【完結】異世界転生したら無能スキル「収納」で追放されたけど、覚醒したら最強だった件

すくらった

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21.堕ちた剣

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数日前。

夜の森を、ひとりの男が逃げていた。

クロウ。冒険者パーティ『シルバーブレイド』隊長。だが今、仲間はもういない。

「ハァ……ハァ……ハァッ!」

喉の奥が焼けつく。足元の雪は血で赤く染まっていた。

さっきまで一緒にいた仲間たち。剣士、僧侶、そして魔法使い。その誰もが、あの『鎧の怪物』になすすべもなく斬り裂かれた。

「……嘘だろ、なんでだよ……ただの彷徨鎧(リビングアーマー)じゃなかったのかよ!斬っても砕いてもまるで効きやしねぇ!」

だがクロウには分かっていた。どれだけ攻撃しようと、あの鎧は瞬時に傷を塞ぎ再生してしまうのだ。

森を裂くように、重く、規則的な足音が近づいてくる。
金属が軋む音が、静かな森に異様に響く。

クロウは息を殺し、倒木の影に身を潜めた。
木の葉が舞い落ちる。
その向こうから、月光に照らされ、銀色の影が現れた。

全身を覆う鏡のような甲冑。
その隙間から覗くのは、暗紫の光。夜の中でも光を放つ眼が、獲物を探すように左右を見回す。

銀色の甲冑。
ただの魔物ではない。
まるで、何かの意志を持っているかのようだった。

クロウは息を詰めた。
木の葉の上に、一滴の血が落ちる。タン。わずかなその音に、甲冑の首が動いた。

「……追いかけっこは、終わりか?」

「うわああ!来るな……来るな!」
クロウは手が震えて、剣の柄を掴めなかった。
代わりに、道具袋の中の物を掴んでは投げた。何を掴んでいるのかさえ、もう分からなかった。ただ、生き延びたい。その一心だけで、腕が勝手に動いていた。

カラン。カラン。
殆どのものが、甲冑に当たって空虚な音を響かせた。一つのものを除いて。

ピシッ。ある瓶が当たって割れた時、紫の光が閃いた。
「む」甲冑男が小さく唸る。
(何だ今の)
「……人間よ」
低く、鉄を擦るような声が響く。その声には、まるで人間のような知性があった。
「……な、何なんだよ、お前は!」

「問うのはこちらだ。なぜ、魔物を狩る?」

クロウは、腰の短剣を抜き放つ。
「そんなの決まってる!素材だ、金だ!生きるためだよ!」

「なるほど、生きるため」
銀の兜の奥から、くぐもった笑い声が漏れた。
「ならば、より効率的な方法を教えてやろう」

カシャン、と甲冑の腕が変形する。その前腕部に、奇妙な装置が現れた。注射器のように細長い筒。中では黒い液体が揺れている。

「お前が魔物になればいい」

「な、何言って……やめ……!」

黒い針が閃いた。
首筋に突き立てられた瞬間、クロウの体が硬直した。

「が……あ……あああああっ!!」

全身を紫の稲妻が走る。
骨が軋み、筋肉が盛り上がり、皮膚が裂けた。
クロウは地に倒れ、喉を掻きむしりながら叫び続けた。
やがて、クロウから迸る熱気が蒸気となり、あたりを満たす。

「魔界の祝福を受けよ」

アモルシフの声が低く響く。
クロウの肌が紫に染まり、髪が逆立ち、瞳が真紅に変わる。
背中が膨れ、額に角のような突起が生えた。その瞳に宿るのは、かつての人性ではなく、純然たる怒りと破壊の欲望。

「……あ、あ……がぁぁぁぁあああっ!」

夜の闇が、クロウの咆哮を飲み込んだ。

そして現在。
ブランニベール古代遺跡群。
雪原の中央に、黒ずんだ石造りの塔がそびえていた。
そこに、ユウトたちはいた。

「ここが……変換装置のある場所、ですか?」
アヴリルが息をのむ。
マオが無言で頷く。
「この周辺の魔素が一点に集まっている。ここに『核』があるのは確かだ」
言いながら、彼女は塔を調べ出した。

