逃げろって……!」
「嫌よ! ガルドさんが死んじゃう!」
ミナは涙目でガルドの腕を引っ張り、彼を木の陰に引きずり込んだ。煙のおかげで魔狼は一時的に近づけないが、効果は長く続かない。ガルドは肩の傷を押さえ、苦しげに息をついた。血が地面に滴り、意識が遠のく。
「お前……なんで……俺なんかを…」
「だって、ガルドさん、私を守ってくれた! だから、私も……ガルドさんを守る!」
ミナの声は、震えながらも確かな決意に満ちていた。その言葉が、ガルドの心の奥に沈んでいた何かを揺さぶった。誰かに必要とされる感覚。誰かを守りたいという、かつての自分。
「……ったく……お前、生意気だな……」
ガルドは立ち上がり、剣を握り直した。肩の痛みは限界を超えていたが、ミナの涙を見れば、逃げる選択肢はなかった。ミナがポーチから小さな回復薬の瓶を渡す。「これ、飲んで! 私の特製よ!」
ガルドは一気に飲み干し、傷がわずかに癒えるのを感じた。魔狼の咆哮が再び近づいてくる。ガルドはミナを背に、剣を構えた。
「ミナ、俺が前衛だ。お前、後ろから援護しろ。できるな?」
「うん……! 私、頑張るよ!」
戦闘が再開された。ガルドは剣を振るい、ミナを庇いながら魔狼の猛攻を凌ぐ。ミナは薬瓶を投げ、煙幕や毒液で魔狼の動きを封じる。二人の連携は、まるで運命に導かれたかのように息が合っていた。
「ミナ、いいぞ! 右から来るやつを狙え!」
「任せて!」
ミナの投げた毒液が一匹の魔狼の目を直撃し、ガルドがその隙に剣を振り下ろす。魔狼が悲鳴を上げて倒れた。「まず一匹! 残り三匹だ!」
だが、魔狼の攻撃は止まらない。【鉄壁】のクールタイムが明けるまで、ガルドは生身で戦うしかない。魔狼の一匹がミナに襲いかかる。
「きゃあっ!」
「ミナ!」
ガルドはミナを庇うように体を張った。爪が彼の背中を切り裂き、新たな血が地面を濡らす。
「ぐあっ!」
「ガルドさん!これで!」
ミナが叫び、水晶をガルドの真上に放り投げた。「おばあちゃん、力を貸して! 私、ガルドさんを守りたい!」左手の腕輪が輝き、それと共鳴するように水晶が眩い光を放つ。
水晶は砕け散り、まるで星が地上に降りたかのように森を照らした。光はガルドの体を包み込み、彼の【鉄壁】が勝手に発動した。
「な…なんだ、この力…!?」
ガルドの体を包む光は、いつもよりはるかに強力だった。【鉄壁】のバリアは攻撃を防ぐだけでなく、魔狼の爪を跳ね返し、逆にダメージを与えている。ガルドは直感した。ミナのスキルが、【鉄壁】を進化させたのだ。
「ミナ、お前は一体!?」
「私のスキルは【調和】! 他の人のスキルを……強くするの!」
「強くする……だと? これ、ただの強化じゃねえぞ!」
ガルドは剣を振り上げ、強化された【鉄壁】の反撃効果で二匹の魔狼を屠った。バリアの光が森を切り裂き、魔狼の咆哮を圧倒する。
ミナが最後の毒瓶を投げ、残る魔狼の動きを鈍らせると、ガルドが渾身の一撃でとどめを刺した。
戦闘が終わり、森に静寂が戻った。ガルドは剣を地面に突き立て、息を切らす。ミナはへたり込み、涙を浮かべながら笑った。
「……やった……勝った!ガルドさん、すごい…! かっこよかった!」
ミナの笑顔に、ガルドは照れくさそうに頭をかいた。「お前がいたからだ。……ミナ、ありがとな」
夜が深まり、ガルドとミナは近くの村までの道を歩いていた。ミナは自分の村にガルドを招き、そこで休息できると提案したのだ。ガルドは一瞬迷ったが、行く当てのない自分には、これ以上の選択肢はなかった。
「なあ、ミナ。お前の【調和】、とんでもねえスキルだな。俺の【鉄壁】があんな風になるとは……」
「私のスキル【調和】はね、二つのスキルを融合させることが出来るの。私が【投擲】で投げた水晶を、ガルドさんの【鉄壁】と調和させて、一時的に防御壁を、ダメージ反射の追加効果付きにした、って感じかな」
「ダメージ反射って、めちゃくちゃなレアスキルじゃねぇか。一時的とは言え、そんなに…!」
「でも、ガルドさんのスキルがもともとすごかったのよ!でもあの水晶、おばあちゃんにもらった、滅多に手に入らないものだから、もうあんなことは出来ないけどね……」
「そりゃ、悪いことをしたな」
「ううん、いいの。誰かを守るために使えたなら、それで」
「そうか……でも、アレだ。お前と組めば、俺、なんか……まだやれる気がする」
ミナは目を輝かせた。「ねえ、ガルドさん! 私と一緒に冒険に出ない? 二人なら、絶対すごいことができるよ!」
「冒険者、ね…」ガルドは空を見上げた。追放された屈辱、仲間への怒り、そしてミナとの出会い。すべてが彼の中で渦巻いている。「……いいぜ。一緒にやってみるか」
ミナは飛び上がって喜んだ。「やった! ガルドさんと私、最強のパーティよ!」
同じ頃、街の冒険者ギルドでは、「銀狼の牙」のメンバーが重苦しい雰囲気の中で酒を飲んでいた。ゼクスは苛立たしげにジョッキを叩きつける。
「ちくしょう、なんでハルトのやつ、ドラゴンの鱗すら斬れねえんだよ!」
ミリアが冷たく言い放つ。「あんたがガルドを追放したからでしょ。あいつの【鉄壁】があれば、ドラゴンのブレスも防げたのに」
「うるせえ! あんなオッサン、いらねえって言ったろ!」
だが、内心、ゼクスも不安を感じていた。ハルトの攻撃力は高いが、防御が脆く、すぐに怪我をする。パーティのバランスが崩れ、依頼の失敗が続いている。ギルドでの評判も落ち始めていた。
「…ガルドのやつ、今頃どこで何してんだろうな」
ゼクスのつぶやきに、誰も答えなかった。
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最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~
華音 楓
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『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』
たったこの一言から、すべてが始まった。
ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。
そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。
それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。
ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。
スキルとは祝福か、呪いか……
ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!!
主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。
ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。
ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。
しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。
一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。
途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。
その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。
そして、世界存亡の危機。
全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した……
※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。
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現代日本で天才研究者だった相模登(さがみ のぼる)は、ある日突然、異世界へ転移した。 そこは『スキル』と『魔力』が全てを決める世界。
しかし登には、ステータス画面もなければ、魔力も、スキルも一切存在しなかった。
ただの一般人として迷宮に放り出された彼は、瀕死の女騎士と出会う。彼女の前には、使う者の命を瞬時に吸い尽くす『呪いの魔剣』が落ちていた。
武器はそれしかない。女騎士は絶望していたが、登は平然と魔剣を握りしめる。 「なぜ……生きていられるの?」 登には、剣が対価として要求する魔力は存在しない。故に、魔剣はデメリットなしの『ただのよく切れる剣』として機能した。
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『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
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