【完結】異世界転生したら無能スキル「収納」で追放されたけど、覚醒したら最強だった件

すくらった

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24.父と娘と

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炎の海の中に降り立った魔王ギギルグクの巨躯は、まるで世界そのものの輪郭を塗り替えるように圧倒的だった。

その姿が現れた瞬間、吹き荒れていた暴風は止み、崩れかけた建物さえも息を潜める。

黒き翼が一度だけはためくと、広場全体が沈黙に包まれた。

「秩序を……保て。」

低く、それでいて全てを支配する声。空気が震え、魔物たちの咆哮が一斉に止まる。

次の瞬間、膝をついた魔獣たちは地に伏し、青い炎のような霊気となって霧散していった。

「我が配下よ、我が信徒たちよ。帰れ。混沌に躍るなかれ。己の居場所に戻れ。」

その言葉に呼応するように、人々の目から狂気が消える。
祈りの声はやみ、手を合わせたまま、ゆっくりと立ち上がる。
彼らは何事もなかったかのように、静かに家々へと戻っていった。扉が閉じるたびに、街は少しずつ暗く、静かになっていく。

数分前まで狂乱に満ちていた広場が、今や葬式のような静寂に包まれていた。瓦礫の中、火の粉が雪のように舞い、かすかな風だけが音を立てて通り抜ける。

マオはただ、その光景を呆然と見つめていた。
「……パパ。なぜ、ここに……」

ギギルグクはゆっくりと娘に視線を落とした。
その瞳は、深い闇と、娘への慈愛を湛えている。
「お前たちの行動を、ずっと見ていた」

その声は、地鳴りのようでありながら、不思議と柔らかかった。

「我らにとって、人間界を征服するなど容易いことだ。

だが、どうやら魔と人との間で、苦しみながらも活路を見出そうとする我が娘の方が、『あるべき姿』に近いらしいと……そう思ったのだ」

マオの喉が震える。
「父上……それは……」

ギギルグクは歩み寄り、巨躯をかがめた。
「お前は強さの意味を知った。破壊の力ではなく、守るための力を。それは、我の中にもないものだった」
ギギルグクは優しく笑う。

「お前は本当にいい子だ、マオ」

マオの目から涙がこぼれた。

「パパ……私、ずっと……認めてほしかった……!」
「もう、認めておる。誇れ、わが娘よ」

「パパ……」

だが次の瞬間。

ギギルグクの胸元から、黒い剣が突き出た。その剣はまるで影そのものを凝縮したような、歪んだ刃だった。

「……な……っ……」

マオが凍りつく。
ギギルグクの巨体がわずかに揺らぎ、血ではなく、黒い炎が吹き上がった。炎は音もなく燃え、空気を歪ませる。

剣を握る影が、ゆっくりと姿を現す。紫の光を纏う甲冑、無機質な声。

アモルシフ。

「老いたな、ギギルグク。そのような古い幻想を口にするとは」

マオが叫ぶ。
「貴様ァッ!!」
だが、アモルシフは動揺しない。
「あなたもいずれ知るだろう。世界は支配されなければ崩壊する。愛や理解では、混沌は止まらん」

ギギルグクは苦しげに笑った。
「支配……?愚か者め。我らが存在するのは、力を誇示するためではない……共存し、均衡を保つためだ」
「戯言を。消えろ、旧き支配者」

黒い炎がさらに激しく燃え上がり、アモルシフの甲冑を照らした。

その光の中で、マオははっきりと父の姿を見た。燃えながらも、堂々と立ち続ける魔王の姿を。

「マオ……」
低い声が、静かに響く。
「お前に……任せる。我が見られなかった……未来を」

 「パパ……やめて……お願い、消えないで!」

マオが駆け寄るが、その手は炎に弾かれる。指先が触れた瞬間、父の身体は細かな光の粒になり、空に溶けていった。
その中で、彼は最後の言葉を残した。

「ユウトよ……娘を、頼む」

ユウトは深くうなずいた。
拳を握りしめ、歯を食いしばる。
「……任せてくれ。絶対に、守る」

黒い炎が完全に消えたとき、マオはその場に崩れ落ちた。
アヴリルが抱きかかえようとするが、彼女は震える手でそれを制した。

「……まだ、終わってない」

その声には、涙の奥に冷たい決意があった。マオは立ち上がり、父の消えた空を見上げる。
その双眸には、もう迷いがなかった。

アモルシフはそんな彼女を一瞥し、唇の端を歪めた。
「良い顔になったな。やはり『怒り』と『悲しみ』こそが力の源だよ。お嬢」

ユウトが一歩、前に出た。
「貴様……!」
だが、アモルシフは一瞬で距離を取る。
地面に円環状の紋様が浮かび上がり、彼の体が霞のように薄くなっていく。

「決着をつけよう。魔王城で待つ」

その声が風に溶けると同時に、彼の姿は消えた。残されたのは、焦げた大地と、灰のような静けさ。

ユウトは剣を握りしめたまま、動かない。その横で、マオが涙をぬぐいながら言った。
「パパの死を、無駄にはしない……。アモルシフを倒し、世界改変を終わらせる」

アヴリルが頷く。
「行こう」
ミャウが震える声で続けた。
「にゃ……みんなで、終わらせるにゃ」

夜風が吹く。
焦げた街の上空に、月が昇る。
その光は、まるで血のように赤く、そして美しかった。

ユウトが一歩、前に出た。
「次が最後の、戦い」

誰も返事はしなかった。
ただ、それぞれの瞳に燃える決意だけが、夜を照らしていた。
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