ミャウは耳を伏せた。
「にゃんか、イヤな予感がするにゃ……」
「何が起きてもおかしくない」
ユウトが辺りを警戒し、剣の柄に手をかける。
吹雪の音が途切れ、静寂が降りた。

その沈黙を破るように、足音が響いた。ザシュ、ザシュ。雪を踏みしめる重い音。
「な、誰だ……?」
姿を現したのは、一人の男。
だがその姿は、到底『人』とは呼べなかった。紫の肌。逆立つ黒髪。真紅の瞳。全身から薄い瘴気が立ち昇っている。
「ま、さか……」
アヴリルが息を呑む。
「クロウ……?」
ユウトの声が震えた。
「よく……わかったな、ユウトォ……」
嗄れた声。笑っているのか、泣いているのかも分からない。
クロウの唇が、にたりと吊り上がる。

「相変わらずいい子ちゃんぶりやがってよぉ、気に入らねぇよぉ」
「違う、俺たちは……!」
「うるせぇッ!」
クロウの咆哮と同時に、地面が爆ぜた。
紫の衝撃波が雪を吹き飛ばし、ユウトたちは後方へ転がる。

「くっ……この魔力、尋常じゃない!」
マオが結界を張る。
「こいつ、もはや魔界の民そのものだ!」

「ユウトさん、下がってください!」
アヴリルが杖を構える。
杖の先から、炎の矢が放たれた。
だがクロウは腕を交差し、紫の光で打ち消す。

「そんな小細工で俺が止まるかよォ!」
クロウの拳が地面を叩きつけ、岩が砕け散る。
「にゃっ!」
ミャウが飛び出して爪を立てたが、一瞬で弾き飛ばされた。
「ミャウッ!」
「俺を殺せよ、ユウト!それがお前のしたかったことなんだろ!」
「……っ!」

ユウトは震える手で剣を握る。
短い時間とはいえ、一緒に過ごした男。罵られて追放され、確かに憎みはした。復讐を考えた。だが……

「どうしたユウト、怖いのか? 俺を斬るのが!何も出来ない無能がよぉ!」
「っ!黙れぇぇぇッ!」

ユウトが宝玉を外す。
「ダメ!それを外しちゃ!」
マオが絶叫する。
「うおお!」
ユウトが踏み込み、剣を突く。
その一撃は正確に胸を貫いた。
「ぐ……おお……」
紫の魔物は、にやりと笑う。
「ひひ……ユウト……お前は……今……人を殺したんだ……一生、引きずって、生きろ……無……能……」

その声が途切れ、ゆっくりと膝をついた。
雪が、静かに血を吸い取っていく。
「あ、ああ……」
アヴリルが絶望の声をあげる。
「なんてことを……」
「ユウトさん……」
マオとミャウも絶句する。

だが、ユウトは剣を握りしめ、低く呟いた。
「……それはどうかな、クロウ」

突き刺した剣に宝玉を再び嵌め込むと、光が弾けた。時の流れが逆巻き、空間が歪んでいく。
クロウの体に巻きつく紫光がほどけ、血が引いていく。

時間が、巻き戻っていた。
クロウは、うつぶせに倒れる。
完全に人の形を取り戻していた。荒い息を吐きながら、かすかに目を開ける。
「……ゆ、ユウト……?」
ユウトはクロウを見下ろしながら呟く。
「お前を殺すなんて、俺にはできないよ……」
「はん、甘っちょろいこって……」
クロウはゆっくりと目を閉じた。

マオがゆっくりと歩み寄る。
「時を操るとは……これが時空の宝玉の、もう一つの力……」
アヴリルは静かに頷き、クロウの額に手を当てた。
「気絶しただけのようです。今夜はこのまま休ませましょう」
吹雪が再び舞い始めた。
「……ここだね、マオ」
「うん」
ユウトは剣を振るい、遺跡を破壊する。低い振動音が消え去った。
「これで、よし」
ユウトはクロウを背負い、遺跡を後にする。

遠く、森の向こうで銀の甲冑が彼らを見つめていた。その兜の奥で、アモルシフは薄く笑う。
「……悪くない。実験は成功だ」
冷たい風が甲冑を鳴らした。
その音は、まるで遠い鐘の音のように、雪原に溶けていった。
    
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